夢#1
「夢の中はすべて、君のものなんだよ?」
ドリームクエスト
はっきり言って、あり得ない。
正月の夢が正夢になる、とか、
授業中にいきなり眠りに落ちて、
ドリームクエストを攻略しないと起きられないとか。
始めは、正月の日の夜。昨夜の、
一獲千金の夢に続いて、良い夢を見るはずだった。
雨が止んだ、外に出ようと思った。
玄関のドアを開けると、外は一滴も濡れちゃいなかった。
そんなことに気付かずに、私は歩いて、
見知った団地に入った。やけに目まいがする。しかし、
足は団地の共同施設、公民館かな、そんな場所を目指した。
施設の敷地がない。
気付いたのは、目の前に立ってからだ。
空間がちぎられたように、
そこからは突然、森か林だった。戻りたい消極的な思いが、
進みたい好奇心に負けた。
私の足はつられるように、シダの生える森へ踏み入る。
サクサクと森のシダとしば、苔が微かなリズムを刻む。
ふと、足元に違和感を感じた。
靴が大きい気がしたのだ。
なんだか風景が大きくなっているような。
…私が小さくなり始めていた。
息を吸っても吸っても、肺から漏れているような、
息苦しさ。立ち止まりたかった。でも、止まれない。
森が林へと、進むにつれて移り変わってゆく。
自分の体が、幼稚園のころの様な背格好に逆行していった。
ついには、前方の光が増して、
私はスキップまでしだして光の中へ、
飛び込んでいった。
開けた場所だ。でも、見たことがある。
小さいころ、山に連れて行ってもらった時に。
広場の遠く、逆側には滑り台があるようだ。
私は歩きだした。サクサクと足元で鳴るものがある。
滑り台に近づく。錆びていた。
足元から、サクサクという音が消えた。
代わりにやって来たのは、ジャリジャリと
砂が鳴く音だった。視界から滑り台が消える。
ブランコがある公園にいた。
ブランコの一つが大きく揺れている。
ブランコの周りに柵があり、
柵のこちら側に、顔の半分が隠れるほど長い前髪をもつ、
黒髪の男の子が座っていた。
顔の半分が長い前髪で隠れているが、子供ながら
すっと通った鼻筋、綺麗な眉と幼さを残した目。
きっとイケメンと分類される顔だ。
目を離したすきに、半透明な黒い影が
ブランコに乗って揺れている。
男の子が口を開いた。
「ここまで来ちゃったんだ?」
風景が変わった。ベンチがL字になっている。
反対側のベンチに、黒髪の男の子が座っている。
木のベンチの感触が固い。
目を男の子に戻すと、男の子の後ろには
例によって大きな黒い影がいる。眼も見当たらない。
男の子が言った。
「運命に従うつもりになったのでしょう?
だから、ここまで来た。違う?」
一体何のことなのか。ガムをもらって、噛んでも噛んでも
味が分からない。運命って、この公園と関係があるの?
「君は、僕の嫁になる。そして、
僕と同じドリームキーパーになる」
…ごめん、訳が分からないわ。
でも、これだけは分かる。
「君の嫁なんて、ごめんだよ
私まだ小5なのに」
そう答えた瞬間。
「そう。なら、ここで殺しても良いよね」
と、黒髪の男の子が冷たく言い放ったとき。
ベンチが消えていた。後ろには岩。
ぎりぎり足がつかない高さで、
男の子に額を鷲づかみにされ、
岩に押し付けられていた。
体は元の小5の体だ。
背筋が伸びきったとき、つま先が地面に着いた。
「やめて…!」苦しい!
「君に選択肢はない」
怖い!
私が逃げようとすると、引きはがされかけた
私の額に当てた手を放し、首元に勢いよく壁ドンした。
岩は大きいせいか微動だにしないけれど、
母親にぶたれた経験のある私は動けなくなってしまった。
小3くらいの体の大きさになっている。
男の子の身長が同じくらいだ。
私が動けないでいると、黒髪の男の子が私に
キスをした。逃げられない。
そこで目が覚めた。
意味が分からない夢を見たと思っていた。
「君は、僕の嫁になる。そして、僕と同じドリームキーパーになる」