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2話:王の血



「~~っ!?」


 彼女は声にならない悲鳴と共に地に倒れ伏し、鮮血が俺の顔を赤く染める。


「な、なんだよこれ……なんだよこれっ!?」


 俺の悲鳴とも絶叫とも言えぬ叫びに応じるように、十字路の先から腰の周りを大胆に露出した奇妙な服装の女が姿を現した。


「おーいおいおいおィ、人払いの結界の中にどうして人間がいるんだィ?」


 さらにその背後から、自らの体にいくつもの(くい)を刺した男が。


「困ったなぁ……うん。でも見られたからには――」


 続いて、怪しげな仮面をかぶり、両手に巨大な銃を持つ、見上げるほどの大男が現れた。


「――必然。殺さねばならない」


 突如現れた謎の三人は、明確な敵意を俺に向けている。


「な、なんなんだよ、お前ら!?」

「なんだかんだと聞かれても、答えてやる情けはないよなぁ……うん」

「――当然。時間の無駄だ」


 言うが早いか、男は自らの体から杭を抜き、俺の方へと投げ放つ。同時に大男は、巨大な銃口をこちらに向け、事も無げにその引き金を引いた。

 先端の鋭く尖った杭と、握りこぶしほどの巨大な鉛玉が牙を向く。


(あ……これ、死んだわ)


 俺の持つスキル<超回復>は、魔力が尽きない限り、どんな傷でも治せるスキルだ。しかし、本人が即死した場合には、発動しない性質のものらしい。そして目の前に迫る杭と鉛玉は、どう見ても致命に足る一撃。


(……いったいどこで選択肢を間違えたんだ)


 後もう少しだけ、緑里たちと一緒に魔法の練習をしていたら。

 アイスなんか買わずに、真っすぐに家に帰っていたら。

 俺にこいつらを倒せるだけの力があったら。


(……どうなっていたんだろうな?)


 そんなありもしない『もしもの話』を考えていると――。



「――殺すなっ!」



 俺の前に銀髪の少女が立ちはだかった。

 杭が骨を貫き、鉛玉が肉を抉る。

 形容し難い、耳障りな音が響く。

 彼女は声をあげることもなく、ぐったりとその場に崩れ落ちた。


「どう、して……?」


 彼女の古びれた浴衣に、赤黒い紋様が広がっていく。


「あーあーもう、勝手なことすんなよ……うん。お前に死なれちゃまずいんだって」

「――平然。奴は吸血姫(ヴァンパイア・プリンセス)。死にはしまい」


 男たちは肩を竦めて、何事もなかったかのように会話をしていた。


「お、おい。あんた……大丈夫かっ!?」


 俺はすぐさま、血だらけとなった少女に駆け寄る。

 すると、信じられないことに、彼女にはまだ息があった。それどころか俺の腕を強く握り締め、耳元に(ささや)きかけてきた。


「――息を止めろ」

「……え?」


 返事をする間もなく、彼女は自身の左手を強く地面に叩き付けた。


「――血霧(ちぎり)の法」


 瞬間、真っ赤な霧が視界を覆いつくした。


「こっちだ、逃げるぞ」

「ちょ、待っ……」


 彼女は有無を言わさず、俺を小脇に抱え込み、凄まじい速さで走り始めた。


「――愕然。まだ力を残していたとは」

「逃げられたな……うん」

「情けなィ。ぐだぐだ言ってなィで、さっさと追うよ!」



 吸血姫と呼ばれた少女は一時的な隠れ家として、町外れにある廃工場を選んだ。


「ふぅ……ふぅ……。くっ……この辺りでいいか」


 その中には、既に使われなくなったベルトコンベアーや、処分されずに放置された運搬機材などが(ほこり)をかぶっていた。

 天井が崩落しているおかげで、月明かりが入り込み、視界は良好だった。


「くっ……、杭も弾丸も銀製か。通りで効くわけだ……」


 彼女は自らの体に刺さった杭や弾丸を、つい先ほどはね飛ばされたはずの右腕(・・)で強引に引っこ抜いていく。


「あの……そろそろ降ろしてくれないか?」

「ん? ……あぁ、そうだったな」


 彼女は今思い出したとばかりに、俺を抱えていたその手を離した。


「いてっ」


 急な落下に反応できず、床で顎を打ってしまう。

 そんなことには気にも留めず、彼女は話し始める。


「それで、聞きたいことがあるんじゃないのか? 私も少し血を流し過ぎた。回復している間は、質問を受け付けてやろう」


 その綺麗な顔に似合わず、ずいぶんと態度のでかい少女だった。


「そうだな……」


 聞きたいことなど山ほどある。しかし、その前にまずは命を救ってもらったことに対して、礼を言うべきだろう。


「さっきは助かった、ありがとう」

「そんなことはどうでもいい。質問は?」


(……あぁ、そう)


 前言撤回。態度のでかい少女ではなく、性格の悪い少女だ。


「さっきの……あいつらは、いったい何者なんだ?」

「鬼狩りを生業(なりわい)としている連中だ。私たちを目の敵にしていてな。全く、困った奴らだよ」


 そんな物騒な奴らに追われているということは、やはり彼女は。


「それじゃ、あんたは……」

「ん、もちろん。鬼族の一種――吸血鬼だ」


 大きな驚きはなかった。

 男子高校生を片手で担いだまま、信じられない速度で地を駆ける。これで「人間だ」と言われた方が驚く。


「吸血鬼なら、あいつらを追い払うことはできないのか?」

「無理だな」


 少女ははっきりと断言した。


「吸血鬼とて、無敵ではない。奴らは私を殺すために、長い時間をかけ万全の準備をしてきている。何より、私は血を失い過ぎた。情けないことに、こうやって立っているのがやっとの状況だ」


 よく見ると、少女の額には大粒の汗が浮かんでいた。


「……どうして、俺をかばったんだ?」

「お前に、王の血が流れているからだ」


 吸血鬼は真っすぐに俺の目を見つめたまま、そう言った。


「王の……血?」


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