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脱出の屋敷、目指せ新天地

「うん、だいたいわかった」


 現在私は、ファレに事のあらましをすべて話した。あの異物を封印したこと、その時に得た知識で、私は氷の剣の眷属であったこと、ここに来ることのきっかけと、知りうることをすべて。


「だから、私は夜の私を封印した。使命を全うせずに自分の思うままに生きる存在を」


 これで、私の話は終わり。


「ごめん、だから私、明日にはもう行くね。氷の剣の元に行かないと」


 自分の使命を知ったからにはそれに殉じる。だから、ここでファレともお別れだ。


「それがスノゥの決めたこと?」


 その通りと、頷く。ここでの甘い、夢は終わりだ。


「じゃ、準備しないとね」

「へ?」


 鞄は無いから、布袋に服とか詰めようと、急に荷造りを始めるファレ。


「ちょっ、何を!?」

「だって、嫌だもん」


 布袋に動きやすい服を詰めながら、ファレが言う。


「もう、一人は嫌だもん。知らなかったら耐えられたのかも知れないけど、知っちゃったもん」


 こちらをじっと、目をそらさずに見つめてくる。


「だから、一緒に行く」


 ……これは、止めても聞かないだろう。それに一人が寂しいのは、私も一緒だ。


「分かった」

「ありがとう、スノゥ! あ、でもこれだけはスノゥに言いたい」


 なに? と問いかけると、返ってきた回答は、至極単純な物だった。


「ちゃんと夜のスノゥとも話さないと駄目だよ?」




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 さて、外でキャッキャウフフしている我らが昼スノゥ(もう面倒なのでこう呼ぶことにする)とファレ。


 意外にも昼スノゥは俺の存在を抹消するのでは無く。封印という措置を取った。おそらくだが、抹消するとこれまでの知識が消失するからだろう。


「しかし、首の皮一枚つながったな」


 それでも封印されていて手も足も出ない状況なのだが。オマケに体の権限は昼スノゥが完全に握っている。

 完全に詰んだ。


「と思うだろうがな」


 あいつが使ったのは、アリアン対策で俺が途中まで考えた封印の術だ。いわゆる各属性への適性を少し下げる事で、相手の術能力を下げるという理屈だ。


 昼スノゥはそれを応用して封印している状態なのだが、途中まで俺が作ったと言うのがポイントだ。


「いや、自分で組んだ奴だから解析早い早い」


 それにあいつが俺の知識を見ている様に、俺も気が付かれないようにあいつの知識を覗いているので、テスト中に黒板に公式が書いてあるような状態だ。


「後は、どのタイミングで仕掛けるか、だ」


 俺の見立てでは、今日の夜にファレと共にこの家を脱出する予定だろう。ここで立ちふさがる関門は二つ。

 一つは俺に掛けられた従属術。もう一つはアリアンだ。従属術はこの家を出た瞬間にこっちで解けば良いが、


「絶対に現れるよなぁ……アリアン」


 今のうちに断言しておくが、昼スノゥであいつには勝てない。はっきり言って地力が違う。

 おそらく十中八九で負ける。俺でももう少し分が良くなる程度。


「仕方が無い、当たって砕けろの精神でいこう」




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 さて、ルグ子爵家の管理する森の入り口にたどり着く。が、そこがただの森で無いことはすぐに分かった。


「何この森、なんか変な感じがする」

「うむ、何かしらの術が掛けられておるな。おそらく指定の手順を取らないと永遠にさまよい続けるような物じゃな」


 試しに内に居る巨人達全員に緊急で問いかける。


 ―――相談者・小さな巨人

 森の中に目的地があるのですが、森自体に強力な術が掛かっており、このまま突入すると場合によっては戦闘すること無く負ける可能性があります。

 何か術を破る良い方法は無いでしょうか?


 ―――回答者・巨人代表

 巨人となるとその手の術に対して、あまり対抗手段を持っていません。そういったときは自らの肉体に任せるのが良いでしょう。

 巨人の中にはこんな言葉があります、罠なら罠ごと踏みつぶせと。


「……駄目だ、元から期待してなかったけど対策法分からない」

「ある意味予想通りじゃの」


 全く、何か良い手段は無い物か?


「いっその事、木を切り倒しながら前進する?」

「お主も順調に巨人思考に染まっておるな」


 さすがに無策過ぎる。と言うわけで却下。

 二人で頭を悩ませて居たところ、何かが足下を通り過ぎる。


「うぇ?」


 通り過ぎた物体に対して視線で追うと、森の入り口に白いウサギが居た。そしてその口には見覚えのある小さな革袋。


「あれ、私の財布だ!」


 そのまま森の中に走って行くウサギ。


「待て! それは食べ物じゃ無い!」


 盗られた財布を取り返すためにウサギを追いかけ始める。氷の剣が何かを言っているようにも聞こえるが、それよりも財布だ。


「返せ、私の全財産!」

「待て、落ち着け! 罠の可能性もあるぞ!」


 ええい、待てこのウサギ!




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 脱出の方法は非常にシンプル。玄関の扉はカギが掛かっており、事前調査で窓にも防護の術が掛かっており、内側から壊すことは難しい。

 だけど、あんまり気が進まない話だが、あの異物、いや、夜の私が立てた作戦は非常にシンプルだ。


「どうやって出るの?」

「こうやって出るの」


 破るのは、蝶番の部分。そこに水を掛けて凍らせ、術でいっきに 

成長させる。


 氷が蝶番を破壊し、扉がそのまま倒れる。それを見てから、二人で家の外に飛び出す。


「さて、ここからはどうなるか分からないから、気を付けて行くよ」

「うん!」


 そのまま走って家を離れる。


「スノゥ、前!」


 前に人影、いや、木で出来た使い魔。木の枝や幹をそのままダイレクトに組み上げたやや不格好な存在。


「アイスクラッシュ!」

「ええと、ファイヤースピア!」


 氷の塊が相手を押しつぶし、動こうとした瞬間にファイヤースピアが直撃して燃え始める。

 二人で足を止めずに走る。そうして五分くらい走ったところで一度足を止める。


「大丈夫、ファレ?」

「う、うん……大丈夫」


 周辺に敵が居ない事を確認してから、二人で座り込む。


「上手くいったね」

「でも、安心するのはちょっと早いよ? まだ、森を抜け出した訳じゃ無い」


 ファレにちょっと待っててと告げて、木より上に飛び上がって方向だけでも確認しようとする。


「……なるほど、一筋縄では行かないわけか」


 目線の先に広がるのは、尽きることの無い森。おそらくだが、幻覚と方向感覚を狂わせる仕掛けが施されており、指定の手順を介さないとこの状態が続くと言う事だろう。


 下に降り、ファレと共に歩き始める。そこから襲いかかる木の使い魔を倒しながらだいたい三十分ほど歩いたところで、開けた場所に出る。

「遅かったね、妖精くんにファレ」


 広場の真ん中に、知識にあった男が立っていた。


「さて、散歩の時間にしては遅い時間だね。行かんな、子供は早く帰って寝らないと」


 次の言葉を聞く前に、フリーズブラスターを放つ。


「スノゥ!?」

「ファレ、あれは敵よ」


 でも、と言う言葉を遮り、氷で槍を作る。フリーズブラスターは男が出した炎の壁で相殺された様子。


「なかなか。あの人格を消して、せっかくかわいいお人形にしてあげたのに、そんな風に育つなんて、造物主の私は泣いてしまいそうだよ」

「どの口が言う……!」

「まあいい、夜中に外を出歩く悪い子供は、お仕置きしないとね!」


 放たれる三つの火球に対し、ファレが前に出る。


「アクアウィップ!」


 振るわれる水の鞭が火球をかき消しながら迫る。


「アースウォール!」


 地面からせり上がる壁が水を防ぐ。その隙に接近し、壁を飛び越えて槍を突き込む。


「貰った!」

「甘いよ」


 男の両手から放たれる火炎放射。さすがにこの熱量は不味いので全力で後退、数瞬前に居た場所を炎が薙ぎ払う。


「降り注げ、アースバレット!」


 飛ばされる石つぶてをバックステップで回避する男に対して、アイスニードルで追撃。


「なかなかに芸の細かい!」

「お褒めに預かり恐悦至極とでも言えば良い?」


 さらに槍を突き込みながら、相手に攻める隙を与えないようにする。


「しかし、あの魔石製造機がここまで戦えるとは」


 ファレをそんな風に呼ぶな。その思いを込めて、エルフィ・ゼクスを呼び出す。

 今回は全員が無手。平たく言えば術を使うように指示を出す。


「高位の妖精はこんな風に下位の妖精を呼び出せるのか。なかなか有意義な発見だな」


 六方向からのフリーズレイや私の槍を避け、そしてファレからの援護を防ぐ。


「……厄介ね」

「ははは、子供をあしらう事くらい出来なければ、実働隊にはなれんな」


 何か気になる事を言われたが、追求するのはこいつを行動不能にしてからだ。

 何度目かの攻撃で、ようやく男の膝にフリーズレイが当たる。一瞬体勢を崩した瞬間に、こちらも槍を突き込もうとして。


「きゃぁあ!」

「ファレ!?」


 ファレの声に振り向くと、先ほどの木の使い魔がファレを後ろから殴り飛ばしていた。


「よそ見はいけないな」


 致命的な隙を晒した私の腹を、石で出来た刃が貫いた。


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