証明
不死身の侍と名乗るフジワラノ キョウスケ。
その力を男はカズに証明することになった。
「ここなら人通りが少ないです。平安の侍だか妖怪だかの証拠を見せて下さい」
ファミリーレストランから少し離れたアパートの裏の空き地。
「よろしい。とくと刮目せよ!」
そう言うといきなり肩の高さに腕をあげた。
するとどこからともなく、黒い漆塗りらしい鞘に収まった帯刀と小刀が現れた。
まじかよ…。
「…」
俺は絶句してしまった。
そんな俺のことは気にせず、正座して上の着物をはだけて上裸の状態になった。
そしてそのまま切腹しだした。
「え!?うおっ…」
吐きはしなかったが、目の前で切腹をしだすとは思わなかったから不意をつかれた。
よく分からないが、作法通りっぽい感じで小刀を動かしていた。
手捌きはまるで魚を捌くかのようなてきぱきとした動きだったが、男の顔は苦痛に歪んでいた。
「お、おい!もう分かったからやめとけよ!」
男は腹から声を絞り出して答えた。
「そうは、いかぬ…。一度始めた、作法は、やりきるのが、侍という、もの!」
男は死んだ。
しかし一秒もしないで傷一つ無い身体で生き返った。
本当だった。この侍は本当に本物だった。
「疑ってすいませんでした!今でもまだ驚いてますが、信じます!えっと…侍、さん?様?」
生き返った侍は身なりを正しながら正座から立ち上がった。
「うむ。身を削った甲斐があったようだな。切腹だけに!ふはははははは」
笑ってはいたがあんな苦痛な、それこそ身体を張ってくれた行為に対して、さすがに笑えなかった。
「拙者のことはフジと呼んでよい」
「そんな友達みたいに呼べないですよ!」
「ふはは!そうか知らんかったか」
「…?」
「拙者の氏名の表記は『不死身』の『不死』に『戦場ヶ原』の『原』。『叶』え、『助』けるで叶助だ」
「昔は『藤の花』の『藤』に『草原』の『原』で藤原だったが、藤原家が衰退してきた時に改名してやった」
「…」
不死原叶助。
名は体を表すとはよく言ったものだ。
「洒落だ!」
…本当に、よく言ったものだ。
「は、ははは…。ではフジさんと呼びますね」
「うむ」
「それでフジさんはどうやって悩みを解決するんですか?」
「ふむ。それも説明せねばな」
「お願いします」
フジさんはまた刀を、今度は帯刀だけを出した。
「カズ、そこに正座するのだ」
「はい」
俺は素直にその場で正座した。
「これから悩みを消す。消されていい悩みは何だ?」
「消されていい悩み」と言われても、ぱっと思い浮かばないな。
軽く後悔していることにするか。
「…さっきのドリンクバーでコーラしか頼まなかったことです」
「ふはは!小さい男だな。いいか。いくぞ!」
「え?え??」
言うが早いか、フジさんこと不死原叶助は侍として完璧なフォームで、鞘から抜いた太刀を振りかぶった。
そしてそのまま俺に向かって下ろした。
「うわぁぁぁぁぁ…あれ?」
「痛くなかろう」
あれ?俺は確かに切られたと思ったのに何故生きているのだろう?
「はい。全く」
「カズ、拙者と先程ファミリーレストラン行って何を頼んだ?」
「え?えーと…頼んでないですよ」
「絶対に本当か?」
「うーん。そこまで言われると頼んだような頼んでないような…」
何か頼んだっけか?
思い出せない。
「この妖刀『天ノ川』に斬られた者は、外傷などは一切無いが、斬られる瞬間に思ってたことを斬られ、その想いや思い出との縁を切られる」
「歴史の裏で使われていた代物であり、拙者はこれをとある聖域で手に入れた」
「すげぇ…」
不死身な上に妖刀とか、最強じゃんか。
じゃなくて!
目的を忘れかけていた。
「つまり、フジさんはアズの悩みを解決したんじゃなくて、悩んでいたことを忘れさせたということですか」
「その通りだ」
「じゃあ何故、一度斬ったアズをまた斬ろうとするんですか?アズがどうして学校で倒れていたんですか?」
やっとこの質問までたどりついた。
さあ、何故!
「人は忘れる動物なのだ。しかし、それは知識などには当てはまるが、体験したことや感情などは例外である」
「拙者は想いや思い出との縁を切ることが出来るが、稀に、何度か斬らなければ切れない縁もある」
「そして阿須加奈子の想いの縁は例外の中でも厄介なのだ」
「それでアフターケアが必要なんですか」
「いかにも。何故学校に赴いたのかは拙者にも不可思議」
「その悩みに大きく関わっているのかもしれんな、その場所は」
「そう、ですか…」
「そういうことで、拙者はまた阿須加奈子の想いの縁を切らねばならぬ。場所を教えろ」
俺は病院の場所とアズの病室番号を教えた。
その後俺達は別れ、俺は病院に向かった。
アズは起きてはいたが寝ぼけているような状態らしい。
俺と顔を合わせてからも変なことを言っていた。
「どこ行ってたの〜。寂しいじゃんか」
「ねえねえ。退院したら一緒にサッカーしようね」
「むーわー!!!!」
まるで酔っ払いだった、というのが本音である。
なんだこの幼児は。手がつけられない。
そう思った俺は、アズのお母さんと、仕事後のアズのお父さんにお辞儀をして病院を出た。
家に帰って母さんと話しながら夕飯を食べたが、何を話したのか覚えていない。
フジさんの『天ノ川』で斬られた訳ではなく、ただずっと、今日のことを考えていた。
あまりにも有り得ないことが起きた後なのに、俺はそれよりも違うことを考えていた。思い出していた。
アズが倒れていた場所。倒れていた状態。
たしか、アズは一輪の花を握って倒れていたな。
俺はあの花を見たことがある。
ある時に調べた花言葉がとても胸に刺さったんだった。
刺さったはずだったのに、なぜだが思い出せない。
俺は椅子に座ったまま意識が虚ろになるのを感じた。
やはり血を流さずにはいられないようです。
しかし今回は血を流しはしたものの死んではいないし、傷も負っていないのです!なので今回はノーカウントとして見てください。
しかし今回のイチオシ所は不死原叶助という名前ですね。
下手に藤原家の実際の人物を使うと後々面倒なことになると思うので創作させてもらいました。僕は世界史選択なので。
芸風として西尾維新さんを意識してみたんですがどうでしょう…。
残り2話ですが次話はアレなんで、このまま読んでくださっている読者はぜひ、次話も読んで下さい。