73話 名は存在を示す
暫くですが、今まで書いてきた78話迄の誤字や脱字を直すのに時間を頂きたいと思います。
皆様が読みやすいように、自分なりにもう一度振り返って誤字や脱字がないかを、何回も探して治しますので。
何卒、お付き合い願えましたら宜しくお願い致します。
次話は8月17日から再開させて頂きます。
それでは今話をお楽しみ下さい。
「俺達は、あぁやって来たのか?」
背後から横に伸びる無数の白い手を見て、ーーーは自分の中にいる存在に声を掛けた。
『そうだよーーーは覚えてないだろうけど、此処にいる奴等はそれだけの為に存在してるよ』
ディギルが意味も無い俺達の名を呼ぶ、呼ばれようが聴こえないのなら存在しないとの同じでしかない。
「そうか」
俺達は短く返し、無数の白い手を眺めながら門の中を歩く。
真っ暗で底が見えない不気味な空間、地獄で聞き慣れた声が今の俺達には心地好かった。
そんな心地好かった一時が終わるように、眼前に広がる白い塊が勢い良く迫り来る。
眼を凝らして見れば白い塊だったのは、無数の手が巻き付いた何かだった。
『これは.....可笑しな亡者ですね?』
俺達の眼を通して同じ物を視ていたディギルが、眼前の白い塊を不思議がる。
それは俺達の中でざわつく奴等も感じ取っていた、外と内側から喧しい声が俺達憂鬱にさせた。
「なら、確認すれば良いだろう?」
『あっ...いや待ってーー』
意味もない名で俺達の行動を静止させようとするディギルだが、一足遅く俺達は無数の手から堕ちる亡者を掠め取ってしまった。
ディギルが重い溜め息する、何か間違っただろうか。
その理由も直ぐに分かったが、俺達は何もせずされるがままにした。
自分達が捕まえていた亡者を掠め取られた白い手達が、荒れ狂ったようにーーーに掴み一緒に引きずり込もうと襲い掛かっていた。
気付けば白い塊の出来上がりだった。
「自分達は襲われないと勘違いしてるのか?、まぁいいや、ちょうど小腹が空いてたところだ」
良い感じにオヤツが目の前にあったから俺達は、適当に白い手を口で捕まえそのまま咀嚼する。
....不味い、生暖かくドロッとしていて粘りつく感触が何とも言えない不味さだった。
が、俺達は特に気にもせず次々と口に運ぶ。
ディギルが中で引いていたが、そんな事は無視して続けていたらいつの間にか無数の白い手が消えていた。
『ーーーが食べていくから、あいつら皆蜘蛛の子散らすように逃げたよ。それよりも亡者の方はどうなの?』
残念....小腹が満たされなかった、不味くっても口や胃に何か入れるだけでも満足する事かあったのだが。
しょうがないと今は諦め、掠め取った亡者を最後の食事にしよう。
手から伝わる感触から上質な物をビンビンと感じる、こいつ等が「喰わせろ」と騒ぐ何時もより煩く。
『待った待った!、ーーー食べないで!。これ神だよ、随分弱ってるけど』
ディギルの記憶が俺達に流れてくる、そこには憎たらしい神が五柱いた。
その真ん中に座して俺達を蔑みの眼で見る、いや、何も見てなく全てを奪った、こいつがいた。
「....テミスト」
俺達の声に釣られ、中で共鳴し「喰わせろ」から「殺せ」「引き裂け」「神を血で染めろ」と好戦的に狂信的に暴れる。
このまま任せても良いがディギルが止めるのだから、俺達はこいつ等を静かに黙らせる。
一言言えばピッタリ止まる、誰も消えたくないのだろうな。
「......ふっ、まさかお前に此処で会うとは思ってなかったな」
掴んでいた手から声を掛けられる。
「そうだな、俺達も会えるとは思ってなかったさ。....ディギルがお前と話したいそうだ」
ディギルが『話したい』と言う、何を話すのかは知らないが一時的に主導権を譲る。
次第に体の感覚が無くなるのと同時に、ディギルの眼を通して外を見ていた。
「初めまして神テミスト、僕はディギルーーーの.....保護者かな?」
確かにディギルには地獄で世話になっていた、記憶の中で本当の両親に育てられた期間は存在しない。
なら、ディギルは保護者ではない、俺達の親だと言えよう。
「...ディギルと言ったな、お前は何者なのだ?」
最初のーーーの雰囲気が変わった事にテミストは、ーーーじゃない存在ディギルに問う。
善と悪に別けたあの日、ーーーの魂に触れている為にーーーの事は理解できたが。
ディギルという存在はその中に存在しなかった、なら目の前にいる男は何者なのか、知りたいのは当然であった。
「僕はーーーの天恵、今はそれしか言えないかな...。ってそんな事よりも神テミスト、僕達と取引しないかい?」
ディギルは言いたくなさそうに話題を変えた、何時もそうだ俺達が聞いた時も存在を明かしてはくれない。
俺達の天恵では有るが、それ以上はこの永久の時で過ごしてきた中でも教えてはくれなかった。
直ぐに話題を変えたり、話の論点が刷り変わる等は何万かいも聞き慣れた。
まぁ、知った所で何もないから興味は薄いに等しい。
「ーー?」
「ーー、ーーーー。ーーーーーーーーーーーーーー、ーーーーーーーーーー?。.....ーーーー?」
どうやらディギルは行為に俺達には聞こえないようにしやがった、眼を通してテミストの口の動きは見えるが。
ディギルが何を言ってるのかは分からんない、が、体をディギルに貸した時点で全てを任せている。
『ーーー、話は終わったよ。テミストがーーーに話をしたいそうだよ』
『あぁ....』
ディギルの声と共に体の主導権が戻る。
「取引は終わったみたいだな」
特に興味はない、どんな取引をしたのかを。
「......」
それに対してのテミストからの返答はない、まじまじと俺達の顔を見詰めてくる。
そんなに見られると次い手に力が入ってしまう、このまま潰してしまおうか。
『ダメだよ、そんな事したら?』
邪魔が入った。
手に込めてた力を緩めて辞めては、テミストが喋るのを待つが、喋る気配が一向になかった。
「話す事が無いのなら、お前を食べても良いよな?」
これにはディギルからの注意はなかった、って事は食べても良いのだと分かった。
それなら遠慮なくと、俺達は口を裂けさせて口内を曝け出しながら、大きく広げて口をテミストと首に喰らうとした。
「.......現世に戻った所で、亡者の存在は許されていない」
首に犬歯を食い込ませた所で、テミストからそんな事を言われる。
それ以上を食い込ませるのを止めて、逆再生のように口を戻しテミストを睨む。
「許されようが許さないだろうが、存在しようが存在しないだろうが.....。俺達には関係ない、邪魔する奴は殺し、目障りなら理不尽に潰す。....今のお前は邪魔する奴だ」
全ての俺達が神に対して殺気を放つ、もう喰らう等考えない掴む手に再び力を込めていく。
メキメキと軋む音が鳴る、テミストから苦悶の表情が見える。
『ーーー!。止めるんだ!!、そんな事しても意味がない!』
ディギルから焦りの止めが入る。
ーーーの本気が伝わっているからこそ、ディギルは慌てる折角の取引も無駄になってしまうから。
しかし、ーーーは一向に止める気配は無い。
『黙れ』
『〰️〰️〰️〰️!』
テミストに向けられた全て殺気は、内側にいるディギルでさえーーーの一言と共に黙らせる。
「ふん、殺りたければ殺ればいい。だが、門を開くには神でなければ開かない、神を殺すのであれば、此処で再び永久の時を過ごす覚悟せよ」
ピッたと動きが停止する。
どんなに会話をしていても、足を止めなかったーーーの前に入ってきた門と変わらない門が聳え立つ。
確かにこれが入ってきた門と対になる門なら、けっしてーーーじゃ開く事は出来ない。
開くその時迄、此処でまた永い時間を過ごす事になってしまう。
「なら、どうすればお前の"力"を貸してくれる」
再び無駄な時間を過ごす気はない、ならテミストに聞いた方が手っ取り早いと考えた。
すると神に対して下に出たのが赦せないのか、俺達の中のこいつ等が騒ぎ出す。
相当な御立腹である、本当に嘆かわしく煩わしい。
「.....他の四柱に手を出すな、神が指示を出すまで」
ざわつく、こいつ等が驚き呆然とする。
「あぁ、分かった。他の神には手を出さない、それとテミストの指示に従おう」
素直に了承の意を示してやった。
「思ってもない事を口にするな、神を前にすれば衝動の抑えも出来ない亡者が」
吐き捨てるようにテミストから言われる、嘘だとバレていた。
無理に決まってる、誰に良いと言われるまでも無く神は殺す俺達から全てを奪ったのだから。
なら、奪われる覚悟はして貰わなければ理に叶わない。
「あぁ、無理だろうな。神は憎い、今もテミストを殺したくって抑えが効かないさ。...だが、それよりも憎い存在がいる。そいつの居場所を教えてくれるのなら、必ず神には手を出さないと本気で誓ってやる」
声音に激が混じる、神よりも憎い存在が1人存在している。
「その言葉に、嘘偽りがないのなら。ーーーに"名"を刻もう、受け入れる覚悟は有るか?」
成る程.....それが目的だったのか、"名"による呪縛。
ディギルの取引とは関係なく、俺達をテミストが縛る為の楔にする為に。
「......ッチ。あぁ、受け入れてやる」
ーーーは諦めた、今だけは。
『良いの?』
『どのみち受け入れなければ、此処から出られない。なら、受ける以外の選択はないだろう』
『.....ごめんね』
それは何の謝罪なのかーーーには理解出来ない、「神を殺す」それを我慢するだけの話なのだから。
「なら刻み付けろ、テミストが名付けようお前は今から"ーーーー"。そう名乗るが良い」
なんと発したのか聞き取れなかったが、俺達の掴む手から何かに弾かれ、テミストは浮くと。
俺達の胸の傷痕に触れて刻むように、指を撫ぞっていく。
表皮を文字通り刻む、世界でもなく異世界のどの文字言語じゃない、神の言葉を。
俺達には読めないが、刻まれる文字は光輝きながら一文字ずつ完成すると内側に浸透する。
俺の本来の魂に刻まれて行くのが分かる、こいつ等もそれが分かってるのか歓喜してくれる。
全ての光輝く文字が消えると同時に、俺達の新しい個の"名"が脳裏に響き渡る。
「....俺達の名は"ヴァイス"」
口角がつり上がりながら、神テミストによって刻まれた名を口にする。
これによりテミストの呪縛を受けるが、これによって個としての存在が赦された。
呪縛を素直に受け入れるのは反するが、それよりも借り物の喜の感情が沸き立った。
「気に入ったか....、ゆめゆめ忘れるな、四柱には手を出すーーなーーー』
目の前にいたテミストの体が光の粒に成りながら、俺達の体に入ってくると内側から声が聞こえた。
"名"を刻む時に何か細工したのか、俺達の中で力を使い果たしたのか眠るように言葉が途切れた。
腐っても神なのか、テミストの記憶は幾重にも封印されており、閲覧は出来なかったが。
此処に墜とされる寸前の記憶を垣間見えた、随分酷いもんだった。
『元々、すでに神力が無かったからね。ーーーの"名"を刻み終わる頃には、僅かな神力も無かったんだろうね』
ディギルがそう言うのなら、そうなんだろう。
『ディギル、ーーーじゃない俺達はヴァイスだ。そう呼べ』
聞き取れない本当の名を呼ばれても、ノイズとなって聴こえないのなら意味がない。
ディギルにはテミストが名付けた名で呼ぶよう、言った。
すると、間を開けてから俺達の名を改めて呼び返す。
それに適当に返答して、待ち兼ねた門を開ける時が来た。
その向こうに、何も手が出す事が出来ない憎い神がいるが、現世に戻る事だけを考えよう。
「さぁ...行こう、ーーーを殺しに」
神よりも憎い怨敵に会いに、ヴァイスは門に手を置き強く押す。
開きまいと門に抵抗されたが、何回も壊す勢いで押し続けたお掛けで。
門は外側に勢いよく開いた、隙間から見える光と見覚えがある神の姿が見えた。
僅かに聞こえた声に返すように、ヴァイスは哀れむ瞳で言葉を返した。
「神が神を裏切るとは、世も末だと思わないか?」
歩き出した足は、光の部屋に踏みいった。
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