71話名も亡き者
10万Pv達成致しました!!!
ありがとうございます!
長かった目標を達成できたのが感激です、次はより高い目標を掲げて頑張る所存です。
読んでくださる読者の皆様には、改めて感謝をより一層捧げたいです!!
ありがとうございました(´ノω;`)
その光景を視る者がいるのなら、そこは地獄か或いはそれに似た何かだと口に出して言ったはず。
だが、それを生きた者に伝える事はない。
何故なら此処いる者達は死んでいるから、俗に言う「死者に口に無し」。
どうして、死んだ者が生きてる者に言葉を伝えられると思うのか。
そんなのは決まってる、都合の良い幻聴であり、一つの個が自分に向けた耳気持ちが良い言葉にしかならない。
なら、どうして地獄絵や地獄とはどの様な物かと、描かれ語られ生きる者に伝わるのか。
それは、「何となく」、「こんな感じじゃないのか」と、曖昧な感じであり、また妄想でもある。
自分がされて嫌な数々、動かなくった亡骸が無数に有ること。
普通では有り得ず、自身の精神が耐えきれずにその様な表現が出る。
それらが現世、生命が活動する世の中。
生きる者に真の意味で地獄の理解は出来ない、出来るのは神に見放され遥か下に落とされた亡者達だけであった。
例え永遠に続く贖罪が終わり、輪廻に還るまでそれは果てしない刻を過ごす事になる。
自分が何者だったのか、どんな罪を犯したのか記憶は無く。
ただ、ひたすら骨に皮を纏った姿でさ迷うしかなかった。
現世の中には必ずしも何処にでも例外が有るように、地獄にも例外が生まれる。
天高く積まれた亡者の骸に立つ亡者らしからぬ、亡者が曇天の空に目掛け無い筈の右腕を伸ばす。
地面すれすれまで伸びた黒い髪、虚ろでありながら獣の如く鋭い黒瞳。
他の亡者とは比べる間でもない例外中の例外が、此処に誕生していた。
「....」
「ーーー、そろそろ離れないと踏み潰されますね」
一つの例外が有るだけで、また違う例外が生まれる。
それらを取り除き排除しながら、神に見放された亡者共に苦痛と苦しみを与える存在がいる。
「ディギル。俺達は何時になったら俺を取り戻せるんだ」
曇天の空を覆い隠しかのような足裏を見上げながら、山の天辺にいる亡者がもう一人に問い掛ける。
が、すでにこの場から避難していた。
亡者は間近まで来たにも関わらず逃げない、何もせず受け入れるようにそのまま踏み潰された。
踏み潰した足は持ち上がり、曇天の空へと戻っていく。
その場にあった亡者の山は薄い紙ように平べったくなると、体は消失し天に青白い揺らめきの塊が浮かび上がる。
「戻るのは簡単さ、門を潜ればね....。けど、僕らじゃ相手にはまだ指一本触れられないよ。アレさえ何とかなれば、ーーーが居る現世に還れるだけどね」
黒骨で形作られた死神が含みがある言い方で、地面にめり込んでる亡者に話し掛ける。
ディギルと呼ばれた男は、自身が踏み潰される前には逃げた筈なのに。
巨大な足が無くなった瞬間には、側に立っていた。
亡者はそれを気にする素振りを見せず、その状態で喋りだす。
「そうか、なら集めよう俺達の糧になる罪深い魂を」
ディギルの言葉に亡者は、めり込んだ体を起き上がらせ天に浮かぶ青白い揺らめきを、自分の所まで引き寄せる。
口を開け放つと息を吸うように、次々と亡者の体に吸い込まれていく。
何十、何百、何千、何万、何億といった正確な数すら測りきれない量を、亡者は何時間も掛けて全て平らげた。
「全然こんなじゃ足りないね、もっと上質な物じゃないとダメだね。やっぱり奥に行くしかないよ、時間ならたっぷりとあるから、ーーー」
ディギルは亡者の名を呼ぶが、亡者にはノイズが走るように聴こえない。
何億の罪深い魂を亡者が得ようとも、それは水の一滴にすらならない微々たるもの。
「行こう....」
行く果てない奥に向けて亡者は歩きだす、その後ろにディギルも着いていく。
地獄に落とされて早く、一億四千二百六二日も過ごしていた。
他の亡者とは一線違う例外中の亡者、輪廻に還る期限など無く永遠にさ迷う。
此処に堕とされる前に全てを持ってかれた名も無き亡者、残されたのは記憶を持つディギルから教えられる物しかなかった。
前の名ですら認識できないもどかしさ....、何と呼ばれていたのかはハッキリと覚えていた。
...かつて呼ばれた名を"ーーー"。
ノイズが有ろうが無かろうが、亡者にとって些細な事でしかなかった。
「自分が覚えている」それだけで充分だった、後は取り戻せる日を待つしかなった。
二人が地獄の奥に辿り着いたのは、それから六万年後であった。
地獄の最下層に至るまで、自分達以外の例外な存在すら出会えた。
彼等の魂は一際上質な上に、ーーーにとっては幾分か力を満たした。
代わりにと彼等の願いを聞き入れる事を条件に、頂いた...。
「もう、此処でさえ魂は無くなってしまったね」
最下層で得られる魂を、全て亡者が平らげた事により何も居なくなってしまった。
「....あぁ、後は待つしかない」
魂を得られないのならと亡者は歩きだす、次に目指す目的地も定まらないままに。
その後ろ歩くディギルも何も言わない。ーーーに着いていく何処までも。
また、刻は幾百も幾千、幾万と終わらない時の中を歩む。
すっかりと永くなった刻を数えるのも、自然と無くなっていき。
気付けば現世に還れる門の前で座して待っていた。
泣き叫ぶ骸骨に地獄に存在する、あらゆる化物が装飾された強大で重厚そうな門。
その門を守護していた三ツ首の犬と無骨な剣を構えた巨人は、亡者の横で無惨な姿で殺されていた。
「....た.....来た!ーーー!!。門が開く時が来たんだ!!、永かった刻が報われますよーーー!!」
亡者の名を叫びながらクルクルと横で回り、大いに喜びを表すディギルに亡者は無視する。
重厚そうな門が、地獄の土を引きずりながら外開きする。
「俺達をーーーから取り戻そう、その邪魔をする奴等がいるのなら....全てを壊してでも」
「僕はーーーの天恵。常に貴方と共に、何処までも逝きましょう」
回る事を止め、深々とオーバーに礼服するディギル。
地獄の蓋は開かれた、なら、飛び出すのも必然。
亡者は歩きだすと、静かに待ち待った現世に向けて進みだした。
評価や感想を頂けたら嬉しいです。
それを励みに頑張ります!!。




