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前略、船の上より

「うーす、アストンはいるか?」

「ああ、スノゥさん。いらっしゃいませ」


 前に聞いた商会の場所に行くと、小さいながらも立派な店を構えているのを発見。中で誰か捕まえて話を聞こうと思ったが、入ったらいきなり本人が居た。


「よ、久しぶり」

「スノゥさんもお元気そうで」


 お互いに握手を交わす。


「アストン、例の報酬の乗船チケットだが、次の出港までに間に合うか?」

「ああ、アレですか? もうすでに準備してありますよ」


 まあ、立ち話も何ですし、と奥の応接間へ通される。


「こちらが乗船チケットになります。二等客室を用意したので、合計で銀貨銀貨七枚になります」


 割引がなかったら金貨が必要になる内容だったという。


「ああ、ありがとう」

「行き先は中央の『ナドップ』を経由してアーテル王国の港町、『アリスタポート』へ向かいます」


 どうやらちゃんと骨を折ってくれた様子。


「ありがとうな、助かった」

「いえいえ、こちらも護衛いただいてありがとうございます」


 チケットを受け取り、再び握手。


「ところで、スノゥさんはなぜアーテル王国へ? 先月、王が亡くなり政治的に不安定になっているのに」


 おーう、これも創世教の仕業か?


「いえ、以前から病気で伏せっていると噂ありましたからね」


 じゃあ、その後に内乱を引き起こす予定か。野心家かなにかを焚き付けるっていう感じか。

 領地内にいる信者による兵力と資金を提供し、国教にでもしてもらうとかそういう感じで、内戦で疲弊させてから、自分たちが都合のいいタイミングで調停に入るとかそういうことだろう。


「ま、ちょっとばかり用事がな」

「そうですか……」

「生きてれば巡り会う機会もあるさ。所詮はただの物見遊山、危なくなったら逃げるさ」

「スノゥさんたちがそんなことになるなんて想像も付かないですね」


 そうして、お互い笑い合う。


「ああ、そうだ。ミハエルというなかなか腕のいい冒険者がいる。今は療養中だが、調査団の中でしんがりにいて生き残ったやつだ。早めに声を掛けるといい」


 それだけ伝えて、店を出ようとする。


「ああ、忘れてました。次の出航は明日ですので」


 ありがとうと礼を言い、そのままアストン商会を後にした。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 そんな波乱に満ちたネルソンビーチでの出来事から離れ、今はすでに大海原。三時間前に出航したアーテル王国行きの船の上だ。

 今現在、仲間たちはというと、船につきもののアレに悩まされている最中。


「き、気持ち悪い……!」

「頭がぐわんぐわんして、なんか変……」

「スノゥ様は何で平気、なの……」


 それぞれが今は甲板で受ける潮風で気を紛らわしている最中。


「ま、鍛えてるからな」


 実際は船の揺れを受けないようにして浮いているので船酔いにならないだけ。

 ほかの人にばれないように、緻密に高さコントロールしているので、これ自体が訓練になる。


 そのまま船の縁まで移動する。そこで糸から釣り針まで圧縮雪製の釣り竿を作り、糸を海に投げ込む。

 しばらく釣り糸を垂れていると、頭の上にウサギが乗ってくる。


「釣れたら喰うか?」


 特に何も答えず、ウサギが緩やかに寝始める。


「あんだけ戦い続けた相手のことながら、全くわからんな」


 そんなことを思った瞬間、竿が反応する。


「かかった! 誰か、タモ! タモもってこい!」


 無駄な技術で作り上げたリールで。魚と駆け引きをしながら体力を削る。なかなかに大物らしいそれとの格闘を楽しむ。


「手伝いますか!?」

「すまん、一気に引き上げるから、シメてくれ!」


 船員がナイフを取り出し、準備する。俺の周りにほかの乗客がギャラリーとして集まりだす。


「せーのぉ!」


 全力を持って、一気に竿を上に、獲物が宙を舞い、そのまま太陽の光を遮る。


「ん?」


 え、何? 遮るぐらいでかいの? そう思ったのもつかの間、いつぞやかに主食にしていた巨大魚、推定サイズ五メートルのアレがこちらに牙を向けて落ちてこようとしている。


「のわぁ!」


 全員が蜘蛛の子を散らして逃げる中、俺は迎撃のために氷の剣を構えようとして、


「ピー!」


 頭の上から聞こえた鳴き声とともに、何かに串刺しにされる。

 その何かは、ウサギの腕から伸びるようにして、白銀の鱗に覆われていた。


「りゅ、竜の腕?」


 伸びた腕の先、それに見合うサイズの爪が、巨大魚のエラを的確に貫通し、一撃で仕留めていた。

 そのまま竜の腕が引っ込み、俺の手前に鮮血をまき散らしながら落ちる巨大魚。それを見てうれしそうに頭の方からばりばりとかじり始めるウサギ。


「……とりあえず、切り分けるか」

「ワシでやるなよ?」


 駄目ですか、解体包丁氷の剣。

 残念ながら拒否されたので、それっぽく作った圧縮雪の解体包丁とのこぎりを構える。


「誰か、厨房からシェフ呼んできてくれ!」


 その日の晩ご飯は、巨大魚の焼き物が全員に一品ずつ追加され、ウサギは頭部と三分の一ほど身を食べ、ついでに魔石をデザートでかじっていたのだった。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 さて、船旅も一週間が経過、残り三週間の暇つぶしはどうしようと考えていた。


「暇だ」

「さもありなん、船の上じゃからな」


 朝に素振りとか、船に支障の出ない範囲で模擬戦だったりとか、その程度のことしか出来ないのがつらい。

 ほかの三人の様子を見ると、チェルシーはウサギの毛繕いをしている。ウサギもまんざらではないと言わんばかりにうっとりとした表情で櫛を受けている。


「……竜の威厳、完全にないよな」


 ファレはお昼寝中、ベルはそれを眺めながら不滅氷でグラスを作っている、氷を指先に集中させた魔力で削る方式だそうな。

 俺の場合は最初からある程度形を整えた状態で出すから、あそこまで精密に削ることは少ない。


「あんたも魔力の細かいコントロールくらい身につけなさいよ。最近ファレの成長早いんだから」


 それを言われると痛い。しょうがないのでベッドに腰掛けながら、指先に魔力を集中する。


 指先に魔力を集中させ、指を動かさず魔力で数字を描く。


 それを素早く数字を変更させ、今度は漢字を書く。馬と鹿の字をベルに見えないようこっそり素早く表示させる。


「馬鹿はあんただ」


 フリーズレイが飛んできたのでバリアの文字を大きく書いて防ぐ。


「無駄に器用なのが腹立つ……!」


 字で遊ぶのも飽きてきたので魔力で絵を描く。

 イメージしたのは、シュールレアリズムの巨匠が描いた反戦の絵画。なんでコレにしたかは自分でもわからない。


「何それ?」

「え、ゲルニカ」


 ま、俺もよくわからない芸術作品なのでそのまま次の絵、いや、ある時計を描く。


「で、今度は何これ?」

「プラハの天文時計」


 無論、立体的にしっかりと作っている。おおよその仕組みを知っているので、後はその通りに表面が動くように制御。

 さすがに本来の時間速度だと動きが遅いので、百倍速稼働でだ。


「へぇ、天体の動きと時間、それに暦まで……」


 食い入るように見ているベル。


「ほう、どういう仕組みじゃ?」


 氷の剣も同じく食いついてきた、が、俺は今説明が出来ない状態にある。

 早い話が動作が精密過ぎて、俺自身に余裕がない。プラハの天文時計と名前を答えるだけでもかなりぎりぎりだ。


「スノゥ様? 何かものすごい顔になってる!?」


 制御に全力を費やして、女の子がしてはいけないような表情をしているような気もするが、気にしない。


「ずいぶん必死ね」

「普段精密と無縁に生きているからじゃろ」


 こいつら後でぶん殴る。そこで集中が切れたので、魔力を解放する。


「ふぅー……死ぬかと思った」


 疲れたので、自分のベッドで寝そべる。


「あぁー、布団がぬくぬく……」


 そのまま心地よい睡魔が、意識をきれいに刈り取るのだった。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 そうして、また、前周囲が満天の星空。いつもの内面世界である。


「そろそろ来ると思ってた」


 同じく、竜の体を取り戻している白銀竜ウサギ。


―――創造主より生み出された我が同胞よ、なぜ我を殺さなかった。


 空間自体に響く、白銀竜の強烈な意思。


「深い理由はない。ま、強いて言うならその方が楽しそうだったからだ」


―――自身の楽しみだけで我を生かすか。その企みに足下を掬われなければいいがな。


 白銀竜が牙を剥く。しかし、この世界では意思のみでの対話。つまり、お互いに手を出すことが出来ない。


「俺からも聞きたいんだが、お前、何で俺と戦った?」


 ふと思った疑問をぶつける。


―――見極めるため。かつて、我が倦怠の中に現れた一つの光、お前が、その光の再来となるかを。


「それって、イグベルトのことか?」


―――然り。かつての氷の剣の担い手、轡を並べ戦った者。我に敗北を与えた者。


 酒場で吟遊詩人が詠っていた氷戦士イグベルトの逸話、一人で氷の剣を守護する竜を討ち果たしたと。

 俺の場合、氷の剣ありの状態で死力を尽くしてようやく勝ちとった勝利だ。


「なるほど、よくわかった。柄じゃあないんだがな」


 本来はファレやチェルシーの仕事だろうとぼやきながら、俺は白銀竜の体に抱きつく。


「寂しかったんだな。お前も、同胞が欲しかったんだろ」


 白銀竜は何も答えない。


「たかだか三年間でも人肌恋しくなるんだ。数百年単位だろ? それだったら、孤独でいることに慣れても、かつてあった風景に焦がれるのは当たり前だな」


 ただ静かに、その巨大な体を抱きしめる。


「ま、俺の寿命が尽きるまでは一緒に居てやる。チェルシーもファレもベルも、一緒に居てやるさ」


 そうだな、いっそのこと氷の一族とかって部族作って、お前とともに生きる集団にでもなろうか。

 そんなことを笑いながら話す。


―――イグベルトと同じで馬鹿だが、違う輝きを持つ者、スノゥよ。


 白銀竜が翼を広げ、天に向かって咆哮を上げる。


―――これより我は氷の剣に集いし貴様たち、氷の一族とともに生き、守護し、守護される存在となろう!


 星空の中で、一匹の竜が高らかに宣言するその姿は、とても神聖な物に見えた。


 その一方で俺の内心は、え、マジで? 俺一族作らなくちゃいけない?

 とかそんなことを考えていた。


「ま、これもまた一つの、家族の形ってことで」


 父親の氷の剣、長男の白銀竜に、長女のチェルシー、次女と三女の俺とベルと、末っ子のファレ。

 まあ、今現在の家系で見ると、白銀竜はペットの位置だが。


 それにしても何という女系。厳密には俺の人格は男だから男カウントしていいかもしれない。


―――待て、我は雌だ。


「はい?」


 待て待て待て待て、オイオイオイオイ?


「え、お前、雌?」


―――雌だ。


 妖精になってから一番驚いた気がする。


「……つがいの相手、どこかで見つけないとな」


―――余計な世話だ。


 そのまま、白銀竜がウサギの姿へと変わる中、最後に一言だけ、聞こえる。


―――ありがとう。


 その言葉を胸に受け、意識が覚醒していった。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 えー、目覚めです。感動的な話をした後の目覚めです。目の前に広がる光景は白一色です。

 思わずカンと言いたくなるくらい白一色です。


 ゆっくりと、視界を白一色に染めている物体を横に除けます。


「おい、このウサギ、なんで俺の顔面で寝てる?」


 枕の上に置かれても惰眠の貪るこのウサギの毛をなでる。ふかふかして気持ちいいけど、それとコレとは話は別。


「それで、どうしてこうなった?」

「お主が寝た直後に、こやつが飛び乗ってそのまま寝始めた」


 その光景を見て、みんなで和み、そのまま放置したそうな。本当にいい性格している仲間だと思った。


「それで、みんなは?」


 だいたい三時間くらいだろうか? 部屋の中は薄暗く、誰の姿もない。


「そろそろ飯だと、食堂に向かっていったぞ」

「本気であいつらどうしてくれようか」


 そんなことを思いながら、頭の上にウサギをのせ、氷の剣を抱えて食堂へ向かう。

 とりあえず一通り放置プレイの件を詰った後に、さっきの話をしよう。部屋を出て、食堂に向かうのだった。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 おおよそ五百年ぶりの輝きは、どこまで続く物か?

 イグベルトはもう居ない。だけど、彼が残した輝きはまだこの胸の内にある。

 今度の光は、一つ一つはそこまで大きくないが、寄り添って大きな光となろうとしている。

 さて、この光の行く末を見守りながら、我はまた光の中に身を置こう。

 今度は、長く楽しめそうだ。


―――白銀竜の思考より。

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