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術式! 追跡!

 夜になり、ようやく自由になる。自分の意識はあるのに動かせないという状態はなかなかにキツい。

 物置小屋の魔法陣に魔力を送り、水色に染まる魔石をいくつも作り上げ、そしてポケットの中に忍ばせる。


 術の本を読み、何か使える情報は無いかを確認する。


「うーん、やっぱり基本術に関する記述ばっかりだな。術具の作り方は載ってるけどそれもたいしたことの無い物ばっかりだな」


 いかにしてここを抜け出すか、そしてあの男、アリアンを出し抜くかと言う二点。しかも氷の剣は手元に無い、

 おそらくここを抜け出すと同時にアリアンとは戦う事になるだろう。だから備えだけはきちんとしておかないと。


 だからこそ、日中でも俺が自由に飛び出す事が出来る様にならないと。このまま封印されたままでいられる物かよ。


「しっかし、このスパゲティなんとかならんか?」


 自身に掛けられた封印術、その魔法陣を眺める。


 起点からあっちこっちに式が飛び飛びで配置されており、解読が一向に進まない。

 今の表人格が動いている間、裏で必死に解読を続けているのにこのザマだ。全く、あの優男め、今度会ったらナイトロジェン顔にぶっかけしてやる。


 そうやって月明かりの下でひたすら解読と魔石生成を続けていると、ドアが開く音が聞こえ、とっさに雪のナイフを構えて振り向く。


「スノゥ?」

「なんだ、ファレか」


 雪のナイフを消して、ファレに歩み寄る。


「どうしたの? 寝ないと明日起きられないよ?」


 精一杯表人格の演技を行い、部屋に戻るように促そうとするが、


「ねえ、あなた誰? スノゥは?」


 ……存外に鋭い。


「どうしてそう思った?」

「いつものスノゥはやわらかい感じだけど、うーん、かたい?」


 おそらく意識の男女差という感じか?


「ま、確かに昼間の俺じゃないな。それでもスノゥである事には変わりねぇな」


 いきなり口調が変わった事に、目を丸くするファレ。


「な、大した問題じゃないだろ?」

「いつものスノゥはどこ?」


 その目には警戒という言葉がはっきりと映っている。


「慌てるなよ、あれは昼の顔とでも言っておいた方がいいか。まあ、本来は俺がスノゥである訳なんだが……」


 昼の顔? と首を傾げるファレの頭を撫でる。


「わぷっ! やめてよ!?」

「おお、チェルシーとはまた違った感じ。これはこれで……」

「チェルシー?」


 少し興味を持ったらしく、少し話をしてやる。


「まあ、俺が拾って育ててる最中のメイドでな……」


 術式解析を行いながら、チェルシーの事を話す。無論、ありのままにほんの少しだけ話を盛ってだ。


「凄い凄い! そんなに力持ちなんだ!」

「おーう、あいつの怪力は凄いぞ?」


 そうやって話して居る内に、少しずつ船を漕ぎ始めるファレをベッドへ戻るように促す。


「ああ、そうそう。俺の事は昼の俺には内緒な?」

「なんで……?」

「まあ、あいつと俺じゃたぶんソリが合わない。ま、いずれ気付かれるだろうがその時まではおとなしくしてるさ」


 嘘では無い。たぶん、俺とあいつは合わない。そしてこっちは推測だが、あの人格の元となっている存在は俺の存在自体を許すことが無いだろう。


 存在を知ればきっと、殺し合いになる。


「代わりに外の話、してやるからな?」

「でも、内緒にするのっていけないと思う……」

「いい女は秘密を抱えている物だ。ま、とにかくお願いな」


 そうやって頭を撫でて、一緒にベッドに入ってやる。今日の魔石生成も終わっているので。後は寝床で考えるのも良いだろう。


「それじゃ、お休み」

「お休み……よるの、すのぅ……」


 しばらくして、安らかな寝息が聞こえてくる。それを眺めながら、アリアンへの対策を考える。


 次は絶対仕留める。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 空は快晴、降り注ぐ日差しの中、私は斧を振っていた。


「九十九、百!」


 それが終わったら干し肉を囓り、水筒の水を飲む。


「おはよう、娘よ」

「おはよう、氷の剣」


 スノゥ様の愛剣で、伝承に語られる武器である氷の剣から、私の頭の中へダイレクトに語り掛けられる。


「なかなかに様になってきたな。だがまだまだ荒削りだ」

「ありがとう」


 スノゥ様が宿場町の宿から消えて一週間が経つ。

 いきなり消えて取り乱した私に、魔力の残滓を感じとった氷の剣が、何者かの召喚で呼ばれたという。


「しかし、本当に探しに行くのか?」

「当たり前だよ。だって奴隷になった対価の内、衣食の保証が完璧じゃ無いからね」


 悪魔ならぬ妖精との契約をした身としては、きっちり契約は守って貰わないと。


「ちなみに契約を反故にされた場合はどうするんじゃ?」

「これで頭からざっくりと」


 斧を掲げて見せてから、ポケットに仕舞い込む。氷の剣は「最近の若者は怖い」と呟いていた。


「そろそろ出発しましょう。気配を感じるんでしょ?」

「ああ、西側じゃな。ワシとしては迎えに行かなくても良いんじゃ無いかと思っておるが」

「へし折りますよ?」


 そんなやりとりをしながら、西に向かって進む。道のりは、遠い。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「じゃあ、やってみて?」

「うん!」


 いつも通りの昼下がり、リビングの隅で行うのは、術の練習。

 ファレの手のひらに集まった魔力が、光になって集まる。


「じゃあこれを火にしてみて?」


 目を瞑ったままのファレに声を掛けると、光がゆっくりと小さな火になる。


「うん、上手上手! 次は石になるようにゆっくり思ってみて?」


 今度は炎がゆっくりと灰色の石に変わる。


「うん、でもこれちょっと柔らかいね」


 外見は石だけど。魔力が石に変化しきっていないので、その部分が柔らかくなってしまっている。


「上手くいかないね」

「焦らないことが大切だよ?」


 現在やっているのは、ファレの術訓練だ。きっかけは非常に単純で、ファレが「私も術って使ってみたいな」という一言からだった。

 こうやって基本の練習を行う事で、魔力を使うことに慣れていくのが大事だ。


「今度はどう?」

「うん、ちゃんと石になってるね」


 この練習を始めて一週間、なかなかに飲み込みが早く、正直驚いている。

 私自身も必死に練習し、この家にあった本を読んで効率的な練習方法を学んだりしてなんとか追い抜かれまいと必死だ。


「見て見てスノゥ!」


 ファレが見せてきたのは、水で作られた杖のようなものだ。


「アクアロッド!」

「……凄い才能ね!」


 追い抜かれまいと思ったけど、これあと少しで追い抜かれる。


 より一層の努力を行う事をここに誓うのだった。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 夜、私とスノゥが布団に包まれて眠る。といっても実際に眠る訳じゃ無い。


「スノゥ?」

「おう、ファレ、こんばんは」


 ちょっとぶっきらぼうな声を出すのは、夜のスノゥ。

 二人そろってベッドから飛び出すと、夜のスノゥは手に氷の塊を。私は水の玉を呼び出す。


「お、早くなったな」

「うん、昼のスノゥも褒めてくれたよ!」


 そのまま水の玉から火、石、風、光の玉に黒い玉まで素早く変換する。


「よし、じゃあ今度は杖の形にしてみるか。さて、毎日言っているけど、大事なのはイメージだ。考える事も大切だが、まず感じるんだ」

「うん!」


 そうやって魔力が形を変える。魔力が粘土のように変化し、各属性をモチーフとした杖が出来上がる。


「どうだ? 今自分の中でこれが得意だって属性はあるか?」

「うーんと、どれもおんなじかな?」


 やはり出来上がる魔石から、属性の偏りが無いって事だな。


「やはり、満遍なく鍛える必要ありか」


 しかし、実践的な練習をしようにも、それを行える空間がない。部屋は狭いし、外に出ようとすればおそらくバレる。何か良い手段は無いだろうか?


「ああ、そうか。無ければ作れば良いのか」

「スノゥ?」


 何も難しい話では無かった。ここでもいつも通りだ。


「しかし、収納の術の応用は危険だし、やはり物理的に広げるか」


 そうと決まれば話は単純。一階まで降りて、階段裏の物置スペースにたどり着く。


「どうしたのスノゥ?」

「手狭だからな、ここ。練習場を作ろうと思った」


 床板を剥がして、露出した地面に対して、魔法陣を描く。俺の記憶が正しければ変換の式だ。


 刻まれた対象を、自分の魔力に近しい物に変換するというものだ。『凍てついた銀河』白銀竜と戦っていた頃に氷の剣からの横流し式だ。

 なお、『凍てついた銀河』で利用しなかったのは、どうあがいても俺が使うと氷か雪にしかならないので全く意味が無いからだ。


「これ、なんなの?」

「ああ、これから地下室を作るに当たって、土が邪魔だから氷にしようかと」


 ファレの質問に答える。氷にしてから除去すれば俺が楽になると思ったからだ。


「じゃあ、ファレがやったらどうなるのかな?」


 ……それは面白そうだ。氷の剣なら真っ先にワシに見せろと言うだろう。


「じゃ、やってみるか? この家が丸々収まるくらいの大きさが良いんだが」


 うん、と手を握りしめながら魔法陣の上に立つファレ。

 そして、魔法陣に魔力が送られる、白い光。それが魔法陣の隅々にまで供給され、白く輝く。


「えーい!」


 魔力が爆発し、周囲一帯の地面が白く染まる。


「うん、石か? いやそれにしては白濁して……!」


 地面を叩き、判別して解った。最初はただの石かと思ったが、これ全部魔石だ。しかも全属性の。


「どう、スノゥ? 凄いでしょ!」

「ああ、凄すぎて言葉も出ねぇわ」


 まずやるべき事は、この大量の魔石をどうするかを考えることだった。


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