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内に宿る者の戦い

 一緒のベッドに入って眠るファレを起こさないように、静かにベッドを出る。各部屋を確認し、仕事部屋の脇にあった椅子に座る。


 自身の中にある知識の整理をするためだ。


 特に、一番割合の高い知識だ。これが、私の置かれている状況を示してくれる存在だ。


 創造主の知識の中に、過去を掘り返す必要は無いという物と、無理に引き出すと頭痛に襲われるのでやめておいた方が良いという知識があった。

 だが、今から行うのは未知の知識を確認するという物だ。こうして自身を誤魔化す事で制約を無視して様々な事を確認出来る。

 未知の知識が真っ先に教えてくれた創造主の知識に対する対処法だ。


 これのおかげで知識の確認が出来る。


「ん? これ……」


 見つけたのは、わずかな断片。私が何かを持って、巨大な物に立ち向かっている。

 それに付随して、様々な戦闘に関するイメージと、大量の作りかけの術式。そしてもう一つ。


「私自身を封印している術式?」


 かなり大きな式で、複雑に絡み合った式が乱雑に巻かれた糸のようになっている。


「……スパゲティコード?」


 未知の知識が教えてくれる言葉、式そのものをコードと呼び、その構成が整理されていない物の事をそう呼ぶらしい。

 そうして気がつく。私が造物主の知識と呼んでいる物が、その術式に食い込んでいるという事を。


「……どういうこと?」


 そこまで考えた時点で私の視界が真っ暗になった。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 体の自由を取り戻す。


「くっそあの野郎、念入りに封印しやがって!」


 まず、目を覚ますと体が勝手に動いた。そしてすぐ目の前に居た子供と友達になった。

 まるで、一人称視点で映画を見ているような気分だった。


 こっちもこの状態で出来る事がないかを確認していたが、自分の中に刻まれた何かを見る事が出来た。

 目の前の出来事では変わったことが起こった時以外は気にしないようにし、ひたすらその術式を読む。


「ええい、DOS時代のプログラマか! 自分の術式に酔ってスパゲティっていやがる!」


 まずやることはスパゲティ化している術式をしっかりと整理し読みやすくする。これが出来ない事には何も出来ない。

 合わせて、読み解けた部分に記憶封印処置などその他諸々の防衛手段が含まれていたので、一時的な子供だましの防御手段を講じておく。


 内容は単純。術式が過去記憶を探索するという内容で頭痛を引き起こすのなら、あくまでも知識検索を行うと言う名目で全知識にアクセス出来る様にする。


 式が進化するのなら数秒たりとも持たない手段だが、なかなかに効果を発揮している様子。


 そんなこんなでいつの間にか外も夜になっていた。この時点で解析率はわずかに数パーセント。だが、一つ大きめの内容の解析に成功し、逆算して一部を無効化する事が出来た。


「まったく、この術式は日光充電かよ……!」


 しかし、制限時間付き、なおかつ夜の間のみと来た物だ。体を良く伸ばし、体の具合を確かめる。


「封印術、って奴か? 大分押さえ込まれてる」


 今の俺は雪妖精の体相応スペック程度しかなく、氷の剣より重い物を持ち上げられない状況まで落ち込んでいる。

 今の状態では巨人の手斧をなんとか抱える事が出来る程度だろう。


「全く誰が白痴なおもちゃだ、あのいけ好かない優男め」


 だいたいマグロ状態の体なんぞ弄っても弄っている本人以外興奮などしないだろうに。

 おっと思考が逸れた。今はこの状況に対する対策を立てないと。


「うかつに解くわけにもいかんな。すぐに解除というわけにもいかんし、情勢をもう少し読んでからでも遅くは無いな」


 それに、俺だったら術式を解かれた時点でアラートを発生する様に仕組む。相手がそうで無い保証は無いから編纂して、解くときは一気に解くようにする。


 今俺の表層に出ている意思はおそらくあの優男が作った意思だが、こっちが少し誘導すれば食いつく様な性格、いわゆる探究心の様な物も感じられる。


 だからこそ、少しずつ餌を撒き、こっちが動きやすいように土壌を整えよう。


 今後の方針が決まったところで、部屋の中央にある作業台に手をのせて魔力を放出する。


 俺の魔力が魔法陣を満たし、魔石を少しずつ生成する。これもまた切り札となるだろう。そこでふと、窓の外を見上げる。

 外には、星空と月。今頃氷の剣とチェルシーも同じ物を見上げているのだろうか?




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「うん……」


 まだから入ってくるわずかな光が、目を刺激する。

 もう少し寝ていたいと体が訴えるけど、努めて無視して目を開く。


 どうやらいつの間にか寝てしまっていたらしく、ベッドに戻っている。隣にはファレが安らかな寝息を立てている。

 その金色の髪をゆっくりと撫でる。ふわふわとした感触が気持ちいい。


「うゆぅ?」


 おっといけない、ファレを起こしてしまったか?


「……おはよう」


 眠そうに目を擦りながら挨拶をしてくるファレに、私も挨拶を返す。


「おはよう、ファレ」


 かわいらしい笑顔を浮かべてくるので、こちらも笑顔を浮かべた後、服を着替える。

 食堂に向かうと、すでにパンとスープの入った鍋が置かれている。ファレがスープを皿に掬い入れる。


「スノゥの分は?」


 確かに用意されているパンとスープはファレの分だけだ。私の分は無い。


「大丈夫、妖精は元々食事をしない存在だから」


 魔力さえあれば食べる必要がない。それに、ファレから漏れ出る力だけでも結構満たされるのだ。

 そう考えると、ファレの魔力量は相当な量があると考えられる。少なくとも人間の枠に収まらないレベルはあるのだろう。


 ここに閉じ込められているのもそういう理由があるのだろう。


 ―――だったら制御を教える必要があるかも。


「ねえ、ファレ? いつものお仕事が終わったら、教えて欲しい事があるの」

「うん、いいよ!」




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「はい、たぶんこれがその本だと思う」


 仕事場にあった本を一冊手渡してくれる。


「でもどうしたの? いきなり術に関しての本が欲しいって」

「少し気になったことがあるから」


 今日は読書をして過ごすと決め、ファレはとらわれのお姫様を助けにいく騎士の話を読み始める。

 今更こんな本を読まなくても、知識自体はすべて備わっている。必要なのはこの知識が正しい物なのかどうかだ。


 まず属性は主に六つに分類されるとのこと。基本となる属性に、そこからから特定の属性だけを強調して使うもの。


 前者が表六属性、後者が裏六属性と呼ばれ、基本六属性は聖戦士、裏属性は魔王が使っていた属性とされ、それぞれ聖戦士の術、魔王の術と分類もされている。


 表属性は。まず地水火風。これはいわゆるメジャーの属性、そして珍しい属性として光と闇。


 これらは基本自然現象に作用させて使う術となる。

 裏属性は地から金、水から氷、火から熱、風から念という各種動かすという特性を強調した物。


 そして光から太陽、闇から月。


 魔力の中にはそれぞれの属性が内包されており、基本すべての属性が含まれているが、当然ながら人によってその属性に偏りという物が存在する。


 私の場合は水に偏っており、相反するとされる火の内包量は少ない。


 おそらくだが、ファレがここに閉じ込められているのはあの魔石作りが理由になるだろう。


 さらに本を読み解くと、ありがたいことに魔石に関しての記載があった。魔石は魔力が結晶化された特殊な石であり、属性によって色が変わる。


 また、術具を動かすために用いられ、その際には全属性を均一化された魔石が用いられるとのこと。

 そして全属性の籠もった魔石は白濁した石になるという。


 朧気ながらに見えてきた、ファレの閉じ込められる理由。

 ファレは全属性偏りが無い、あるいは偏りが非常に少ないという事なんだと思う。


 全属性を均一化されるのは複数の魔石を組み合わせて生成する必要があり、手間が非常に掛かるとのこと。


「あ、もうこんな時間だ、スノゥ、ご飯食べよう?」


 ファレに声に思考を中断する。辺りを見渡すと、すでに日は落ち始め、夜に近づいて来ている。


「うん、解った」


 本を閉じて、ファレと一緒に食堂に向かう。


「ねえ、ファレ?」

「どうしたのスノゥ?」


 ファレに聞いておきたい事が出来たので訪ねる。


「今、楽しい?」

「楽しいよ?」


 急にどうしたのと言わんばかりのファレに、さらに聞く。


「外に出たいって思ったことは?」

「え?」


 いや、何でも無いとはぐらかし、食堂へと向かう。

 私はファレの友達として、ファレが望む事をするまでだ。


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