嵐を呼ぶ来訪者
「うむ、あの時の不安はこれか」
現在、私たちは全力で走っております。それもそのはず、北側から真っ黒な雨雲が南に向かって前進中でございます。
「雷だ! 今光ったよ!」
「そうね、あの雲の真下は大雨ね」
「どうします、スノゥ様? どうにかしてやり過ごさないと」
とりあえず、近くに何か無いかを確認するため、いったん見晴らしのいい空へ飛ぶ。
全方位を見ると、ちょうど街道から少し外れた位置だが、村、規模からして開拓村らしき場所を発見する。
素早く下に降りて、開拓村の方向を指さす。
「あっちに村があったから、そこに向かおう」
雲に追いつかれる前に全員で急いで移動する。
三十分ほどでその村にたどり着く。入り口からして簡素な木の柵と申し訳程度の門があるだけ、見える範囲には集会場と思われる少し大きめの建物に、家が何軒か。
そして門の前には槍を構えた男が一人。
「こんなところに旅人、と妖精なんて珍しいな?」
おそらく魔物に対する警戒であろう壮年の男がこちらに話しかけてくる。
「北の方から雷雨が来そうなんで、こっちに逃げ込んできた。時間も時間だから、軒先でもいいから貸してくれないか?」
「ああ、大丈夫だ。食事は出ないが、少し金をくれれば寝床を貸すぞ?」
一度、皆を見てからその提案を受けることにする。
「ありがてえ、うちも若い衆が結構徴兵されてな。少しでも収入が欲しいんだ」
心付け程度に大銅貨数枚を手渡すと、男はその感触をうれしそうに確かめた後にその酒場兼集会場へ案内してくれる。
「ま、ゆっくりしてくれ。食料事情が厳しいから食事の提供は出来ないが、台所は好きに使ってくれ」
それと、酒なら少しあるから、そっちなら売れるからなとも付け足してくれる。
そのまま酒場兼集会場に入り、中にいたマスターに話を通し終わった後。案内された大部屋に通された俺らは荷物を下ろして一息つく。
「しかし、危なかったな」
今、外を見ると、先ほどの雨雲が完全に村の上空まで来ており、すぐにでも雨を降らせようとしていた。
「もークタクタ……」
「足痛い……」
元から体力の無いファレにベルは鞄から船旅中に作ったクッションの上でダレている。
「ゼーゼー……!」
なお、巨人の力に目覚めていても、まだまだ体力育成中のチェルシーは少し死にかけている。
「ま。すぐに治るだろ」
「身も蓋もないの」
頭上でウサギもやれやれと首を振っている様子。
なお、このウサギは歩くことをせず、ずっと俺の頭の上で寝ていた。振り落とそうとしたが、何でか離れないという不思議状態。
「どうやって吸着しているこのウサギ」
よく見えないがこのウサギ、なんか勝ち誇ってる気がする。
「まあいいや、俺ちょっと酒飲んでくる」
「うんー」
「後で行くわ」
「飲み過ぎないでよね」
わかってると返事をしながら、大部屋を出て酒場のカウンター席へ。
「何がある?」
「とりあえず、葡萄酒とラム酒なら」
「じゃあ、ラムで」
木のジョッキに注がれるラム酒を。持ち込んだ魚の干物を肴にして飲む。
そうやって楽しんでいると、頭を足で叩かれる。
「ん、どうした?」
ウサギが頭の上から降りて、カウンターに乗る。そしてジョッキを鼻先で示す。
「飲むのか?」
鼻息荒く、頷くウサギ。
「わかったよ、ほれ」
マスターに頼み、小さめのボウルにラム酒を注いで貰う。それをうれしそうに飲み始めるウサギ。
「お前飲めるのかよ」
馬鹿にするなと言わんばかりになめ始めるウサギ。しかしすぐ顔突っ込んで直に飲み始める。
「なあ氷の剣、こいつに酒の味を教えたのは?」
「イグベルトだな。野営の最中に水と間違えて飲ませたのが始まりだな」
久しぶりの酒なのか、あっという間に器を空にするウサギ。元の体積を考えると普通か?
そうやって、二人で酒を楽しんでいると、外で雷が鳴る。
部屋の中に飛び込む閃光を肴に、さらに酒を飲んでいると、慌ただしい足音が聞こえてくる。
「す、スノゥ様!?」
飛び込んできたチェルシーが、俺に見事なタックルを決めてくる。体重差もあって、一瞬で椅子から吹き飛ばされる。
「何をするこの馬鹿力メイド!」
「だってだって、雷ですよ!? 天の神が戯れに落とす殲滅の光ですよ!?」
とりあえず引っぺがして椅子に座り直してから頭を撫でる。
「まずは落ち着け、ほれ酒」
「飲んでる場合か!」
駄目だこの子ものすごくテンパってる。
「チェルシー、雷苦手なんだね?」
「この子にも怖い物あったのね」
ファレとベルがゆっくりと入ってくる。しかしベルよ、ファレの手を握って離さないところから見て強がりがバレバレだ。
「ところで、なんで雷が怖いんだ?」
ふと疑問に思ったので聞いてみる。
「昔から、雷が落ちる時は、神が誰かに試練を与えているって、音を聞いた物はその試練に巻き込まれるって」
雷とそれによって起きた炎を一身に浴びて耐える試練で、達成出来たのはわずか一人、神になった英雄だけだと。
「戦士の神の逸話か。人間たる身で神を超えると豪語した男に憤慨した雷神が戯れに落とした雷を落とし、その直後に巻き起こった炎を、その場から動かずに耐えたという話じゃ」
めちゃくちゃだけど、あり得そうな話だ。
「ウサギさんもふもふ~」
とかなんか話しているうちに、ファレがウサギをモフりだした。こいつ毛足長いからもふもふして気持ちいいんだよな。
とりあえずそこのビビり二人とファレにはホットミルクを提供し、ウサギにはさらに酒を追加する。
「ところで、このウサギって名前は?」
「氷の剣知ってるか?」
「あいつらもドラゴンって呼んでいたからの、ワシは知らん」
ウサギの方は我関せずで俺が
「じゃあ、私が付けてあげる!」
そうやってうんうんうなり始めるファレ、ホットミルク効果で少しずつ落ち着いてきたベルとチェルシー。
そんな中我関せず俺の鞄からいつの間にか強奪してきたジャーキーをかじってるウサギ。
やってることの統一感のないメンツだ。
「そうだ、プルミだ!」
そう言って、ファレが口いっぱいにジャーキーを頬張っているウサギを抱える。じたばたするが、ファレが傷付かない程度にしか暴れないので抜け出せない。
「これからよろしくね、プルミちゃん?」
「よろしくね、プルミ」
「おう、しっかり働けよ、プルミ」
そんな優しい声が掛けられる中、なぜか俺にだけ首元に爪を突きつけられる。器用にも前足だけ竜に変化している。
「おま、その変化は気持ち悪いぞ!」
俺の指摘に、爪を元の前足に戻す。俺もほっと一息つきながら、瞬間的に作った圧縮雪のナイフを消す。こうして和んでいた最中、突如として入り口のドアが開かれる。
とっさに氷の剣を構えるが、外から入ってきたのは、全身濡れ鼠の女性だった。
「お。お願いします、馬を、貸してください……!」
それだけ言って、その場にへたり込む女性。
慌ててチェルシーが駆け寄り、いつの間にか取り出したタオルを頭にかぶせる。
「またやっかい事か?」
「そのやっかい事を作るお主が言うか?」
自分に都合の悪いことはスルーするのが俺の流儀なので氷の剣の発言は無視する。
「国の、一大事なんです!」
わー、非常にやっかいそう。
以上で妖精、南の海にても終了。
次回はもう少し早く出せるよう努力します。




