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戦え! スノゥ=ドラコリィ!

「だっしゃらぁ!」


 尻尾で地面に向かって叩き潰され、戦闘終了。


「でりゃあ!」


 爪を防ぎ損ねたせいで首元を深く切られ、出血、いや魔力多量放出で戦闘終了。


「往生せいやぁ!」


 スノーバインダーで拘束したと思ったら一瞬で引き千切って角で串刺しにされ戦闘終了。


 ―――以上、白銀竜戦の九割殺されのダイジェストでお送りしております。


 そんな命のやりとりをしながら日々は過ぎ去り、初めての九割殺しから三年が経過した。

 相変わらず白銀竜は強く、こちらはいつも瀕死で投げ出される。回復してからほんの少し強くなってまた瀕死にされる。


 一時期はやけになってワイバーンの巣に殴り込みをしたときもあったが、取りあえず元気である。


 勝てなくとも強くなっている事は確かで、瀕死回復までの時間が最初は一週間ほどかかっていたのが一日あれば問題無くなるくらいまで回復力が上がった。


 魔力も跳ね上がり、妖精形態であればちょっとやそっとの戦いで魔力切れなんて事態も起こらなくなった。


 力も高まり、白銀竜と普通に打ち合いが出来る様になり、尻尾の直撃も耐えられる体を得た。


「さて、ここらであいつに打ち勝つ策を考えるとしよう」


 湖に釣り糸を垂らし、巨大魚が掛かるのを待つ。


 この三年間で使えるようになった新たな特技は、冷気のブレスが放てるようになった。

 これは白銀竜の一部を取り込んだ結果だろう。


「ただ、効かないんだよな……」


 白銀竜も氷の剣の眷属であり、冷気に耐性というか無効化能力を持っている。こちらも竜化すれば同様の力を得られるのでお互いにブレスは意味が無い。


「ファイヤーブレスもかなり強化されたけど、はっきり言って火力不足だし」


 これはワイバーンを狩って食べたおかげだ。

 一回物は試しと白銀竜に吹きかけてみたことはあるが、鱗に焦げ目一つ作ること無く、思いっきり全身噛まれた。


 あの時の飲み込まれそうになった恐怖は忘れられそうに無い。


「後はフリーズレイも覚えたけど役に立たないし」


 無論、実験してみたが無効化されるどころかこちらに反射までされた。氷の剣のおかげで無効化されるが、正直肝が冷えた。


 最後は氷の剣での近接戦闘になる。スカイブレイカーとスマッシュヒット、見切りの剣であるが、スカイブレイカーは当たり所が良ければ傷を負わせることも出来るし、スマッシュヒットは一瞬だが白銀竜の腕力を上回れる。


「一番得意になったのがスノーバインダーってのが笑えるな」


 そう、拘束から装備の繕いまで便利な圧縮雪の紐であるスノーバインダー。日常生活でも有効なため、今ではミクロン単位の糸や荒縄みたいな太いのまで自由自在だ。


 残念ながら、拘束は大抵一瞬で引き千切られるのであまり有効な手段では無い。一回仕事人間的な使い方やパーフェクトな執事的な使い方をしてみたが、前者はつり上げる支点の耐久力が足りず、後者は技術が足りずに失敗。


 世の中の糸や紐をメインで戦う皆様は日々たゆまぬ努力をされているのだなと実感しました。


 そもそもあの白銀竜が首締めくらいで死ぬとかまずあり得ない。あれ絶対首だけになっても食らいついてくる、というか死体になっても食らいついてくるはず。


 生半可な手段では完全に滅することは出来ないはずだ。


「弱点は火って言われてもなぁ……」


 術で冷やす事は出来ても暖める方向に持って行く事が出来ない。こればっかりは取り込んだ物の影響だ。

 ワイバーンも自分のブレスの火力よりもその巨体を生かして戦闘した方が早いことを理解しているから普段も使わないのだろう。十数匹単位で食べたけど火力の上昇が見込めない。鱗の強度は上がったが。


「うーん、あ、そういえば冷気と火炎を混合して破壊光線を放つって奴、よくあったよな」


 現実的には相殺して終わりだけど、術で補強すれば出来るのでは無いか、そう思って息を吸う。

 イメージは左右の肺でそれぞれ炎と冷気のブレスを生み出し、それぞれのエネルギーをぶつけ合った瞬間に術で合成して吐き出せば良い。


「名付けて、デストラクションビーム!」


 吐き出す。青白い光が口から飛び出し、湖に着弾。爆発。だいたい半径一メートルくらいの規模で高さ一メートルくらいの水柱は立った。


 なお、それで終了の模様。副次効果で近くに居た巨大魚が気絶して浮かび上がってきたので回収して刺身にした。


 活け作りにしたら食べる直前で頭だけになってもこっちに食らいつこうとしてきたので、今度からはちゃんとシメてから調理しよう。


 さて、そんな刺身を食べながら考えているが、はっきり言って威力が足りない。この程度だと痛覚刺激するまで行かず甲殻で弾かれる。


 その上で発射までのタメを考えると何というか実に産廃術だ。意表を突くには良いだろうけど、絶対に通じない。


「やっぱりレベルを上げて物理で殴るか」


 それが一番手っ取り早いだろう。

 刺身を食べ終え、明日のために布団へ潜る。いつの日か、勝てると夢見ながら。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 振るわれた爪を腕の鱗、いや甲殻で受け止める。小手を狙うように腕を氷の剣で斬る。


 とっさに腕を引かれたため、浅く切り傷を作るのみだった。


 現在俺は竜化しての全力戦闘を行っている。ただ竜になるのでは無く、俺に合わせて最適化させた竜化だ。


 二翼一対、妖精の翅と竜の翼を持つ背中、全身の鱗は鎧の様に配置され、必要な時に魔力を与えて一部分だけ肥大化させることも出来る様にした。


「今の俺が持ちうる秘策は、文字通りの妖精竜としての性質で挑む事だ!」


 そのまま飛び上がり、スマッシュヒットで鞭のように振るわれた尻尾を受け止め、弾き飛ばす。

 妖精の翅をスタビライザーにして、竜の翼で加速。一瞬で背後まで回り込んで氷の剣を振るうが、振り向きざまの角で受け止められる。


 瞬間後方に下がると、目の前一センチの位置で竜の顎という地獄門が閉じる。


 吸い込んだ息を炎に変換して鼻面にファイヤーブレスをたたき込み、目くらましを行う。


 ほんの一瞬怯んだ隙に上方へ一気に飛び、スカイブレイカーで頭を狙うが、振るわれた爪で受け止められる。


 そのまま反動で後方へ飛び、反動が切れたタイミングで翼に力を込め、すれ違いざまに氷の剣を滑らせる。


「これぞランブレード!」


 もうちょっとかっこいい名前は無かったのと自問自答したが、ネーミングセンスの無さを思い出して悲しくなった。

 そんな悲しみを吹き飛ばすかのように白銀竜も咆哮を上げながら爪を振るう。


 それを避け、受け止め、あるいは受け流して対処。やはり下手な術より肉体を強化して戦闘した方が楽だ。


「制限時間、後どれくらいだ?」


 それが今回の全力モードの竜化、名付けて妖精竜化だ。


 全身の鱗を自然生成では無く、鎧の様に立体感を出して生成、妖精の翅と竜の翼の両方を生成し、速度の竜の翼に合わせて妖精の翅をスタビライザー代わりにした高速戦闘も可能。

 加えて体内部も竜に近づいており、妖精形態の約二倍近い戦闘能力を得た。

 反面エコが叫ばれる時代に逆行するかのごとく高燃費で、スノーバインダーやアイスニードルが消費一か二だとすると、妖精竜化は毎秒五を消費する様な物だ。


 妖精形態ではちょっとやそっとの戦闘じゃ減らない魔力だが、常時そんなに消費すればせいぜい一戦、三十分ほど使えればいい位だ。


 故に、余計な小細工を行わずに全力で剣を振るう。切り裂かれた腕から白銀竜の血が吹き出したのを全身で受け止め、それすらも力にせんと取り込んで、前へ進む。


 このような無謀とも取れる戦いに赴いているのには非常に単純な理由が存在する。


『凍てついた銀河』最強になるという目標を打ち立て、血肉を食らい、一歩一歩前に進んできたが、限界が来たのだ。

 強くなるという目的を持って、娯楽の無い世界から脱出するという当初の目的を意図的に封じていたのを。


「だっしゃらぁ!」


 きっかけは非常に単純だ。昨日食った巨大魚の刺身、あれ食べた後にわさび醤油で食べたいと思ってしまった。


 そしたらもうあれよあれよといろんなやりたいこととか大量に出てきた。


 スマッシュヒットが白銀竜の胴体を捉える。そのまま受け止めるかと思いきや、受けたのと同時にバックステップを繰り出して衝撃を逃がしている。


 そんな技術も持っていたのかと思いながら、地面から氷の槍を突き出させるアイスランスで背後から追撃。無論甲殻に阻まれるが、バックステップに使った力が減衰される。


 一瞬の停滞に対してランブレードで駆け抜ける。だが、浅い。とっさに身をよじられて切っ先だけが掠める。


 今の俺はただ一つ、外に出ていろんな事をする、ただその一点に向かって動いている。


 迫り来る爪を見ながら、剣を下に構える。当たる紙一重を見極め、その場で一回転しながら回避。さらにその爪に対して瞬間的に一撃。


「これぞ見切りの剣閃!」


 そうやって攻撃を回避出来たのもつかの間、続く二撃目と三撃目はそのまま元に食らってしまう。

 ダメージを刻み、刻まれ、お互いが満身創痍に近い状態になりながらも、なお倒れず。


 なんでか、今非常に楽しい。おそらく快楽物質が死の恐怖を全力で打ち消しているのだろう。そのまま何撃もやりとりを重ねる。


 爪が尻尾が、牙が角が氷の剣とぶつかる。そのたびにだんだんと楽しくなってくる。


 しかし、楽しい時間の終わりという物は必ずある。今、向き合いながらお互いが構える。


「間違いなく最後の一撃だな……」


 魔力が底を尽き掛けている、白銀竜は巨体ならではのタフさで立っているだろう。


 だから今、全身全霊の一撃を繰り出す。

 いつか考えた、術と剣技を合わせればきっと凄い物が出来るんじゃ無いかと思い、ずっと練習してきた必殺技を。

 すべての魔力を、体の強化と氷の剣へ。氷の剣が薄い光を纏う。正眼に構えた剣を大上段に振り上げる。


「氷の剣・真唐竹割り!」


 氷の剣が纏っていた白い光が一瞬で全長十メートルの魔力の刃へと変化する。

 それを強化された肉体でもって振り下ろす。


 白銀竜もそれを魔力の込めた爪を構え、全力で振るう。空間さえも裂きそうな爪の軌跡が氷の剣を受け止める。


 全力と全力が拮抗し、どちらかが倒れるまでこの拮抗が続くだろうという状態の中で俺の中にある魔力が今にも底を尽きそうになる。


「負けて、たまるかぁ!」


 竜化で生み出された鱗を一気に魔力へ還元する。勢いを増した白い光が、白銀竜の爪を飲み込み、そのままその体を袈裟斬りにする。


 そして、白い光が消え、俺は振り抜いたままの姿勢から動けない。対する白銀竜はこちらを睨むように見てから、そのまま倒れた。

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