終章 Si vales valeo
「まっくらだね」
暗い道で手を引かれて歩く小さな子供が、光のない空を見上げる。
すると、風に煽られた金色の髪が少女の周囲に光をもたらした。
「わぁ。きれい……。どうして、アイリスのかみはひかってるの?」
彼女の育ての親が、リリーシアを抱き上げる。
「この世界のものが、自分以外のものをはっきり見たいと願ったからよ」
難しい言葉に、リリーシアは首を傾げる。
「くらいとみえないから?」
「そうよ」
「わたしのかみもひかる?」
「いいえ」
「こどもだから?」
「いいえ。大人でも光らないわ」
「くろいから?」
「いいえ。普通、人間の髪は光らないわ」
輝く黒い瞳の少女が、金色の髪を撫でる。
「アイリスは、とくべつなにんげんなの?」
「……いいえ」
少し悲しげに目を伏せたアイリスの顔を、リリーシアが覗きこむ。
「だいじょうぶ。アイリスは、わたしのとくべつ。たいせつなかぞくだよ」
愛らしく微笑む少女に、アイリスが頬を寄せる。
「ありがとう、リリー。あなたは私の大切な家族よ」
リリーシアが、くすぐったそうに笑う。
「じゃあ、いっぱいおまつりであそぼうね」
「そうね」
今日は、冬至祭の日だ。
「かえったら、うたをうたってね」
アイリスが笑って頷く。
「今日は、何にするの?」
「えっとね……」
リリーシアが歌を歌う。
その歌を一緒に口ずさみながら、リリーシアを抱えたままアイリスが歩き出す。
※
歌が終わる。
熱気球の中で寄り添っていたエルロックとリリーシアは、空を見上げた。
「きれいな空だね」
「あぁ」
世界を暗く閉ざしていた雲は去り、ここから見渡せる空と大地は明るい光に満ちている。
リリーシアは、先程の出来事を思い返す。
アイリスは、いつもリリーシアの味方だった。一緒に過ごした日々が偽りであったとは思えない。創世の神との戦いでも、傍で手伝ってくれたのだ。
しかし、皆の前で顕現した彼女の様子は、いつもと違って淡々としていた。
もし、ポラリスが間に入らなければ、彼女はレイリスと共に消えるつもりだったのだろうか。
もし、アイリスとリリーシアの関係が、レイリスとエルロックの関係と同じだと言うのなら。アイリスは、リリーシアが呼べば来てくれると言うのだろうか。
聞いてみたいことは山ほどあったが、今は、エルロックのことが心配だ。
無力さを痛感しながら、ぼんやりと遠くを見つめる彼を抱きしめる。
救えなかった。
選べなかった。
何も出来なかった。
それが、現実だ。
それでも……。
『二人とも、そろそろ到着するよ』
風の大精霊は、約束通り二人を導いてくれた。
ラングリオン王都。
彼らの帰る場所へ。
「エル。もう少し散歩する?」
気持ちが落ち着くまで、もう少し待つべきではないのか。
心配するリリーシアを見上げたエルロックが、涙に濡れた彼女の目元に触れ、癒しの魔法を使う。
「私は大丈夫だよ」
逆に心配されてしまったことに落ち込みながら、彼女はエルロックの目に触れる。しかし、彼のように何か出来るわけではない。
「私も癒しの魔法が使えたら良いのに」
紅の瞳が、彼女の輝く黒い瞳を見つめる。
「使えるよ」
「え?」
起き上がったエルロックが、リリーシアにキスをする。
「帰ろう」
微笑んだエルロックに、リリーシアが頷く。
「一緒に帰ろう」
Fin ?




