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立ちはだかる白銀の竜

「うーん、爽快な朝……いや、星の位置から夜じゃねえか」


 青い星が地平からゆっくり上ってくる。


 あの白銀竜との戦いから何日経過したのだろうか? 正確なカレンダーなど存在せず、ただ壁にナイフで刻んだ物で日数を数えていたので何日間寝ていたか不明。

 しかし、風穴はしっかり塞がっていたのでかなりの時間回復に費やした物と思われる。


 しかも表面上だけで内部はまだまだとのこと。


「なあ氷の剣、何日経った?」


 答えはしないが、知識として一週間経過という物が返ってきた。意外に利便性高いな。


「……白銀竜は強い、まだ勝てないな」


 巨人とは桁が二つぐらいは違うであろう存在。文字通りの守護者。俺の様なエセ眷属とは異なる本物の眷属。


「ま、仕方が無い。また挑めば良い」


 そのためにあの千切れ飛びそうな意識の中で剥がれた鱗を拾ってきたのだ。


「全部で三枚、全力で打ち込んでこれだけしか剥がれなかったのか……」


 今すぐ食べて、自身の力に還元したい、そう思ったが本能がそれを拒否する。

 おそらく白銀竜の鱗はパワーアップアイテムではあるが、急激な上昇に現時点の蓄積ダメージ量では耐えられないのだろう。


 仕方が無く思いながら、保存しておいた鹿肉ジャーキーを囓る。こんな状況でも胃袋は問題無く受け付けてくれそうだ。


「胃袋潰されて無くて良かった」


 しっかり噛んで、満足したところで、ベッドに再び潜る。睡魔はすぐに訪れた。

 で、気がついたら三日寝てました。


「うん、快調快調!」


 ストレッチをし、体の様子を確かめる。

 しばらくのベッド生活は体の各所を堅くさせていたが、すぐにほぐれたので問題無し。


「よし、問題無し! まずは服の再構成から!」


 白銀竜との戦いで竜化が起動したせいで無くなった服を再度作り直す。有り余るベッド生活パワーをそのまま術にたたき込んだ結果、ものの五分で作成が完了。


「次、装備の補修!」


 氷の剣は当然ノーダメージだが、それ以外のインナーなどはしっかり裂けている。

 なのでしばらく繕い作業を実施。もはや拘束術以上に糸を得るための術になりかけているスノーバインダーを駆使して、オオカミモドキインナーを繕う。


 それもあっさり終了し、服の内側に仕込んでいたナイフ類を生成。後は手甲やすね当てを調べるが、大きな変化はない。


「ドアの立て付けは、後で良いか」


 別段急ぎでは無いことを理由にドアについては後回しにする。


 さて、これで準備が整ったので白銀竜の鱗を手に取る。一枚一枚が身長の半分くらいと非常に大きいため

、どう攻略するか迷うが氷の剣で一口大に切り取って飲み込む。


 噛み砕ければ良かったけど、さすがに無理がある。しかし、一欠けだけでも十分に効果があることが分かった。


 体の内側から力が溢れ、肉体が変質していっているのが分かる。巨人の魔石や巨大魚の時はせいぜい人間の延長線上で強くなっている感じだったが、今回は体自体が作り替えられるような物。


 食べた量が少なかったのですぐに収まり、力を得たという感覚だけが残った。なんというか全身むず痒い感じ。


 そのまま鱗を切っては食べと繰り返す内に、足に違和感。いつの間にか裸足になっており、その足も柔らかあんよでは無く、ジャリジャリトカゲ足。つまり、鱗びっしりだ。


「……作ったばかりの靴が鱗になってしまった件について」


 鱗を払い落とし、また靴を作る。今度はそのまま眺めていると、足先に靴が吸収されていき、最終的にトカゲ足になってしまった。


 ふと思い至ったことがあるので、試しに服を全部脱いでから全身に魔力をみなぎらせる。


 すると、全身から透き通るような水色の鱗が生え始める。今は小指の先ほどの小さな鱗だが、このまま魔力を込めれば大きな鱗も出来上がるだろう。


「……竜人化とか言えば聞こえは良いだろうけど、これじゃあ生活しにくいな」


 確かに頑丈なのだが、常時の魔力消費が発生する事を考えるとあまりおすすめは出来ない。いつどんなときに魔力が必要になるのかが分からないから、節約に越したことはない。


 しょうが無いのでそのまま魔力を強く出したり、全く出さなかったりと実験を繰り返したところ、自分の中でスイッチの様な感覚を見つけた。それのオンオフでこの鱗生成を止めることが出来る様になった。


 合わせての実験で、今現在この疑似が取れた竜化の能力は低いが潜在能力は非常に高いため、将来的には本気の戦闘時はこっちがメインになるだろう。


 何せ、体自体が妖精から妖精の形をした竜に置き換わるので、基本スペックから桁違いに跳ね上がる。

 普通の妖精じゃあ竜の鼻息にも勝てない様な基礎スペックしかない。生まれた時の場から魔力を全力供給された状態でようやく爪を振るって貰えるレベルだ。


 俺は巨人やら巨大魚やらオオカミモドキやらワイバーンやらを食べたおかげで能力こそ上がっているが、土台からして竜という存在は桁が異なる。


「まずはこの鱗を全部食べるか」


 こうして、初めての境界域の守護者戦は九割殺しというわかりやすい黒星で幕を上げたのだった。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 日々これ戦場。朝起きてから食事。洗濯掃除を終わらせ、境界域へ飛ぶ。


「はぁ!」


 飛び上がってのスカイブレイカーをたたき込むが、あっさり腕の甲殻で受け止められる。


 次の瞬間に白銀竜が振り向いたと思った瞬間、ぶっとい尻尾が脇腹にめり込む。肋骨から何から何までへし折れる音が聞こえるが、まだ終わっていない。


 先ほど氷の剣を受け止めた甲殻に向かって、さらにもう一撃スマッシュヒットをたたき込み、甲殻を割る。破片が飛び散る。


 直後に白銀竜の頭の角がこちらの胴を貫く。そしてそのまま頭を振って私を地面に叩き落としてからそのまま去って行く。


 氷の剣の自動回復を受けて、少しでも動けるようになったら割れた甲殻の破片や剥がれた鱗、日によっては雪に染みこんだ白銀竜の血を集めてから家に帰る。


 家に帰った後は傷の処置をしてから氷の剣を持ったまま寝る。


 そしてしばらく寝込んで体を回復させ、回復したら戦利品を食べる。


 それではここで説明いたしましょう、白銀竜の鱗や甲殻の食し方。


「一、まず服を脱ぎます」


 なお、至極大真面目です。こうしないと魔力で編んだ服が体内に自動還元されてしまうからだ。

 どうしても新たに魔力を取り込むと、竜化のスイッチが馬鹿になるのでこうでもしないと何回も作り直すハメになる。


「二、竜化します」


 今回は鱗と割れた甲殻がメインであり、特に甲殻は非常に堅い。それに対抗するために、こちらも竜化して身体能力を強化する必要がある。


 氷の剣で切ると、どうしても切った瞬間に漏れる力が出るらしく、そのまま囓りとるよりも上昇率に差が出る。


「三、食べます」


 余すこと無く鱗を囓り、甲殻をかみ砕き、血で飲み下す。摂取した物で強化に影響される部分が少し差が出てくる。

 鱗は表皮と鱗の硬度が、甲殻は肉体全体の堅牢さ、血は魔力、今日は取れなかったが爪や牙はそれぞれ爪と牙の鋭さが。


 そして、総じて竜化の能力が強化される。


 無論、通常の妖精状態でもかなり強化されている。飛ぶ速度は圧倒的に速くなり、素手でオオカミモドキの牙を受け止めても牙が突き刺さらない。


 魔力も大分底上げされ、このかまくら位なら一日かからずに作り上げられる位には成長している。


「しっかし、これでも届かないんだよなぁ」


 この生活を初めてからまだ二ヶ月しか経過していないのだから仕方が無い。


「ま、地道に行こう」


 ある程度強くなれば倒せなくても出し抜く方法くらい思いつけるだろう。最後の甲殻の破片を口に含み、思いっきりかみ砕くのだった。

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