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聖戦器と魔王器

「ねぇ、ベル? ずっと気になってたんだけど、私が作ってた魔石ってどんなのなの?」


 二人が魔石を売りに行っている間、私たちは砂浜で遊んでいてくれと言われた。なので波打ち際で砂のお城を作って居るんだけど、ふと気になってベルに聞いてみる。


「うん、まずこれを見て」


 これはいざという時用に蓄えていたスノゥの魔力で作った魔石。


「透き通る、水色?」


 触っても冷たさとかは感じ無いけど、内側の魔力はたぶん冬の冷気よりも強い冷気になっているのだろう。


「本来魔力の属性はその人の適正に左右されるの」


 私やスノゥだったら青色、氷の属性が強く出ると言う。


「じゃあ、白い魔石の私は?」


 大まかな形が出来上がったところで、土の術の練習で材質を砂から石に変える。


「属性が無いの。どの属性にもある程度親和性のある純粋な魔力の塊。いろんな魔導具を作るのに使うんだけど……」

「使うんだけど?」


 石に変えたお城の原型を風の刃で細かく形を整えていく。前にスノゥに聞いたノイヴァンシュタイン城ってお城をイメージしている。


「普通は人の属性は一番強いのが表に出てくるから、相反する属性の魔石を練り合わせて無属性の魔石を作るの」


 その過程で三割ほどの魔力が消えてしまうんだそうな。


「つまり、とっても効率が悪いの」

「じゃあ、白い魔石って珍しいんだ」


 削り終わった後は海水を操作してお城自体のクリーニングを行う。


「稀に、無属性に近い魔石を作り出せる人も居るんだけど、大抵魔力量が足りなくて、何日かかけて小指の先くらいの魔石を作るのが精一杯らしいわ」

「ふーん、じゃあ、私は得意な属性が無いってことなの?」

「いや、得意な属性が無いんじゃなくて、苦手な属性が無いの。何せ、全部の属性に対しての適正だもの」


 それを聞いて安心した。


 水で綺麗になったお城を炎で焼き上げる。その過程で少しずつお城の表面を砂に戻す。それを繰り返し、仕上げに砂を混ぜた海水を、風で動かしながら磨く。


 最終的に三割ほど小さくなったお城は、透き通ったガラス製になった。


「どう、ベル?」

「うん、合格点は出せるけど、まだまだ同時制御は練習が必要かな? ほら、ここの窓の部分が少し潰れちゃってる」

「あ、本当だ」


 最後に風の刃で軽く削り、仕上げる。


「さ、そろそろ二人の仕事が終わる頃だし、戻ろうか?」

「うん!」


 そうして出来上がった砂の城もといガラスの城を持って帰ろうとしたところ、


「それを売ってくれ! 幾らだ!?」

「待て、私が買い取ろう!」

「パパー、わたしあれ欲しいよぅ!」


 そんなこんなで揉めに揉めて、ちょっとした騒ぎになってしまったのだった。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 そんなこんなで魔石の儲けは金貨七枚分になり、同じくファレの魔法で作ったガラスの城は金貨五枚で売れたとのこと。

これで当面の宿泊費もまかなう事が出来る様になった。


「お城もそうだけど、魔石があれだけ値段付くなんてね」

「商売の基本は必要な場所に必要な物を持ち込むこと。嗜好品の場合はそれが顕著にでるからな」


 ここらの魔導具は生活を快適にするだけで、必需品という物じゃ無いからその傾向が顕著だ。

 ま、しっかりと活動資金を稼いだ後は、あの野郎共の探索だ。


「世間話ついでに情報収集していたんだが、スカイという海賊のお宝が眠っている洞窟というのがこの辺りにあるって話だ」


 どうも、十数年前にこの辺りの海を荒らし回っていた海賊らしいのだが、突然姿を消したらしい。

 そのおかげでこの辺りにいろんな人が訪れ、街になり、最終的に過ごしやすい環境からリゾート地として花開くことになったのがこの辺りの歴史だ。


「それで、その財宝でも探すの?」

「うんにゃ、探しているのはあいつらの方」


 なんでも、あいつらの捜し物を海賊スカイが分捕っていっていたらしい。


「何を探しているか、までは分からないがここからそう離れていない洞窟に創世教のローブを着た集団が何度も出入りしているのを見たって話があってな」

「うん、性格の悪いこいつの事だから、あいつら殲滅してからアリアンの情報を聞き出して、ついでに探しているお宝を横取りする気ね」


 ベルの言葉に、さすがに鋭い読みしてると感心する。


「まあ、その通りだ。鬱憤も晴らせるし、情報も手に入るし、何よりもお宝が手に入る」


 どんなお宝か、正直楽しみだ。


「しかし、創世教が探す物か。案外あいつらや魔王の装備かもしれんぞ」

「あいつらって?」


 氷の剣のつぶやきにファレが聞く。


「ああ、聖戦士の武具と魔王の武具だ」

「えっと、聖戦器と魔王器ですか?」

「知っているのか、チェルシー!?」

「何その驚き方? えっと、魔王と聖戦士がそれぞれに使っていた神に授けられたり、精霊に授けられたりした装備のことだけど……」


 なるほど。聖剣とかの類いか。


「有名どころだと聖戦士の剣で、妖精によって鍛えられた『丙子椒林剣』とか、聖戦士の仲間アスタルが使った『モルジュロペラ』とか」

「ああ、あの色惚け妖精の呪剣と脳天すっからかん男のか」


 なんか氷の剣の機嫌が悪い。そんなに昔の仲間が嫌いか?


「何で世界が生み出した芸術品であるワシに関する情報が残っておらんのじゃ!」

「氷の剣ってそういう部分は俗っぽいよな」


 俺の一言に本格的に拗ねた氷の剣を放置する事にする。


「ねえねえ、聖戦士の仲間ってどんな人達がいたの?」

「えっと、伝承では美剣士アステル、屈強の氷戦士イグベルト、光の階ルチア、雷神ルングンだったはず」


 いずれも武勇を誇る偉大な方達だったのよ、とこういう伝承が好きだと思われるチェルシーが言う。


「で、真相のところは?」

「脳天すっからかん男、筋肉愛好家、回復マニアの修道女、ノーコン火力バカだの」


 なんか、歴史を紐解きたくない。お願い、美化されたそのままで居て欲しい。


「良し、氷の剣。必要な時までそれ黙っていよう。ともかく、その手の物だと何が考えられる?」


 さっと話の方向転換を行い、可能性としてでもいいので何か無いか確認。


「ふむ、彼奴もいろいろ危険な物を集めたりもしたが、そうさな、魔力を収束させるオリハルコーンの像とか、命を糧に死ぬまで魔力を吐き出すブローチとかじゃな。

 何を目的とするかは分からんが、儀式においてあれほど有益な物も少なく無いじゃろう」


 確かに、魔力を使った儀式でそういう物があると、規模を圧倒的に大きく出来て怖いな。


「ま、行ってみれば分かるか。じゃあ作戦名サイドインランサー開始って事で」


 蛇が出るか、鬼が出るかは行ってみて次第だ。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「どうだ、様子は?」


 入り口で見張り番をする仲間に声を掛ける。


「異常なしだ。しかし、こんなところに本当にあるのか? 『妖精剣』が?」


 聖戦器が一つ、『妖精剣・丙子椒林剣』


 妖精が天から降り注ぐ星で鍛え上げ、聖戦士が握ったという剣。星のきらめきを宿すという武器。


「ああ、かつて海賊スカイが集めたお宝の中には聖戦器がいくつかあったらしい。スカイ自身もある聖戦器を肌身離さず持ち歩いたという話だしな」


 噂によると、海賊スカイが入手した聖戦器および魔王器は全部で三つ、そのうちの一つが『丙子椒林剣』という訳だ。


「持つ者を妖精郷へ導く剣、ねぇ」


 実に眉唾な話だ、と思いながら本来の目的である食事を見張り番に渡す。


「おう、済まないな」

「ま、それ以外にも金目の物があるっていうからこの辺りを探ってるわけだが、たぶんここもハズレだろうな」


 またかよ、という顔を見張り番がする。


「これで三カ所目だぞ? やっぱりガセなんだよ」

「ぼやくなよ、これも我らの元に降臨する創世王のためさ」


 そう、創世王が世界の全てを変えてくれる。


「そう、こんな悪徳と退廃に満ちた世界など軽く蹴っ飛ばして変えてくれるさ」


 醜き世界に我らの創世王が鉄槌を下す。


「お、ウサギだ」


 見張り番の男が前の方にある茂みに居た白いウサギを指差す。


「ちょうど良い、ちょっと狩って、腹の足しにしちまおう」


 この男は信仰心が足りないのでは無いか、と思うが、俺もウサギ肉を食えるのならそれに越したことは無いと思う。


「少し待っててくれ」


 そう言って見張り番が弓を構え、矢を放つ。その間、俺は一応周囲を見渡しておく。

 ウサギを狩っていて不審者を見逃しましたなんて報告をしたら、奥で探索をしている仲間達に申し訳が立たない。


 周囲を警戒している最中に、風切り音が響く。矢が放たれ、無事ウサギを仕留めた事を確認しようとして見張り番の方を振り向こうとして、空から生暖かい雨が降る。


「えっ?」


 振り向いた瞬間、そこには首の三分の二が引き裂かれた見張り番がいた。


「な」


 次の言葉が紡がれるよりも先に、俺の視界が空を向く。そのまま視界が回転して、地面の方を向く。

 ああ、なるほど。急に視界が空を向いたのは、俺の首が宙を舞っているからか。今下に見えるのは俺の体か。


 そんな場違いな事を思いながら、俺という存在が地面に落ちて、そのまま二度と目を覚ます事は無かった。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「どうだった、スノゥ様?」

「慣れない人が見たらしばらく肉食えないわ。ぐっちゃぐちゃ」 


 ローブ姿の男達を追ってたどり着いた洞窟の入り口、そこには二体分の仏様が転がっていた。

 警戒しながら奥の様子を見ると、折り重なるようにして倒れる十数名の死体。


 いずれも鋭い何かで切り裂かれたような傷口。


「ありゃかなりの大物な魔物とやり合った後だと思う」


 水筒の水で口を濯ぎながら、その辺の岩に座る。


「わたしも見に行きたい」

「止めておきなさい、ファレ?」


 ベルがファレを引き留めながら、おやつのあめ玉を渡している。見ない方が賢明だと思う。


「しかし、妙ね」

「妙って、何がだ?」


 ファレを抱きしめて飛びながら回るベル。ファレの方は喜びながらもっととせがんでいる。


「切り口の大きさから数メートル級の大物のはずだけど、この洞窟にそこまでの大きさが無いって事」


 確かに、奥まで物をあさりに行ったけど、天井の高さがせいぜい二メートル位。


「確かに巨腕の魔物でバンダースナッチって奴はいるけど、あれはそもそも腕が肥大化した人型モンスターってだけで、爪は鋭くないし」


 確かに、氷の剣の知識にも居るが、確かに鋭い爪などは存在しない。


「ちっちゃいドラゴンさんとか?」


 振り回されていたファレがそんな言葉をこぼす。


「うーん、何というか、よく分からない死骸だらけ、だな。しょうが無い……ファレ。火葬するから火を出してくれないか?」


 死んでしまえば皆仏、金目の物や換金物だけ外して死体はしっかりと燃やす。これもまた、ゾンビ系の魔物を出さないようにする、旅人の礼儀だと、前に酒場で一緒になった旅人から教わった。


「これで手がかりはこの手紙だけか……」


 内容は暗号化されており、符丁が必要なタイプだが、時間を掛ければ読めそうな気配はする。


「あの迷惑な連中のことだ、絶対に何かデカい事をやらかしそうな気がする」


 その尻尾、絶対にふん捕まえて地面にたたきつけた後にその本体を解体してやる。

 竜の怒りは怖いって事を思い知らせてやる。

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