とある噂
今までのシリーズものは、その時々に書いていたから打ち切りになっていましたが、今回は既に全ての話を作ってそれを分けたので打ち切りはないです!
最後まで読んで頂ければ幸いです。
男子高校生というものは時に考える。
「あー、パンツ見えないかなー」
夏期補習帰りのこと。
暑さにより少し乱れている女子高校生の制服を見てそんなことを思ってしまった。
そんな格好で前を歩いているのが悪い。俺は悪くない。
「変態!死ね!」
うっかり漏らした独り言により、後ろから来た女から脇腹に回し蹴りを食らった。
かなり効いたが、これは計算の内だ。
「…白か」
「!!」
次の瞬間。俺の視界も真白になった。
しばらくしてから目が覚めた。
あれ?俺はどうしてこんな道端で寝ていたんだろうか。
「やっと起きたかクズ男」
そういいながら俺の頭を叩くのは幼馴染みの阿須加奈子。
アズとは小学校からの腐れ縁というやつである。
中学から空手をやっているため無駄な肉がない強い身体を持っていた。
俺を壊すには十分過ぎる身体だ。
「加減を知れゴリラ」
「もう1発欲しいのか?」
「素晴らしい蹴りでしたアズさん」
俺もそろそろ学習するべきなんだろうが、どうしても減らず口を叩いてしまう。
そして叩かれ、殴られる。
このゴリラ…もとい、アズは女子高校生としては長身の、170もの背丈がある。そのため、男子高校生で小さい部類に入る俺は、目の高さがアズよりも少し低い。少し、な。
だから俺がアズと並ぶ時は反り返るほど胸を張る。それをアズは自分の胸囲の貧しさをからかっているのだと思って俺を攻撃する。
ここ数年でやっと一撃目を避けられるようになってきた。しかし、余裕ができて軽口を言ってまた拳をくらう。
減らず口はどうしても減らない。
俺達はそんなやりとりをする仲である。
「そういえば、カズあれ知ってる?」
「あー、あれか。あれは驚いたよな」
音楽を聴きながら歩いてて、アズが何を言ってるのかぼんやりとしか分からなかったが、とりあえず返事だけはしておいた。
「聞けーーー!」
「痛ってぇ!!!」
アズの拳で耳が頭蓋骨にめりこんだ。
最近のイヤホンは耳の形に合うようにできているから洒落にならないほどイヤホンが耳の穴にはまって痛い。
「$€°#=!!」
殴られた時に音が上がったらしく、頭に直接音楽が流れてくるみたいで何も聞こえない。
洗脳されそうな気分だ。
聞いていた曲がバラードじゃなくてロック系だったら鼓膜が破れたかもしれない。
いや、まだその可能性は残ったままである。
「○*×>?」
「何言ってるのか聞こえねーよ!」
アズが俺の前に回りこんだ。
次の瞬間、アズが思いっきりイヤホンを両耳から引き抜いた。
「うお!」
心ではなく鼓膜を震えさせていたバラード曲は消え、かわりに蝉の鳴き声や鈴虫の音色が耳にいっせいに入ってきた。
「サ、サンキュ。死ぬかと思った」
こいつの拳が俺に致命傷を与えたことは置いといて、一応お礼はしておいた。
マッチポンプさえ許せるほどに安堵していた。
「それで何て言ってたんだ?」
「だから、『犬のフン!』って言ったんだけど、もう遅いよね」
足元を見る。
「…」
思いっきり踏んでいた。靴の端から少しはみ出すほど踏んづけていた。
最悪だ。
せめてもの救いはこれが夏期講習の帰宅途中ってところだな。
それ以外は救いなんてない。むしろ全てが罠で陥れられていると言っても過言ではないほどの(いや、過言である)状況だ。
全く、なんて不幸だ。
「それで何だって?」
「…?だから、私は『犬のフン気にならないの?』って聞いたの!」
「そのことじゃねーよ!というか、気になる箇所は他にもあるからな!横っ腹は蹴られて痛いし、耳はジンジンするし、足元にはクソ付いてるし…」
「あ、私がカズを助ける前のことね!」
俺の不満を聞いたうえであくまでも助けたと主張するのか、こいつは。
もういい。話が進まないからここは大人の対応で流しておこう。
「で?何の話?」
そこまで気になっていたわけではないが、ここまで引き延ばされたら知りたくなってしまうのが人間というものだ。
「カズってあの噂知ってる?」
「何の噂?」
「え、知らないの?」
「さっぱりだな。いいから教えろよ」
どこまで広まっている噂なのかは知らないが、俺は数少ない、噂を知らない人らしい。
噂を教えることができてよほど嬉しいのだろう。かなり溜めてから誰にも聞かれないように、声量を落として言った。
周りには蝉以外誰もいないが。
「この街に、不老不死の男がいるんだって」
「…」
こいつと話しているといつものことだが、俺はどうやらまた時間を無駄にしたらしい。
「何が不老不死だ。そんなのが噂として広まってるのか」
そうだとしたら俺の住むこの街の情報網を疑うし、何よりこんなことが広まる街の平均偏差値を考えさせられる。
違う意味で不安になってきた。大丈夫かこの街。
「馬鹿を見る目で見るな!」
「大体、そんなの誰から聞いたんだよ。どうせ情報源は女子高校生だろ」
「私は最初ハルから聞いたけれど、近所のおばあちゃんも言ってたよ」
ほう、それは興味深い。
アズの言う近所のお婆さんと言えば柳瀬さんのことだろう。
柳瀬さんはいわゆる、口うるさい現実主義のお婆さんで今年で53になる。
かなりきつめな性格だから好んで近寄りたい存在ではないが、アズとは気が合うらしくよく話をするらしい。
そんな柳瀬さんが不老不死の存在を口にするなんて驚きだ。
「ほんとに柳瀬さんも言ってたのか?」
「おばあちゃんも昔から知ってるんだって。その時からその男の歳は変わってないって」
こういう噂は何かしらのきっかけがあるはずだ。
「その男はどこにいるんだ?」
「うーん。その人は住む家が無いらしいの」
「ホームレスってことか」
「そう、それ!そのホームレスの、不老不死の男が今人気になってるの!」
「ホームレスが人気者か…」
女子高校生の話題っていうのは感覚がよく理解できないことがある。
可愛くない気持ち悪いキャラクターも可愛いと言ったり、つまらないことでも笑ったりする。
しかし、これが女子高校生という枠にとらわれず、街という単位で噂になっているのが不思議だ。
「何がそんなに人気になっているんだ?」
待ってましたとばかりに口角を上げてスマイルを作った。
「その男は人の悩みを食べるんだって」
どうだったでしょうか?せめて暇つぶしにでもなれば満足です。
次話も引き続き読んで頂ければ嬉しいです。