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雪を越え、一人街道を行けば。

なんとか2016年中に間に合いました。

ここからスノゥの伝説が始まる。

 前略、雪の降らぬ夏の北国にお住まいの皆様、いかがお過ごしでしょうか?

 竜雪妖精として生まれ変わり、『凍てついた銀河』という田舎から『エウド』というこの北方で一、二を争う規模の都市に居ます。


 冬は雪深くなるこの地方ですが現在は湿気が少なく、その上涼しいという非常に過ごしやすい気候となっております。

 無論私にとっては暑い位なのですが、そこはまあ、種族特性として諦めておきます。


 特産品は冬の間に蓄えた雪を使った氷菓子だそうで、これから食べに行くにあたり、非常に楽しみです。


 では、皆様もお体に気をつけて過ごされますよう。


 草々




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「いやあ、助かりました、これ報酬です」


 渡されるのは効果が詰まった革袋。そして笑顔で去って行く馬車の主。


「……特にこれといって何も無かったな」

「だからお主の話は夢物語に過ぎぬと言っただろうに」


 現在位置、北方の玄関口と呼ばれる都市『エウド』。


 森を抜け、街道を適当に進んでいると、オオカミモドキに襲われている馬車を発見したので恩を売るつもりでオオカミモドキを排除。

 丁重にお礼を言われ、護衛として雇うから乗らないかと言われたので便乗。そのままこの『エウド』まで一緒に来たわけである。


 そして今さっき、報酬を渡して馬車の主である商人が去って行った。


「いや、テンプレだとここで商人さんからいろいろな事を教えて貰ったり、あわよくば良い商売をとかウチの専属にとかそういう風に展開しないか?」


 馬車の中で交わした会話は妖精としての生活を質問されるという、当たり障りのない世間話のみ。


「入市料を面倒見てくれただけでも良しとせぬか」

「銀貨一枚と大銅貨、だっけ? それが五枚か」


 世間話にねじ込む形で聞いたパンの値段が小銅貨二枚という事から、大銅貨はその上の単位、銀貨はさらにその上の単位と想定する。


「銅貨二枚でパン一個、十進法だとして大銅貨が千円くらいの認識で問題無いか……」

「お主の言う単位は分からんが、この辺りの相場は昔からあまり動いておらんな」


 知ってたんなら教えろよ、と言ったところで聞かれなかったからと言われるに決まっているので黙っている。


「さて、どこに何があるやら分からないな」


 中央広場とかいうところで下ろされたので、ここが都市の中央だということはよく分かるのだが、いかんせんそれ以上の事が分からない。


「さあさあ、南の広場では今、世界から集められた珍獣が集うテントがあるよ!」

「宿を取るなら東側の北海亭、美味い飯に酒、そしてきれいなベッドが待ってるますよ!」

「串焼き、串焼きは入らんかね!」


 久方ぶりの一の入る環境は少々やかましい位だが、なんだか他人がいるという事が少し懐かしく思える。


「よし、まずは宿の確保からだ」


 そのままふよふよと低空ホバリングからのスライド移動で街中をゆっくり東側へ進む。


 その北海亭というのが東側に有るというので、おそらく東側がそういった旅人用の場所なのだろう。

 そうやって向かうと、雑多な店の並びが、だんだん薬屋や旅道具を取り扱う店に移り変わり、東側の門付近には宿が並んでいるという状況だ。


 その辺りを流し見し、極力お金を使わないように進んでいたが、唯一塩だけは買っておいた。銅貨が全部無くなったが、これで塩気の無い生活からおさらばできる。


 こうして東側を隅から隅まで見ていたらあっという間に夕暮れ時となった。


「で、今から宿は取れるかのぅ?」

「まあ、飛び込みの素泊まりはそんなに掛からないはずだ」


 ちょうど目の前にあの告知を行っていた北海亭という宿があったのでそこに入ってみる。


 中はシックな作りで、艶のある重厚な木のバーカウンターなどが見える。なるほど酒場併設の宿か。

 飲んでいた人たちが俺の方へ視線を向ける。まあ、妖精だから珍しいのだろうという事にしておく。


 そのままカウンターに進み、座って帳簿を付けていた男の人に話しかける。


「すまん、部屋はあるか? 素泊まりで構わん」

「これは、これは、妖精のお客様でしたか。ええ、開いております。素泊まりで一泊銀貨二枚となります」


 財布の中身を考える。どう考えても足りない。


「……考えさせてくれ」


 そう告げて、そのまま宿を去る。ドアをくぐった辺りで客の爆笑が聞こえたが努めて無視する。ああ、この耳元で爆笑する氷の剣も無視だ。


「いや、今の店は高級な分類だろう。やっぱりここは安宿を狙うべきだな」


 こうして俺の宿探しが始まったのだが。


「ウチは素泊まりやってないんだ」

「今の時期相部屋も埋まっちゃっててな」

「なんだよそれっぽっちかよ、おととい来やがれ!」


 そして夜。


「何敗目だ?」

「十五敗目じゃな、もうどこの店も部屋は空いてないじゃろ」


 そうして一縷の望みを託して入った宿屋も、


「わりぃな! 馬小屋と馬車置き場しか空いてないわ! ま、隅っこで丸まって寝るならタダで場所を貸してやるがな!」


 最後の宿も同じように駄目だった。しかし良い言葉を聞けた。


「仕方が無い、野宿をしよう」

「それしか無いの」


 まあ、馬車置き場と言う名の空き地に向かう。看板を見ると街共用の馬車置き場なのだが馬車の姿は無い。


「向かいの宿を見ると良いぞ」


 共用馬車置き場の正面にある宿には馬車が止まっているが、その周りには槍を持った衛兵らしき存在が居る。


「なるほど、商人とかは馬車自体が商売道具だから、こんな空き地じゃ無く警備の整った宿に馬車を止める訳だ」

「左様、ここは置き場とは言うものの管理されていない空き地じゃな」


 だとすれば都合が良い。


「ここは何をしても咎められないという事だな」

「何をするつもりじゃ?」


 空き地の端の方に向かい、その辺に落ちていた木の棒を立て、だいたいの目安とする。


「氷よ!」


 長方形状の氷をいくつも空中に生み出してはゆっくり落として組み上げる。その氷は床となり、壁となり、柱となり、屋根となり、最終的に家となる。

 壁や天井は透明度の低い曇った氷と、圧縮雪を組み合わせて外から見えないようにしてプライベートを確保。


「よし、六畳一間のアパートの一室って感じか。じゃあ、こうするか」


 氷製のドアに『101 ようせい』と刻み、アパート妖精荘の完成だ。


「さ、今日はここで寝るか」

「待て待て待て! ここは共用の馬車置き場じゃぞ!?」

「誰も居ないし良いじゃねーか。ベッドで寝たいんだよ。木の洞の中の寝心地はお世辞に良いとは言えないから疲れ溜まってるんだよ」


 中に入り、仕上げと言わんばかりに流し台を作り、オオカミモドキの毛皮で作った敷物を敷く。

 その上に氷のちゃぶ台と暇なときに作った敷き布団と掛け布団と枕を準備すれば立派な部屋として機能するようになる。


「非常識な!」

「じゃあお前だけ外な」


 その言葉を受けてから氷の剣が静かになったので、文句は無い物と判断する。

 というわけでちゃぶ台にカバンから取り出した食器や食材を取り出す。


「『凍てついた銀河』の水場は湖だったから塩が取れなかったんだよなぁ」


 探し回ったけど岩塩もなかったので塩気というものはここ数年縁遠かったわけなので塩一つで食事事情はガラリと変わる。


 ラッシュボアの肉に塩をパラリと振ってファイヤブレスでしっかり焼く。


「これ第三者から見たら滑稽な光景だよな」


 ナイフに刺した肉を口から吹いた火で炙って焼いて食べる。文面にしただけでもなんかこう突っ込みどころが多い。


「ああ、実際に笑えるのぉ」


 氷の剣から遠慮会釈のない笑い声が響く。とりあえずは放置して食事を終える。やはり塩があるのとないのでは充実度合いが違う。


「まあ、今後の目標は香辛料だな……」


 布団に寝転がり、今日はもう寝ることにする。明かりとしておいてあったファイアフライの魔法を込めた氷を消し、部屋を暗くしてから目を瞑る。


 すぐに眠気が来てくれたので、そのまま身をゆだねて夢の世界へと旅立つのだった。

では皆様、良いお年を。

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