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智枝理子の資料集  作者: 智枝 理子
Sep2リリー編ノーカット版より抜粋「Si vales, valeo」
51/56

158 生命

「皆、来てくれ」

 エルが呼びかけると、空に居た大精霊たちが降りて来た。

『どうしたの?』

「太陽と月が……」

 皆が、地平線を見る。

 地平線の近くでは、月が太陽を追うように移動している。

『これは……』

『エルロック。ルネを呼べるか?』

「あぁ」

 エルが杖を出す。

 これには、ルネの精霊玉が付いてるんだっけ。

「ルネ!来てくれ」

 エルが呼ぶと、月の大精霊が現れる。

 ルネ。

 ロマーノに居た月の大精霊だ。

『ルネ。太陽と月の位置の理由は?』

『前の時と同じだ』

「え?」

「前の時?」

『いつから始まったんだ?』

『月の位置の変化は、かなり前だな』

『まずいな。曇ってたから全然気づかなかったよ』

『何故、黙っていたんだ』

『俺たちじゃ、あれを追い返す力なんてないだろ』

 喧嘩してる……?

『相変わらず他人事だな。お前には、ここを守る義務があるんだろ』

『神の力を越えるものに精霊は対処できない』

『いや。神の力は取り戻した。力を合わせればどうにかなるかもしれない』

『でも準備が足りない』

『それでも私たちでどうにかするしかないよ』

 どうしよう。すごく大事な話をしてるような……?

「おい。何の話か説明してくれ」

『何って……』

「私たちにも教えてくれ」

 あの人が、ヴィエルジュを抱えて歩いて来る。

「軸のずれに関係があることか?」

 軸のずれ?

「確か、お前が居た氷の洞窟でも言ってたな」

 氷の洞窟って、最初に会った場所だよね。

「あの場所は、私の研究の集積所。世界各地にあった私の古い研究の記録を転移の魔法陣で移し、集めた場所だ」

 世界各地?

 色んな場所で研究してたんだ。

「もしかして、千二百年前からアルファド帝国に関わるまでの間、お前がやってたことって……」

「これまでの研究成果の保護と、それを基にしたあらゆる研究だ」

「……世界の真理への挑戦?」

「面白い例えだ」

 やっぱり、エルとこの人って気が合うよね。

 エルが研究したいと思っているものと、方向性が同じなのかもしれない。

「お前たちが見ていた星図もまた、相当古い。あれは、私がまだ彼女と出会う前に写し取ったもの。その時に天の北極にあったものはリラだ」

「リラ……」

 リラとアルテアの物語の、リラ。

「それって、いつの話だ?」

「歴史の区切りで語るなら、星図を写しとったのは世界の崩壊前。……五千年は遡る」

 想像もつかないぐらい昔だ。

「根拠は?」

「ラグナロクの残した記録だ。……∀1∈、大樹を」

 ヴィエルジュが頷くと、私の腰ぐらいの高さの太い樹木が生える。そこから、枝が分かれて伸びた。

 今までずっとヴィエルジュを抱えていた人が、ヴィエルジュをその上に置く。

 座るところは平らだし、枝は背もたれにもなる。本物の椅子みたいだ。

 あれ?

 あの人が居なくなってる?

「どこに行ったの?」

「どこに行ったんだ?」

「書物を取りに行ったのだろう」

 本……?

 転移の魔法で、さっきの氷の洞窟に行ったのかな。

「あいつは、神の力が無くても自由に転移魔法が使えるのか?」

「転移には、私の力を利用している。大樹の力の流れを」

 あの人は、ヴィエルジュが私たちを移動させてるのと同じ力を使ってたんだ。

 ってことは……。

「ヴィエルジュの種を持ってるから、あの人は、あなたの力を使えるの?」

「そうだ」

 あれも、精霊玉の代わりになるようなものなんだ。

 ……あ。帰って来た。

「世界樹の年輪から、出来事のおおよその年代を特定している」

 戻ると同時に、あの人は本を片手に話し始めた。

 エルは、その本を一緒に覗きこんでいる。

 なんだか……。

「この図のように、世界崩壊から再生までの年輪は明らかに特異な様子を……」

 難しい話が始まった。

 時間がかかりそうだ。

「ヴィエルジュは、五千年前のことを知ってるの?」

「時の流れを人間のように区切ったことはない。しかし、ラグナロクは樹木の年輪から読み取れる情報は多様にあると語っていた。それによると、世界の崩壊は今から五千年前のことらしい」

 そういえば、年輪を見れば樹木の年齢が解るんだっけ。

 樹齢以外にもわかることがあるんだ。

「五千年前から今までにあった出来事って、どれぐらい覚えてるの?」

「世界の崩壊後……。千年の時をかけ傷ついた大地は復活し、更に千年の時をかけ生き物は自立した。そして、人間はドラゴンと共に文明を発展させ、醜い争いの時代が千年続いた」

 千と千の月日をかけて世界は再生されたのに。

 新しく始まった時代は、戦乱が続いたんだ。

『それが、ドラゴン王国時代?』

『そうだな』

「それに終止符を打ったのが、あの男だ」

 ドラゴン王国時代の終わり。

―彼は、その争いに終止符を打つことにした。

―アンシェラートを立会人とした契約を行うことで。

「世界樹は倒れ、世界は水に沈んだ。……その後は、お前たちブラッドの時代となった」

 私たちの時代。

 でも、ブラッドの時代になっても、争いは続いた。私が学んだ歴史のほとんどは、戦争の歴史。今だって、戦いの準備をしていない国はない。

 大陸で大きな戦争が起きていない今は、歴史から見ても奇跡みたいな瞬間だ。

『そろそろ、私たちも動こう』

「え?」

 ルネがため息を吐く。

『俺たちに何が出来るって言うんだ。だいたい、アンシェラートの封印だって完了していないんだぞ。竜の山をやられれば、一瞬で崩壊する』

『そちらが先決か』

『封印なら、私たちが外から手伝うことも可能だ』

 確か……。

「闇の大精霊と大地の大精霊は、陰の力だから封印魔法が使えるんだよね?……あ、ルネも?」

『その通りだ』

『二手に分かれよう。アーランとシミュラがアンシェラートの封印を』

『じゃあ私とアイフェルとパールが地上で戦えば良いんだね』

 風の大精霊、光の大精霊、水の大精霊は、陽の力だ。

 でも。

「待って。まだ行かないで。私たち、聞きたいことが……」

 エルの方を見る。

 エルは、まだ隣の人と話してて。

 しかも、地面には本が落ちている。

「エル」

 本を拾って、エルに渡す。

「大事にして」

『また、落としてたよ』

 エルが渡した本を仕舞う。

 こっちは、この人の本だよね。渡した本は、そのままヴィエルジュに回って行った。

 元々、ヴィエルジュの本だったのかな。

 そうだ。

「あの……。あなたの名前を教えてください」

「∀0Λ0Ⅳ†∈」

 だめだ。

 やっぱり、知らない言葉。

「今では失われた発音だ。好きに呼ぶと良い」

「……アルテア?」

「構わない」

 アルテアも、この人の名前なんだ。

「お前の書を見て、急激にリラからポラリスに変化したのかと思ったが……」

―北を定める星はリラだ。

 そういえば、勘違いしてたんだっけ。

「どっちにしろ、歴史に照らし合わせても、おかしな軸のずれが起きたことに変わりはないだろ?」

「そのようだな。だが、ここまで急激な軸のずれが起きているならば、地上にも甚大な被害が起きたはずだ。……しかし、そこまで大きな災害を私は知らない」

 大きな災害?

 世界の崩壊以外に、何か大きなことが起きたの?

『軸って、あれか?この星の向きが変わったの』

「そうだ」

『そういえば、あの時、星の位置が一気に変わったんだっけ』

『良く見てたな』

『空を警戒していただけだよ』

「それは、いつの話だ?」

『お前も知っているはずだろう』

『知らないんじゃない?ずっと大樹の中で隠れてたんだから』

「え?」

「隠れてた?」

『いや、外に出たらあれだけ変わってたんだぞ?わかるだろ』

『しかし、ここは完全に閉ざされ、神の庇護下にあった』

 神の庇護下って……。

『あの災害でまともに生き残ったのは世界樹だけだったからね』

「災害って……」

 まさか。

「世界の崩壊?」

『そうだ』

『それ以外に何があるって言うの』

―世界から、浮遊する植物が消えていた。

―羽を持つ生き物たちですら、浮遊する植物を失ったことで地上付近でしか生きられなくなったようだ。

―飛んでいる精霊も、生き物たちの為に地上に降りている。

 あの時、二人は閉ざされた世界に居たから、何も知らなかっただけで。

―ここは、私の知っている世界ではない。

―私が役目を怠った為に。

 本当は、それが理由じゃない。

―世界は崩壊した。

 違ったんだ。

「あの時、世界が滅びたのは……」

「私が、役目を怠ったからじゃ……?」

『違う』

『世界が滅びたのは創世の神がアンシェラートを迎えに来たからだよ』

「創世の神……?」

「アンシェラートを……?」

 そんなの、ヴィエルジュの記憶にはなかった。

『地下の神々はアンシェラートの抑え込みに成功し、地上に残った神々は創世の神と戦った』

『けど、創世の神の力はあまりにも強くてね。地上の神々は死力を尽くして戦ったけれど、地上は無事では済まなかったんだ』

『その結果が、世界の崩壊だ』

 世界を滅ぼしたのが、創世の神だったなんて……。

『でも、地上の神々は命の源である大樹だけは傷を付けないよう守り抜いたんだ』

『大地に繋ぎ留め、あらゆる力で覆って守った』

『たとえどれだけ世界が破壊されようと。君たちが居れば世界はいくらでも復活できるだろう?植物の祖である君と生き物を導く君さえ居ればね』

「そんな……」

「そんな話は知らない」

『現に、君は世界を復活させたじゃない』

 それは、名もなき王の物語?

『その後、神々に挑んで神の力を得たが』

『それもまた、神の意思だったのかもね』

 アルテアが選んだこと……。

『そして、ヴィエルジュ。お前は、アンシェラートを取り込んで新たな力の循環を生み出した』

「循環?」

『植物はアンシェラートの力を取り込み、その力を糧として生き物たちに与える』

『生き物は、その力を消費し、やがて魂の離れた肉体を大地に還すことで、与えられた力を返還するんだよ』

『こうしてアンシェラートの力は地上で循環し世界は安定を取り戻したんだ』

「私は、そんなつもりでは……」

 ヴィエルジュが選んだこと……。

『そうだね。これも、運命か』

 それが、運命?

「違う」

「違うよ。運命なんかじゃない。私たちは、自分たちで選び取ってここまで来た。……誰かに従ったわけじゃない。世界の為なんかじゃない。自分で自分らしく生きる為に選び取って来た」

 誰の意思でもなく。

 自分で、次にどうするかを選んだんだ。

「そうだ。必然だったことなんて一つもない。俺たちは、自分で選択してここまで来た。その結果、世界が続いてるんだとしたら、そっちの方がおまけみたいなもんだろ」

 エル……。

 大精霊たちが微笑む。

『そうかもしれない』

『一理ある』

『素晴らしいじゃないか』

『上手いこと言うな』

『つまりこの世界は奇跡みたいな偶然によって続いてるってわけだね』

 奇跡みたいな偶然。

 本当に、今の私とエルみたいだ。

「エルが居たからだよ」

「リリーと出会えたからだ」

 だから、ここまで来れた。

「ルネ」

『ん?』

「前の時と同じとは、今、創世の神が、こちらに向かってるということか?」

『あぁ。そういうことだ』

 じゃあ、前と同じことが起こる……?

 だから皆、こんなに焦ってたの?

「創世の神。私の力を使えば追い返せるかもしれない」

『君の?』

「リンの力を使えば、あらゆる属性の力を一つに集めて放つことが可能だ。……それには、地上の大精霊の協力が必要だが」

 デルフィが、アルテアの前に行く。

『そういう時は素直に手伝ってくれって言うものだよ』

 そうだよね。

「皆、手伝ってくれ」

『もちろん。君を手伝うよ』

『良いよ。私も手伝う』

『手を貸そう』

『構わない』

『良いぜ』

「デルフィ、アイフェル、アーラン、パール、シミュラ。……ありがとう」

 良かった。

 皆、協力してくれる。

『アンシェラートの封印は、しばらくレイリスに耐えてもらうしかないな』

『まだ猶予はある。創世の神を追い払った後に対処しよう』

 エルが俯く。

「大丈夫だよ」

 雲が消えれば、太陽と月の女神の力を借りられるはずだったけど。

 今は。

「そうだな。創世の神を追い返す方が先だ」

 アレクさんも付いてるし。

 レイリスなら大丈夫。

「竜の山に被害が及ばないようにする策はある。……∀1∈。君の力を借りたい。大樹にアンシェラートの力を集め、創世の神を呼び寄せることは出来るか?」

「可能だ。私が囮となろう」

「囮って……。大丈夫なの?」

「以前、創世の神が来た時は、世界中を破壊しつくしたのだろう?」

『そうだね』

「創世の神が欲しているのはアンシェラートだけだ。……おそらく、創世の神はアンシェラートを地表に出す為に、手当たり次第に地表を攻撃したのだろう。だとすれば、他の場所に被害を出さない為にも、創世の神が目指す場所を一か所に集中させなければならない。その方が反撃もしやすいだろう」

 他の場所を守る為にも、戦場をここに集中させるんだ。

「エルロック、リリーシア。もう一度、エイダとパスカルを呼べるか?」

 呼べるよね。

 エルと手を繋ぐ。

「エイダ」

「パスカル」

 二人で呼ぶと、エイダとパスカルが目の前に現れる。

『エル、リリー。呼んでくれてありがとう』

『エイダ?』

『パスカル?』

『えっ?どういうこと?』

『根源の神に還ったのでは?』

『話すと長くなるが……』

「後にしてくれ」

 さっき、二人が地上に現れたのは見てなかったのかな。

「パスカル。そして、エイダ。頼みがある」

『状況は理解している。私の力が必要なら、手を貸そう』

『私も手伝うわ』

「ありがとう。パスカル、エイダ」

『じゃあ最後はリスプだね。呼んでくるから待っていてくれるかい』

「あぁ。頼む」

 デルフィが一気に空に向かって飛んで行った。

「リスプって、真空の大精霊か?」

「そうだ」

『そうねぇ』

『知り合いなの?』

『ユールの親?』

『親じゃないわぁ。でも、あたしたちが帰る場所はぁ、リスプのところねぇ』

 帰る場所。

 真空の精霊にとって、地上は息苦しいんだっけ。

「ルネ。後、どれぐらいの猶予がある?」

『太陽の神と月の神は、創世の神を追い返す為、力を合わせる為に近づいてる。二つが重なった時が創世の神が来る時だ』

 じゃあ、創世の神は、太陽と月が見える方向から来るんだ。

「ならば、隙間が出来ているな。……月の女神も対策をしているだろうが。月が居ない合間にどんな災いが訪れるかわからない。ルネ。太陽の大精霊を呼び、この星を守ってくれ」

『良いぜ。裏側の守りは引き受けてやる。……後は頼んだ』

 ルネが消えた。

 どこかに転移したんだ。

「災いって?」

「本来、この星には存在しないはずのもの。地上に異常をきたすもの。私が得たリンの力のように、この星のものではない力だ。……今でこそ、地上は太陽と月の力によって完全に守護されているが。かつて、地上は何度も外部の侵略を受けている。ドラゴンや精霊たちは、その力と戦っていたんだ」

「亜精霊みたいな?」

「地上に亜精霊が存在するのも、かつての侵略の影響だろう。始まりの存在を許せば、いくらでも同じものは生まれる。お前たち、ブラッドのように」

―この存在を許せば、世界は確実に変わってしまう。

―でも。

―この新しく生まれた命を消すことなど、誰が出来ると言うのだろう。

「後悔なんて、してないですよね?」

 二人とも。

「この世界に生まれたありとあらゆるものは、この世界で生きる権利を持つ。その権利を奪うことは神ですら出来ない。……私は、生まれた者の意思を尊重する」

「私も。同じ生命あるものとして、あらゆる生命を祝福する」

 ……良かった。

 私たちは、私たちを生んだ存在から祝福されている。

「そろそろ始めなければ。私は魔法陣の制作に取り掛かる」

「魔法陣なら、俺も手伝う」

「私も手伝います」

「休息を取れ。……二人には、後で頼みたいことがある」

 頼みたいこと?

 エルだけじゃなく、私にも?

 アルテアがヴィエルジュを抱える。

 あ。そういえば、大樹の洞には……。

「ねぇ、エル。あの箱って、開いても良いかな?」

「そうだな」

 エルと一緒に、大樹の方へ行く。

 この中には、私たちが持ってきた封印の棺がある。

 でも、エルは洞の中から魔法の玉を取って振り返って、こちらに来たアルテアを見る。

「アルテア。お前が受けた傷って、癒しの魔法で回復するのか?」

「心配は無用だ」

 エルが持ってるのは、癒しの魔法を込めた魔法の玉の中玉だ。

「リリー、魔法の玉を割って」

「えっ?……剣で斬れば良いんだっけ?」

 確か、それぐらいの力で割れって言ってたような……。

「地面に叩きつければ割れるんじゃないか?」

「そっか」

 いつもより強めの方が良いんだよね。

 思い切り、凍った地面に向かって魔法の玉を叩きつける。

 すると、魔法の玉からあたたかい癒しの魔法が広がった。

『マリーの魔法だな』

「これは?」

「魔法を閉じ込めておける魔法の玉だ」

 私が攻撃した時の傷が綺麗に治っていく。

 良かった。

 流石、マリーの魔法だ。

「人間は、すでに魔力の蓄積方法を編み出していたのか」

 魔法の玉って、この人にとってもすごい技術だったんだ。

 エルが大樹の奥から、棺を引っ張り出す。

「手伝うよ」

 エルを手伝って、一緒に封印の棺を地面に降ろす。

 すると、アルテアがヴィエルジュを大樹の中に運んだ。

 ……ヴィエルジュは、歩けないんだよね。

「無理はしないでくれ」

「大丈夫。アンシェラートの力なら扱える。……あなたこそ、無理はしないで」

「心配ない」

 二人が仲良くなって、良かった。

 そうだ。

 荷物の中から、緑の玉を出す。

「ヴィエルジュ。良かったら、これも使って」

「それは?」

「植物に力を与えてくれるんだって。あ、水もあるよ。これも使える?」

「水の力なら、私の糧となる」

「わかった」

 ユリアから貰った大地の魔法を込めた玉と、水の魔法を込めた玉を地面に向かって叩きつける。

 すると、中から魔法が広がった。

「わっ」

 水の玉から飛び出した水がかかる。

『魔法だから、濡れないんじゃない?』

「……そうだった」

 魔法の水だから、全然濡れてない。

 周りから笑い声が聞こえる。

 ……どうして、皆、笑ってるの?

 エルまで。

 ひどい。

「じゃあ、封印の棺を開くぞ」

「私は敗北したはずだが」

「負けたら渡さないなんて言ってない。ちゃんと受け止めてくれよ」

 エルが棺を開くと、眩しい光が飛び出した。

 虹のような輝きの光が、アルテアに吸い込まれていく。

 これが、神の力……。

「確かに、受け取った」

 アルテアの中に斑の光が戻ってる。

「本当に、合成魔法が使えるんですか?」

「合成魔法とは?」

「えっと……。複数の魔法を合わせた魔法?」

 エルの方が詳しいよね。

「こんなのとか……。こんなやつ」

 真空と風のロープに、炎と闇の鎖。

「そういった魔法を使うことは出来ない。しかし、私が取り込んだあらゆる力を、私の力として放つことは可能だ。……お前が精霊を剣に宿した時のように。私は、あらゆる力を宿した剣を放つ」

 この人自身が、リンそのものなんだ。

「力が必要なら、他の棺も持ってくるか?」

「不要だ。魔力を増幅する魔法陣を描く。大精霊の力を得れば、神々に匹敵する力を引き出せるだろう」

 神々に匹敵する力って、大精霊よりもすごい力ってこと?

「エイダ、シミュラ」

 大精霊たちが集まっている方を見ると、呼ばれた二人が、こっちに飛んできた。

『どうした?』

『どうしたの?』

「エイダは、この辺りの氷を溶かしてくれ。その後、シミュラは、これぐらいの高さの盛土を作って欲しい」

『わかったわ。少し、離れていてね』

 エルと一緒に下がると、エイダが炎の魔法で辺りの氷を溶かす。

 氷の下から出て来たのは……。

 地面?

「これって、世界樹の切り株なんだよな?」

「そうだ。かつて、私が斬ったもの」

 そっか。

 ここは、アルテアが斬り倒し世界樹があった場所。

 昔、空の上に神さまが居た場所なんだ。

『ほら、どけよ。今度は俺の番だ』

 シミュラが、現れた切り株の上に土を乗せる。

 何もない所から土が生まれるなんて、不思議。

 あっという間に私の背の高さを越えた盛土が現れた。

『これぐらいで良いか?』

「いや。もう少し広い方が良い」

『そういうのは上から指示してあげると良いよ』

「デルフィ」

 戻って来たんだ。

 デルフィが、アルテアを連れて空に行く。

「リスプは?」

『準備が出来たら呼べってさ』

「そうか。……シミュラ。それぐらいで良い」

『了解』

 終わったらしい。

 これって、何に使うんだろう?

「エル。見に行っても良いかな?」

「そうだな。行ってみるか」

 エルと一緒に、高い土の上に飛ぶ。

 広くて平らな地面だ。

 ここからは、周りの景色も良く見える。

「太陽と月……」

 さっきよりも、二つの位置が見やすい。

 ゆっくり進む太陽と、それを追いかける月。

 他の場所でも見えてるのかな。

「おい」

 エルが、屈んで魔法陣を描き始めたアルテアに声をかける。

「魔法陣を描くなら、これを使え。ヴィエルジュの枝で作った杖だ」

 ルネの精霊玉のついた杖を、エルがアルテアに向かって投げ渡す。

 そして。

「これも使えるんじゃないか?」

「……エイルリオン?」

 エルが背中からエイルリオンを出して、アルテアの近くに行く。

 ヴィエルジュが持てるなら、この人も……?

 アルテアが、エイルリオンを手にした。

 やっぱり、持てるんだ。

「それは、持ち主の傷を癒す効果があるらしい。持っていれば、さっきより元気になるんじゃないか?」

 癒しの効果……。

 本当に、色んな力がある剣だよね。

「エイルリオンは、世界の加護を受ける剣、ジュレイドは、本来あるべき姿に戻す剣だってヴィエルジュが言ってたよ」

 ジュレイドは、この人に本来あるべき記憶を渡して。

 そして、エイルリオンは、今、世界を救おうとしているこの人に、世界の祝福を与えてる。

「お前たちは、何故、私を滅ぼそうとしなかった?」

 ……戦いの果てにあるものは、どちらかの死だけじゃないよね?

 この人の目的は、私達とは相容れなかったけれど。この人は、力で世界を支配することは止めたみたいだし……。

「人間だから、話せばわかると思ったんだ」

 エルの言う通り。

 アルテアは、最初から私たちの話を聞いてくれた。

 私たちは賭けをして。

 そして、約束も果たしてくれた。

「それに……」

 エルが私を見る。

「リリーが、こうしたいって言ったから」

「えっ?あの……」

『自分で言ったことには責任持ちなよ』

「そうだけど……」

 だって……。

「だって、二人ともすごく好きなのに。ちゃんと言えないなんて……。思いが通じ合えないなんて、辛いから。私……。そういうの、たくさん見てきて……」

 どれだけ気持ちがそこにあっても、伝えなければ存在していないのと同じだ。

 私は……。

「余計なことかもしれないけど……。一生、言えずに辛いままでいるよりも、その気持ちを外に出して、伝えた方が良いと思ったんです」

 この気持ちを。想いを。

 この世界に、存在させたい。

 私は、この想いを外に出して良かったって思ってる。

「ここまで不確定で揺らぎの多い感情で生きるものが、最後に勝利するとは。……私が目指したものをはるかに超える存在。もう、この世界には導くものなど必要ないのだな」

 アルテアが背を向けて、魔法陣を描く。

 認めてくれた。

 私たちを。

 ……人間だけでも大丈夫だって。

「リリー。お腹は空いたか?」

「えっ?」

 お腹?

 ……結構、空いてるかも?

 エルが、くすくす笑う。

「遅くなったけど、ランチにしよう」

「うん」

 


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