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さらば『凍てついた銀河』よ

 白銀竜との戦いから一週間が経過。そう、一週間が経過した。


 あの後、白銀竜が息絶えるのを眺めてから、俺も倒れた。だいたい一日経ったくらいで目を覚まし、目の前の白銀竜を解体した。


 その最中に雪ウサギが一匹鼻を鳴らして近づいてきたので、少しだけ肉を千切って渡してやると、そのまま平らげてから去って行った。ウサギって雑食だったかと思いながらすべての作業を終了、そのまま食事に取りかかった。


 鱗や甲殻、爪や骨などは一部を残してすべて平らげた。煮る焼く蒸す炒める生食など思いつく食べ方はすべて試したと思う。


 正直、竜の肉は非常に美味かった。何というか、焼いたときの肉汁がジューシーだった。こちらも後日加工出来る様に少しだけ氷の中に閉じ込めて残してある。


 外の世界に出たら、絶対にこれで料理作って貰おう。相当に美味い物が出来るはず。

 さて、肝心の知識だが、ちゃんと入手する事が出来た。純粋な『凍てついた銀河』の脱出方法と氷の剣を持ち出す方法の二種類だ。


 まずは脱出方法だが、境界域に存在する脱出の魔法陣を踏むことで、外の世界に離脱することが出来る。

 これは一般入場口の様な物で、世界の裂け目の手前に存在する、くさびの様な物でもあるらしい。


 少し思ったが、入っていきなりあんな最強クラスの敵が存在するなんて厳しい世界だろうか。環境自体も厳しいが、いきなり入り口でこんにちは、死ねとやってくるなんて理不尽だ。


 話が逸れた。もう一つの方法は、『凍てついた銀河』を氷の剣に封印することで、氷の剣を持ち出すという方法。


 なんでもこの世界の中心で氷の剣を突き刺すことで、世界が氷の剣の中に格納されるとのこと。

 そして世界の中心とは、この家の中にある、最初に氷の剣が刺さっていた台座の事である。


「まさしく青い鳥だな」


 つまり、氷の剣を抜いた主人がそこに剣を納める事でこの『凍てついた銀河』を仕舞うことが出来るんだそうな。仕舞った後は自由にお使いください、となるわけだ。


「あの台座にそんな意味があったとは……」


 普段その辺に立てかけて寝てるから台座に差すなんて事を一切考えていなかった。それに普段あの部屋は物置としているので、今は工芸品がこれ見よがしと置かれている。


「ま、出る前に掃除とかするか」


 埃は溜まっていないが、脱ぎ散らかした服に作っては放置した工芸品、術の式を書いた雪の板や冷凍保存した巨大魚まで、非常にカオスだった。


 とにかく工芸品や巨大魚などは無限収納リュックに詰め込み、服も洗濯した後に同じように詰め込む。

 この機会にリュックの中身をしっかりと整理し、他に必要な物なをを整える。


「ええと、寝袋に水筒、下着に歯ブラシ、ああ、食料も詰めないと」


 食料品と予備の装備をすぐ出せるようにし、それ以外の物は奥の方に仕舞い込む。この無限収納リュックを生かして旅の商人をするなんてのも楽しいだろう。


 そうやってさらに一週間の準備期間を設ける。


「……やっと終わった」


 ブレザー以外にも服を作ったりと旅の準備を完了させ、リュックを背負う。

 修学旅行生の様に見えるのだろうか? それともこの世界基準で旅人の様に見えるのかは分からない。


 最後に外へ出て、かまくらの周りを一週。そして最後に空を見上げる。相変わらずの満天の星空であり、頭の天辺に赤い星が輝いていた。


「じゃあ、行くか」


 かまくらに戻り、台座のある部屋へ入る。工芸品が無くなり、殺風景な部屋だ。

 部屋の中央、台座の前に立ち、氷の剣を構える。


「いざ、脱出!」


 氷の剣が突き立てられると同時に、周辺から青白い魔力が剣に向かって流れていく。

 それが静かに加速すると、そのまま世界が剣に吸い込まれるように消えていく。


 最後に残ったのは、魔法陣が足下に刻まれた石舞台と、氷の剣の突き立っている台座。


 周辺は浅く雪が積もっているものの、春の芽吹きを感じる草原。周囲を見渡すと南を除く三方を山に囲まれている。そして南はそのまま草原が続いている。


「うん、暖かい」


 吹く風は若干熱気を帯びている様に感じる。今までの極寒世界との温度差を感じながら、台座から氷の剣を抜く。


 そのまま飛び上がり、上空で止まる。周辺を見渡すと、ちょうど南側に街道を発見したので、一回地上まで戻る。


「さて、どんな世界なのか非常に楽しみだ!」


 翅に力を込め、ゆっくりと滑るように進む。南側に街とか村とかそういうのがあればいろんな事を知ることが出来るのだが……


「南の方角に村が有ったはずじゃ」

「なるほど、そこで情報収集がてら、いろいろエンジョイしよう」


 そうして意気揚々と進もうとして、今誰と話していたかに疑問を持つ。


「存外に鈍いな、この眷属にして担い手、スノゥ=ドラコリィ」


 眷属にして担い手という言葉に、手に握った氷の剣を見る。


「そうだ、ワシだ。氷の剣だ」


 やや渋めのお爺様系重低音ボイスが直接響く。


「……意思存在するかもとは思ったけど」

「今までは『凍てついた銀河』の維持に努めていたから会話に余力を割かなかった、外の世界に出たのなら剣自体の維持さえ出来ればこうして喋ることなど造作も無い」


 パソコンに例えると重たいアプリケーションを落としたから他の会話用AIアプリケーションを動かす事が出来る様な物だろう。


「さて眷属にして担い手のスノゥよ、目的は分かっておるな」

「オーケー、この世界の酒や美食を堪能する事だろう?」

「違う! 知識を蓄え、来たるべき時に備えるのだ!」


 いきなり俺の目的が全否定された。


「かつての魔王の時代や聖戦士の時代と同じく、現世の知識を回収して行く事が至上の目的であり、存在意義だ」

「氷の剣ってそういう物だったのか?」


 だとしたら驚きだ。剣に自意識が存在するのもだが、百科事典なんてそんな機能があるなんて誰も思わないだろう。


「誰に作られたか知らないけど、そういう目的で氷の剣は誕生したのか?」

「いや、ワシの趣味だ」


 へし折ろうかこの剣。しかし自分自身の生みの親と言える存在でもあるので、へし折る事は出来ない。

 それにこいつ自身が抱えている知識が役に立つのは事実。


「ほれ、ぼさっとしてないで行くぞ、知るべき事は山ほどある」

「分かった、だが一つ聞かせてくれ、お前自身は有名な剣なのか?」

「知らんよ。ワシ所詮は剣だし」


 自信満々に言い切っているがなんか隠してる、俺の勘がそう告げている。面倒ごとを避けるために氷の剣の表面を圧縮雪で包む。


「何をする、スノゥ」

「なんか目立ちそうだから偽装しておく」


 表面を雪で覆い、まっすぐな刀身の剣に仕立てる。ついでに表面には雪の結晶をあしらった模様を散らしておく。


「今までも布や鞘で覆って隠す担い手は居ったが、このような隠し方は初めてだ」


 良かったな、初体験の知識を得られたぞ。そんなことを思いながら、南へ向かってゆっくりと飛ぶのだった。

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