悩み事
もう八月が終わりそうですが暑さを感じながら読んでいただけると嬉しいです。
俺の方に固定した扇風機で涼んでいた。
手にはアイス。
「悩みを食べる」か。
話半分で真に受けてはいないが興味のある話だった。
悩みの多い、思春期な高校生という人種にとってはそんな存在は救いなのだろう。
悩みを食べられることが根本的な解決になるかは分からないが、精神的に楽になることは確実だろう。
アズが言うには、その男はこの街にいるがなかなか姿を現さない。本当に悩んでいる人の前にだけ姿を現す。らしい。
抽象的すぎてそんな奴いないのと同じだろう。
スマホにメッセージが来ていた。アズからだ。
どうやら、家に着いたのはいいが玄関は閉まっていて、鍵も持っていないから俺の家に来てもいいかという内容だった。
相変わらずの馬鹿だ。
俺は軽く嘆息をついてから返信した。
返信はすぐきた。5分で来るらしい。
付き合っているわけではないが、昔からの近所付き合いだ。断っても来るだろうし、それで来たら母さんが喜んで迎え入れるだろう。
結局同じ結果なら俺が恩を売っておいた方がいいだろう。
食べ終わったアイスの棒を捨てて手を洗う。
今年は夏休みの宿題が無いに等しいから、ただただ受験勉強をするだけで楽だ。
そんなことを思いながら勉強を始めようとしたのが駄目だったのか。あるいはアズの嫌がらせによるものなのか(俺は後者だと思う)。
どちらにせよ、タイミング悪くアズが来た。
「お邪魔しまーす」
「タイミング悪すぎかよ!」
「何が?」
「今から勉強しようとしてたんだよ」
「またまたー。私に嘘つく必要ないよ?
私達長い付き合いじゃん」
「…」
長い付き合いのくせに信じないのか。
俺は少しばかりのショックを受けつつも馬鹿には理解されないのだと心を広く持つことにした。
俺のモットーは心の平和。
冷静になろう。Be cool。
「お前なー。いい加減、鍵を持つことを覚えろよな」
「そんなの私の勝手だろ」
「それで俺の家に来るのは勝手にするなよ!」
「別にいいじゃ〜ん。というか、カズがいいって言ったんじゃん!」
「それはそうだけど、俺は恩を売っておこうと…」
「アイス貰うね〜」
「聞け自由人!」
まるで我が家のようにアイスを咥えてソファに座ってテレビを見始めた。
対して俺は床に座って、どっちが住人か分からなくなってきた。
「お前、受験勉強は?」
「推薦だからいーのー」
そういえばこいつはスポーツ推薦があるんだった。
夏休みの宿題も無く、受験勉強もする必要が無くて最高の夏休みを送っている高校三年生が目の前にいた。多分、同じ学校で悩みが無い高校三年生はこいつくらいだろう。
"悩みがない"?
「そういえばこの前"悩みを食べる不老不死男"がいるって言ってたけれど、間違ってもお前の前には出てこないな」
テレビに夢中になっていたアズはそのまま適当に応えるのかと思っていたが予想は外れた。
俺の皮肉に敏感に反応して睨んできた。
「私にだって悩みくらいあるし!」
「どうせ、最近腹に贅肉が付いてきたとかだr…」
鋭いアッパーが顎にきまった。
舌の先を噛んで超痛い。
というか、こいつがやってるの空手のはずなのに何でアッパーなの?
いつボクシング始めたんだよ。きれいに入りすぎて頭のてっぺんまで衝撃がきたぞ。
「乙女心を知れカス!」
「カズです…」
「黙れカス!お前に私の不幸が癒せるのか!?お前に私の悩みを救えるか!?」
「わからぬ。だが共に生きることはできる!」
「え、嫌だー」
わざわざジブリネタで返したのに素で嫌がられた。
「お前がふってきたんだろ!それで、悩みって何?」
「教えないよーだ」
そう言うとアズはまたテレビに向き直った。
こいつにはよくあることだが、テンションの切り替えが早い。
聞いてどうなるわけでもないが、なんとなく知りたかった。どんな悩みなのか。
それは昔のことと関係があるのか。
「俺は本当に勉強始めるから邪魔すんなよ」
「んー」
こういう時は本当に、邪魔せず静かにしているから楽だ。
しかし、これを学校でもやると周りから夫婦だなんだとからかわれて恥ずかしいから、なるべく学校では話しかけないようにしている。俺は。
アズは周りの目というものが気にならないらしく、容赦なく話しかけてくるから俺の小さな努力は今ではただのツンデレのようになってしまっている。
最悪だ。
ツンデレというのは、可愛い女子が照れ隠しとしてツンデレ要素を持っているのは全然いい。むしろウェルカム。
しかし可愛くない女子や男のツンデレを誰が見たいのだろうか。
ただ気持ち悪い奴としか見られない。
俺はそんな風に見られたくないから(既に遅いかもしれないが)普段はアズから離れている。
なぜこんなことをつらつらと考えているのかというと、そうさせる人間が来たからだ。
「あら〜。加奈子ちゃんいらっしゃい。今日はどうしたの?」
「お邪魔してます。鍵を忘れて家に入れなくて…」
「それは困ったわね〜。加奈子ちゃん今日泊まる?いや、今日から夏休みの間うちに泊まっちゃう?」
「何言ってんだよ母さん!とっとと洗濯物取り込んで来いよ!」
「あ、えーと。私は…」
「え〜。折角なんだからいいじゃない。カズ!洗濯物はあんたに頼んだでしょ!」
仕事から帰って早々、問題発言をかましている母さんはアズのことを気に入っている。親同士の仲の良さもあるが、アズのことは性格から顔まで好きらしい。
一人息子の俺よりも。
ことあるごとに母さんが「加奈子ちゃんはいつうちに嫁ぐの?」と聞くのは本当にやめてほしい。
アズはその度に赤くなるし(まさかそんな事はないと思うが)、何よりも俺が恥ずかしい。
これが家の中だけならいいが外でも関係なしにやるから困る。
小学校の時の授業参観は俺とアズにとって一番休みたい日だった…。
そんな俺とアズにとって困ることを延々として、最後は夕飯も一緒に食べることになった。もちろん、その後は俺とアズの必死の努力によってアズは帰ったが、母さんは本気で泊まらせようとしていて大変だった。
今日もアズに蹴られたり殴られたりして身体中が悲鳴を上げていた。
俺は布団に入ると気絶するように眠ってしまった。
この夏はお腹を冷やしていない!!!
腹痛が来ない!!!
…と思っていたのに、やっぱり腹痛は
やって来ました。
これは後書きなのか?と、疑問に思いますがこんな感じでいいでしょう。
次話もよろしくお願いします。