白銀竜ズ・カウンター・アタック
迫ってくるゴブリンを蹴り飛ばす。横合いから跳びかかってくるオオカミモドキを三本の槍が串刺しにする。
それを見てから後ろに向かって圧縮雪のナイフを投げつけ、迫りくる大鷲のような生物の気を逸らす。
その隙を巨大な斧が叩き切り、正面から迫ってくる集団を水の鞭が打ち据える。
「なかなか、連携の練習してないけど様になってるもんだな!」
オーガが振るう棍棒を受け止め、横合いからチェルシーが唐竹割りにする。
「でも、数が多いよ!」
ゴブリン数匹を横薙ぎでそれぞれ二分割にしながらチェルシーが叫ぶ。
「ええっと、活性の水よ、かの者の力を癒せ!」
透き通った緑色の水がチェルシーに降り注ぎ、失われた体力を回復させる。活性の水という回復術だ。
前進を続けてから三十分。絶え間なく襲い掛かる魔物の群れ。
「あーもう、一匹一匹は大したことないけど、数多いから体力削られる―――!」
長期戦を覚悟し、ファレは補助術を中心に使い、俺とベルは術自体を使わないようにしている。
「皆、ちゃんと体鍛えてる? 体力つけないとだめだよ?」
ずっと前線に出ているから傷は絶えないけど、体力切れによる衰えを一切感じさせない。
「巨人族の血、すげぇな」
「チェルシーすごーい、わたしにもできるかな?」
「あんまり筋肉質なファレは見たくないかも」
一瞬、某未来の世界の殺戮アンドロイドに追いかけられる作品の二作目に登場した一作目の主人公を思い出して、そっと記憶の蓋を閉じた。
「いや、私も筋肉ムキムキじゃないから! 細い腕のまま力とか強くなってるだけだから!」
たしかに、筋肉ついてるんだったら仕立て直しとかする必要あるけど、そういうことしたことないし。
「え、なに? 普段一番食べてるのに、体型変化ないの? 世の女性のルサンチマン一身に受ける体質だな」
「好きでなったわけじゃないよ!」
こんな軽口を叩きあいながらも、着実に前へ進む。
「そろそろ、この雪原の中央、一番魔力の濃い場所じゃ!」
雑魚を蹴散らし、たどり着いた場所は、
「まるで『凍てついた銀河』だな」
そう、俺が初めて目覚めた場所、中央部のような光景が広がっている。
「すごい、白と黒だけで描いた絵画みたい」
「ファレ、寒くない?」
「うん、大丈夫」
そのまま中央部に向かって歩く。
「あ、ウサギ」
ファレが指差した方向に、一匹のユキウサギ。そいつが鼻を鳴らすように匂いを嗅いだ後、後ろ脚だけで立ち上がる。
「全員防御しろおぉ!」
とっさに氷の剣を構え、横薙ぎに振るうのと同時、ウサギが前足を縦に振る。
かつての一撃を思い起こされるような、巨大な魔力の刃が現れ、氷の剣とぶつかる。
「な!?」
魔力を放ったウサギが、全身から魔力をみなぎらせる。そして、放出された魔力がウサギを核として巨大な白銀の竜を形作る。
「よう、久しぶりだな白銀竜」
その姿は、かつての白銀の鱗に覆われた立派な体躯。
「ドミニオンズ=スノウドラゴン、久しいな」
氷の剣のつぶやきに、白銀竜が氷の剣を見やる。
「分かっておる。おぬしも見たいのじゃろう? ああ、よく分かる」
二人だけの世界に入らないでほしい。
そんな風に思っていると、二人の会話が終わったのか、白銀竜が構える。竜の癖に二足歩行で格闘戦をやる様な輩だ。
「来るぞ!」
先手は俺が飛びかかる。その後ろをチェルシーが続く。
「スマッシュ、ヒット!」
振るわれた打ち下ろし気味の爪を、下からのすくい上げるスマッシュヒットで受け止める。
その隙にチェルシーが斧を振り上げて飛びかかる。
「ストーン、」
俺と鍔競り合いしている逆の腕でチェルシーを迎撃しようとする白銀竜。
「クラッシュ!」
そのチェルシーの一撃は爪を割り、腕の甲殻を割る。だが、白銀竜も負けておらず、俺をはじき飛ばすと同時に直接氷のブレスをはき出す。
「きゃあ!」
斧を盾にするも、飛んできた猛烈な冷気と氷の塊を受けてしまう。
「フレイムスピア!」
「アイスクラッシュ!」
ベルとファレが頭部を狙った術で牽制。アイスクラッシュを角で弾き飛ばし、フレイムスピアを氷のブレスで相殺。
「エルフィ=ゼクス!」
氷の槍を携えて突撃するエルフィ=ゼクスが突撃を掛けるが、堅い鱗にはじき飛ばされる。
「頑丈な上に、属性的な相性が良くない―――!」
属性相性はともかく馬鹿力で攻撃出来る俺とチェルシー、弱点であろう火の術が使えるファレ、氷の術がメインで物理攻撃力の低いベルが一番相性が悪いだろう。
「あーもう、苦手だけどロックランス!」
岩で出来た槍が地面からせり出してくるが、お構いなしに四足歩行状態になり、力を溜め、走り出す。
突進の先は一番やっかいであろう火属性の攻撃を繰り広げるファレ。
「させるか!」
とっさに白銀竜の頭上まで飛び上がり、急降下。
「スカイブレイカー!」
風切り音で察知したのか、首をこちらに向ける。しかし、遅い、直撃コースよ!
「あら?」
そのまま、体を構成していた魔力を圧縮し、自身の体のサイズを一メートルほど小さくする白銀竜。
哀れ、周辺地面が陥没するレベルの勢いで地面に激突する俺。メッチャクチャ痛い。
「妖精じゃなかったら死んでたぞ!」
「普通は妖精でも死ぬじゃろ」
自分で作ったクレーターから這い出る。そんな大馬鹿やってる間に白銀竜とファレの距離、二十メートル。
「アァアアアアアアアアアア!」
角を突き出して突進する白銀竜の前に飛び出すのは、ウォークライを上げるチェルシー。
「ギガントォォォ!」
このタイミングで何か技を思いついたのか、斧を構えた状態でチェルシーも白銀竜に向かって突進。
踏み込みの衝撃で抉れる地面。しかしそのエネルギーは確実にチェルシー自身を前に押しだし、
「ハンマァー!」
横薙ぎに振るわれる突進からの巨人の手斧、それに合わせるようにして頭部の角をぶつける白銀竜。
馬鹿力対巨体の暴力、その軍配は、
「きゃああぁ!」
チェルシーが吹っ飛ばされ、白銀竜の角が砕け散る。しかしまだ動きが止まらない。
白銀竜とファレの距離が十メートルほどになる。ファレも必死にフレイムスピアをぶつけるが、止まらない。
「今度こそ、させるか!」
一瞬で魔力を燃焼し、竜妖精化。四枚の羽をすべて前進にのみ使い、一瞬で俺と白銀竜の距離をゼロにし、追い抜く。
無論すれ違い様に氷の剣を振るい、白銀竜の胴体に鋭い一文字の傷を付ける。
「リュージュ・ランブレードって感じか?」
そうしてファレの前に回り込む。
「ファレ!」
「スノゥ! ベルから!」
たった一言伝えられた言葉に、優等生様はなかなかいい尺度の攻略法を思いつくと考え、そのための術を準備する。
「合わせろ! スノーバインダー!」
「うん、スノーバインダー!」
大小様々なロープが白銀竜の体を縫い止めるように地面から飛び出し、拘束。前の時なら数秒かからず脱出されたはずだが、今はファレがいる。
二人がかりで出したロープの数は百二十八本くらい。その一本一本が複雑に絡み合い、簡単に抜け出せないようにしている。
「急げベル!」
空を見上げると、そこには青白い光が見える。
「フォーメーション、ヘキサグラム! かの存在を戒めよ!」
スノーバインダーで作られた紐を持ったエルフィ=ゼクスが六芒星状に並ぶ。そして魔力の伝わった紐が光り、巨大な六芒星を描く。
「破邪封印法!」
ベルが放った光が、六芒星に当たり、そのまま幾状にも別れ、白銀竜を縛り付ける。
ベルが立てた作戦は単純、真正面から当たるには骨だから封印する。相手は俺たちのご同輩だ。さんざんその血肉を食った俺が言うのも何だが、殺すのは忍びない。
それに竜核を喰ったら魂レベルで浸食され、結局は白銀竜になってしまうのだから喰うに喰えない。
ならば、魔力を封印し、暴れられないようにする。
光が白銀竜の魔力ごと縛り、繭状に変化し、最後はウサギの形に収束する。
「封印、完了」
そこには、小さな雪兎が一匹、寝息を立てていた。
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後処理の話をしよう。
まずは、周辺環境のお話。
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「調査隊の壊滅から一週間、魔物たちの様子が落ち着いてきたな」
「新たな主も決まったらしいが、どうも強力な魔物が共倒れしたらしい」
「どうなったんだ?」
「今度の主となった魔物は比較的弱いやつらしく、魔物自体の勢力が弱っているって話だ」
屋台で買ってきた肉の串焼きを町の中央広場でつまみながら聞いた話を統合すると、周辺環境は落ち着き、無事街道ルート確保が出来た様子。
それに伴って近海の状況も落ち着いているらしい。
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次に、調査隊の話。
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「お、スノゥさん!」
松葉杖を付きながら歩いてくるのは、冷凍剣を渡した冒険者のミハエル。
「お、動けるようになったのか」
「あたぼうよ!」
元気なことをアピールするが、傷の回復にはまだまだ時間がかかりそうだ。
「そんな怪我を押して、どこに行くんだ?」
「ああ、ちょいと小遣い稼ぎだよ。いつの間にか居なくなっていた街道の化け物の話を酒場でな」
ああ、あの話を飯の種に治療費を稼いでいる訳か。
「なかなかにたくましいな、羨ましいよ」
「これぐらい図太くなきゃ冒険者は勤まらないしよ」
笑いながら話すミハエル。その腰には俺の渡した冷凍剣がむき出しのままぶら下がっている。
「何よりもこいつに見合った鞘を自分の手で見つけないとな」
冷気が強すぎて、普通の材質の鞘では凍り付いて使い物にならないとのこと。今は俺が包帯代わりに作ったスノーバインダーをそのまま巻いて、冷気を封じている。
「じゃあ、俺はこっちだから」
「ま、養生してから稼ぐんだな」
お互いに笑い合い、分かれ道で、それぞれの目的地に向かって分かれる。
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そして、俺たちの状況。
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「戻ったぞ」
「お帰りなさい、スノゥ様」
チェルシーに買ってきた食料を渡す。
「お帰り」
「おかえりなさーい」
術の練習中だったベルとファレが声を掛けてくる。
「見てみて、うまく作れたの!」
ファレが自信満々に見せてくれたのは、水晶で出来たドクロ。世が世ならオーパーツ扱いである。
下から光を当てたら面白そうだ。
「それでチェルシー、こいつの様子は?」
「元気ですね」
借りた部屋の状態を見る。カーテンは千切れ、壁には大きな爪痕が残されている。
「それはもう、元気ですね」
その下手人たるウサギはというと、柔らかそうなクッションの上で優雅に昼寝中の様子。
「まったく、こいつは……」
あの時、白銀竜を打ち倒した後、俺たちは殺さず、魔力を封印した。同じ眷属同士でもあるし、何よりも氷の剣が引き入れることを望んだ。
自身で創った最初の眷属であれば、その態度も納得出来る。
そして何よりも重要なのは、白銀竜の姿をとることが出来るようになれば、こいつの背に乗って空を移動出来る。その言葉にときめいた。
そうして魔力を封印したウサギをこうやって飼っている訳だが、はっきり言うと魔力は封印されていても、身体強化に使う魔力までは封じられなかったわけで、なかなかのヤンチャっぷりを発揮している。
それでも、俺やベルにチェルシーには割と容赦なく襲いかかってくるが、ファレにはなんか優しく接している様子。
このまましっかりと力を戻していき、最終的に白銀竜の形態になったとき、背中に乗せてもらっての快適な空の旅といきたい。
「大きく育てよ……」
ファンタジーなら竜騎士に憧れてもいいだろう。俺自身も竜だが。
「なんていうか、あんたがそういう発言すると、肥え太らせて喰うみたいに聞こえるわ」
やかましい、とベルに突っ込みを入れながら、俺は部屋の隅に立てかけてある巨人の手斧を見る。
あれだけの力が加わったのだ。必然的に圧縮雪の柄はへし折れ、片側の刀身が割れてしまっている。
無論、巨人の剣自体もかなりの量のストックがあるしかし、所詮素人の日曜大工品。
既製品を組み合わせただけのものに過ぎない。
「今は、柄を直して、予備の刃を付けておくしかないな」
柄に使う圧縮雪はしっかりと高圧縮を行い、スペアの刃を取り付ける。
「これも本職の人に見てもらわないとな」
そのためのコネがないんだがな、と独りごちながら巨人の手斧を元通りの状態にする。
修理の終わった巨人の手斧をチェルシーに渡し、氷の剣に一度抱け目を向けて、また思考の海に入る。
周辺の海がようやく落ち着いたので船出は可能。あいつらを追いかけることは出来る。
すべてはあのアリアンの野郎をぶちのめすため。行動を起こしたいが、ここで一つ疑問が出る。
今のままで勝てるだろうか?
無論、負けるつもりはない。しかし、万が一を考えるのが賢い生き方だ。その手札がない状況。
「まぁ、なるようになるか」
クッションの上で寝ているウサギを俺の頭の上に乗せ、みんなに告げる。
「次の船で、この町を出ることにする。行き先は―――」
買ってきた簡易の世界地図を広げ、一点を指さす。
「アーテル王国だ」




