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智枝理子の資料集  作者: 智枝 理子
Sep2リリー編バッドエンド「迷走破綻」
19/56

155.輝きの約束

 鏡の前に立つ。

 装備は整えたし、綺麗に髪も結べた。

 もう一回、荷物の確認をしておこう。

 ……レインコートなんて、要るかな?

 いつも忘れちゃうから、入れておいて良いよね。

 大丈夫。ちゃんと綺麗に入ってる。

 準備は万端だ。

 

「いってらっしゃい。エル、リリー」

「いってらっしゃい。エル、リリーシア」

「いってきます」

「いってきます」

 

 玄関までルイスとキャロルに見送られて、隊長さんの家を出る。

 それから、オルロワール家の裏口へ。

 歩いていると、見慣れた精霊が飛んできた。

「ネモネ?」

『早起きなんて珍しいんじゃない?』

『見送りたいんだってさ。あっちを見て』

 ネモネが飛んで行った方を見る。

 みんな……。

 アリシア、ポリー、メルに向かって、大きく手を振る。

 ありがとう。

 いってきます。

 

 オルロワール家を通り抜けて、門から出る。

 え?

「隊長さん」

「ガラハドに、パーシバル」

「おはよう。エル、リリーシア」

「おはようございます」

「おはよう」

「おはようございます。本当に、早いっすねぇ……」

 パーシバルさんは眠そうだけど、隊長さんは相変わらずだ。

「調子はどうだ?」

「大丈夫です」

「いつも通りだよ」

「エル、リリーシア。いってらっしゃい」

「いってらっしゃい。お気をつけて」

「はい。いってきます」

「いってきます」

 

 お城へ。

 正門には、衛兵が居る。

「おはようございます」

「おはよう」

「おはようございます」

 挨拶をして、そのまま門をくぐる。

「エルロック。リリーシア」

「レティシアさん。ユベール君」

 それに、魔法部隊の人たちだ。

「朝っぱらから演習か?」

 エルの言葉に、レティシアさんがため息を吐く。

「こんな早朝から王都の上空を飛ぶ輩が居るのだ。不測の事態に備えなければならないだろう」

「そう簡単に落ちるわけないだろ」

「だと良いが。……無事を祈っている」

「あの、どうか、お気をつけて」

「ん。いってきます」

「いってきます」

 魔法部隊の人たちに手を振って、お城の中に入る。

 

 人が全然居ないお城の中は、いつもより広く感じる。

 エルと一緒に、真っ直ぐお城を通り抜けて、北門前にある広場へ。

 お城を出た広場では、セリーヌたちが前みたいに巨大風船を膨らませている。

「おはよう」

「おはようございます」

「おはよう。準備はもうすぐ整うわ」

「待っててねぇ」

 マリー、セリーヌとユリア。

 それに、カミーユさんと錬金術研究所の人たち。ルシアンさんも居る。

 皆、来てくれたんだ。

「リリー。忘れ物はない?準備は、大丈夫?」

「大丈夫だよ、マリー」

 虹のワンピースも着てるし、流れ星のリボンも、クロエが作ってくれたマントも付けてる。もちろん、リュヌリアンとカーネリアンも。

 それから、キャロルから借りたクローバーを入れた懐中時計も。

「これが、魔法の玉の大玉か?」

「そうよ」

 エルが、大きな魔法の玉を見てる。

 あれ、バニーがセイレーンと戦った時に使った奴だよね?

 シールの雷の魔法が入ってたもの。

「簡単に割れないから、急いで使う時は剣で斬った方が早いかもしれないわ」

「えっ。魔法が出てくるんだよね?大丈夫?」

「大丈夫よ。中身は逃走用の煙幕だもの」

「そうなんだ」

 良かった。攻撃魔法じゃないみたいだ。

「こっちの中玉は回復魔法よ。危ないと思ったら、すぐに使ってね」

「うん。ありがとう」

 バニーが炎の魔法を詰めてたのと同じぐらい。

 エルが怪我をしたら、すぐに使おう。

「浮かぶわよ!」

 巨大風船が空に向かって起き上がる。

 近くで見ると、本当に大きい。

 地面にロープで繋がれてるけど、今にも飛んで行きそうな感じで浮いている。

「荷物を運びこむわ。っていうか……」

 セリーヌが私たちを見る。

「他に持って行くものないの?」

「え?」

 忘れものなんてないよね?荷物チェックは出かける前にもしたし。ちょっと余計かなって思うものまで持ったと思うけど……。

「忘れ物があったら帰って来てねぇ?」

「えっ?忘れものは、ないと思う……?」

『もう。ピクニックに行くんじゃないんだからさぁ……』

「おやつは持ったぁ?」

「持ったよ」

「エル!」

 大きな声が聞こえてエルの方を見ると、エルが何かを避けたのが見えた。

 近くにはシャルロさんとカーリーさんも居る。

 そして、遠くで何かが爆発した。

「えっ」

「何、投げてるんだよ」

 エルが怒って向こうに行く。

 投げたのは、ルシアンさんたち?

「おはようございます、リリーシア様」

「シャルロさん、カーリーさん。おはようございます」

「おはよう。あの馬鹿は相変わらずだな」

 逃げ回るエルに向かって、皆が魔法の玉を投げてる?

 あちこちで爆発してるけど……。

「あれ、何ですか?」

「音だけの花火みたいなものだ。騒がしいだけで大した害はない」

「当たっても痛くないんですか?」

「痛いんじゃないか?あの装備なら平気だろうが」

 平気かなぁ……。

 でも、楽しそう?

「ちょっと、あんたたち!何やってるのよ!」

「あちこちで煙が上がってるねぇ」

「やめなさい!」

 ……やっぱり、だめだよね。

 マリーが怒った瞬間、城壁の上で爆発が起きた。

「あ」

 皆が焦ったように、上を見上げる。

 あれ?何か変。

 爆風が起きた場所に、誰か居る……?

 あ。

 カートとコートニーだ。

「参ったな。見つかってしまったか」

 声の主が姿を現す。

「アレクさん、ロザリー」

「アレク、ロザリー」

 闇の魔法?

 隠れて、こっそり来てたんだ。

「アレクシス様!」

 衛兵が慌てて向かったけど、すぐにアレクさんの傍にマリユスとローグが立つ。ライーザも一緒だ。

「エル。リリーシア。いってらっしゃい」

「二人の帰りを待っています。いってらっしゃい」

「あぁ。いってきます」

「はい。いってきます」

 それだけ告げて、皆が去っていく。

「エル、リリー。準備できたわよ」

 セリーヌの方を見ると、熱気球の近くに大精霊たちの姿が見えた。

「デルフィ、来てくれ」

『ふふふ。ちゃんと居るから心配しないでおくれ』

「エル。大精霊たちも、ここに集まってるよ」

 光と闇、水と大地、そして、風の大精霊。

「じゃあ、出発しよう」

「うん」

 エルに手伝ってもらいながら、熱気球の籠の中に乗る。

 思ったよりも広い。

 立つスペースしかないと思っていたけど、二人で座れるぐらいの場所がある。

「熱気球の動かし方は大丈夫よね?」

「上昇と下降の方法はわかってる。方角は精霊に頼むよ」

「火力が足りなくなりそうだったら、予備の炎の中玉を使って」

 足元には、箱に入った色んな色の魔法の玉が置いてある。

 割らないように気を付けなくちゃ。

「これからロープを切り離すわ。一気に空に飛んで行くから、振り落とされないように気を付けてね」

「わかったよ」

 えっと……。ここを掴んでいれば大丈夫かな?

「リリー。気を付けて」

「うん。ありがとう、セリーヌ」

 セリーヌが微笑んで、走って遠ざかる。

「準備は良い?」

「良いよ」

「皆、ありがとう。……いってきます!」

「いってきます」

 

 ※

 

 すごい速さで地面が遠ざかる。

 一瞬で、皆が小さくなった。

 私たちはもう、空に居る。

『さて。目指すは神の台座だね』

 デルフィが私たちの傍に来る。

『寄り道するところはないかい』

「ないよ。真っ直ぐ目指してくれ」

『それは残念』

『それで?私たちは、君たちの傍に居れば良いの?』

 アイフェル。

『近くに居ては意味がないだろう』

 少し離れた場所に居るのが、闇の大精霊のアーラン?

『では、どこに居れば良い?』

 急に、パールが目の前に現れて、思わずエルにしがみつく。

 ……どうして、急に出てくるんだろう。

 シミュラがパールの隣に並ぶ。

『自然に溶け込んでても、あいつには気づかれそうなんだよな』

 だったら、私たちのすぐ傍に居ない方が良いかも?

「デルフィ、この熱気球を上空に留めておくことってできるか?」

『一点から動かさないのは難しいけれど。神の台座の上空にふらふら浮かべておくことなら出来るよ』

「それで十分だ」

『隠しておきたいなら、私が幻惑の魔法でもかけておこうか』

「あぁ。頼む」

『わかったよ』

 幻惑の魔法。光の魔法の幻で包むってことだよね。

「地上に居るあいつから神の力を奪うのも、これぐらいの距離で可能か?」

『出来るよ』

『可能だが。距離が離れた分だけ、呼びかけに応じる時間はずれる』

「どれぐらい?」

『この程度なら、誤差の範囲だろう』

 すぐに応じてくれるみたいだ。

「なら、それで大丈夫だ」

 大丈夫。

 精霊たちは、いつでも助けてくれる場所に居てくれる。

 アイフェルの隣に居る闇の大精霊を見る。

「あなたが闇の大精霊だよね?はじめまして。リリーシアです」

『アーランだ』

『あれ?リリーシアとは、初めて会うの?』

 アイフェル。

『勇者選定時に顔を合わせたきりだ』

『そうなんだ』

『リリーシア。あまり、夜間に強力な光を放つのは止めてくれ』

「強力な光?」

『それって、月の女神に祈った時のこと?あれはしょうがないよ』

『それは理解している。しかし、あの光は闇の精霊には眩し過ぎる』

 アレクさんとレイリスを助けたくて、祈った時のことだ。

 私は何も考えずに魔法を使ってしまった。

 でも。

 強い魔法を使う時、エルはいつも周囲の精霊の理解を得ていた。

 精霊を傷つけないように。精霊と敵対しないように。

「ごめんなさい。気を付けます」

『素直だねぇ』

 私たちは精霊の力を借りて魔法を使っている。

 自然や精霊に配慮することは、魔法を使う上で一番大切なことだ。

『心配しなくても、あいつと戦う時は気にしなくて良いよ』

『あの男の近くには、精霊は寄り付かない』

 確かに。

 嫌な感じがするって、精霊たちは逃げてたっけ。

 

『そろそろ見えて来たよ』

 進む方角には、氷で閉ざされた大地。

 神の台座。

「適当な場所で、リリーと一緒に降りるよ。デルフィ。俺たちが助けを求めたら、俺たちをここまで引っ張り上げてくれ」

『助けの合図は?』

「風のロープを空に向かって打ち上げる」

『それを掴んで引っ張り上げれば良いんだね』

「あぁ。頼むよ」

 もうすぐ、到着する。

 目を閉じて。

 呼吸を整えて。

 自分の身体の調子を一つずつ確認する。

 ……少し、緊張しすぎてる。

 上手く力を抜いて、身体をしっかり動かせるようにしておかなくちゃ。

 

 ※

 

 高い所から、少しずつ低い場所へ下がっていく。

「俺たちが降りれば、軽くなった気球は上昇する。これぐらいの高度を保っていられるか?」

『これぐらいの風船ならいくらでもコントロールできるよ』

 熱気球はこの辺に浮かべておくみたいだけど、アイフェルが光の魔法で隠すから、下からは見えない。

「リリー、準備は良いか?」

「うん。いつでも大丈夫」

「捕まって」

 エルに抱き寄せられて、しっかり捕まる。

「じゃあ、行ってくる」

「いってきます」

『いってらっしゃい』

 大精霊たちに見送られて。

 エルと一緒に、熱気球から飛び出す。

 

 落下。

 

 エルの砂の魔法のおかげで、落下速度は緩やかだ。

 

 

 落下。

 

 眼下に広がるのは一面の氷。

 その中央にあるのは、濃い緑の葉を生い茂らせた大樹。

 目指すのは、あの場所だ。

 

 

 

 落下。

 

 きらめく地面に近づく。

 見える範囲には誰も居ない。

 

 

 

 

 落下。

 

 地面が近い。エルにしっかり捕まる。

 エルが、地面に向かって砂の魔法を放った。

 

 

 

 着地。

 


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