慟哭#2
また、夢を見る
祖母の家で、小説を読んでいるはずだった。
部屋の中に知らない顔が複数人いる。でも何だか親近感がわく。仲間だ、そう感じた。
「こんな脅しをかけてくるなんて」
「逃げなくちゃ」
「でもどこに行くというの?」
動揺した声が部屋に満ちて、私は必死になってドアを開けた。
先客がすでにいた。綺麗な光沢のある黒髪の少女。
片手には青と白の小鳥がいる。澄んだ声で会話している様だった。
こちらを向いた少女は、悲しそうな目で言うのだ。
「助けようだなんて思わないでいいよ。私はみんなの安全の方が大事だもの」
小鳥の首をなでてほほ笑んだ。
脅迫されている少女が、一番悲しい境遇であるはずだった。
それでも、微笑みを忘れない少女をとても美しいと思った。
ずん、と重量が増した感覚を覚えた。
たたらを踏んで平衡感覚を取り戻した時には、石でできた階段の下にいた。
かすかに祭囃子が聞こえているが、この石段を登って先に行かなければ、と全細胞が叫んでいた。
行き先を知っているかのように、体は走り出す。
息が詰まり、喉の奥に血の味がする。
汗が目に入って、痛くても走り続けた。
めちゃくちゃに走って登り続けていると、次第に前方が明るくなってきた。
躓いても私の足は止まらない。
手のひらに擦り傷を作っても助けてくれる人はいない。
もう少しで頂上にたどり着きそうなころ、大きな液晶画面が目に入る。
最近有名な自立型のプログラムアイドルのライブの映像。
人気がないのはこのライブのせいだったのだ。
階段を上りきった時、衝撃的な光景を目にした。
先ほどの少女が倒れている。
辺りは夜で、提灯や液晶画面の明かりなどでしか照らされていないが、あたりに黒く光るものが散らばっていた。
間違いはない。彼女の命は今、果てようとしていた。
それも、彼女だけではない。
青白く散らばる羽根はまさしく、あの小鳥の羽。
彼女は私たちのリーダー。少数となった私たちを心身共に支えてくれた心優しき女王。皆の盾となり続けた仲間。
心境は複雑だった。
…私は殺していない。そう念じ、辺りを見回し防犯カメラを探す。
…最後の軸が崩れてしまえば、私たちの悲願は永遠に叶うことはない。私たちは彼女を通して結束を保っていた。
誰かに殺されてしまったのだ。私たちを止める為に。
彼女から後ずさった、そのとき。時は駆け上りきった時にもどる。
混乱した。逃げられはしないのだ、この光景からは。
彼女の元に駆け寄る。
小さく浅く息をしている。
虫の息だ。助からない。
吐息のような言葉が紡がれる。
「この子を…お願い」
差し出される青白い小鳥。
大切に受け取った。
「分かりました」
彼女は息を引き取っていた。
響き渡る足音。数が多い。
間違いなく、追手だ。
産気づいている小鳥を守って走る。
提灯の間を駆け抜け、来た方向とは逆に走る。
煌めく屋台の光。
私に興味を示さない人影たち。
月明かりを反射する階段を駆け下りる。
産むんだ、小鳥。
命と引き換えに卵を産んだ小鳥を、並木に放置してまた走る。
間に合わないかもしれない。
卵にひびが入る。
成功すれば、この世界は救われる。
卵は孵らなかった。
空気に触れた端から、枯れるように、燃え尽きた灰のように、ボロボロと崩壊して灰塵と期した。
救われなかった。世界は終わったのだ。
「うあああぁぁぁー!」
叫んでも、任務は失敗したことに変わりない。
二つ目の世界は救えなかった。