そうして、ともに歩く足跡が二つ。
過去を遡る。
最初、良く見えない視界で、大きな誰かに包まれながら眠る自分。
次に、わずかに動けるようになり、その姿を見た誰かが自分の事のように喜んでいた。
その次は、覚えの無い家の前で名前も知らない草花に驚く自分がいた。
そんな光景を私は暗い中、一人で見ていた。
「そっか、私の記憶」
自分では思い出せなくても、確かに刻まれている。きっと、心にだろう。
場面は変わる。大人の人たちが何かを話している。一人は私を抱きしめ、もう一人は私と抱きしめている人の前に立ちはだかるように。
また、場面は変わる。私を抱いてくれていた人たちが、血だまりの中に倒れている。
そんな二人に向かって手を伸ばすが、そんな私を無理矢理抱きかかえて離れていく男。
そこからは、私の記憶にある通りだ。
「朝起きて、ご飯食べて、石を作って」
そして、何かをして眠って、そんな事の繰り返し。
「そっか、これがファレの記憶なんだね」
隣には、いつの間にかスノゥが居た。
「ああ、今の私はスノゥじゃないよ?」
スノゥがさっきまで私の記憶が見えていた場所を指差すと、見えていた物が変わる。
私の体に食い込む風の刃、そして、融合。
「じゃあ、今は私の中にスノゥが居るの?」
「その通り。本来は私の意識ごと消えちゃうはずだったんだけど、どこぞのお馬鹿が直前に魔法陣弄るから」
あ、本当だ。スノゥが魔法陣をほんの少し書き換えてる。
「本来はあそこで渡しを全部魔力に置き換えて、ファレを治療しようとしたんだけど、なんでか私の人格が残っちゃった」
失敗失敗、と言うスノゥに抱きつく。
「ファレ」
「嫌だよ、そんな風に言わないで」
夜のあのスノゥも好きだけど、私の初めての友達は、このスノゥだ。
「今度そういう事を言ったら許さないから」
私の言葉に、何も言わずに抱きしめ返してくるスノゥ。
「でも、このままじゃあ私とファレの人格が融合して、最終的に新たな人格が生まれることになる……」
それを考えて全部を吸収する様にしていたのに、とブツブツ言うスノゥ。
「じゃあ、体、作れば良いんじゃない?」
「え?」
だって、そこに材料があるでしょ? 私が指差したのは、スノゥのポケット。
「え、ちょっと待って、私何か入れた記憶なんて」
スノゥがポケットから手を出すと、もの凄く大きな白い石が出てきた。
「これって、いったい」
「あ、そっか、これ作ったときは夜の方のスノゥと一緒だった」
地下室を作るときに出来た巨大な石。夜の方のスノゥが言うには魔石という魔力を石にした物らしい。
「あいつはぁ……!」
「どう、スノゥ、材料にならない?」
しばらく眺めて、触り、考え込むようにしてから口を開く。
「無理だよ。だってこんなの」
「無理じゃないよ」
二人なら何だってやれるよ。
「―――うん!」
そうして二人でこの魔石でスノゥの体を作り始める。粘度のある水のような魔石をこねたり伸ばしたりして、体を作る。
そうして出来上がった体は、高さだけでも五メートル近くある大きさになってしまった。
「ちょっと大きいね」
「そうだ、圧縮って出来るはず」
ひたすら今までと同じ大きさになるように押しつぶしていく。
「出来たね」
「じゃあ、後は私がこの中に入れば良いって事だね」
その前にやることがある。
「やること?」
そう、単純な話だ。
「名前、だよ。だって、今まではスノゥの体だったけど、これからは私とつながりを持った妖精になるんだから」
それを聞いて、スノゥは大笑い。
「確かにそうだね! じゃあ、ファレが付けて?」
うーん、そうなると……あ、そうだ。
「あのさ、本で読んだんだけど、春の訪れを、妖精が鐘を鳴らして教えてくれるって」
だから、スノゥの新しい名前は―――
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
「うぅん……」
光に目を細める。
「お、目覚めたか?」
横には、スノゥ。
「心配したぞ? 丸々一週間も寝てたんだからな」
胸元に手を当てる。傷とかは無い。
「ああ、あいつが融合してすぐに傷は消えたよ」
窓の外を眺めるようにして、スノゥが呟く。
「まったく、惜しい奴を亡くしたな」
成仏しろよ、と指先で十字を切った後に合唱する。
「勝手に、殺すな!」
私の胸元から飛び出して、見事な飛び膝蹴りを繰り出す影。
その膝をのけぞることで回避するスノゥ。
「ちっ、仕留め損なった」
「あからさまに舌打ちしやがったぞこいつ。完全に不意打ちで顔面潰しに来てたぞ!」
そうして、向かい合わせの鏡の様にそっくりな二人が、お互いに構える。
「その様子だと、ファレを依代にして復活か?」
「残念、ファレと融合したときに持ち込んだもの凄い大きさの魔石で体を作ったから」
「ああ、あの時ファレが一気に魔石にしちゃった奴か」
「あんな大きな魔石作らせるなんて作成者の負担考えなかったの? バカなの? 死ぬの?」
「後先考えずに脱出しようとして捕まった間抜けには言われたくないな」
なによ、なんだと、と二人で言い合う。なお、その間に拳と足の応酬があるのはいうまでもない。
「もう二人とも、落ち着いて!」
でも、言って聞くくらいならこの二人はとっくの昔に仲良くなっていると思う。こうなったら止められそうな人は。
「あ、ファレちゃん、おはよう」
「おはようございます、えっとチェルシーさん」
確か、スノゥの話で聞いたメイドさんだ。
はい、おはようございます、と笑顔で返してくるチェルシーさん。
「いろいろお話したいことはあるけど、ちょっとだけ待ってて?」
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
そうして、二人の近況報告喧嘩はげんこつ二発で止められ、現在は部屋の隅で正座させられている。
「そっか、ごめんねスノゥ、迷惑掛けちゃったね」
ここまでのいきさつを聞き、素直にスノゥとチェルシーさんに
「気にするな。俺は殆ど何もしてない。したとしたらこいつだろ」
「癪にさわる言い方だけど、礼だけは言っておくわ」
なお、一瞬でも舌戦に発展しよう物なら、チェルシーさんが制圧に乗り出すらしい。
今も二人の前で笑顔のまま斧の手入れをしている。正直怖い。
「じゃあ、今後どうしようか?」
「取りあえずそれぞれの目的を並べてみるか」
まずはチェルシーさんだけど、単純。
「一応スノゥ様の奴隷兼バトルメイドなので、スノゥ様について行きます」
次にスノゥ。
「あの男、アリアンに借りを返しに行く。わかりやすい目的地も出来たし、そこに向かいながら世界を放浪する感じだな」
じゃあ、ファレとスノゥに話を振られる。
「私も、この世界のいろんな場所を見たい!」
「私も同じ。ファレと一緒に居るって決めたから」
だから、スノゥ達について行っても良いかな? と聞けば、頷きを持って返される。
「じゃあ、改めて。ファレです! そして、」
「ベル。ベル・エルフィです。今後ともよろしくお願いします」
二人そろって礼をする。
「ま、よろしく」
「よろしく、ファレちゃんにベルちゃん」
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
そうして、すべては寝静まった夜。俺は一人、月を肴に氷で作ったグラスでワインを楽しむ。久方ぶりの酒に心が躍る。
「スノゥ」
「どうした、氷の剣」
一日ずっと喋らないと思ったら、ようやく口を開いた。
「五百年ほど昔、ワシは担い手と共に世界を旅していた。その時もいろいろあったが、その時に敵対した人間を思い出した」
聖戦士の仲間であるイグベルトが担い手だった頃の話だろう。
「奴は魔王復活を目論み、結果として聖戦士に打ち倒された存在なのだが」
ずいぶんともったい付けて話をする。
「名前は、アリアン。魔王教の司祭じゃった」
「なるほど、もしかすると過去の因縁があるかもしれないか」
そういう意味でも、氷の剣はあいつを追いたいのだろう。
「全く、ただの物見遊山のつもりが、とんでもない目的が出来たな」
「お主が旅立つと決めた時から、波乱の予感しか無かったわ」
失礼な。
「まあ良いさ、目的を持って生きるのは良いことだ。きっとな」
ワインを飲み干し、氷のグラスを窓の外に投げる。
適度なアルコールが体へ作用し始める。
「じゃあ、明日もあるから俺は寝るわ」
「ああ、眠るといい」
そのままベッドに入ると、すぐに眠気が襲いかかってくる。睡魔によって意識が無くなる直前、氷の剣の声を聞いた気がした。
「もし、アリアンがあの時のアリアンであるならば、ワシは……」
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
さて、ファレも回復、二人の旅支度も終わった。
「これが旅人の服って奴だね!」
「違うよファレ、たぶんだけどスノゥの趣味全開の服のはず」
そんな事は無い。
ファレは青白二色のセーラー服に、キュロットスカートとスニーカー系の靴。
手にはあの後作った魔石をベースに作って貰った杖。戦闘の邪魔にならない様にしたワンショルダーの収納術付きの鞄を用意。
そして頭には黄色いとんがり帽子をかぶせてある。
「そして、私がこれと。意外とセンスは良いのがなんか悔しい」
ベルにはセーラー服系列だが、セーラーワンピにしてみた。こっちは黒と白のツートンカラーにしてある。
手には圧縮雪で作ったハルバード状の槍を持ち、こちらはベルトポーチに荷物を収納する形式だ。
無論、二人の服は俺の自作である。前世の俺は一体何のためにこんな知識を蓄えていたのだろうか?
「それで、次は南だったわね」
「ああ、ここから南に行けば景勝地として有名なネルソン海岸がある。その関係で中央への航路が多くある」
チェルシーが聞いた情報によると、創世教とおぼしき連中は南に逃げたとのこと。リゾート地ではあるが、だからこそ多彩な航路があり、移動がたやすくなると予想。
「いざ、南の地、『ネルソンビーチ』へ!」
このまま陸路を進み、目指すは南国。そこで待ち構えているのは一体どんな酒なのか。
「待ってろよ、南国の酒!」
「……本当にお主は良い意味でも悪い意味でもブレないの」
そんな氷の剣のつぶやきを、俺は無視するのだった。
以上、第二章でした。




