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強化型試作メイドチェルシー

 さて、メイドと言えば男のロマン。今俺妖精だが。

 主人の事を甲斐甲斐しく世話し、時にはあんな事やこんな事のアバンチュールであったりとするあれだ。

 ちなみに現在は警備隊詰め所の練兵場を少し間借りしている。


「なるほど、奴隷を小間使いとして教育し、メイドという役職に当てるってこと」


 違うチェルシー、そうじゃない。


「まずは俺の呼び方は……今のままでいいや」


 ご主人様呼びも良かったが、今の名前に様付けというのも悪くない。


「時にチェルシーくん、料理は出来るかね?」

「出来ますよ? でも何でか皆させてくれないんですよね」


 なんかいきなり怪しい気配が漂ってきた。


「ちなみに君の料理を食べた人間の反応は?」

「おいしさのあまりいっそ殺せ、と村の男の人たちが褒めてくれました。晴れの日以外はこんなすてきな物を食べたくないとも」


 チェルシーに料理を仕込むのは却下。


「生まれた村ではどんな手段で生計を立ててた?」

「主に森に入ってキノコとか薬草とか集めたり、獣とかを捕まえて売ってました」


 なるほど、ある程度は森に入れる訳だ。そして身体能力はそれなりにありそうだ。

「でも、すぐに動けなくなっちゃって……一撃で仕留めないと逃げられるんだ」


 ん、仕留める?


「どうやって?」

「ええと、薪割り用の斧でこう、えいやって頭を」

「たとえば何の?」


 んー、とあごに指を当てながら答える。


「一番多かったのはラッシュボアかな? 罠で動き止めて貰ってる間に一撃でね」


 あらやだたくましい。


「試しにこれ持てる?」


 氷の剣を差し出してみる。チェルシーが普通に持ち上げる。


「思ったよりも軽いね」


 天性の怪力少女でしたこの子。

 その後も身の回りの雑事で出来る出来ないを聞き、料理以外は全く問題なくこなせることが判明。


「よし、チェルシー。君はバトルメイドを目指そう」

「バトルメイド?」


 バトルメイドとは、通常の基本業務である家事全般に加え、戦闘を執り行う事が出来るメイドである。

 あるメイドは皿やトレイなど身近な物を使いこなし戦い、ある物はモップやはたきなどを武器として改造して戦い、

 またある物は屋敷そのものを武器として、あらゆる罠を駆使して敵を排除したりする。


 そんな主人のために誠心誠意、主人はもちろんお客様の世話、果ては害虫駆除から不法侵入者の排除までをこなすのがバトルメイドである。


「これがバトルメイドだ」


 大げさに語ったが、俺の旅に付いてきて貰う以上、ある程度の、それこそ自衛出来るくらいの戦闘力は必須だ。


「でも、私戦ったことってないんだけど」

「安心しろ、俺も四年前くらいまではそうだった」


 まあ、あれは戦わないと生き残れなかったからだが。


「という訳で、取りあえず今間に合わせだが武器作るわ」


 鞄から巨人のナイフの鞘部分を取り出す。


「えっと、バトルアックスをイメージすればいいから……」


 まずは長さ二メートルくらいの棒を圧縮雪で作り出す。棒の横には鞘部分を支えるための支柱を虹色鋼で何本か作り、それを巨人のナイフの鞘部分の内側にくっつける。


 出来上がったのは、刃の部分だけでチェルシーの身の丈ほどあり、全長でチェルシーの倍はある巨大な斧である。例え鞘を分割して繋いだだけの物でも斧は斧である。


「これ、斧ですか? なんか凄く大きいし手作り感凄い」

「原型は戦斧のブローヴァだな。日曜大工については文句言うな。金入ったらちゃんとしたの整える。それまではそれがお前の相棒だ。大事に使え」


 ちなみにブローヴァとはインドの方のポールウェポンで、いわゆるバルディッシュなどに代表されるクレセントアックス系の武器だ。


 本来はしなりの効く木材で衝撃を打ち消すのだが、圧縮雪の柄であれば問題は無いだろう。たぶん。


「取りあえず巨人の手斧とでも名付けるか。じゃ、振ってみ?」


 俺でも結構重く感じる巨人の手斧を渡すと、それをまっすぐ構えて振る。

 振った後止めきれずに地面を叩き、刃が練兵場の床にめり込む。


「うーん、結構重いですね。でもこれくらいなら問題ないか」


 圧縮雪で丸太を作り、振って貰う。あっさりと圧縮雪丸太が圧縮雪薪になった。


「なかなかの切れ味、これ本当に貰って良いんですか?」

「仕事道具の一環だ。肌身離さず持ってろよ」


 というわけで、俺は氷の剣を構える。


「え? なに、どゆこと?」

「さてここからはドキドキメイド教育タイムだ。今日の内容は実戦で学ぶ斧の使いかただ」


 なお、俺に指導という概念はない。戦って覚えてもらうのが一番だ。


「大丈夫、きっと死なない」

「絶対大丈夫じゃない!」


 問答無用。俺が斬りかかるとうまく斧で受け止める。


「そうそう、その調子その調子!」

「ええい、もうヤケだ! こんの悪魔妖精!」


 はっはっは、こんなかわいい妖精を捕まえて悪魔か、いけないメイドさんだ!

 そこから数合打ち合ったところでチェルシーが咳き込み始め、そのまま倒れ込んでしまった。


 俺は忘れていた。こいつ気管支系になんか病気抱えてた事を。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「どう思う、氷の剣」

「旅に連れて行く事は無理だな。これでは動くこともままならないだろう」


 宿に戻り、チェルシーをベッドに寝かせてからしばらく。最初は荒く咳をしていたがそれも収まり、今は症状的にも落ち着いている。確かに旅は難しいだろう。


 たしか、この手の病気には空気の綺麗な場所で数年静養させるのが一番だっていうのは知っている。


「空気が綺麗……『凍てついた銀河』とか?」

「綺麗以上に凍てつく空気が待っているが」


 対策無しだったらあっという間に肺の中の空気まで凍ってしまう。かまくらの場所が一番安定しているが、あそこだって風が凌げるだけで気温マイナスがデフォルト。


「しかし、偶然の出会いとはいえチェルシーの才能は惜しいな」


 実の事を言うと、あの巨人の手斧、俺も持ち上げることは出来るんだが、あれを振り回せるかと言われるとキツい。

 先端方向に重心が寄っていて、振ると遠心力の関係で制御するのにもの凄く力が要る。


「ううむ……」


 氷の剣もそれには同意なのか、少し悩ましい声を上げる。

 しばらく無言の時間が過ぎる。


「……そうだ!」


 チェルシーの枕元まで行き、雪のナイフを作る。


「何をする気だ?」

「いやさ、俺って竜の血肉を喰ったりしてただろ? その結果がこの体だからさ」


 ほんの少しだけ手首を切ると、血が流れ出す。


「俺の血を与えたらどうなるのかなって」

「なっ、待て!」


 待てといわれてももうすでに血が流れて、口に入っちゃったし。

 それなりの量が出たところで術で傷口を凍らせて止血。しばらくチェルシーの様子を見るが、変化無し。


「あれ?」

「ふぅ、焦ったぞ……通常の人間が竜の血を飲めばそれだけで体が炸裂するというのに!」


 え、何それ聞いたことない。


「しかもお主は雪妖精の癖に様々な魔物を取り込み、その体内は混沌と化しているだろう! それをただの人間に与えるなど、正直何が起こるか分からんぞこの馬鹿者!」

「馬鹿とは何だ! 妖精と人間で形状は似たような感じだから問題無いだろうさ!」


 二人でギャイギャイ言い合っている間、チェルシーは寝たままだ。まあ、氷の剣とのリンクで話しをしているので声は出していないが。


「スノゥ様……宿屋では静かにして……他の客もいるんだから」

「あ、済まん。悪かった」

「ほれみろ、自らの従僕に怒られるなどと笑わせてくれる」

「お客様も出来れば静かに……」

「失礼した」


 それから、無言になる。氷の剣は静かになり、俺は俺で暇なので作りかけの骨細工を削り始める。

 で、しばらくして同時に気がつく。


「え、俺今声出してないよな?」

「精神を介しての会話だったはずじゃが」


 氷の剣に目があるか分からないが、視界が一気に寝ているチェルシーに向く。


「チェルシー、体の調子は?」

「……暑くて少しくらくらしてる……なんか、大きな人たちが一杯体の中にいて動き回ってる」


 俺は氷の剣に目線を向ける。


「お主が喰った物の中で数の多い物を考えると、巨人だな。その次にワイバーンで、一番少ないのは雪妖精で七匹だ」


 解説ありがとうカウンターさん。


「察するに、お主の血の中からチェルシーの本能が、巨人の血を選んで取り込んでいるのじゃろう」


 それだけじゃなく、俺の雪妖精としての血も少し受け取っているだろう。竜はワイバーン含め意図的に避けている感じだ。

 人間に近い形状を保つためなのか、器が耐えられないかといった感じか。


「それもあってワシの精神を介する会話も、同人物と見なされて受け取ることが出来たのだろう」

「つまりは程度の低い形での眷属か?」

「そのような話しは聞いた事が無いが、状況から考えるとそうじゃろうな」


 それもまた推察でしか無いが、と氷の剣が締める。


「じゃ、俺はチェルシーの看病でもしてるわ」


 それ以降、氷の剣は静かになった。俺もチェルシーに氷水で冷やした布を当てるなどの対処を行う。

 途中、一時的に看病を抜け出して、約束していた妖精荘の増築作業を行い、宿屋に戻ってくると、そのことにはチェルシーは安らかな寝息を立てていた。


 ぬるくなった頭の布を代え、鞄から取り出したワイバーンの骨を彫りながら一夜を明かすのだった。

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