火妖精と雪妖精とネクロマンスと
「うん、さすが氷の剣の担い手だな」
遅めの昼食を終え、伯爵から執務室に呼び出された差異の第一声がコレである。
「だってよ、褒められてるぞ氷の剣?」
「阿呆かお主は」
分かってて茶化しただけだ。本気にするな。
「イグベルトも案外こういうところもあったからあ、氷の剣がこういった性格が好きなのかもしれんな」
「止めろ。ワシをゲテモノ食いみたいに言うな」
「さらっと人のことをゲテモノ扱いとかさすがですね氷の剣」
今度暖炉に一晩放り込んでやろうか?
「ともかく、現場検証の結果として、あのフェアリーイーターが居た檻だが、錠前は耐酸性であった。が、蝶番が鉄製だった」
蝶番が腐食によって弱ったところを力任せに破られたとのこと。
後は単純、団員を次々に襲いかかり、食って栄養にした。
「どの死体も内臓が綺麗に食べられていたそうだ」
「意外にいい育ちかもしれないな」
お残しせずに食べた訳だからな。
「そしてメインディッシュの妖精をいただこうとしたところ、さらに何かに襲われ、食い殺された。その存在は未だに謎だ」
はい、今そいつ俺の頭の上で寝ています。
「私は切り口が鋭利な断面で、わずかに魔力の残滓があったという話から、君たちではないかと思ったが、どうかな?」
「さあ? 俺にはとんと思いつかないな。ということにしておく。あの拾いものも朝に庭を散歩してたら拾っただけだし」
「まあ、下手人不明なだけで実害はないしな。それで、あの子はどうする?」
「アルティミ自身に決めさせる。このお化け屋敷タウンに済むもよし、実家に帰るもよし、はたまた俺たちに付いてくるでもいいがな」
ま。そうなったらそうなったで楽しそうだが。
「ただの妖精が君たちについて行くのは大変だと思うがな。君の意見は理解した。それだったら決断は早くした方がいい」
真剣な伯爵な声色に、固唾を飲む。
「先ほど、伝令があった。ディーザ伯爵率いる反乱軍が、ラファエルの軍に壊滅状態にさせられたと」
彼に掛かればあの程度なら鎧袖一触だな。と紅茶を飲む伯爵。
大まかに聞いた戦闘に関しては、正面からのぶつかり合いに見せかけて、側面から騎馬隊が奇襲を掛けて戦場を引っかき回して、混乱させたところを全軍が突撃して仕留めたそうな。
「なるほど、急ぐ必要があるのはそういうことか」
「今からワシらがここを立てば、ちょうど王都のゴミ掃除が終わるくらいのタイミングでたどり着ける訳か」
それは、結論を急がないといけないな。
「ありがとう、伯爵」
「その礼代わりに、後で裏庭まで来てくれ。少し、君相手に確認したいことがある」
了解の返事を返し、部屋を出る。
「よおし、これが火妖精に伝わる炎の竜の絵だ!」
なんか口から炎を吐いて、それで竜の絵を描くアルティミに、
「ええと、じゃあこれで!」
術で水を呼び出して水芸をするファレ、
「どうです、氷のお城ですよ!」
なんか張り合って氷のお城を作るベル。
「ええと、私はレイピアで彫刻を」
「張り合う必要は無いよ、アトラ様」
妙に張り切ってレイピアを抜こうとするアトラ姫と、それをやんわりと止めるチェルシー。
すぐに仲良くなっている様子に、少しうれしく思うが、うん、カオス。
「はいはい、お遊びはここまで。伯爵からラファエル王がディーサ伯爵を破ったとのことだ。明日にはここを出る」
アルティミの方を見る。
「アルティミはどうする? 元の住処に戻るもよし、この魑魅魍魎お化け屋敷に住むのもアリだけど」
「帰るよ。こんなアタシでも女王が心配するだろうしさ。それに、この辺りに『妖精の森』が来てるのは知ってるからな」
思ったよりも即決だった。
「妖精の森?」
ああ、とアルティミが頷く。
「意思ある妖精の住処で、世界中の至る所に現れる妖精の里へ通じる入り口だよ」
まあ、俺とベルはイレギュラーだから妖精の里自体が謎なんだが。
「元々刺激の少ない場所から刺激の多いところに来たいだけだったし、ここらが潮時だろ」
それに、とアルティミが付け加える。
「とらわれの妖精という面白いシチュエーションも堪能できたからな!」
ちょっと待て。
「付かぬことを聞くが、あの見世物テントで止めてって言ってたのは? それとさっきまで泣いてたのは?」
「ああ、ああ言えば棒とかで突いてくるし、なかなかにいい刺激もらえるから良かったわ。それにやっぱり食事はしっかりと取らないと駄目だわ。久しぶりに魔力以外食べたら感動で涙出てきて止まらなかったしな!」
なんか闇が深そうなのでつっこまない。
「ともかく、あんた達が出て行くのに合わせてアタシも森に帰るわ」
妖精の森に来ることがあれば、力を貸してやると笑うアルティミ。
「じゃ、せめて今晩は派手に行こうか」
「え、どういうプレイ?」
そうじゃねえよ、とアルティミの頭を軽くはたいて、俺も笑う。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
伯爵に呼ばれた通りに裏庭に来ると、そこには杖を持った伯爵が立っていた。
「来てくれたか、スノゥ」
「それで、伯爵のその剣呑な雰囲気は?」
返事代わりに手に持つ杖に着いた宝玉から黒い塊が飛んでくるので、氷の剣で切り落とす。
「いきなりだな」
「単純な話だ、君が本当に氷の剣にふさわしい存在なのかが気になってね」
かつて氷の剣を担いたいという人間が私の元を訪れ、その所在を聞きに来たが、そのことごとくがふさわしくない存在として私が追い払った。
「聖戦器と称される武具の中で、最も人が到達しうる可能性の高い存在だ。そのくせ真価を発揮すればどんなことになるのかも予想が出来ない存在でもある」
「どういうことだ?」
「その答えは、自分で見つけ出す必要がある、しかし、君にその資格があるのか見せて貰おう!」
伯爵が杖で地面を突くと同時に、起き上がる無数のスケルトンたち。
「まずは小手調べ、スカル・グラディエイター!」
数百は下らないであろうスケルトンが一斉にこちらへ向かって突進してくる。
「ネクロマンサーっていうのも伊達じゃ無いみたいだな!」
「来るぞ!」
大量の骨が群れを、いや、壁を作って襲いかかる。その一角をスマッシュヒットで吹き飛ばす。
次いで覆い被さろうと飛びかかってくるが、すんでのところで上へ飛行。ある程度の高さで翅に送っている魔力を切り意図的に失速。
それと同時に反転、一瞬で上下を入れ替えて急降下。
「スカイブレイカー!」
こちらに飛びかかろうと自分たちの体で塔を作っていたスケルトンを一瞬で蹴散らす。
「さすがにスケルトン程度では相手にならないな。ならこれはどうだ?」
蹴散らされたスケルトンが一瞬で地面に飲み込まれると同時、俺に向かって青白い炎が大量に飛んでくる。
「さあ、凍てつく炎に焼かれろ、ヘルファイヤ!」
青白い炎を纏っているのはゴースト。それらが勢いよくこちらに飛び込んでくる。
判断は一瞬、大きく動きながら伯爵の周囲を飛びつつ、氷の剣の剣先で魔法陣を描く。
通過する一瞬で伯爵に向かって剣を振るが、地面から出てきた何かの腕で防がれる。
伯爵がこちらを捕まえようと腕に指示を出すが、素早く身を交して腕から逃れ、後ろから飛んでくるヘルファイヤから逃げる。
そうやって作り上げた魔法陣に魔力を注ぎ、起動させる。
「付け焼き刃だが、無いよりマシってか?」
描いた魔法陣の名前は、
「破邪封印法!」
魔法陣が光り、魔法陣の中に居たヘルファイヤと巨大な腕が消える。
「む、ネクロマンスが発動しない?」
「しばらくはゾンビ一体も呼び出せない、ぜ!」
一気に至近距離に踏み込む。それに反応して杖を振り、こちらの一撃を防ぐ。そのまま鍔迫り合いへ持ち込む。
「なかなか、イグベルトの様に力を持って押し切るという訳で無く、使える物は何でも使うタイプか」
「そいつはどーも、伯爵」
「普段は考え無しだが、戦闘センスはなかなかの物はあるんじゃが」
伯爵が杖を押し出し、少し間合いが開く。
「簡易の封印術、これだけ簡単な魔法陣で作るというのはさすがかな」
だがまだ甘い、そう言って伯爵が地面を叩く。それと同時に魔法陣の光が途絶える。
「んなっ!?」
「これは!?」
次の瞬間、伯爵の体の中から鋭く尖った骨が飛び出してくる。首を傾けてかろうじて回避するが頬に一筋の傷が付く。
「ふむ、奇襲にも動じない。それでいてできる限りダメージを食らわないように立ち回っている」
どんなことがあるかも分からない、攻撃は当たらないに越したことは無い。
「では、我がネクロマンスを見せよう」
伯爵の杖が光ると同時に俺は斬りかかるが、今度は杖では無く腕で防がれる。
「!?」
「ああ、すまない、私の体の中には圧縮して保管したかつての仲間が存在してね」
伯爵の体が一気に盛り上がる。腐っている様に見えて、強靱な筋繊維、しなやかなその肢体は見せるでは無く戦うための物。
「これが私のネクロマンス、センチュリオンだ」
約二倍近くに膨れあがった体で、杖を握る。
「では、行くぞ!」
声と同時に氷の剣を構え、一瞬で吹き飛ばされる。
「くっ!」
単純に力で押し負けた。咄嗟に後ろに飛んで勢いを味方に付けたが、これはまずい。
「せい!」
一瞬で吹っ飛ばされた俺に追いつき、追撃の杖を振るう。振り下ろしのそれを、氷の剣で受け止めると、再び弾き飛ばされる。
背後には屋敷の壁が迫っているので、足を壁に対して垂直に向け、壁に着地。そのまま壁に立ったまま更に追撃の一撃を繰り出す伯爵を迎え撃つ。
受け止めると同時に壁に大きな亀裂が入る。同時に手足に来る痺れ。
一瞬の躊躇で死ぬと判断したため、竜妖精化。魔力を全力で燃やす。
「かあっ!」
目くらましにファイヤーブレスを顔に向けて吐き、同時に伯爵の背後に向かって跳ぶ。
同時に肩を狙って剣を振るい、浅く傷を付ける。
「はぁああああ!」
「うぉおおおお!」
着地した瞬間に無防備な背中に向かって剣を振るうが、あろうことか、普通の人間ではあり得ない角度に肩と関節が動き、そのまま数度打ち合う。
「この体をただのゾンビと思うなよ! かつて戦った強敵達の体を使い、ありとあらゆる状況に対応するために作られたセンチュリオン、早々に破れたりしない!」
「本当にもう感嘆の言葉も出ない位にすごいな!」
「お主のそのネクロマンスの情熱だけは敬服に値するのう」
だが、こちらも負けていられない。更に魔力を燃焼し、氷の剣に魔力を纏わせながら何度も打ち合わせる。
「むっ!」
「動きが鈍いぞ!」
センチュリオンの動きが打ち合うたびに僅かにであるが鈍くなる。タネを明かせば、筋繊維を徐々に凍らせている。
剣から杖を伝わらせ流し込んだ俺の魔力が、相手を徐々に凍らせる。
「本当に、こういったところはイグベルトとは違うな!」
強烈な一撃で距離を受け止めると同時に、センチュリオンが距離を離す。
「だが、まだ!」
杖で地面を突いた瞬間、足下から手が出てくる。
それを跳んで避けようとした瞬間に振り下ろしの一撃。無論、防がねば死ぬので剣を盾にしてその一撃を耐える。
当然ながら足首を捕まれると同時に一気に地面へ倒される。
「開けよアースミミック、食事の時間だ。彼の者を食らいつくせ」
地面が二つに割れる。遠ざかる伯爵と、閉じる出口。そして見える多量なまでの死霊にゾンビにスケルトン。
振り払おうとするが、牙の生えたゾンビに噛みつかれるとと同時にドクン、と何かを吸い取られる。
「これは、魔力を!」
「いかん!」
竜妖精化が維持できなくなり、空間という空間をゾンビ達に押しつぶされ、そのまま俺の意識が途絶えた。




