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智枝理子の資料集  作者: 智枝 理子
Sep2リリー編バッドエンド「計画を壊す者」
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2.胡蝶の夢

 もう、夕方?

 茜色の闘技場の中央で、アレクさんがエイルリオンを持って立っている。

 アレクさんがエイルリオンから手を離すと、エイルリオンが刃を下にした状態で浮く。

「聖母ヴィエルジュよ。アークトゥルスの契約代行者、アレクシス・サダルスウドの名の元に、契約の終了を宣言する。エイルリオンをその御手に返還し、エイルリオンと共に在った、すべての精霊の解放を願う」

 契約、終了?

 急に立っている場所が揺れて、思わず膝を突く。

 地面から現れた輝く蔦がエイルリオンに絡まって、花を咲かせる。

 あの姿は、剣花の紋章。

 蔦がエイルリオンの全身を覆うと、光を放って…。消えた?

 消えると同時に揺れも収まる。

「さぁ、これで因縁も消えた。・ェ・・ュ・・。私は完全に人間が支配する、人間の為の世界を創ることを約束しよう」

 アレクさん…?

 どういうこと?

 アレクさんが、宙に向かって手を伸ばす。

「アレク!だめだ」

 エルがアレクさんの傍に駆け付ける。

 そして…。

 サンゲタルが。

 エルの、体を…。

『エル!』

「エルっ!」

 嘘だ。

 アレクさんが崩れるエルの体を掴んで、その剣を抜く。

 走って。

 走って、そのままリュヌリアンを振る。

 けど、血を流すエルを盾にされて動きを止める。

「嘘って、言って」

 碧眼と、不自然に閉じる片目。

 そこにはレイリスとの契約の証であるはずの菫の瞳がない。

「嘘じゃないよ」

 嘘だ。

 これは、夢に違いない。


 ※


 体の震えが止まらない。

「リリー?」

 すぐそばで、大切な人の声が聞こえて抱き着く。

 鼓動の音。

 金色の光。

「エル…」

 生きてる。

 エルが私を抱えて、膝の上に乗せる。

「また、変な夢でも見たのか」

「…うん」

 エルが私を強く抱きしめる。

「俺が死ぬ夢?」

「…うん」

 どうして、こんな夢ばかり見るんだろう。

 しかも、まだ夢の感覚が全部残ってる。

「死なないよ」

 その言葉がどれだけ当てにならないか、エルはわかってない。

「何か飲むか?」

「こうしていて」

 離れるのが、不安だから。

 エルが私の髪を撫でる。

 窓から、茜色の光が射しこむ。

 …夕方?

「私、いつから寝てたの?」

「…終わった後から」

「終わった後?」

「ランチも食べずに寝たんだよ」

 エルが私のおでこを指で突く。

 ここ、ソファーの上だ。

 いつの間にか着替えてる。

 これ、前にライーザさんが用意してくれた服の一つだよね。

 足元にはマントが落ちてる。エルが私にかけてくれていたのかな。

 テーブルの上には、フードカバー。

 急に、お腹が鳴ってエルが笑う。

「コーヒーと紅茶、どっちにする?」

「コーヒー」

「了解」

 エルが私を膝から降ろして、コーヒーの準備をしに行く。

『リリー、大丈夫?かなり、うなされていたみたいだけど』

「大丈夫だよ」

 うなされてたから、エルが起こしてくれたのかな。

 足元にあった靴を履いて、テーブルの傍に行く。

 脱ぎっぱなしだった鎧も片付いているし、テーブルも寝る前とは違う。

 きっと、私が寝てる間にライーザさんが来たんだ。

「簡単なものしかないけど」

 フードカバーの下にあったのは、ランチと言うよりはお菓子。

 クリームや果物が飾ってあるものを取って食べる。

「美味しい」

 これ、サヴァランだ。シロップが生地に染み込んでて美味しい。

「どうぞ」

 エルが私の前にコーヒーを置く。

 良い匂い。

 あたたかい飲み物が体に染みわたって、体が目覚める。

 …やっぱり、さっきのは夢だよね。

 アレクさんがエルを攻撃するなんてあり得ない。

 あれだけエルを大切にしている人が…。

 でも、アレクさんの瞳が消えたことは妙にリアルだった。

 レイリスとアレクさんの契約は、エルを守ること。

 アレクさんが契約違反をした結果、レイリスとの契約が解除されて瞳が消えたんだ。

 片目のない人間なんて見たことがないのに、あの不自然な瞼の閉じ方が忘れられない。

 本当に、夢?

 立ったままコーヒーを飲んでいるエルを見上げる。

「ん?」

 今が夢だったら、どうしよう。

 エルが私の口元を舐める。

「…甘い」

「甘い?」

「クリームがついてたから」

 エルが私の口にキスをする。

「美味しい」

「…ばか」

「髪、結ばないとな。いつもので良い?」

「うん」

 エルが私の髪を撫でる。

「食べ終わったら、外の様子を見に行ってみようぜ」

 ここは闘技場で。

 今は、夢と同じ夕方だ。

 …どうか。何も起こりませんように。


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