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危険な噂話

「その竜の怒りは深いとかそんな事考えながら、今何してるのよ」

「何って、酒盛り?」


 殆ど空振りで終わった洞窟探索だが、冒険は冒険。冒険が終わった後は酒と相場が決まっている。


「美味しいね、スノゥ」

「よしよし、まだまだ仕入れてきた鶏肉はあるからな。だけどちゃんと野菜も食べるんだぞ?」


 今回も今回で手元の鍋とファイヤブレスを使って揚げ物。今回は香辛料が多いこの地方だから出来る山賊焼き。いわゆる黒こしょうを効かせた鶏肉の唐揚げだ。


「ほら、お前達も食べないと俺が全部喰っちまうぞ?」

「うん、美味しい」

「何で妖精のくせに料理上手いのよ……!」


 素直に食べて酒を少しずつ飲むチェルシーに、変なベクトルで悔しさをにじませながら山賊焼きを食べるベル。


「いや、俺が基本得意なのは揚げ物だけだからな?」


 そのほかは簡単な物しか作れない。


「ベル、凄い美味しいね?」

「うん、そうね」


 少し複雑そうな顔で答えるベル。そんなに悔しいなら練習すれば良いのに。


「それで、今後の方針はどうするんですか?」

「それなんだが、もう少しこの辺りを探ってみたい」


 それとなく聞き耳したり、情報を集めてみた結果、この海賊スカイの財宝洞窟というのはいくつもある様子。

 刺激を求める観光客に現地の人がそれらしい洞窟を案内して鐘を得るというビジネスがこの財宝洞窟の仕組みである。


「なるほど、でも確かにそんな洞窟見つけたら自分だけで探すよね」

「しかし、偶然発見された洞窟にはそれなりのお宝があるらしい」


 本命では無いが、緊急時の隠し財産という感じだろう。海賊スカイは用心深い性格だったらしい。


「その中にお宝を隠している可能性はあると」

「手紙の解読が終わるまでの間、この辺りを探してみるのも悪くは無いだろ?」


 揚げていた鶏肉を引き上げて、皿に盛り付ける。ついでに揚げていた貝や白身魚も同じように皿に出す。


「ま、何が出るかは分からないが、ただ退屈に過ごすよりかは経験になるだろ?」


 熱々の鶏肉を頬張り、酒で流し込む。生きてるって感じがする。


「お、妖精さんは冒険者かい?」

「そうだが、あんたは?」

「ま、同業者だな。どうだい、その肉俺にくれたら少し面白い話してやるが?」


 少し興味が出たので、揚げたての鶏肉をお皿にプレゼント。


「まいど、と言ってもお宝とかそういう話じゃないんだが、ここ最近、このあたりで同じような殺され方をした死骸がやたらと見つかるんだ」


 それだけなら何らおかしくないんだが、話には続きがあった。


「その死骸っていうのがな、巨大で鋭い何かで引き裂かれたような傷痕なんだ。そしてその死骸については肉には手を出さず、魔石だけ抜き取られてるって話だ」


 ラッシュボアみたいなやや小物ならわかるんだが、幼生ドラゴンだったり暴れ大猿として有名なエイプバブーンだったりと、結構な大物が混ざってくるとのこと。


 因みにエイプバブーンとは凶暴なゴリラみたいな魔物で、食べるところがないくせに襲い掛かってくる面倒な魔物である。


「ま、そのうちこのあたりのヌシであるドラゴスネークとかが狩られるんじゃないのか?」

「そいつは怖いな。ま、面白かったからこの魚のフライもつけてやるよ」


 魚フライを皿に乗せてやると男は喜びながら離れていった。


「……どう思うよ?」

「間違いなく、あの洞窟の下手人じゃない?」


 答えるチェルシーも手慣れた物。


「ワシとしては何者か気にはなるが、必ず暴く必要は無いかの」


 氷の剣は消極策。ま、俺も危険だとは思う。


「私はどちらでも、ファレは?」

「面白そうだし、見てみたいかな」


 ところで、チェルシーの意見は? と水を向ける。


「私は気になるかな? 脳内巨人会議の結果も聞く?」


 そっちはいいです。どうせ強者との戦いこそ巨人の本懐とかそういう事言ってるはず。


「で、わかりきってるけど、あんたの答えは?」

「無論、獲物かっさらわれて怒らない奴がいたら見てみたいな」


 と言うわけで、気になるが多数による、近辺の狩人の下手人を捜すことにした。


「ま、その前祝いって事でぱーっとやろう」




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 朝、さわやかな目覚めのため惰眠をむさぼろうとしている最中だった。


「おい、見に行こうぜ!」


 部屋の外から聞こえる喧噪を受け、目が冴えてしまう。

 部屋の中を見渡すと、まずチェルシーが寝ていたベッドは誰も居ない。ファレとベルはまだ夢の中。


「全く、どこのどいつだ? 朝は惰眠をむさぼるための物だって言うのに……」


 仕方が無いので、寝間着から着替える。取りあえずポットに紅茶を入れ、ティーカップに注ぎ一服。


「スノゥ様、大変!」

「どうしたチェルシー、世の中早々に大変な事なんて起こるわけ無いだろう?」


 慌てて駆け込んできたチェルシーが、肩で息をしながら言う。


「この辺りの魔物の主って話のドラゴスネークの、無残な死体が発見されたって」


 紅茶噴いた。


「うわ、汚い」

「え、マジ? ソースどこよ!?」

「えっと、確かこっちのポケットにこの間作ったグレービーソースって奴が」

「そのソースじゃ無い! 情報源は?」


 ポケットをまさぐっていたチェルシーを制して詳しく話を聞く。


「えっと、夜中に街の外れの森の方で。爆発音とかの戦闘音が聞こえたって話があって、その調査に出かけた冒険者達が死骸を発見したって」

「これは面倒な事になりそうだな」


 魔物というのはピラミッド型の支配階層がほぼ自動で生成される。基本は食物連鎖に則る訳なのだが。

 今回の場合、森の主であるドラゴスネークがその頂点に居た。これが死ぬことによってしばらくの間、近辺の魔物が荒れ出す。


 どの魔物が新たな主になるかで、魔物達の勢力争いが発生する事になる。この勢力争いが終結するまで、陸路は少なからずダメージを受けることになる。

 また、大きな影響は無いが、海でも多少魔物が活発化するというおまけ付きだ。


 ちなみに『凍てついた銀河』の場合、俺のせいでワイバーンや巨人の主が狩られたりしたので、最終的に俺が主のような状態になっていた。


 ま、その上に白銀竜が居たからちっとも頂点に立っている感じは無かったが。


「おかげで街の食料品の値段が今から上がっていくみたい」


 ああ、陸路がふさがれるからか。


「よし、ここを引き払って隣のネルソンポートに移動だ」


 ネルソンビーチにも港はあるが、停泊しているのは豪華客船のみ。一般的な客船や商船は隣のネルソンポートに行くわけだ。

 ビーチ側の港使用料が高いので隣の一般の港で荷揚げをして、一日ほどの距離を陸路で輸送する事で少しでも安く物を運んでいるらしい。


「主が倒されたのが昨日なら、まだ魔物達は混乱してるだけだ。今のうちに移動すれば十分間に合う」

「ヤケに詳しいね」


 そりゃもう、三年ほど前から何度かやりましたから。

 知らずにその周辺地域の主を倒して、しばらく魔物達の気が立っていて危ないと言う事もありました故に。


「ま、これ以上物価が上がると、せっかく稼いだ金貨を全部溶かしちまうからな」


 安めの場所を選んでいるとはいえ、ただでさえ物価が高い場所だ。これを機にこの辺りの拠点をそっちに移す。


「うーん、何よ騒々しい」

「おはようー……」


 ちょうどファレとベルも起きたので、朝食を取りながらこの方針の話をしよう。

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