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プラキュラム神殿

 あの後、メルデスとの落とし前をきっちり付け、金貨十数枚と商品を譲り受けてから宿に戻り、そのまま翌朝までぐっすり眠った。


 気持ちよく寝ていたのに窓から入り込む光がまぶしく、そのまま布団を被る。

 そんな心地よい時間に、体を揺すられる。しばらく抵抗をしたが、あまりにもしつこいので起きることにする。


「おはよう御座います、スノゥ様」

「もう少し寝ていたいんだけど」


 体を揺すっていたのは、簡単なワンピースを着たチェルシーだった。


「もう朝だし、昨日から何も食べてないからお腹空いて死にそうなんですけど」


 確かに、昨日チェルシーを奴隷として譲り受けてから飯も食わず寝たから腹も減る訳だ。


「騙された……」

「昨日も言ったがあの建物からの出し方については特に約束はなかったはずだが?」


 深くため息をつくチェルシー。契約前にしっかりと確認しない方が悪い。


「まあいいや、あそこにいるよりはマシだろうし」

「それについては衣食含めてちゃんと保証はするさ。代わりに俺の世話をするという労働はして貰うが」


 魔力で服を編み、いつものブレザーを作る。ついでに仕事着というのも必要だろうという判断でチェルシー用の衣装を作る。

 黒いドレスに白いエプロン。スカートには雪の結晶をあしらい、膨らんだ肩袖のところには星のように白い色を散らしてある。


 無論、ヘッドドレス、ホワイトプリムとか呼ばれる頭飾りも忘れない。


「これは?」

「メイド服という物だ」


 着替えるように言って、渡す。そのままメイドさんの生着替えショーを見ていたのだが、正直マイサンが無くなってしまっているので何か訴えかけるような物はない。


 ただ、似合っていると思った。


「こんな高価そうな物を……!」

「魔力なので元手ゼロ、ぶっちゃけ間に合わせみたいな物だ」


 足下もボロいサンダルのような物なので、軍隊物と女性物を半々ぐらいでイメージしたロングの編み上げブーツを作って履かせる。

 髪の毛は薄汚れたままだが、メイドとしての体裁は保てそうだ。


「よし、飯にするぞ」


 そのまま宿の食堂に向かい、一般的な尺度で遅い朝食を行う。無論チェルシーも一緒に食べて貰う。


「さてチェルシー、この街には詳しいか?」

「えっと、多少は」

「なら決まりだ。チェルシーが知ってる範囲でこの街を案内してくれ」


 俺が回ると賭場とかそういった場所が中心になるから、いろいろ知っておきたい。


「分かりました、スノゥ様」


 そのままチェルシーを従えて宿を出る。


「で、これからどこに向かうんだ?」

「まずは西側の冒険者通りを案内しようかと」


 冒険者通り? そんなことを思っていると、


「スノゥ様って身分証明できるものってないですよね?」

「存在自体が証明書みたいな物だからな」


 そういう意味じゃないとチェルシーが言う。


「どんな場所でも身分の証明というのは大切です。術技神殿に『術技の書』という古代の術具があって、それに触れることで作られる『技能の紙』と言う物があれば身分証明代わりになるんです」


 農村では近くの街でこれを発行して何かあったときの身分証明として使うんだそうな。


「それにこれにはその人が達成した偉業や自身の使える技や術も書き込まれるそうなんです」


 村に来た冒険者の人に見せて貰ったことがあると胸を張るチェルシー。しかしあの時のボロやワンピースの時は意識してなかったが身長の割にはボンキュッボンだな。

 なんだろう、普段意識していない部分が急に憎らしくなった。まあ、大事なのは大きさではないことは確かだが。


「なるほど、つまり今の俺らは身元不明の不審者か」

「その通り!」


 威張って言うなと思いながら、冒険者通りの中程にある、術技神殿に足を運ぶ。


「ようこそ術技神殿へ。『技能の紙』をお求めですかな?」


 髭の生えた神官ぽい服を着た爺さんが入るなり声を掛けてくれたので、案内に従う。


「では、寄進をいただけますかな? お一人様銀貨二枚になります故」


 そのままチェルシーの分を含めて支払い、神殿の奥へ案内される。

礼拝堂の様な場所へ通され、そのまま部屋の中心にある祭壇に昇る。

 そして祭壇の上には革と宝石で装丁された本が一冊宙に浮かんでいる。


「では、こちらが技能を司る神プラキュラムの持つという技能を司る書、その写しの写しになります」


 神官から語られるのは、この世界における技能についての話しだ。


「プラキュラム神は世界すべての技能という技能を管理する神で、知らない技術はないという神でした。

 しかしプラキュウム神はあまりに膨大な技術を管理するあまり、技術の名を忘れ、廃れさせてしまうと言う事件を起こします。

 彼は失っってしまった今は思い出せない技術の事を思い嘆きました」


 そこから、二度とそのような事がないように世界に対し術を施し、世界にあまねく技術の名を記し、新たな技術が生まれたときに書き加える書を作った。


 その書は開けばありとあらゆる技能の名を知ることが出来るという物であるとのこと。


「あるときプラキュラム神がこの本をこの世界に落としてしまった時、その場に居合わせた人間がこの書を大急ぎで写本し完成したのが原本の写し、さらにそれを写したのがこの書です」


 世界中の術技神殿にこの写しの写しが奉られており、それらは不思議な事に中身を共有しているとのこと。


「これにより昨今の世界中で誕生した技術の名は等しく共有されているのです。そして名はあれど廃れてしまった技術が復活したときは、この書が教えてくれるのです」


 そして術技の書には触れた人間の能力や修めた技術を映し出すという力もあるので、この書の前で嘘をつくことは出来ず、そのすべての経歴をさらされることになるんだそうな。


「ではスノゥ、この技能の書に触れるといい」


 触れると技能の書自体が光を放ち、すぐにだいたいA4サイズの紙を一枚生み出す。


「では、続いてチェルシー、触れなさい」


 チェルシーも技能の書に触れ、同じように紙を生み出す。


「それでは、内容を改めさせて頂きます。まずはチェルシー、あなたにはどの技能にも染まっていませんが、斧の扱いに適正がある様子です。励むと良いでしょう」


 チェルシーに渡された紙をのぞき込むと、自分の名前と共に、斧の適正ありと大きく記載され、そのほかに細々とした裁縫や料理などの技能が刻まれていた。


「あくまでも経験したことがある物を刻み込むだけですので、それがあなたのすべてではないのです。書かれていなくても磨くことで輝く力もありましょう」


 なるほど、あくまでも指針の一つと言うことか。


「では、スノゥ……少々お待ちを」


 しばらく俺の方の紙を眺めながら、うなる。


「失礼、スノゥは妖精ですよね?」

「どっから見てもそうだが?」


 失礼、と渡された紙には、竜殺しと名前の下に記載があった。


「大きな剣と氷の術に適正がある様子です。それ以外にもあなただけの技も存在する様子です。これからも精進してください」


 たぶんだが、竜殺しにビビられたんだろう。ドラゴンキラースノゥ、なんかすぐ打ち切られそうなタイトルだ。


「では、スノゥ様はいくつか技をお持ちですが、技を登録されますか?」

「登録?」


 神官が言うには、自分だけの技は登録する事でその名を技能の書に残せるらしい。残した技術は技術名と技術保有者の名が刻まれる。そして保有者と出会った時に、その技を金銭などと引き替えで売ることが出来るとのこと。


「じゃあ、スマッシュヒットは登録しておく」

「では、どういう技か教えて貰えますか? ああ、裏に鍛錬場がありますのでそちらへ」


 裏の鍛錬場に案内されながら考える。説明と言われても全力で剣を振って、空気圧で相手を殴りつけるだけなんだが。


「こちらが鍛錬場になります。こちらは目録にある武術を後世に残すために神官が鍛錬を行う場所になります。一般の冒険者達も申請すればここで技を得られます」


 隅の方の木人形の前に行き、スマッシュヒットの説明をすると、神官が端の方に置いてあった錫杖を持ってくる。


「取りあえず一度見せて貰えますか」


 取りあえず全力で振ってみる。木人形の胴体を一瞬で挽き潰れる。

 その様子をじっと見ていた神官が隣にあった木人形に向かう。


「なるほど、こうですな」


 神官が錫杖で真似をする様に振ると、剣ではないので切れはしないが、明らかに錫杖の直径よりも深く叩かれた後が残る。


「……すげぇ」


 俺より腕力の無いであろう爺さん神官があっさりと真似てしまった。


「どうやら振ったときに周りの空気ごと連れて行くのがコツのようですな」


 長いものであれば使うことが出来る技の様子。


「す、凄いですね」

「我ら技術神殿の神官は全員が何かしらの技に精通しており、その技術を絶やさないように努力してます故……いやはやこの老骨では腕力を失ってしまったので、良い技を教えて貰いました」


 深々と神官がこちらに頭を下げてくる。


「では、これでスノゥに私は何らかの対価を支払う義務が出来ましたが、今回は布施は私が払うと言うことでどうでしょうか?」


 頷いて答えると、神官がにっこりと微笑む。


「こんな感じで、あなたが欲しいと思った物を対価として求めるのが技能の伝授におけるやりとりです」

「なるほど、よく理解出来た」


 そんなやりとりを行い、神殿を出た頃には昼を過ぎていた。適当に辺りにあった飯処で適当に食事を済ませる。


「ところで、次は何をするの?」


 取りあえず身分証代わりになる物は入手出来た。小遣いはあるが、あまり無駄遣いする気も無い。


「さて、次はチェルシーのメイド教育だ!」

「は?」

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