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夏だ! 海だ! 金策だ!

大変お待たせいたしました、妖精、南の海にて開始です。

 この世界は、今のところ五百年単位で毎回何か世界を根底から揺るがす事件が起きている。


 たとえば千年前、魔王によって世界が絶望のどん底に叩き落とされる。その時に地脈の魔物という化け物を残していった。


 そして五百年前、聖戦士とその仲間によって魔物が支配する世界が終わりを告げる。


 地脈の魔物を排除し、魔物をタルタロスへ送り返した。

 それらの戦いの後に生まれた物が存在する。それは、それぞれの魔王、聖戦士を崇め奉る宗教だ。


 まずは戦う者に加護を与えると言われる、聖戦士教。武芸を修める者の見方として信望されている。

 もう一つは世界を争いの無い混沌に沈めることを教義とした魔王教。魔に属する者達が魔王を崇拝しているというものだ。


 どちらもその時代を代表する存在を崇める宗教であると言える。まあ、現代でも関帝とか道真公とか実在人物が死後奉られるパターンもあるから何らおかしく無い。


 そして本題である、創世教とはどういった物か?


 答えは非常に単純。この五百年周期で現れるとされる新たな世界を作る存在、創世王を世界に呼ぶためのお膳立てをしようという宗教だ。


「ま、平たく言えば創世された世界に迎合されるのは正しく選ばれた人間だっていう選民思想丸出しのクソ宗教だがな」

「一応声抑えてくださいね」


 教徒に聞かれたら地の底まで追いかけられるという噂だから、というチェルシーの言葉に一応は頷いておく。


「なるほど、あの時ファレが死にかけたのはそいつらの仕業でもあるのか」


 あの風の刃を放ってきた狂人はその狂信者というだろう。全く、いつの時代にもと思うところはあるが、正直宗教に無関心な元日本人には理解出来ない領域だ。


「かつての魔王教も似たような物じゃな。魔王が復活して、世界をあるべき混沌に還すというものじゃ」


 魔王教が指す混沌とは生物も誕生せず、この世界の大地が生まれる前の何も無い状況の事らしい。


「ま、いつの時代にも居る破滅主義者みたいな物だろ」


 どこぞの恐怖の大王然り、マヤ暦然り、ハレー彗星然り、だ。とかく世界が退屈だからと滅びを望む人間というのは多い。


「私は一日を生きるのに必死だったから、そんな事を考えたことも無かった……ファレは?」

「特に無いよ?」


 ファレは、あの場所が世界の全てだと思っていたから、滅びるとかそういう尺度で物を考える事が無かったのだろう。


「人間って、そういうところは想像力豊かね」


 ベルが呟くが、そうじゃなけりゃ人類という種がここまで発展するはずが無い、と俺は思っている。


「ま、ともかく今後の目的は世界を周遊しながら、あのアリアンという男を追いかけてぶっ殺すのって事で良いか?」


 殺すのはともかく賛成の声が四つ。


「じゃあ、今後の方針も決まったことだ、明日から南を目指すぞ―――では」


 テーブルに置かれたグラスを取る。


「今晩は、飲むぞ!」

「お主は結局それか!」


 氷の剣が突っ込んでくるが、気にしない。さて、飲もう。


「ちょっと、スノゥ! あなたね、少し気を抜きすぎなんじゃないの!」

「おやぁ? まさか純粋な雪妖精様はお酒もろくに飲めませんかぁ?」


 グラスのワインをそのまま軽く飲み干す。うん、少し渋めだがなかなか。


「な、嘗めないでよ! これくらい私だって!」


 そう言ってワインを一気に飲み干す。その横でラム酒をちびりちびり飲むチェルシー。


「ねえねえチェルシー? お酒って美味しいの?」

「人によるかな? でもファレには早いから。リンゴジュース美味しい?」


 チェルシーとファレは俺たちを見ながら二人でゆっくり楽しんでいる。さて、俺も少し上げて行こうか。


「どうした? まさかその程度で終わりなんじゃ無いだろう?」


 今そこでワインをビンごととラッパ飲み始めているバカにこちらの力をきっちりと見せつけなければ。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 生まれた時から、自身の体は最強であった。

 その体に敵う者は無く、そしてありとあらゆる存在を喰らい、いつしか並ぶ者の存在しない最強の支配者となった。

 最強になった自分に待っていたのは、ただひたすらの倦怠と、ほんのわずかな間の駆け抜ける様な輝き。

 そのわずかな輝きを懐かしがるように心の底に沈めたまま、倦怠の中に眠る。

 そうやって、永遠の倦怠の慰みにする、そうやって生きていくつもりであった。

 あの時までは。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 そういったわけで。南側に逃げたというアリアン達創世教の集団を追いかけてきた訳なのだが、


「あっつい!」

「さすが常夏の都市『ネルソンビーチ』……」


 常夏の都市『ネルソンビーチ』とは、年間を通して夏のように暑く、海を泳ぐことが出来る南海のリゾート地として有名な場所だ。


「確か、『エウド』からここまで来ようとすると金貨が数枚飛ぶって噂ですよね」

『エウド』の場合は距離もあるだろうが、ここは基本各国の貴族や富豪達が集う場所だ。


 旅船側も高い運賃と引き替えに安全な航海を約束する。こうして、各国の著名人を集める国が出来たのである。

 さて、そんな国だが、旅人ひいては旅行客が利用する様な店の相場が安いはずが無い。


「パン一つが銀貨一枚するってどういう場所だよ、これだからセレブは……」


 確かに柔らかく美味しいパンだが、こんなところに居ると情報が集まるよりも先に雪妖精の干物が出来上がってしまう。


「何で旅人がこの街を避けるか分かりましたよ、そもそも滞在が難しいからよね」


 すぐ近くの港町が盛況なのも頷ける。あっちはむしろ物価が安く、旅人も多かった。


「つまり、あのアリアンというのは金持ちだということだ。よし殺ろう」

「スノゥ様、少し物騒です。あっちの二人を見習ったらどう?」


 チェルシーが指差す先にはファレとベルが砂浜を駆け回っていた。


「どう! ファレの水鉄砲は!」

「やったな!」


 波打ち際で水遊びに興じるお子様二人。何というかほほえましい。


「ところで、ずっと聞こうかどうか迷っておったんじゃが。お主らのその格好は?」

「何って水着?」


 ちなみに、ファレはピンクのレオタードタイプで、フリルをあしらった物。ベルはファレがおそろいがいいと言ったため色違いの青。


 チェルシーはビキニタイプで、シックな黒水着。作った俺が言うのも何だが、体型はかなり良いので何というか非常にそそる。


 そして俺はセパレートタイプで、灰地にシルバーで雪の結晶模様を散らしてあり、さらに藤色系のパレオを装着。


「なんじゃろう、ワシの知っている水着と違う……」

「良いじゃん、かわいいんだから」


 ま、周辺の水着はいわゆる競技用水着に近い形状が多いから異色の水着だろうよ。


「おーい、スノゥもおいでよー!」


 ファレが手を振っているので、俺も海に向かう。足取りが追えないのは残念だが、ここからの航路では中央か、東側に抜ける位しか無いのでそこまで困る物でもない。


「よーし見てろー! 今行くぞー!」


 そうして俺たちは全力ではしゃぎ、常夏の街で一夏のアバンチュールみたいな感じで二日過ごした。


「……」

「……」

「……」

「……」

「おい、なんとか言ってくれ、ワシ空気の重さで折れるかもしれん」


 端的に言おう。路銀が尽きた。


「チェルシー、前に賭け事で儲けた分は?」

「今日の朝食で消えた」

「スノゥ、あんた工芸品とかは?」

「残念ながら買い取ってくれるところが無かった」


 毛皮は論外だ。こんな常夏の国で毛皮なんぞ需要あるか。


「えっと、私のお小遣いなら……」

「その心遣いだけでいい、だからその銅貨は仕舞っておけ」


 それにこの街では銅貨なぞ役に立たない。だからその銅貨は大切に仕舞いましょうね。


「じゃあ、どうするの?」

「チェルシー、ベル、今まで俺たちが行った金策は、工芸品と賭け事を除けばある物を元手にしている。そしてここは常夏の街だ」

「つまり?」


 ファレの一言に、全員に緊迫した表情をする。


「売るのは、石だ」




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 目抜き通りに面した一等地に構えるのは魔導具屋である。この辺りは『リブラリ』に近いため、魔導具の売買も盛んである。


 かなり質の良い重い扉を開くと、上質な絨毯が敷かれた店内が広がっている。壁際には棚が儲けられており、ぴかぴかに磨かれた魔導具が並べられている。


「す、スノゥ様……凄く場違い感がひしひしと……!」

「堂々としていろチェルシー。ある程度ハッタリ効かせれば向こうが勘違いしてくれる」


 現在チームを二つに分けて行動している。まずは外に居るチーム、ファレとベルだが現在二人で砂浜で遊んで貰っている。相手にこちらの手札は見せないに限る。


 もう一方の俺とチェルシーだが、スノーバインダーで織り上げたフォーマルなドレスを身に纏って店の中に入っている。


 まあ、チェルシーはいつものメイド服だが。


「いらっしゃいませ、魔導具をお探しでしょうか?」


 教育の行き届いた店員がゆっくりと近寄ってくる。


「ええ、でも魔導具よりもその中身について専門なもので。この店で魔石の買い取りはおこなっているのかしら?」


 チェルシーが懐からそっと布に包まれた小さめの魔石を取り出す。少しだけ布を解いて、中身の白濁した石を見せる。


「では、奥へどうぞ」

「ありがとう」


 そのまま奥にある応接間に通される。そのまま店員が一礼して出て行くと同時に大きく息を吐く。


「あー、肩こる。お嬢の皮を被るのも楽じゃねぇーわ。あー、痒い痒い」

「笑い堪えるの大変だったんだから……」


 ま、表に出てなかったんならセーフだろう。ま、ここからは交渉のお時間だ。せいぜい高値でふっかけよう。

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