王都と悪夢再び
すみません、少し短いです。
目が覚めると、そこにはセンチュリオンを解いた伯爵が立っていた。辺りを見渡すと、そこは裏庭だった。
「君の力を見せて貰ったよ」
こちらは魔力切れで美味く体が動かない。
「下級精霊である雪妖精が意思を得て、ここまで強くなっているのは私の知る限りで無いだろう。妖精という存在は生まれた瞬間に強さの上限を迎えているからな」
だが、とそこで言葉を区切る。
「君は成長する妖精という希有な存在だ。だからこそ、氷の剣に刻まれている何かが君を担い手として認めたのだろう」
「それで、結論は?」
「現時点だと最低ラインスレスレで合格、今後の成長に期待というところか」
手厳しいな、と思いながら空を見る。
「今まで私の前に現れた有象無象よりは見所がある。励めよ若者。私ごときが全力を出しても追いつけないのが聖戦士とその仲間達だ」
伯爵のその言葉は、何かを懐かしむ物の中に、悔しさと悲しさが混ざっていた。
「魔力回復用の術酒はすでに飲ませてある。ボーンナムを呼んであるので、しばらく寝るといい。それまでに今の傷を癒やすといい」
「それじゃ、ありがたく眠らせて貰う。夜になったら起こしてくれ」
それだけ伝えて、アルコールの効果で暖かくなってきた体の感覚を楽しみながら眠るのだった。
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「眠りおったか」
「久方ぶりの相棒はどうだ、氷の剣?」
「手の掛かる眷属にして、最悪な担い手じゃな」
「なるほど、相性は悪くないな」
「どこがじゃ」
「君が合間合間でアシストを行っているのが証拠だよ。この五百年で君を担えたのは一人も居ない。最悪以前に君にたどり着けて居ないのだから」
「あまりにも人が来ないと思ったらお主がワシのことを秘匿しておったか」
「否定はしない。しかし、氷の剣を握ったときのイグベルトの逸話は一切誇張無しで伝えたし、丙子椒林剣とは違うベクトルでタチの悪い君を野放しには出来なかった」
「ふん、おかげで五百年間も眠る羽目になったわ」
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そうして夜には仮眠から目覚め、皆で大いにはしゃぎ、別れを惜しむ様に酒を飲み、朝を迎える。
「ラファエルには私からすでに手紙を送っておいた」
「何から何までありがとうございます、伯爵」
アトラ姫の礼に合わせて、俺たちも礼をする。
「アルティミさん、よろしければ考え直してくれませんか?」
「いや、あんまり長居するのも悪いしな」
カラカラと笑うアルティミに、至極残念そうなレイナ。絶対着せ替えの対象として残って欲しかっただろう。
「じゃ、あんまり出発が遅れると、宿場街までたどり着けそうにないからな」
「ああ、それではまたこの街に来ることがあれば顔を見せてくれ」
こうして、俺達はランキ伯爵領を離れる。ある程度離れたところまでアルティミも着いてきたが、
「じゃ、あの森が今のところの妖精の森だからさ。アタシはここでお別れだ」
そうやって、あっさり別れ、あっという間に五人の旅になる。
しばらくは景色を楽しみながらゆっくり歩いていたが、アトラ姫が空を見上げながらつぶやく。
「こうして見ると、ランキ伯爵領では賑やかだったのですね」
あれは賑やかというよりかはやかましいに相当するのではないか、と内心思いつつ同意しておく。
「ま、今はさみしいかもしれないけど、これからまた、王都に戻ったら戻ったで忙しくなりそうだからな」
それまでの骨休みと思っておけばいい、とアトラ姫の方を向きながら言う。
「それに、お客さんの様子だしな」
進行方向に見えるのは、ゴブリン数体に、付き従うようにオオカミモドキが数頭。オマケにリーダーと思われるオーガが一体。
「それじゃあ、狩りの時間だ!」
寂しさを紛らわす様に、全員で一斉に魔物の群れに飛びかかるのだった。
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初めて来た王都アーテルの姿は、所々に戦火の後が見える物の、樹に彩られた場所だった。
「王都を訪れた詩人の言葉に、神話の森と共に生きる世界がここにあったと仰るくらい樹が多い都なのですよ」
いや、多いじゃなくてほとんど樹に浸食されてると言いますか、樹が生活圏みたいな感じになってますよ。
「王城へ向かいましょう。お兄様も首を長くして待っていることでしょう」
街中を見渡しながら歩く。樹のうろを改装した店で商売をしたり、子供が枝に登って遊んでいたり、木陰で休む人が居たり。
そんな中、あちこちに残る焼け焦げた痕や、衝撃によって折れた枝などがあったりと戦火がこの街を覆ったのも確かな様子。
目抜き通りを進み、たどり着いた正門の前にて、アトラ姫が門番に話をし、門を開いて貰う。
城壁の内側は、綺麗に整備された庭と立派な樹が出迎えてくれた。そろそろ緑以外の色調も欲しい。
「姫様はこちらへ。お疲れのところ申し訳ございませんが、ラファエル王がお待ちですので謁見の間へ。皆様は後日の式典までゆっくりとなさってください」
「それでは皆様、また後で」
アトラ姫と別れ、用意された部屋へ入る。荷物などを下ろした後、椅子に座り、一息。
「あー、ダルい」
迷惑を掛けない程度に猫をかぶるのも大変だ。
チェルシーとベルもようやく気を抜けると判断したのか、椅子やベッドに座りこんだ。
「どうしたの皆?」
例外はファレだけか。どこでも変わらずにいられるその姿に正直感心。子供特有の物怖じのなさか、はたまたファレの気質がそうさせているのかは不明だが。
全体的にけだるい空気の中、ノックが響く。入るように促すと、数名の侍女達が部屋に入り、礼をする。
「皆様、お疲れのところ申し訳無いのですが、式典参加のための採寸に参りました」
Oh、コルセットの悪夢再び。




