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メイド教育・戦闘編

すみません、投稿日1日間違えました。

この章はもう少しだけ続きます。

「で、良い夢見たか?」

「……最悪」


 昨日飲み過ぎたチェルシーが、青い顔でさわやかとは言いがたい朝を迎えていた。


「夢の中にまた巨人達が出てきて、この程度で酔うとは何事かって」


 そのまま夢の中でも大宴会になり、強制的に飲まされたそうだ。

 無論、夢の中なので現実にアルコールを摂取したわけでは無い。ただ、精神的に二日酔いどころか完徹状態とのこと。


「取りあえず、水を飲め。飲んで出せばそのうち二日酔いは醒める」


 二日酔いを治すにはアルコールを追い出すのが一番手っ取り早いので、水を飲ませておく。本当は汗をかくのが良いのだが、現在の状態でそんな事をしたら女の子として絵的に不味い自体になるのでさすがに自重。


「……戦闘訓練は午後からな。朝飯食えそうか?」

「……無理」


 死にそうになっているチェルシーに水差しとコップを渡しておき、俺自身は再びメイド服作り。今回は改造を施す。


「スノゥ様、私の服に何を……?」

「ちょっとした細工だ。午後になれば分かる」


 そんなこんなですっかり裁縫も上手になった俺だが、無論今回の改造がごく普通の物であるはずがない。

 そんなこんなで午前中で作業を済ませ、その頃には二日酔いから回復したチェルシーを再び警備隊の訓練所まで連れてくる。


「さて、今日こそ戦闘訓練だが、その前に巨人の手斧をそのメイド服の中にしまってある」

「またまたご冗談を」


 いや、マジだ。


「今までと何にも変わらないけど……」

「さっき改造して収納の術を掛けたポケットとか追加してある」


 出し方のレクチャーをし、早速試して貰う。

 出し方は非常に単純。スカートをつまんで後ろに下げた右足のつま先で地面を叩くお辞儀なのだが、スカートをつまんだタイミングでスカートの裏に付けたポケットから巨人の手斧が滑り落ちる。

 それを後ろに下げた右足の踵で上に蹴り飛ばし、落ちてきた斧をキャッチするという物だ。


「って、いきなり難易度高い!」

「何を言う、俺は出来るぞ」


 手本のため、自分のスカートにも同じ細工を行い、巨人のナイフで今言われた事をやってのける。


「いやいや、その剣は斧に比べて短いでしょ! こっちは柄がもっと長いから!」

「安心しろ、柄の長さは調整出来る様に改造した」


 スカートの中にしまう時は短く、蹴り上げたタイミングで伸びるようにしてみた。ついでに任意で長さ調節が出来る様にもした。術ってマジ便利。


「これ本当に戦闘に関わるの?」

「何を言う、見栄えは大事だ。ほれ、やるぞ」


 こうしてチェルシーの武器取りだし練習が始まった、のだが。


「ほっ!」


 お辞儀と共に跳ね上げられた手斧が頭上まで舞い、落ちる瞬間に柄が伸びる。それを上に伸ばした右手がしっかりと受け取る。


「よし、出来た!」


 なお、所要時間は三十分ほど。


「……早くね?」


 そのまま斧をしまい、もう一度繰り返すチェルシー。今度もしっかりと成功。


「スノゥ様、これでいいんだよね?」

「あ、ああ、合格」


 正直こんなに飲み込み早いと思いませんでした。


「じゃあ、次の練習は簡単、模擬戦だ」

「え?」

「は?」


 氷の剣とチェルシーの返答が重なって聞こえる。俺はそんな事お構いなしに氷の剣を構える。


「いや、よく考えたら俺って物を教えた事ってあんまり無いんだよな。だから実戦で覚えてください」

「え、そんな、冗談、だよね?」

「マジだ」


 チェルシーの顔が青くなる。そのまま踏み込んで軽く氷の剣を振る。


「うわぁ!?」


 斧を構えて、受け止めるチェルシー。そのまま普段に比べて大分ゆっくり目で氷の剣を振るう。


「お、なかなか。頑張れチェルシー! お前ならきっと出来るって、たぶん」

「最後の一言付けないで!」


 少しずつ込める力と速度を上げる。ただ、力に関してはこっちが普通に押し負けるレベルであるので、程なく通常通りになったが、速度はまだまだ余裕がある。

 そうやって剣を振って受けさせ手を繰り返す事三十分。そこには大の字になって倒れているチェルシーの姿が!


「いや、死ぬ……こんなに動いたの、生まれてから初めて……!」


 酸素を求めて大きく呼吸するチェルシー。呼吸に合わせて動く胸が眼福で御座います。


「どう思う、氷の剣?」

「筋はそう悪くない。体も、表面上は変化が無いが、魔力の流れが強くなっている」

「チェルシー、体の内側になんか流れみたいなの無いか?」


 呼吸を整えながら、チェルシーが顔をこちらに向ける。


「なんか、よく分からない物がゆっくり動いてる……感じ?」


 チェルシー曰く、感覚的な事だがその流れは意図して止めたりする事が出来て、止めた場所の力が強くなるらしい。


「後、動かすと、体が軽くなる、かな?」


 少しずつ呼吸が落ち着いてきた様子。さて、そろそろ聞こう。


「それで、咳の方はどうだ?」

「…………あ!?」


 俺に言われて気付くチェルシー。本気で気付いていなかった様子。


「よし、上手くいったみたいで良かった」

「さっきから聞こうと思ってたけど、何したの?」

「それについては宿に戻ってから説明する」


 さ、修行再開だと剣を構える。チェルシーも諦めたように立ち上がり、斧を構える。

 そのまま日が暮れるまで、二人そろって汗を流すのだった。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「端的に言うと、俺の血を飲ませた」

「妖精の血を、私が飲んだの!?」


 いい加減驚きすぎで心臓止まるか血管切れるかどっちか起きそうなチェルシーに説明する。


「よく昔話とかで妖精の血を与えられる英雄っているけど……」


 世界が違っても、血を与えるという物は力の象徴らしい。実際にチェルシーの強化には成功したが。


「ということは、私もいずれ翅が生えたり人間から少し変化するのかな?」


 おとぎ話としては妖精の血を受けて自身も妖精に近しい体質になり、英雄譚としては妖精としての魔力を得ることが出来るという内容が多いそうだ。


「いや、お主の夢の話しを聞く限り、妖精の要素はあまり濃く出ないじゃろうな」


 氷の剣の言葉になんで? と首を傾げるチェルシー。


「スノゥ様は妖精でしょ? だったら私も妖精の性質が強く出るんじゃ?」

「こやつの生まれが特殊でな、ここに至るまで多量の魔物を喰って生きてきた影響で純粋な妖精とは言いがたい状況なんじゃ」

「具体的に言うと、ベースの雪妖精にワイバーンと巨人と支配者階級だった白銀の巨竜を喰ってるからそれらがほどよく混ざってる感じだ」

「どんな節操なしよ!?」


 チェルシーの叫びに、生きるためだから仕方が無かったと返す。そしてそこで何かに気がつく様子を見せる。


「じゃ、じゃあまさか、私の中に息づいている力って……!」


 お察しの通りです。


「実際にはそのほかの要素も混ざっているが、一番強く出ているのが巨人の要素じゃろうな」

「やったなチェルシー!」


 うう、と泣き崩れるチェルシー。


「どうした、巨人の何が嫌だ?」

「だって、筋骨隆々になっちゃうんでしょ?」

「そこは心配ないじゃろ? 妖精の血も受けてるんじゃから体型や体格はそのまま体の内側から強化されるじゃろう」

「やったなチェルシー!」


 違うそうじゃないと、ベッドの隅で体育座りして深く沈むチェルシー。君の未来に幸あれ。


「まあまあ、そんなに邪険に扱うなよ。せっかくお前の咳病も治してくれたんだし」

「治すというか体の機能強化で強制的に回復させたというのが正しいじゃろうが」

「感謝してるけど、してるけどぉ……!」


 ともあれ、こうして夜の時間を、いや、もう一つやることがあった。


「じゃあやってみろ」


 用意されたポットに茶葉とお湯を入れ、しばらく待ってからカップに注ぐ。


「じゃあ、これでどう?」

「少し遅いな。最初よりマシになったが茶葉の苦みが出ている」


 メイド訓練その2である紅茶淹れだ。

 料理に関しては命に関わるため、絶対に仕込めないので紅茶だけはしっかり仕込もうと思った。

 掃除とかは屋敷を持つわけじゃないから必要になったら仕込めばいいか。


「うーん、よく分からないんだよね。私自身紅茶なんて数えるくらいにしか飲んだ事無いから」


 一応手本として最初にやったのだが、いまいち伝わらなかったらしい。


「手本があれば良いんだが、すまんが抹茶の点て方は分かるけど本格的な紅茶の淹れ方は覚えて無くてな」


 熱湯でやること位しか分からん。


「マッチャってなに?」

「紅茶の様に赤じゃなくて緑色の茶だ。点てるのが意外に難しくてな」


 道具もないから自作必須だし、摘み立て茶葉をすぐ加工する必要あるし。


「ふーん……じゃあ、もう一回試していい?」

「いや、今日はもう終わりだ。俺の胃袋が紅茶で一杯一杯だ」


 いやもうかれこれ五杯近くは飲んでいる。お茶請けがあれば問題無いんだが、如何せんお菓子は高い。

というか砂糖自体がかなり高値だ。調味料として買ってるけど、甘草煮込んだシロップの方が重宝しそうだ。


「うーん、仕方が無い」


 少し残念そうにするチェルシー。武器の扱いの時もそうなのだが、教え始めると、かなり貪欲にそれを吸収し始める。

 今の紅茶の淹れ方も一回一回確かめるように、それでいてしつこいくらいに質問された。


 戦闘訓練は、まあ嫌がってはいたが始めるとこっちの動きの一挙手一投足すべて得てやろうというような気迫すら感じた。


「なんだ、紅茶が気に入ったのか?」

「……そんなんじゃないよ」


 ポットを洗ってくると部屋を出るチェルシーに、俺は少しだけ首を傾げるのだった。

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