冬のキノコ狩り祭
「スノゥ様、大丈夫?」
「大丈夫、むしろ何かしてないと怖い」
今は伯爵領の街を抜け、半日ほど北に進んだ辺りにある山の麓まで来ている。
「なかなか報酬も良さそうだし、時間つぶしにもなる。何よりも思い出せない昨日の夜について考えなくて済む」
「ねえスノゥ、屋敷を出るときにレイナから戻ってきたら一緒に遊ぼうって言われたけどスノゥもどうかな?」
「いやいい、ベルと一緒に楽しんできて」
一瞬何かまがまがしい気配を感じたので辞退しておく。
「それで、ワシも伯爵からは話を聞いておったが詳細はどんな感じじゃ?」
植物系が敵、物理攻撃が強い奴とゾンビなどに寄生してくるタイプの魔物が多いということを説明する。
「ふむ、寒冷地でも動ける植物か、あまり聞かない話じゃな」
一人思考の海に沈む氷の剣。
「確かに、この辺りやエウドの辺りでは植物系の魔物は極端に少ないと聞きます」
「それはいいけど、何でアトラ姫がいる?」
そこには、軽めの鎧を装備したアトラ姫の姿が。
「チェルシーさんに、一狩り行きませんかと誘われたので」
二つ返事で行くと答え、準備して付いてきたとのこと。
「チェルシー?」
「戦力は多い方がいいかなって」
「そういう問題じゃねえだろ脳筋メイド!」
こちらがアイアンクローをかまそうとつかみ掛かろうとするも。華麗に回避される。
「あの、私から弁明しますと、あの屋敷に一人で居ると、少し怖いんです」
ああ、そうか。彼女はここ最近出会った中で、性癖以外はまともな育ちのいい姫様だった。
「ゾンビやガスト、スケルトンに私の突き技が効きにくいので」
「まさかのバトルジャンキー!?」
いや、身の安全を確保するために俺たちに付いてきたんだろう。
「それに、おそらくスノゥ様達について行けばいい鍛錬になりそうなので」
前言撤回、極度のブラコンでバトルジャンキーとかもうお腹一杯だ。
「分かります、私もちゃんと強くなりたくて」
「ええ、チェルシー様もともに強くなりましょう?」
「放っておいていいの?」
努めて気にしないようにとベルに言い、話にあった洞窟付近にまでたどり着く。
「なかなかに広そうな洞窟だな。それといきなり変なのが居る」
洞窟の周り、ちょうど入り口の辺りに二体の魔物が陣取っている。
「あれはキノコ人間ですね。おそらくこの辺りで果てた人間にとりついているのでしょう」
人間を苗床にした動くキノコってところか。全身が菌糸で覆われており、頭頂部からはひときわ大きなキノコが生えている。
「氷の剣、解説」
「あのひときわ大きいキノコが司令塔じゃな。あの頭部のキノコが親元であるので、切り離してしまえば死滅する」
地下茎繁殖みたいな奴だな。いや、アレは切り離しても生き残る可能性あるから違うか。
「で、味は?」
「猛毒らしいが、キノコの根元に魔石ができる様になっているのと、切り離したキノコは薬の材料として重宝される様じゃの」
食えないのは残念だが、魔石を食うのとキノコ自体は回収して後で売り払おう。
そうと決まれば早速行動。
「ファレ、とりあえず注意を引きつけるのに、あいつらの足下にストーンランスをぶちかませ」
「うん、ストーンランス!」
足下から突き出る石の槍を、そのまま受けるキノコ人間。美味いこと身動きが取れないうちに頭のキノコをナイフで切り離す。
一方同時に飛び出したチェルシーは首を横薙ぎに刈った。
「こうすれば動けないよね?」
完全に動かなくなったところでキノコを切り離す。
「うーん、バイオレンス」
頭の上のプルミも同意するように鼻を鳴らす。
「とりあえずキノコと魔石回収したら先に進むぞ」
寄生されていた体は炎で焼いてこれ以上の繁殖が行われないようにする。せめて安らかに成仏しますようにと祈りながらファレが起こした火でしっかりと火葬。
「よし、行こうか」
レイナの話では基本この洞窟は一本道なので、迷うことはないだろう。
「ファイヤフライっと」
氷の塊にファイヤフライの術を付与して、前方に転がす。こうして明かりを確保しつつ前進。
たいまつを使わない、安全な明かりの確保方法があると楽だ。
「暗がりから奇襲される心配も無いしな」
昔やっていた一人称ゲームでは暗いところにゾンビが潜んでいるのは当たり前で、気がついたら奇襲なんて当たり前だった。
あれ本当に怖かった。
「その術、オリジナルなんですね」
「うん? ああ、必要に迫られて作ったからな」
熱を持たない照明は非常に使い勝手いいし。
「プラキュラム神殿には登録していないのですか? もしくはリブラリの術研究所などでは新術の買い取りを行っているとのことですが……」
ああ、あの神殿そんなこともやってたんだ。
「神殿で術の登録をやっているのは知らなかったな。あとリブラリは今それどころじゃないから無理だな」
怪訝な表情を浮かべるアトラ姫にリブラリの事件を伝える。
「まぁ、そんなことが……創世教の人たちは年々過激になっていきますね」
お互いに周辺警戒しながら創世教に関する話を聞く。
なんでも最初は街頭で教えを説くよくある宗教だったのだが、ここ数年で一気に勢力を拡大、今では一国をほぼ手中に収める規模にまで成長しているとのこと。
「皆、不安なのですよ。千年前は魔王、五百年前は聖戦士、では今回の周期ではどちらが来るのか、と」
聖戦士であればいい。しかし魔王である可能性もある。
「彼らは次生まれるのは創世王であり、世界を導く存在であると人々に説いて回っているのです」
「ふーん。不安なところに信じる対象が出来ればそりゃなびくな」
典型的な宗教って感じだな。
「そのおかげでこちとら迷惑被ってるんだ、主義主張や宗教観に口出しはしないけど迷惑掛けてくるのなら敵だな」
身に掛かる火の粉は払わねばなるまい。
「さて、お客さんだ」
正面から歩いてくるのは、木に手足が生えて居るような魔物に、ツタをより合わせて竜のような姿になっている魔物。
「ふむ、木の方がサラで、ツタの方がアイビードランか。しかし、熱帯地方の魔物がなぜここに?」
氷の剣の一言を聞くと同時にチェルシーが飛び出す。
「せいやぁ!」
縦に振り下ろされた斧は、そのままサラを真っ二つにする。アイビードランの方が体をくねらせて接近しようとして、横からファレがフレイムスピアを飛ばして焼き切る。
「それで、出番もなく棒立ちしていた気分はどうじゃ?」
「よくやった、二人とも」
いいの、今回俺はファイヤフライ込めた氷を撒いて明かりを確保してるんだから。
「それで、さっきから黙ってるベル、奥の様子は?」
エルフィ・ゼクスを飛ばして、先行偵察をさせているベルに様子を聞いてみる。
「妙ね。こんな寒風吹きすさぶ天然冷凍庫の環境で育つ熱帯植物なんて聞いたことがない」
見えている光景は、確かにヤドリギやツタといった植物や、暖かいところに生えるような広葉樹系の魔物が多い。
「キノコ系やヤドリギに寄生されたゾンビとか、寒冷地では育たないような存在がわんさかいる」
視界共有を切って、エルフィ・ゼクスを呼び戻すベル。
「本当に妙としか言えないな」
「でも、この洞窟の一番奥に発生源と思われる場所があるのは確認した。苔とツタで覆われた何かがあった」
出来れば変な物でないことを祈りたい。
「よし、このまま進むぞ」
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洞窟の最深部は、打って変わって、非常に暖かく、それでいて湿気に満ちていた。
「これだけの環境があれば南国の種も育つと思うが……」
考えながらも、迫ってきたヤドリギに浸食されたゾンビを切り捨てる。こういう時、氷の剣で切ると切断面が凍って再生を防ぐので便利だ。
ベルとファレはお互いにフリーズブラスターを乱射し、ツリフネと呼ばれる種を飛ばしてくる魔物の迎撃に当たっている。
植物やキノコに寄生している魔物を相手取り、華麗に避けては突きを繰り返すアトラ姫。そしてそのフォローをしながら、巨木の魔物、トレントと渡り合うチェルシー。
さすがにこんなところで火を使って延焼しましたでは話にならないので、出てくる魔物を倒し、魔物を生み出している植物やキノコを狙っては凍結させて殺しておく。
そうやって徐々に前進しつつ、最深部の掃除が終わったのが戦闘開始から三時間後。
「さて、コレが元凶か」
今はもう完全に凍結して死んでいる苔とツタの集合体。それを砕いてから中身を改める。
「杖?」
出てきたのは、一本の杖。古ぼけて居ながらも、しっかりとした魔力を感じる。それを見たファレが、その杖を無造作に掴む。
「こらファレ、呪われてたらどうする!」
「ううん、呪われてないし、むしろこれから命を感じる」
ファレが杖に魔力を込めるようにすると、黒い部分がみるみるうちに新品の様にきれいになり、杖の先端に花が咲き始める。
「……これ、生命の樹から作られた物?」
アトラ姫が漏らした言葉に、氷の剣が反応する。
「なるほど、モルジュロペラが生命の樹の剣だとすれば、コレは生命の樹の杖ということかの?」
つまり、聖戦器の親戚みたいな物だろう。
「でも、コレはかなり細い枝から作った物だと思う。勝手な予想だけど、接ぎ木で細い枝を育てた後に加工したような……」
つまり、親戚の孫辺りか。
「うん、なんかよく馴染む」
ファレもそれをもって軽く振ったりする。しかしそのたびに淡い光が飛ぶので、後でなんかカバーでも掛けておこう。
「今回の成果ってことで持ち帰ろう」
そうして、とりあえず布に生命の杖を包んだ後、全員がその場に座り込む。
「あー、しんどい!」
大なり小なり三時間もぶっ続けで戦い続ければ、人は体力をごっそり失う物である。
「でろーん……」
ああ、ファレも倒れて完全にとろけてる。俺も今完全に地面に根付いてしまっている様な状態だが。
「こんなことではお兄様を超えられませんわ」
向上心があるのは構わないが、ラファエル王はどんだけ超人なんだろうか?
「チェルシー、生きてる?」
「―――」
呼びかけるも反応が無いのでチェルシーの方を見ると、手頃な石に腰掛けたまま真っ白になっていた。
「死んでる―――!」
「死んでない―――!」
あ、生きてた。とりあえずその死にかけの口にあめ玉を放り込んで糖分を補給させる。
こうして、日帰りを予定していた洞窟の調査だったが、洞窟内での野営を含め一泊二日の冒険になるのだった。




