夜の隠し事とメイドと
「ねぇファレ、眠そうだけど大丈夫?」
現在は朝ご飯中。今日も美味しそうなパンとスープ、それに目玉焼きまで付いている。
そんな食事を目の前にしながら、ファレは非常に眠そうな目をしている。
「うん、だいじょぶ……」
いや、そんなご飯食べながら頭揺らしてても説得力無いから。
「夜、何かあったの?」
「うぇっ!? い、いや、何もないよ?」
もの凄く怪しいです。
でも、ファレが夜中に何かしていたとして、隣で寝ている私がソレに気がつかないのはおかしい。
本当に何も無かったかどうか、深く思い返してみる。
「むむむ」
一緒に寝て、それから、起き上がって……!?
まって、こんな事、私覚えていな、
「そこまでだ、昼間の」
不意に、記憶が真っ黒に塗りつぶされる。
「今お前に俺の存在がバレるのはちょっと不味い。だからもう少し気付かないふりをしていろ」
そのまま何もかも真っ黒になって、
「すのぅ?」
「あ……いや、何でもない」
今は眠そうなファレを目覚めさせて、身だしなみを整えないと。
ファレの首筋に氷の塊を押し当てて、強制的に覚醒させ、服を整えた頃にはもう、いつも通りになっていた。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
やはりファレの飲み込みは早く、もう基礎は完了したと言っても良い。でも、これから先は基本攻撃術になるから、この場所では狭すぎる。
「やっぱり広い場所が必要なんだけど……」
そんな場所は逆立ちしてもない。外には出られないし、ひたすら基礎を固めるか?
「ねえねえスノゥ」
「どうしたの、ファレ?」
「広い場所が必要なんだよね?」
鋭すぎる質問に、私は首を縦に振って答える。
「じゃあ、付いてきて!」
そう言って、ファレが案内してくれたのは、階段下の物置部屋。そこの床板を外すと階段が現れる。
「こんなのあったんだね……」
「こっちこっち!」
そのまま氷で出来た階段をしばらく降り続けると、この家が丸々収まるのではないかという大きな空洞に出る。
「これくらい広ければ問題ない?」
「うん、すごい! これだけあれば練習一杯できるよ!」
ファレの頭を撫でて、周囲を見渡す。
周囲は石造りで、なかなかに堅牢そうだ。確かにこれであれば魔法を乱射しても外には漏れなさそうだ。
「じゃあ、初等術の練習が出来るね!」
「やったぁ!」
氷で出来た的を用意し、ファレを前に立たせる。
「前に本で読んだ通り、初等術はその属性の魔力を球にして撃ち出すものだから、」
アイスボール! と私が氷の塊を撃ち出して、的を一つ破壊する。
「じゃあ、ファレもやってみて?」
アースボール。ウォーターボール、ファイヤーボール、ライトボール、シャドウボール。
「あれ、ウィンドボールは?」
「えっと、なんでか上手く風の球が……そうだ!」
次の瞬間、ファレが勢いよく手を振る。すると風の球ではなく、風の刃が的を切り裂く。
「……ウィンドカッター?」
「出来た出来た! これどうかな?」
うん、上出来です。風の球じゃなくて刃っていうところで先行き不安感じるけど。
「よ、よし! じゃあ、少しずつしっかりと練習していこう!」
こうして、私とファレの術練習が幕を開けるのだった。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
よく分かる術教本という物が、この家には存在した。
それは今まで発見され、人間が取り扱える術を記した術士達の辞書だ。
無論、ある程度術もカテゴライズされており、大きく分けて初等、中等、高等に分けられる。
その中でも初等に分類される物は各種球体の属性魔力をぶつける物だ。これが各種ボールに分類される。
では、俺の各種魔法はどこに分類されるかというと、基本は中等だ。
形状変化までは初等に分類だが、それを魔力ではなく物質に変換するという部分で中等に当たる。
例外は収納の術で、これだけは高等術に分類される。これが初等だったら、習得までにそれなりの時間を要した俺は泣いて良い。
ともかく、ファレは気付いていないが、非実体の各種属性魔力をぶつける、という初等魔法を通り越し、物質化という中等の域に到達している。
ま、俺も最初から中等術は使っていたのだが。
「えーっと、シャドウアロー!」
黒色の矢が、的を射貫く。
「よし、これで属性魔法全部の整理が出来たな」
頭を撫でながら考察を続ける。
ファレが今行っていたのは、初等術であるボール系魔法、この球というのが少々扱いにくいというファレの言葉があり、
自分のイメージする扱いやすい形状で出来ないかを試していた。
「うん。全部出来たね!」
それぞれ石つぶてのアースバレット、水のマシンガンなスコールショット、大きい炎の槍のファイアスピア、風の刃ウィンドカッター、収束した光をぶつけるフラッシュレンズ、そして闇の矢を撃ち出すシャドウアロー。
術とはイメージを地で行っていた俺にとっては中等術が初等の様なものだ。
だから、基礎固めは昼間のがやってくれているから、こっちはこっちで術を教え込むのが良いかもしれない。
「よし、じゃあ、使い込んで自分の体の延長の様にするぞ?」
俺もアイスニードルやアイスクラッシュを練習しながら考える。
現在時点で俺の方は術式のほぼすべて掌握、残りの部分も解析自体は終了しており、勝負のタイミングでこれを一気に制圧して、離脱を計る。
しかし、これをすると一つの問題が発生する。
「昼間のがなぁ……」
昼間の人格が、このままでは消失する。
発生自体はアリアンに掛けられた術では無いのだが、あいつの人格が運悪く絡め取られてしまっている。
それを除去するのは出来るんだが、それをやると今度は俺の人格があいつの人格を押しつぶすことになる。
何か良い手段は無い物か、
―――体を作る?
いや、駄目だ。あいつの核となっている物は俺にとっての核でもある。
似たような物はあるが、あれは似ているだけではっきり言って模造品以下だ。存在としての格が違う。
―――統合?
無理だな。水と油過ぎる。あいつが秩序なら俺は混沌だ。言い換えればあいつが委員長系ツンデレキャラなら俺はフリーダム系不良キャラだ。
―――分割?
しかし、分割って言ってもどうにかするのは難しいし……いや待て。
俺には闇に適性があり、同時に光にも適正がある。適性はあくまでも適正で、相反する物が同時に存在する事はあり得る。
光と闇が合わさり、最強に見えるこの方法があった。
「よし、そうと決まったら練習だ!」
早速俺は闇と光の術を練習し始めるのだった。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
「広くて大きいね」
「ああ、あの小さかった村がここまで発展を遂げているとはのぅ」
目の前にあるのは、大小様々な石で出来た建物に、辺りで投げ売られている高級品のはずの術具や魔導具。
そして今居る中央広場と呼ばれる場所にはどういう理屈か解らないけど宙に浮かぶ四角い物体。
「これは全知を記していると呼ばれる物体の想像図を芸術家が作った物だよ」
確かにその物体の下には『万物を記した天の書記』と書いてあった。
「ま、初めてここに来た人は皆驚く物さ、ようこそ侍女の姉ちゃん、術研都市『リブラリ』へようこそ」
スノゥ様の気配をたどってたどり着いたのは、当初目的地としていた場所だ。
「しかし、ここに何か手がかりってあるの?」
わずかに感じるスノゥ様の気配を頼りにここまで来たのは良いけど、さすがに何も手がかり無しで探し当てるのは辛い。
「なぁ、チェルシーよ。あの店先に飾られている服……」
氷の剣の言葉を受けてそちらに目をやると、ガラス越しに飾られている子供用の服。
なんか、灰色に白く散らした雪の結晶模様の上着に、白いシャツ、極めつけは同じデザインのプリーツスカートとかいうもの。
「あれ、どう考えてもスノゥ様の服だよね?」
「あんな服を着ているのはスノゥ以外見ないの」
そのまま服屋に入る。
「いらっしゃいませ、紹介状は」
「無いけど、少し聞きたいことがあって」
外の服の事で、と応対に出た店員に言うと、目が鋭く光る。
「あれ、どこで仕入れたの?」
「……これはこれは、当店のオリジナルモデルを仕入れたなどと」
しらを切ろうとする店員に対し、こちらはわかりやすく事実だけを突きつける。
「そもそも雪で出来た糸を紡げるのはあの人位だし、あの一歩間違えたら下着まで見えそうなデザインのスカートをはくのはその知り合いしか居ないんだよね」
さて、どう出てくるか?
「お客様、奥へどうぞ」
そのまま誘いに乗り、店の奥に入る。
「こちらになります」
店員がドアを開け、中に入るように促してくるので、そのまま足を踏み入れる。
「中には四人」
「ありがとう」
氷の剣からの助言を受け、部屋に入った瞬間に扉が閉じられる。
そして下卑た笑いを上げる男達。
「では、いざ」
いつも通りにスカートの端をつまみ、右足を後ろにやりながら一礼。踵で巨人の手斧を蹴り上げて受け止め、
―――私による蹂躙が始まった。




