5/56
Sep2リリー編:旧序章
暗い。
ここはどこだろう。
体を動かすと、何かにぶつかる。
前に手を伸ばすと、すぐに何かに当たった。
…目の前に壁?
おかしい。
とんとん、とノックする。
壁の奥で、何か物音がした。
急に、視界に光が入る。
手を伸ばすと、同じ場所に壁がある。
壁と思っていたのは、どうやら透明なガラスだったらしい。
ガラスにかかっていた布が払われただけのようだ。
ガラス越しに人の姿が見える。
目が合う。
なんて、綺麗な人。
優しい色の髪。
整った顔立ち。
透き通った瞳。
なんて綺麗な色だろう。
ガラスの扉が開く。
―「王子様」
目の前の人が首を傾げる。
―「今、何とおっしゃいましたか」
聞こえなかったのかもしれない。
―「王子様」
目の前の人が微笑む。
そして私の手をとって、手の甲に唇を寄せる。
―「それなら、あなたはお姫様ですね」
きっと、これは夢に違いない。
これが誰視点なのかは、本編を読んだ人ならわかるはず。