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小さな巨人

 風呂に関しては宿代として引き渡すことで決着、無論それで足りない分は現金で頂く。

 ま、例によって魔力しか消費してないから元手タダで大もうけ。金貨一枚分ごちそうさまです。


 それから二日間、主に戦闘訓練をしながら過ごし、マシュウとの約束の日になる。


「よし。これで契約成立だな」


 契約書に俺のサインを入れ、金貨の入った袋を渡される。


「エウドの生活はどうだった?」

「なかなかに有意義だったよ」


 お金と使用人を得て、観光も出来て非常に楽しかった。


「こっちとしても皆の良い経験になった」


 スノゥとチェルシーの戦闘訓練に触発され、警備隊の訓練も充実した物だったらしい。

 それに、途中からチェルシーの実戦経験のため警備隊の人と模擬戦したりといろいろ楽しくやらせて貰った。


「これからどうするんだ?」


 そういえば、ここから旅立つ事は決めていたんだが、どこに行くかまでは決めていなかった。


「そうだな……チェルシー、ちょっと銅貨投げて」

「あ、うん」


 預けておいた財布代わりの革袋から投げられる銅貨をキャッチ。さて、出たのは裏側。


「西に行こうかと思ってる」


 壁に掛けられている世界地図を見る。ちょうどこの辺りが現在居る大陸の東端側になり、西側に進むか、南方面に進むしかない。

 ちなみに表が出たら南に進もうと思っていた。その場合は船旅になる予定だった。


「西か、術研都市の方だな。あっちは様々な術研究がされているって聞くからな。案外居心地良いかもしれん」


 それはなかなかに楽しそうだ。


「正直自己流の術だから、体系化された術とかに触れるのも悪くないかも」


 たどり着けばしばらくは退屈しなさそうだ。


「ま、このままここを出て、のんびり旅をするさ」


 時間はたっぷりあるし、諸国漫遊でもしてみることにする。


「今回みたいな騒動は起こさない方が良いぞ?」

「善処する」

「善処じゃなくてしないって言って」

「そうじゃ、せめてもう少し節度を持て」


 武器と使用人から一斉砲火である。


「悲しみのあまり引きこもるぞ」

「平和的な意味合いではその方がいいかも」

「同意じゃな」


 あれ、チェルシーって俺が主人だよな?


「ま、まあともかくぼちぼち出るわ」

「ああ、君の旅路に幸運を。まあ、妖精がある意味幸運の象徴みたいなものだから不要か?」


 こういうのは気持ちの問題だと思うと返し、詰め所を出る。


「さて、行くか」

「うん、分かった」

「移動手段はどうするのじゃ?」


 乗合馬車とかも考えたが、少し気ままに旅をしたいと思っている。


「徒歩かな」

「スノゥ様飛んでますよね?」


 チェルシーが手厳しい。


「街道沿いに進んでいくのがベストじゃろ」

「ま、それしかないわな」


 というわけでお、一週間近く滞在した『エウド』とも別れ、次の街を目指す。

 しばらくは街道上の宿場町経由でその術研都市を目指すことになる。そうして西門からそのまま街道を進む。


 歩いていると、横を馬車が通り過ぎていく。


「うーん、やっぱり外は空気が良い」


 都会派の妖精ではあるが、やはり自然の空気がたまらない。妖精という種族がそう思わせるのだろうか?


「私はいつも通りとしか思わないかな? でも、自由に歩けるのは存外に楽しいかも」


 そうやって、俺の鞄を持ちながら歩くチェルシー。そのうち俺ごと持って歩いて貰おうか。


「自然はそう変わる物でもないからの。この辺りは昔からあまり変わらんな」


 そうやって他愛もない会話をしながら歩いていると、前の方で先ほど追い抜いていった馬車がなにやら立ち往生している様子。


「何だろ?」


 少しだけ急ぎ足で進むと、前方の様子がはっきりしてくる。


「うーん、なんかデカいのとちっさいのが馬車を襲撃してる系?」

「あ、あれ、オーガとその取り巻きのゴブリンですよ!?」

「なんだ子鬼にその親分か。珍しい物じゃあるまいて」


 よく見ると、用心棒と思われる三人の男達が懸命に戦っているが、あまり様子は芳しくない。

 というか結構統率がある様子で、ゴブリンはヒットアンドアウェイで馬車自体を狙うようにしながら用心棒を攻撃に集中させないようにしている。


「さて、どうするか……」

「え、助けないんですか?」


 無論助ける。ただ、どのタイミングで助けるかがポイントになるだろう。


「劇的に登場した方がその後の謝礼も大きくなりそうだし」

「お主いつか痛い目見るぞ」

「稼げるときに稼がないとな。ま、これ以上引き延ばすと貰える物も貰えなさそうだ」


 そんな話をしていると、用心棒の一人が横合いからの攻撃で膝をついた。


「行くぞチェルシー、氷の剣。まず俺が突っ込む」

「分かりました」

「この事はあとで話し合おう」


 氷の剣のご機嫌がやや斜めだが、それでも助ける事には変わりないので、今は何も言わない様にしているらしい。


「突撃!」


 久方ぶりの翅に全力を込めての飛翔移動。用心棒に向かって棍棒を振り下ろそうとしているゴブリンに、そのまま氷の剣を突き立てようとしたが、勢い余ってゴブリンを貫通してしまった。


「あれ?」

「なっ!?」

「ゲギャ!?」


 用心棒は目の前で起きた出来事を認識出来ずに、オーガはオーガで横やりに驚きの声を上げ、


「え、脆くね?」

「ワシの切れ味を甘く見るな」


 俺は俺で刺さった状態で止まると思ってたのにゴブリンに風穴空ける事になっってしまったことに呆然とする。

 何というか敵役の技っぽくなってしまった。


「え、援軍なのか?」


 膝をついた男のところまで飛び、起こしてやる。


「ま、そんなとこ。もう少しでもう一人着くから」


 そこからゴブリンに向かって飛び掛かるようにして一刀両断。


「今のもカウントして、ゴブリンがだいたい七匹にオーガが二匹か。そっちの兄さんがた、オーガ相手取れそう?」

「四人でなら出来るが、ゴブリン共が邪魔で……」


 なるほど、その上一人が今負傷中。だったら防衛に専念して貰おう。


「早すぎですよスノゥ様」


 チェルシーが急いで走ってくる。それでも結構な速度なので、身体能力が向上していることが見て取れる。


「さて、今大まかに話し合って、俺らがオーガ二体を受け持つことになった。と言うわけでチェルシー、一体よろしく」

「ええっ!?」


 非常に驚いた顔をしているが、俺の見立てでは今のチェルシーよりほんの少し弱い程度。ちょうど良い実戦経験を得る練習台にはなるだろう。


「じゃ、よろしく」


 俺はゴブリンの指揮をしているオーガに斬りかかる。オーガも手に持った巨大な棍棒で氷の剣を受け止める。

 そして、そのつばぜり合いの均衡の中、俺はチェルシーの方を見る。


「えーと、確かこうだったっけ?」


 チェルシーが、スカートの裾をつまみ、広げるようにしながらお辞儀をする。


「それではお客様、私がおもてなしを担当する―――」


 スカートの中から滑り落ちる巨人の手斧を右足の踵で蹴り上げ、空中に打ち上げる。

 打ち上げた斧の柄が伸び、それを笑顔でキャッチする。


「チェルシーと申します。では、お楽しみを」




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 まっすぐ振り下ろす斧を、オーガが棍棒で受け止める。結構力を入れたけど、普通に受け止められた。


「力は、スノゥ様よりありそう」


 一度後ろに飛び退き、構える。そのまま数合打ち合う。オーガが受け止めるときには余裕があるように受けられる。

 逆にこっちが受け止める時は出来るだけ力が集中しないように受け止める必要がある。


「正直遅いけど……」


 振り下ろされた棍棒が地面に食い込むのを見て、あまり正面から受け止めたくないと思う。

 しかし、私自身がここで生きるために、二度と役立たずと捨てられることの無いように。


 そういう物をすべて乗り越えて行きたい、と思った。


「ガァア!」


 再び振るわれる棍棒に合わせて、こちらも全力でアッパースイング。上からの力を味方に付けたオーガの棍棒に対して、下から、やや不安定な姿勢での私の斧。


「あああッ!」


 ぶつかった瞬間、腕に強烈な負荷が来る。衝撃で斧を落としそうになる。もう駄目、と思ったとき、ふと、声が聞こえた。


「どうした、遠き小さな同胞」


 夢に出てきた、巨人達だ。


「ああ、なるほど。この子鬼との力比べか」


 そうだよ、こいつ以外に力があるんです。私自身、結構力自慢だったけどやっぱり人間の限界ってあるから。


「いかん、いかんな。我らの力を受け入れておきながら、この程度の子鬼で弱音を吐くとは。それに同胞は力の込め方がなっておらん」


 込め方?


「左様、我らが巨人は生まれた時から知っている、体の中にある力をあるがままに解放するための物。同胞が無意識に出しているのはその力の断片がほんの少し漏れ出ている程度にしか過ぎん。

 遠き小さな同胞よ、同胞には我らが遠くに道を分けた仲間の子供よ」


 今明かされる、祖先に巨人が居たという事実。


「さあ、もう分かるだろう。血の中に眠る記憶が目覚めれば、自ずと分かるだろう。我らを取り込んだが故、誰よりも小さく、それでいて最強の巨人よ」


 体の中にある流れを止めたり、流したりするのでは足りない。スノゥ様も、無ければ作ればいいと言っていた。


「そう、それこそ巨人の力だ」


 体の中心から一気に流れがあふれ出る。全身を満たすどころか外にも溢れそうな力を操って、腕にとどめる。

 衝撃に負けそうな腕に、力が戻る。そのままかち上げるように上へと跳ね上げる。


「ガッ!?」


 跳ね上げられた棍棒に、オーガが驚きの声を上げる。


「それ、叫べ! 叫びは我が巨人に伝わる原初にして最強の力だ!」

「こんのぉぉぉおおおおおおおおおおお!」


 かち上げた勢いのまま振り下ろす。オーガも棍棒で防ごうとするが、その棍棒に斧が食い込んだ瞬間、棍棒がそのまま砕け散る。


 頭の中に浮かんだ言葉が、そのまま口から零れる。


「ストーンクラッシュ!」


 その一撃はオーガを両断するどころか、地面に突き刺さった瞬間、刺さったところを中心に周りの地面が陥没するほどの威力があった。


「そう、それこそ、巨人の雄叫び。ありとあらゆる物を潰し、生き抜くための巨人の原初の力よ」


 その言葉を最後に、巨人の声が聞こえなくなった。

 振り下ろした姿勢のまま、周囲を見渡す。スノゥ様の方には、十文字に裂かれたオーガが倒れており、ゴブリン達は背を向けて逃げ出していた。


「ご苦労、チェルシー」


 斧を振り上げ、石突きの側を地面に突き刺して保持。そのまま片手だけでスカートの裾をつまみ、


「ありがとう御座います、スノゥ様」


 笑顔でお辞儀をするのだった。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 チェルシーが『はじめてのせんとう』をこなし、俺も久々に全力で剣を振ったので少し満足。

 そのまま是非にと御者さんの厚意に甘えて乗合馬車に乗せて貰い、そして今。


「では、コール。ええと、偶数なのでスノゥさん倍付けで」

「そ、そんな、馬鹿な……奇数が出るはず……!」


 先ほどの用心棒さん達と一緒にさいころでの簡単な賭け事をして時間を潰す。のだがなぜか勝てない。


「いやぁ、妖精さん本当に賭け事弱いね」


 言い返せない。しかも隣でチェルシーが大勝ちしているのを見ているともう本当にやるせなくなってくる。


「スノゥ様と逆に賭ければ当たりそうなんだよね」

「ええい、もう一回だ!」

「駄目だよ、お小遣いは銀貨一枚までって自分で言ったよね?」


 誰だ、こいつに財布預けた奴! 俺だ!


「ぐぬぬ……!」

「賭け事弱いんだね」


 剣闘場では負け無しの俺がこんな子供騙しな賭け事にことごとく負けるとは。

 せっかく発散したストレスを賭け事の負けが込んでまた貯めることになるとは、やはりギャンブルで倉を建てた奴はいないという言葉通りか。


 まあ俺は術で倉を建てるが。


「お、見えてきましたよ、あれが宿場町です」


 遠くに見えるのは木の柵で囲まれた石造りの建物達。街道沿いにある建物は殆どが宿場なのだろう。


「さて、飲むぞ!」

「駄目、明日から歩きなんだからちゃんと準備しないと!」


 さっきからなんかチェルシーが強気に?


「私、解ったの。スノゥ様は主人と思うより手の掛かる家族と思うようにした方がいいって!」


 財布預けたらすぐに中身が無くなっちゃうんだから、と息巻く。


「待て、それだと俺どんなポジションだよ!?」


 んー、と唇に指を当てて考え込み、出た結論が、


「お酒と賭け事に弱いお父さん?」


 身も蓋もない言われようである。


「確かに、金の管理はチェルシーにして貰うのが一番じゃろう」

「ブルータス!?」


 いや、こいつは裏切ってない。最初からこのポジションだった。


「だとしたら氷の剣は子供の教育に失敗したお爺ちゃんかな」

「ワシはこんな子供を育てた覚えは無い!」


 まあ、年齢的に考えると名実ともに爺なんだよなこの剣。

 そんなこんな騒ぎながら宿場町に入り、宿を確保する。そして落ち着いたところで今後の予定を計画する。


 食堂で食事を終え、部屋まで戻った後、購入しておいた簡易の地図を広げる。術研都市までの物だ。


「さて、ルートのおさらいだ。街道沿いの宿場町と中継の都市を経由して術研都市を目指す事になる」


 だいたい二週間ほどの肯定になるとのこと。途中途中にある宿場町と都市を繋ぐようにして進む。


「ええと、確か『ヴァイツ』に『パルチ』に『サマヤ』を経由して術研都市の『リブラリ』に着くんだよね?」


 なお、『サマヤ』と『リブラリ』間は定期船が就航しているのでそれに乗る。最後まで陸路という選択肢もあるんだが、その場合、経由する都市が増えるのでさらに一週間はかかる見込みだ。


「なるほど、船旅か」


 実際、俺も船は初めてなので陸路では無く最後は海路を選んだわけである。


「もちろん、基本的には観光目的だから、面白そうな物があったら見物をしていく感じで行く」


 それには全員が賛成と告げた。


「ついでに地酒のコンプリートを」

「お酒は一日一杯までです」

「お主は少し節制を覚えるべきじゃな」


 フルボッコである。


「じゃあ、明日からの徒歩の旅のため、寝るか」

「お休み、スノゥ様」

「ああ、お休み」


 ろうそくの明かりを消し、お互いがベッドに入る。本当はジャージなんかが寝やすくて良いんだが、チェルシーの断固とした主張により作成する事となったネグリジェで寝る。


 なお、そのチェルシーも色違いの物を着ている。まあ、出ているところが出ているので男が見たら殺人級の光景なのだが。


「でもこれは俺のだから見せてやらないもんね!」


 まさに外道。


「静かにしてください、スノゥ様」


 あ、はい、すみません。祖のっまあ布団に潜り、目を瞑る。近くに誰かがいると言うほんの少しの幸せを抱えながら眠る。


 そして、次の朝。目を覚ますとそこは石造りの部屋だった。


「……何ここ?」


この章はここで終了です。次が書き上がったら適宜投稿します。

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