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天の川を越えて

 今日も今日とて巨人狩り。浮島に行けば必ず一匹は存在するので、最低限一日一匹は狩っている。


 元々ここにいる生物は生殖を行わないという。なのでゲームのポップよろしく規定数の魔物が生み出されるんだそうな。


 だから、巨人は一日一匹は生まれる。そんな巨人と正面から打ち合い、戦う。これは最近感じている事だが、巨人達も少しずつ強くなってきている気がする。


 最初はただ力任せの剣だったのだが、だんだん技というか、正面から打ち合わずに受け流したりと技術を駆使するようになってきた。

 こちらの技量が上がるのは問題無いのだけど、最終的に巨人が狩りにくい存在になったら困る。


 安定した収入というか調達しやすい食べ物は多いに超したことがない。


 しかし、相手も強くなっているがこちらも負けじと強くなっているのは確か。


「見切りの剣」


 相対する巨人に対し、氷の剣を担ぐようにして構える姿勢になる。こちらからは動かない。

 対する巨人は全力の横薙ぎ。俺はその横薙ぎ剣に対して剣を振るい、力のベクトルを上に向けさせる。


 それだけで巨人の手から剣が宙を舞う、その隙を逃さず、袈裟懸けに切り捨てる。


 落ちてきた剣が地面に突き刺さるのと、私が胸の魔石をえぐり出すのはほぼ同時であった。


 先日得ることが出来た技、その名も見切りの剣は相手の攻撃を弾き、武器を飛ばす技だ。

 うまく使えばこのように相手の武器を手から落とさせるという事も出来る。


 ただ、剣で弾くまでは出来ても、落とさせるのは難しい。この辺りは要練習と言った感じだ。


「今日も巨人はこの一匹だけか」


 おそらくだけど、この巨人は今日生まれたばかりなのだろう。以前に手傷を負わせた個体などもいたが、見かけることが無い。


 うまく隠れているのか他の個体に狩られたのか。真相は謎だが、ちょっと前の様に巨人の入れ食い状態という事は無い。


「さて、そろそろ安定した生活も送れるようになったな」


 魔石を飲み込み、鞄に巨人の剣をしまってから家路に着く。最近は飛んでも飛ばなくても魔物に襲われることが少なくなった。


 自身の能力の向上がこの結果を生んでいると思うとうれしく感じる。だからここでの静かな生活を大切にして、日々を過ごそう。


 ―――そんな殊勝な心構えが通じたのはだいたい一ヶ月だった。


 彫り途中のワイバーン骨細工もなかなか手が着かない。

 一日最低限の狩りをして多少の食料を得て、少しずつ強くなる。


 たまに巨人と戦い、剣技を磨く。ついでに魔石を得て、強靱な体を作る作業を行う。


 そんな穏やかな生活が出来たのが、一週間ほど。

 だんだんそれだけの生活で、苦痛を覚えたのが二週間目。


 試しに一週間ほど寝たまま過ごしたけど、それもすぐに飽きがきてしまい、現在は娯楽に飢えていた。


「いやマジでこの世界変化が無い!」


 ワイバーンも時折こちらの方に飛んで来るが、こちらが姿を現わすとあっという間に飛び去っていく。


 オオカミモドキなどこの周辺には一切寄ってこない。おかげで家の中の家具が非常に充実するくらいの時間を得て、片っ端から作っていったらとうとう作る物も無くなってしまった。


 残っているのはこの骨細工くらい。


「テレビ! ネット! 漫画! 無ければこの際学術書の様な物でもいい! 何か暇つぶしを!」


 全力でそう叫ぶくらいにはこの世界は何もない。


「うーん、ここを出る方法はないものか?」


 氷の剣は何も言わない。一度外円部まで進んでみた物の、飛んでいる内に世界を一周して元の場所に戻ってきてしまう。


「本当に無いのか?」


 氷の剣は答えない。


「仕方が無い」


 刃を掴まないように氷の剣の刀身を握る。そして力を込めてみる。


「外に出る方法は?」


 計ったことは無いが、私の握力は巨人の剣を握りつぶせる位にはある。一日一個の健康的な魔石生活のたまものだ。


 氷の剣を折ることは出来なくても曲げることぐらいは出来ると思う。そう思い、さらに力を込めようとした瞬間、知識が流れ込んでくる。


「ふんふん、境界域の守護者、か」


 私と同じ眷属で、この世界の守護を担当する存在だそうな。氷の剣の知識の中で、外に出る方法などの知識はこの存在が所持しているとのこと。


「なるほど、氷の剣が教えたがらない訳だ」


 そいつを倒せばここの中では最強、ついでに外に出る事が出来る。


「そうと決まればその境界域の守護者でも倒しに行きますか!」


 ささっと準備を整える。ワイバーンの骨と虹色石で作った氷の剣を納める鞘、ワイバーン革の胸当て、虹色石作った手甲にすね当て。


 鞘については、肩に背負う形の物で、必要な時に肩口にある柄を跳ね上がるようにすると抜ける物だ。


 こちらも無限収納の術を利用しているので、傍目には非常に短い剣の様に見えるが、抜けばちゃんといつもの大きさになるので安心だ。


「いざ、境界域の守護者へ挑むぞ!」


 そうして意気揚々と飛び出し、『天の川』を越えた辺りで一回降りる。そしてそこから徒歩で進み、境界域に到達する。


「ここは少し寒さが緩い、か?」


 無論、寒さを感じないので感覚的な物でしかないが、ここの辺りが中心部に比べて暖かいと思う。


 おそらくだがマイナス十五度からマイナス十度になったくらいの差だろう。現地の人は分かるが現地以外の人はひとくくりに寒いと言ってしまえるレベルだ。


「しかし、境界域の守護者ってどんなんなんだ?」


 イメージしてみるが、氷で出来たゴーレムだったりはたまた人型の何かか、そんなことを考えて歩を進めるが、まだ見えない。


 だいたい境界域を歩いて十分くらいで自身の感覚が何かを捉える。


「……この辺が、本当に『凍てついた銀河』の末端……」


 たぶん、ここを数分も歩けば外に出られるだろう。現状では外に出られず戻されるだろうが。


「でも、それ以上によ、こんな守護者はずるいんじゃ無いのか?」


 十メートルを超える巨体に白銀の鱗、巨大な口には鋭い牙に頭部の立派な二本角。背中には突き出した棘に巨体に見合う翼、それと太く立派な尻尾。


「確かにこういうののお約束だよなぁ……ドラゴンって」


 今までやり合ったワイバーンとは異なる、巨大なドラゴン。名付けるなら白銀竜といった感じか。これは氷の剣も黙ってるわ。見るからに強いもん、こいつ。


「しかし、その強さもハッタリかもしれないがな!」


 氷の剣を抜き、構える。翅に力を込め、一気に加速して間合いを詰める。対する白銀竜の行動は、吹雪のブレスとも言える氷混じりの吐息。


 氷を避けつつ進むこちらを見て、悪手であることはすぐに理解したらしい。雪妖精的に冷気は効かないと一瞬で判断し、そのまま爪を振るう。


「遅い!」


 それを回避し、頭部に肉薄。


「スマッシュヒット!」


 まずは一撃。氷の剣が白銀竜の頭部の骨を強かに打ち付ける。

 その一撃を受け、怯むかと思いきや、そのままカウンターで牙を突き出してくる。


 それを回避すると続いて爪が横合いから飛び出してくる。


 大慌てで剣を引き戻して直撃コースの爪を脇に逸らす。ただ、腕力が巨人以上にあるためうまく受け流しきれず、脇腹を掠める。


 それだけで数センチ分、抉られる。


 結構強化していた圧縮雪のブレザーと、インナーとして着ていたオオカミモドキ毛皮シャツが一瞬で裂かれる。


「……強い」


 脇腹から痛みが来るが、そんな物は無視しておかないとこの場で食い殺される。


 それに氷の剣の自動回復効果で傷は徐々にふさがるのだ。後で出来る事を行うよりも今しか出来ない事を最優先で行う。


 それだけやって、いやそれだけやっても勝てない可能性がある。


 白銀竜も一般的イメージのドラゴンと同じく四つん這いでこちらに顔を向けてきている。しばらくにらみ合いになるが、白銀竜が先に動く。


 動きに合わせて頭目がけて再び剣を振るうが、手応え無く、剣を地面を打ち付ける。


 それもそのはず、この白銀竜が立ち上がったからだ。


 後ろ足でしっかりと大地を踏みしめ、全長七メートルほどの巨体をしっかりと支えていた。


「……マジで?」


 マジだと言わんばかりに自由になった右前足、面倒なので右手の爪を振るわれる。


 不味い、と思いとっさに圧縮雪で爪の進路上に五枚の壁を作ると同時に氷の剣を爪の通り道に置いて全力の防御を試みる。


 しかし自分でも予想したとおり、圧縮雪の壁は障子紙の様に破られ、氷の剣で受け止められはしたものの、腕に掛かる力が尋常じゃ無い。


「けど、嘗めるな!」


 受け止めた爪を弾き、爪の根元を狙って氷の剣を振る。

 殆ど鱗によってダメージを吸収されてしまったが、数枚が剥がれ落ちる。


 白銀竜も反撃に驚いた様に少しのけぞった後、お返しとばかりに両の爪を振るう。


 二合、三合と打ち合う内に、こちらがどんどんと押される。これが境界域の守護者と思う間もなく、五合目で氷の剣を弾かれる。

 完全に体のガードが無くなり、突き刺すように振るわれる爪をその身で受け止める。


 無論、本能が生き残れるように竜化が起動するが、そんな物お構いなしに腹へ風穴を開けられる。


 しばらくその姿勢のままお互いに硬直していたが、白銀竜はそのまま俺から爪を引き抜き、ゆっくりとこの場を去って行った。


 後に残されるのは、血だまりに沈む俺だけ。


「ぐっ、げほ、ガバッ!」


 咳と共に血を吐き出し、散りそうになる意識を必死でつなぎとめて、これ以上の血の流出を防ぐのに、傷口自体を術で一時凍結。


 合わせて氷の剣を杖に何とか立ち上がり、周辺に落ちていた鱗を拾い集めてカバンに仕舞う。


「逃げなきゃ……」


 いつあいつが、白銀竜が戻ってくるか分からない。いつ気まぐれを起こすか分からないから、他の奴らに見つかる前に逃げないと。


 不幸中の幸いだが、術を殆ど使えずに終わったので、飛ぶくらいの余力はある。翅に力を込めて、上空に飛ぶ。


 そしてそのまま中心部へ向かってまっすぐ、最大速度で飛ぶ。


「意識、持つかな」


 無論、持たなければその辺の魔物に喰われて死ぬ。

 今後のやりたいことを脳内にリストアップし、死にそうな体を奮い立たせる。


「まず酒、その後はギャンブルかな? ああ、ちゃんとした食事、っていうのもあるな」


 作りかけの彫刻もあるし、最近家のドアの立て付けも悪い気がするので作り直さないといけない。

 ああ、なんだ、やること山ほどあるじゃん。しばらく休んで元気になったらちゃんと片付けよう。


 それにもう家は目の前で、中に入れば安全だ。


「しかし、暗いな、今日は」


 家に入り、ファイヤフライの魔法で明るくなっているはずの家が薄暗く見える。


 これはいよいよ不味いと思い、そのまま何も食べずにベッドに入る。

 そこで、意識は完全に途絶えた。

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