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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

神になればアイツを救える!

「……若いのう」

「アンタを倒さないと駄目なんだ」

「黒木?  いけるか?」

 黒木と呼ばれる少年は右腕から流血していた。刀の端まで血が流れ、持つのがやっとってところだろう。

「―――スキル発動、人殺(エー)し(ル)」

「……黒木」

 ――――こんな話がある。

 なぜ、人間は生きていけるのか。そもそもなぜ、窮地を超えられるのか。

 例えば、一億の借金があったらどうする?

 例えば、子供が虐待を受けていたらどうする?

 例えば、社会不適応だったらどうする?

 例えば、震災があったらどうする?

 人間を守るもの、いや、守りたいものが存在する。彼は人間でも亡霊でもない。神でもない。彼は側に寄り添い共に歩んでいくもの。ただ、守り人である人間(初恋)のために神になる。そんなおとぎ話をキミは信じるかい?

 

 

 ○

 数日前。

「一也起きなさい!  遅刻するよ!」

 母の声で夢の世界から現実に帰還する途中が一番、もどかしい。黒木(くろき)一也(かずや)は身体を捻るように寝返りする。だが、睡魔に勝てず、再び夢の世界へと向かう。眼に映るのは曖昧でぼやけていた映像には神と対話しいている。

 ――――キミが神にならないかい?

 ○

「まだ、寝ているのかしら?」

 いまだに起きない息子が心配と憤りを感じているだろう。階段を上がる音が騒がしい。部屋に入ると、なお寝ていることに溜息をつく。ただ、口を開け涎が垂らしている。気持ち良さそうにしているのをみて躊躇う。

 だが、たった一人の子供が将来を棒に振ることに堪えられない。母は自分に言い返す。「鬼になれ」と。布団を引きはがし、白く雷模様のカーテンへ向かう。太陽の光が息子を起こしてくれるだろう。案の序、

「いま、何時?」

 眩しいのか右腕で眼を隠し、寝起きの所為か掠れた声だ。母は呆れて腰に手を回し、二度目の溜息が出る。

「八時」

 一瞬のことだった。黒木は曖昧な世界から現実に引き戻す。半袖、パンツ一枚を脱ぎ捨て朝の準備をする。文句の一つ浮かび母を責める。

「なんで起こしてくれなかったの!?」

「起きなかったんでしょ?  いい夢でもみてたのかしら?」

 不思議な夢をみた。歯磨きの途中、鑑みを凝視する。神になりたかった。――――神になればアイツを救える!  そう思っていた。もう六年も前の話だ。隣に住んでる女の子とよく遊んだ。ただ、親から虐待を受けていた。もう、忘れたい。だって、彼女は別の高校へ入学したのだから。中高一貫エリート学校、神宮(かみや)学園。中学時点で入学が決まったものは将来を約束する。設備も充実しており、全ての資格を取得できる。天才が入学するのではない。化け物が入学するものだ。ただ、救いたいのは黒木のエゴだろう。女の子、周防玲奈(すおうれいな)に痣があったにせよ、入学まで上り詰めたのはスパルタ教育があったからだ。思いと裏腹に感情が高ぶり、蛇口を捻った。

 入学式は八時三〇分に始まる。黒木家から徒歩四〇分かかる。徒歩通学だが、自転車にまたがりパネルをこぐ。

「気をつけていきなよ!」

 母の声が聞えないのかなにも答えずに(みつ)()高に向かう。平らな道なら息切れする。途中から坂道へと変わり、残り十分ぐらいだろうか。焦りと不安が募る。

「はぁはぁはぁ」  

 ふいに景色を眺める。風が舞い桜の花弁は飛翔する。唯一の救いなのが桜道だ。呼吸を深く吸い微かな香りが鼻翼(びよく)に包まれる。

「急ごう」

 光満高等学校入学式が行われた。黒木は間に合わず、扉の後ろへと隠れていた。新入生の挨拶が始まろうとしていた。

 ――――新入生代表、周防玲奈。

 黒木は耳を疑った。虐待を受けていた彼女の名前。初恋の名前。救いたい人の名前だ。だが、そんな筈はない。鼓動が激しく、舞台へと見上げた。

 ――――彼女だ。

 湖のように流れる黒髪が透き通っていて、焦茶色の瞳を強調している。眉目美麗。大和撫子。違う。あえて例えるなら、騎士(ナイト)のようなオーラ(強さ)、可憐なる仕草はまるで「悪魔」だ。周防玲奈の魅力は男も女も憧れるだろう。周りの空気を静まり、涙を流す者もいる。どんな状況にも立ち向かう姿勢が周防玲奈にはある。今までなにがあったのだろうか。なんそんなに強くなれるのだろうか。なんで、彼女は前を向いているのだろうか。初対面でも感じる雰囲気(オーラ)が胸を苦しくさせ、勝手に零れ落ちる。

「なんで泣いてんのよ」

「――――わかんない!」

 ただ、零れる涙の理由は生半可ではわからない。まるで彼女は壁にみえる。乗り越えられない壁。壊せない壁。なお、満たされない承認要求を満たすために戦い続けるのだろう。承認要求は誰かに満たして貰うのでない。自分の力で満たすものだ。周防玲奈と「少女」の背中で語りだす。

「満開の桜でここちよい風が私たちを迎えてくれました。更に家族の皆様、先輩たちの皆様に出迎えてくれ私たちは――――」

 光満校の新たな始まりが幕を上げる。

 ○

「独りってつらいもね」

「私がいるじゃない!  なに?  幼馴染は数に入らないの?」

 唯一、周防に話しかけるクラスメートの名は宮本(みやもと)美代(みよ)。ホワイトアッシュの髪形は男毛があり、優しさを持つ少女。周防の親友だ。二人をみる黒木は懐かしみを思い出す。あの二人はいつも一緒にいた。そして、自分もその中の一人だった。そして小学五年生の頃、目指すもが決った。

 ――――一緒に神谷学院に入学しよう!

 叶ったのは周防と宮本だけだ。黒木は勉学を怠ったわけではない。優秀な方だった。だが、レベルが違いすぎた。悔いと嫉妬、絶望を感じ二人と遠ざかり、歩く世界とすれ違う。二人の道を追いかける事ができない自分を責めてきた。――――なのに。

「久しぶり黒ちん」

「宮本……黒ちんはやめろ」

「……どうしたの?  昔は美代(・・)たん(・・)って言ってくれたのに」

 宮本は近づき黒木の前に立つ。諦めてきた道を戻すように、引きずるように、手を差し伸べるかのように。だが、嫉妬がこみ上げる。なんで自分は歩めなかったのだろう。もう少し根性があれば叶えたかもしれないのに。自分を責める中、周りから視線が黒木に集中する。

 ――――あぁ場違いだ。

「かず……黒木君、部活入るよね?」

 誰かの席、黒木の隣の席を周防は座る。周防が割り込んできた結果、視線を更に感じ、発汗が収まらない。天才には天才しかはわからない理屈と感覚がある。反対に凡人には凡人の生き方がある。彼女らと黒木は見えない壁に押し寄せる。もう、既に仲が良かった頃には戻れないのだろうか。もう、決して絆を結ぶことはできないのだろうか。周防と宮本は下を向く。

「……場所を変えよるぞ」

 二人は首を傾げ頷く。屋上でも行くかと黒木は天井を見上げ溜息をする。プライドを傷つけられた感触を胸に当て、なお、傍にいたいのは周防玲奈がいるからだろう。恋は盲目とはよく言ったものだ。隣にいることを許可してくるのなら、世界を敵に回してもいい。感情が高ぶっていることに黒木も周りも気づかない。ただ一人の少女を除いて。

 屋上まで上がり景色を眺める彼女らはなにを考え思っているのだろうか。黒木は二人を見つめる。何度も疑問に思った。なぜここにいるのだろうか。もし、自分のために光満校に入学してくれたなら素直に嬉しい。

 黒木は鋭い眼をしていた。なんでここまで人間が違うのだろう。憤りを感じ拳が震える。神になれば近づけるのだろうか。神になれば追い越せるのだろうか。傍にいられると確信できるのだろうか。

(バカだな。俺は)

 もう、追い越すことも隣にいる権利もない。ただ、悔やみ、未来を定める。縁を切らなければ前へ進める気がしない、

「それで部活なのだけれど」

「……あぁ。その事だけど俺もう決めている部活があるんだ」

「なによ?」

「文芸部」

 嘘ではない。光満校に入学するときパンフレットをみて文芸部(ここ)に入りたいと息巻いた。小説は好きだ。誰もが自分だけの世界に入れて主人公になれる。しかも文芸部に力を入れているのなら尚更入部してみたい。

「却下」

「はい。玲奈嬢に却下されました〜」

「なぜに?」

 拝む宮本を睨み周防に聞く。微笑む二人はただ「なんとなく?」と一言のみだ。黒木は反抗を二言、三言言い返す。

 ――――一瞬のことだった。

 黒木は地べたに這いつくばり宮本の足が背中を押す。宮本は神谷学院空手部のエースだ。黒木が知る筈もない。戸惑い前に座る周防を眺める。

「玲っち。パンツ見えるよ?」

縞パンだった。

「――――」

 必死に押さえるが逆に心をくすぐる。周防はポケットから紙とペンを黒木に差し出す。赤みかかった笑みで語る「書け」と。首を振る黒木に対して宮本の足が強くなる。痛覚のツボを知っているのか激痛が走る。耳元に近づけ悪魔が囁く。

 ――――玲っちのパンツいる?

 書いたことは言うまでもない。

 ○

 校舎近くに「別荘」がある。校長の趣味で買収し文科系の部活を纏めた。ヨーロッパ風を超え異世界風に作られているため転生、転移した気分になる。中も古代ギリシャ・ローマ、ドリス式が眼に入る。何でも演劇部と文芸部に力を入れ、想像力と知恵に溢れているらしい。

 黒木、周防、宮本は桜道を歩き徒歩五分ぐらいだろうか。別荘が見え、真ん中に窪みがあり馬に跨った騎士の銅像を黒木ら見下ろす。七階建のビルが五つあり銅像を囲むように、城ように建てられ呆然と見上げる三人。桜道から別荘を眺めていたが近くで見ると迫力が違う。美しくさがありながらも威圧的だ。

「すごいな」

「う、うん」

「入りましょう?  確か……A棟の三階で突き当りの右手にある部屋だわ」

 別荘の地図を周防は持っていた。A三サイズの紙を広げ指でなぞり黒木らに教える。玄関を開けば眼の前に階段があった。まるで、姫が舞い降りてくるような神秘的で幻想的だ。階段をあがれば途中、螺旋状になっていた。三階に着き奥へと向かう。

「ここね」

「IIC部?」

 立ち止まる扉に「IIC」と書かれていた。聞きなれない単語に戸惑う黒木。周防は鍵をあけ扉を開く。

 ―――――自分は誰だと思う?

「え?」

 言葉の意味がわからない。周防になにが言いたいのだろうか。ただ、胸の奥が締め付けられるように暗く重い。そして弾けるように寂しさが膨らむ。

「ようこそ。IICへ。ここは自分を知るための部活よ」

「自分はなにができるのか。なにがしたいのか。そんな自分探しの旅みたいな部活」

「……」

 口が開き唖然とした。窓から太陽の光が差し込み、彼女らを照らす。ただ、印象に残ったのが――――なんでそんなに苦しそうなのだろうか。

 IIC部。自分を知るための部活。まるで小学生の活動と思われるような部活だが、意外にも自分のことを理解していないことに気付く。黒木は改めて思う。自分にはなにもない。いや、平凡なことは悪いわけではないだろう。ただ、特別でいたい。例えば神になりたいとか。小説に夢中になっている周防を眺めて思う。――――天才はなにを考えているのかわからない。

 なぜ、IICなんて創ったのだろうか。

 なぜ、神宮学院から、わざわざ光満校なんかに入学したのだろうか。

 なぜ、神宮学院でIIC部を作らなかった。もしくは続けなかったのだろうか。

 なぜ、黒木(俺)を誘ったのだろうか。

 溜息が漏れ、用意された紙を読み上げ睨む。「自分を知るすべてを記入せよ」思いつくのは三つ。

 ・面倒臭がり屋。

 ・マイペース。

 ・運動嫌い。

「これじゃあダメか?」

「却下」

「はい。玲奈嬢に却下されました〜」

 デジャヴだろうか。宮本が拝む姿をどこかで見たような気がする。微笑む周防に心の中で舌打ちした。しばらくしてチャイムがなり、周防は小説に栞を挟み立ちあがる。

「さて、帰りましょうか?  美代起きて」

「う、……うん」

 宮本の背中を揺する周防は眉を垂らし口角が上がっている。同じ年で変な例えだが、妹のように感じるのだろうか。なら、黒木は「俺は弟なんだろうな」と片手で頬を持ち上げて恨めしそうに二人を見つめる。

(こんな姉は嫌だな)

 一瞬そう思ったが束の間だった。もし、周防玲奈が姉なら黒木は当たり前のように毎日一緒にいられる。なら、弟だったらよかったのかもしれない。ただ、……恋愛対象にならないのが欠点だが。

 徐々に覚醒してきた宮本はあくびをする。眼をこすり「よく寝た」と噛みしめた。帰る支度をして家路の途中まで三人は一緒に帰宅した。

 入学式から七週間が経とうしていた。最近では周防が黒木の家まで出迎える日々が続いている。隣だと忘れがちだが、いまだに違和感しかない。三年間、遊ばず、一緒に勉強をしなかった所為だろう。

「早く支度しなさい」

「お前は俺の母ちゃんか?」

「玲奈ちゃんがお母さんになってくれたら私として安心なんだけどねぇ」

 嫁ではなく母になってもらうのが安心なのか。複雑の想いを感じながら黒木は急ぎ足で支度した。最近、変な夢をみるのが多い所為かよく眠れない。今日なんて最悪だ。寝汗をひどく掻いていたのだから。

 ――――これで、今日からキミは神を目指すものだ。頑張りたまえ。

 神はただ、笑みを崩さなかった。

「「行ってきます」」

「行ってらっしゃい。二人とも気を付けてね」

 いつも通り桜道を上がる。途中、宮本にも落ち合った。ただ、朝が弱いのか眼を擦ってばかりだ。昨日か一昨日聞いたが宮本は空手部のエースだと黒木は知った。屋上のときのことを思い出し悪寒が背中を(さす)る。

「なに?」

「なんでもない!」

 周防は視線を感じたのか黒木に問う。まるで変態の眼、色眼鏡で彼女をみていたなんて言える筈もない。お茶でも飲み落ち着くことにする。

「玲っち。予備のパンツ持ってる?」

噴出した。

「はぁ?」

 周防は宮本がなにを言っているのか理解が絶えないのか、眉が歪んでいた。せき込む黒木を面白そうに拝見する宮本が黒木に一撃を更に与える。

「履いてる奴でもいいよ?  黒ちんにあげるから」

「――――」

「な、な、なにをいっているのかね?  み、宮本君は!?」

 真っ赤(戸惑い)に(せ)して(き込)()もで(なが)ない(らも)周防(自分)を(を)フォロー(フォロー)する(する)。

「ぶっ、嘘ウソ少し寝ぼけてた。ごめん。ごめん」

「もう!」

 安堵の溜息する黒木。

(……俺との約束、宮本覚えてるのか?)

 覚えていそうもない宮本はみて再び深く重い溜息をした。

 ○

 放課後が過ぎ部室へと向かう。

 扉を開ければ遮光カーテンがみえ、向こう側には桜道だ。ここで花見をするのもいいのではないだろうか。暇があれば右側に本棚もある。ラノベ、推理小説、歴史ものなどなど。黒木は窓辺の席に座り、もう一つの椅子に鞄を置く。長机が三つ。椅子が六つあり、囲んでいた。

 周防と宮本は本棚の近くにある席に座り、小説の続きでも読むのだろうか。カバンから取り出す周防。眠そうに腕枕して寝息をたてる宮本。

「なぁ。ここなんの部活だ?」

 活動もとくになに(・・)も(・)していない。ただ、部長である周防は小説を読んでいるだけ。そして唯一の部員である宮本はすやすやと気持ち良さそうに寝ている。黒木自身も周防に渡された課題である紙を睨むが、いまだにIICの主旨がピンときていない。周防は黒木の顔を覗き、髪を(いじ)る。

「――――だから」


 ――――準備が整いた。さぁ神になろう。


「なんだ?」

「えっ?  えぇと?  だから、ここは自分を知るための部活よ」

 周防は眼を大きく開き泳ぐ。最後には自己解決したのか答えを出す。ただ、黒木がいま(・・)聞きたいこことは違う。

「いやそうじゃなくて」

 準備が整いた?

 なんのことだ?

 ただ女の声ではなかったことに違和感を覚える。――――急に意識が遠くなった。

「一也君!!」

 懐かしい声で幼い頃、呼ばれていた周防の声が微かに聞こえた気がした。

 目を覚ますとIIC部にいた。ただ、周防の姿も宮本の姿もいなかった。日は暮れ、放課後辺りだろうか。カーテンを開き、窓の向こう側を覗く。誰一人桜道を通っていないことに首を傾げる。黒木は外の様子を見るべく部屋から出た。

「みんな帰ったのか?」

 今日は部活が休みだろうか?  いや、休日だと聞いたことも予定も行事もない。光満校の方向に歩き出す。一人ぐらいはいるだろう。だが、誰一人いない。黒木は混乱し、町中を走り出すが淡い期待は叶わなかった。

「なんで誰もいなんだよ!!!!」

 三日後。

 三日間、誰とも会えず、黒木の精神状態は危うい。人の恋しさに溺れ、涙を流し、何度も黒木は言うのだ。会いたい。会いたい。誰かに会いたいと。涙は枯れ、すでに眼に輝きがない。どこかに行こうとも足が立なく、黒木は俯いていた。

「どうだ?  この三日間(・・・)で(・)この(・)状況(・・)が(・)()で(・)は(・)ない(・・)こと(・・)を(・)理解(・・)した(・・)かい(・・)?」

 ――――黒木はこの人を知っている。夢で現れた神だ。なんでもいい。動物でも人間でも神でも誰かに会えたことに喜びで枯れた涙が溢れる。――――抱きしめたい(ハグ)の感情は抑え切れそうもない。

「やれやれ。私の守人(まもりびと)なのだからしっかりしなさい」

「――――あなたは一体何者ですか?」

 神だとはわかる。ただ、伝わったかは分からないが「名前」が知りたかった。彼の神々しい雰囲気(オーラ)は人とは違う。ただ、昔から会っていたかのように彼のことがわかる。そう――――父親のようだ。

「私はイザナギノミコトだ」

 イザナギと三時間弱ぐらい話をしたのだろうか。彼はいう。人間=守人には守護霊、神がついている。そして守護霊らは神になりたがっている。だが、彼らは神のルールを守護霊含めて守らなければならないらしい。それは六つある


一、 神又は守護霊が一人一人付かなければならない。

二、 守人(人間)と一心同体。

三、 守護霊は誰でも神になる権利がある

四、 敗北は守人を最大限に不幸になる。

五、 神になれば守人を最大限に幸運にできる。

六、 神になる条件は危険()な(-)()を倒すこと。

以上だ。


「なにか質問はあるか?」 

「人……守人が死んだら神や守護霊は死ぬのですか?」

「一也、その通りだ」

 黒木は思い詰めた表情となる。自殺、他殺は神を殺したのも同然と理解したからだ。少しの間を置いて次の質問に移った。それは危険()な(ー)()のことだ。イザナギは眼頭(めがしら)を強める。だが、彼は「もうじきわかるだろう」と言い、答えてはくれなかった。

「それで質問は終わりか?」

「……いや、一つだけ。なんで俺を神にしたいのですか?」

 イザナギは眼を開かせ微笑む。ただ、透き通った声で「一也には必要だからだ」と答えた。どういう意味なのかは理解できない。ただ、黒木(こども)のためならなんだってする、親のようだった。

「さて、ここからが面白い話だ。――――一也に能力をあげよう。なにが()い?」

「……」

 異世界だ。まるで転生の話でもしているようだ。急にテンションがマックスになる。もし、叶うなら。

「すべての能力が欲しい!」

「……」

 イザナギは戸惑い、悲しむような眼をしていた。ただ、「わかった」と苦しそうに堪えるような声だ。

「……契約は終了だ。元の世界に返そう」

「ありがとうございます!」

「いつでも相談に来なさい」

 黒木は頷く。そして再び意識が遠くなった。

「一也。負けたな」


  危険()な(ー)()

 意識が徐々に覚醒し、目覚めたらIIC部にいた。窓を開ければ人影と人の声が聞える。安堵で腰を抜かす。眼を閉じていたら開く音が聞えた。おそらく部屋の扉だろう。眼を開けれなば――――彼女たちが入ってきた。

「玲っち。そろそろ元気出しなよ」

「う、うん」

「よ!  久しぶり」

 ただ、黒木は異変に気付く。彼女たちは完全に黒木を無視していた。無視される覚えがなく、戸惑い声を殺す。……いや、覚えはある。三日間、行方を消失していたからだろう。

「……悪かった。なにも連絡せずどっか行っちゃって」

「黒ちんなら大丈夫だよ。生きてるよ」

「だと、いいんだけど」

 話がかみ合わない。黒木は周防の肩を掴もうとした。だが、黒木の手は透明に透き通る。まるで死んでいるのかと錯覚する。生きてもない。死んだ覚えもない。これが守護霊というものか。たった一人ぼっちになり、自分を気づいて貰えない。

「……つらいな」

 好きな人と話もできない。好きな人に触れることもできない。あぁ花見でもしてから君を守りたいなぁ。

「黒木一也。おめでとう」

「……」

 気が付かなった。自分の隣に男がいた。少し長めの金髪。服装はスーツ。まるでホストだ。ただ、腰に刀をぶら下げていた。彼は何者だ?

「俺はリン・ポール。美代たんの守護霊だ。眼は慣れたか?」

「お、おう」

 ただ、彼は俯いて宮本を見ていた。黒木もそうだ。気分が乗らない。途端に神のルールを思い出す。

 二、守人(人間)と一心同体。

 宮本も周防も輝きがなければ、黒木、リンも鬱状態になる。逆に言えば神又は守護霊が輝きを戻せばいい。だが、本人でもない彼らにとって至難の業だった。

「どうすればいい」

「美代たん達が元気になればいい。……それか、――――俺らが神になればいい」

 昔から黒木は神になりたかった。いまなら、実現できるかもしれない。期待を胸にして、

「どこに行けばいい?」

 進むのだろう。だが、

「いまはムリだ」

「なんで!?」

 (あわ)れむような眼でリンは黒木を見る。黒木は守護霊になったばかりだ。右も左もわからない。赤子同然だ。今のままで足手まといと判断したのだろう。ただ、リンの掌が青く光り、黒木の胸に繋がる。

「なんだ?」

「……お前なら勝てるかも知れないな。俺の能力、相手の才能をコントロールする能力だ」

 青い光、『変化の改築』を消す。リンは思い詰めた顔で溜息をする。黒木には天賦から授かった物がある。流石、イザナギの守人だと言えるだろう。

(なんで俺なんだ?  イザナギさん)

 六年前

「この子はいずれ神になるだろう」

「そんな凄いのですか?」

 リンの手を繋いでいるイザナギは黒木一也を評価する。守人だから強く言っているのか、本音で言っているのか幼いリンにはわからない。ただ、イザナギは一言いう。「いつかな」っと。リンは黒木を見つめ、ただ、思う。「嫌いだ」と。

「リンよ。黒木を頼むぞ」

「えっ?」

 殺気に近い眼をしていたリンになにを思って言うのか、わからない。ただ、師であるイザナギに反抗できず、ただ「はい」と答えた。

(あれから六年、早すぎるだろ?)

「どうした?  リン?」

「うるせぇよ……お前なんか」

(……黒ちんなんか)

「「死ねばいいんだ」」

 心配する黒木をみてリンは苛立つ。ただ、黒木一也を見る眼が異常だ。憎しみしかないのだろう。イザナギが黒木に高く評価したのに嫉妬はあった。だが、それよりも友人を取られた女の嫉妬の方が遥かに勝る。宮本とリンは一心同体だ。守人が殺意持てば守護霊も殺意を持つ。守護霊が殺意を持てば守人も殺意を持つ。ただ、守護霊は意志が強くなければならない。それが暗黙のルールだ。

「やめろ!  リン!」

 刀を抜くリンは黒木を殺そうとする。刀を振り回し確実に黒木を追い詰める。武器も持たない黒木には勝てる筈もない。宮本の眼もリンと同じ異常だ。黒木は宮本に救いの手差し伸べるかのように宮本の名を呼ぶ。たが、宮本には届かない。まるで、宮本に殺さる。リンの顔が宮本に重なった。

(や、やばい)

「死ね、黒木」

「私、美代のこと好きだよ?」

 ――――だが、刀は止まった。

「えっ?」

「だって、美代がいなかったら私今頃、死んでいたかもしない。ありがとう。大好きだよ。美代」

 余程自分に自信なかったのか宮本は涙流していた。周防に必要してくれている。思うだけで肩の荷が下りたのだろう。

「悪い。黒木。感情が高ぶってた。ごめん」

「あ、あははは」

(マジでサンキュー。玲みん)

 無意識だろうか。子供の頃の呼び方をする黒木。周防の眼を見るとまるで黒木の姿が見えているかのように目線は重なり、錯覚だと認識するまで数秒かかった。初めての守護霊なのに守人に守られたなら話にならない。次は君を守るよと黒木は心に誓った。

 変わらない愛。変わらない期待。変わらない人間関係。そんなの幻想だ。笑顔の向こう先には黒い笑顔が微笑んでいる。世界なんて腐ったリアルゲームだ。恋愛趣味レーショゲーム。格闘ゲーム。育成ゲーム。すべてのジャンルを混沌にしたのが現実世界だ。

 だから

 ――――こんな世界を生きていけるものは「才能(クリア)」が必然的に必要だ。

 焦り。

 孤独。

 心の傷。

 プライド。

 この四つはクリアできたものは育成(この)シュミレーションゲーム(丗)のスタートラインに足を踏めることができるのだろう。そんなことを黒木は考えていた。それは危険()な(-)()に敗れたからだ・

 数分前。

 このままだと四人ともダメになってしまう。だから危険()な(-)()を倒そうと話になった。

「木村は強いのか?」

「俺一人だったら勝てる気がしない。あとはお前に実力があるかどうかの話だ」

 部室から外に出る二人は木村(きむら)重蔵(じゅうぞう)に会うべく桜道を下り、神社へ向かう。そこに木村がいるらしい。木村に会い、

 ――――瞬時に敗北した。

 黒木はイザナギに相談した結果、守護霊の座を奪い人間に戻した。

 「一也!」

 ――――私は黒木一也が好き。

 彼は私のことを覚えていない。小学生の頃彼は私に大切なことを教えてくれた。虐待にあっていた頃の話だ。まぁいまでも虐待はあるけれど、

 ――――それはまた別の話。

 もう十年以上にもなるだと我ながらよく耐えてきたと思う。もう、物心がつく頃には父親から殴られ続けていた。だけど、通りがかった彼が父親に言った。

 ――――お前、娘をなんだと思ってんだ!  

 その姿は忘れられない。もう、一目ぼれだった。だけど知っている黒木は親友の玲奈が好き。だからこの恋は叶わない。……でも。

 「好きです!」

 「………」

 周防が黒木に告白する。黒木は驚き、嬉しいさ、負い目があった。でも、黒木は言う「今度こそ君を守るよ」と

エピソード

「よ!  黒木」

 いきなり背中を叩掛け、自分である黒木の名が呼ばれた。振り向くたら――――リンがいた。

 黒木は久しぶりの再会にテンションがあがる。色々話したいことがあった。だけど、守護霊を辞退してから会うことも話すこともできない。――――ただ、言いたいことがあった

「――――俺!」

「黒木一也。おめでとう」

 どうして知っているのだろうか。黒木が辞退してもリンはまだ守護霊を辞退しなかったのだろうか。いや、宮本(・・)の(・)運気(・・)は(・)戻って(・・・)いた(・・)。なら、辞退してなお、気掛かりにしてくれたのだろうか。……いや、いま考えるときではない。彼に言わないとな。

「ありがとう」


――――俺は幸せになるよ。……いや彼女と一緒に幸せになるよ。ありがとうな。リン。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。 異ノ魔先生の作品を読ませていただきました。 簡単なアドバイスだけさせていただきます。 ・!や?のあとの空白は一文字分です。 ・なろうにおいては、内容の面白さだけでなく、読みやす…
2017/12/03 09:51 退会済み
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