69話 深緑之装
長い間更新出来ずすみませんでした。
社会人になってから、自分に書く時間が出来ず遅くなってしまいました。
当分はこのような更新がままならない事が、多々有ると思いますが。
何卒暖かい目で見守って下さい。
突然の変化に僕は驚きを隠せないでいた。
頭の中で響いたアナウンスもそうだし、身体に走った痛みは、まるで神経の一本一本を火で炙られた程に感覚として残っている。
けど、それらが終わると妙に頭がスッキリしては、自分の変革を知る。
全身が深緑色の全鎧を身に纏っていた、両腕を動かし頭鎧越しに見れば指先は鋭く尖りながら握るなどの動きに支障が無かった。
そこで気付く、右手に握っていた聖剣ルクスが手元に無かった。
何処にいったのかと思えば、右手の甲からシュと瞬時に剣身が飛び出してきた。
何時も目にするルクスの剣身には、深緑の線が浮き出ていた。
「おぉ~....」
思わず気の抜けた声が出てしまった。
「りっくん.....その姿....」
後ろから聴こえる舞花の恐る恐るの声音、振り返れば真後ろにいた咲音も同様に声を掛けようとしていた。
「ごめん二人とも、少しだけ待っていてくれるかな?」
頭鎧越しに二人にそう言うと、僕は正面を向き魔化シアと対面する。
僕の変革に戸惑いと警戒心を露に、少しずつ後退する動きを見せていた。
深緑の籠手に包まれた左手を魔化シアに向けた、すると地面から植物や木の根が四方八方取り囲み、身動き1つの取れないように拘束した。
「ウガァツッッッ!!」
家の中でされたのと同じだと思ったのか、魔化シアは有らん限りに膂力を持って打ち破ろうとする。
前なら確かに打ち破っていただろうが、ビクともしない事に驚愕する。
「シア....君じゃコレは解けないよ」
その答えを知っている陸にとって、今の現象は過去に自分も体験していた。
森の深部で会ったグリューンの植物の蔓、自身の硬さに比例するそれは、本当に悲しい出来事でしかなかった。
「ウッ!....グゥ!....」
僕の言葉を分かっていない魔化シアは、必死に根の拘束から解けようと抵抗する。
そんな姿を見ながら僕は一歩ずつ近付いてく、"傲慢の希望は儚く"によって、この姿なら助けられると噛み締めながら確実に手の届く距離まで。
「「綺麗....」」
惜しくも二人の言葉が重なる。
後ろから見る歩く陸の姿と、歩く度に地面から花や草木が生い茂る光景は美しいと思えてしまった。
陸の歩みが『道』として咲かす花や草木、力強く安心できる雰囲気を纏っていた。
「今....助けて上げるからね......」
魔化シアの身体を巻き付く根の上から、そっと掌を触れさせると何かを吸い上げるように根が脈打つ。
自身の内側から何かを吸い上げられてるのを感じられるのか、魔化シアは鼓膜が破けるんじゃないのかと、思う程の奇声を上げた。
(これが元凶なのか.....こんなのがシアを狂わせたんだ)
掌から伝わる暗くドロドロした負の何かを、陸は憤慨しながら着実に吸い取っていく。
陸が何をしてるのか分かっていない咲音と舞花は、ただ静かに終わるのを待つしかなかった。
けれど、魔化シアの奇声が徐々に勢いを無くし弱まるのを感じると、魔化の特徴である縦長の瞳孔は普通に変わっていく。
「嘘.....魔化が消えていく」
「りっくん。シアさんは助かったの?....」
二人の驚愕した声音には、まるで信じられないのものを見たように戸惑ってしまった。
それも無理もない話である、魔化は決して治るような病気でも傷でもなければ、何者でもない。
生きた災厄でしかない。
治るようなものであれば、咲音の天恵"死する生者に癒しを"によって治っていた。
それでも治らないのなら、魔化は外的要因ではなく内的要因による。
外側の傷や病気は肉体部分の事、内側は精神や魂といった目に見えない要素の事。
そんな不確定で曖昧な存在迄、咲音の天恵は影響を与える事は出来ない。
だからこそ、内的要因である魔化が普通の人間に戻る事態があり得ない話であった。
「まだ、分からない.....。だけど、確実に何かを取り除けている感覚はある」
籠手に包まれた掌から感じる物に、陸は持ち得る言葉がなかった。
「リ...クさん....」
眼が正気が戻ったシアが、目の前に映る全鎧に包まれた陸を見て名を囁く。
眼はうるっと濡れだし、目尻に雫が溜まると頬を伝って大粒の雫が次々に落ちていく。
陸はシアの身体に巻き付けていた根の拘束を解くと、倒れ駆けるシアを抱きしめた。
「シ....」
陸が同じく名を呼ぶ前に、それはシアの言葉にて遮られた。
「リクさん、ありがとうございます。人に戻してくれて本当にありがとう...助けてくれて.....」
陸の頭鎧越しに触れる手は、鎧の冷たい感触はなく暖かった。
魔化に堕ちた自分を助けてくれた事に感謝し、一拍間を開けると、再び言葉を続けた。
「.....ごめんなさい。本当にごめんなさい、この後の事を考えると、どうしてもリクさんを悲しませてしまうの....」
紡がれた言葉は謝罪の言葉であった。
シアが背一杯の笑顔を作ってるのが分かりながら、涙の量が増える。
「僕が悲しむって、どういう意味なんだ?!」
シアの言葉に嫌な考えが脳裏にちらつく、いや誰しもがこんな事を言われれば、嫌でも考えしまう。
「魔化の時ね.....リクさん達に襲い掛かってる記憶はハッキリしてるの、ずっと心の中で『殺して』『死なせて』って願ってた。でも、人に戻してくれた、それが何よりも嬉しかった、感謝した。それと同時に人として死ねるだって思えて幸せだった....」
「いやだ、そんなのは聴きたくない!。頼むからシア、それ以上言わないでくれ!」
シアの思い耽った言いに陸は更に脳裏を嫌にさせる、まるで最後の遺言を聴いてるきがした。
「お願い....リクさん最後まで聞いてください」
シアのすがった頼みを、陸は一蹴して断るそれは、子供の駄々のようだった。
「お願い」と触れている手が震えながらも、段々と息遣いが乱れてくるシア。
頭鎧から覗かせる陸の眼を、必死に真摯に見詰めた。
「陸さん聴いてあげてください!、シアさんの言葉を最後まで!!」
僕とシアのやり取りを見て聞いていた咲音が、僕に言う。
「りっくんがシアさんにやってる事は、人として最低だよ。そんなりっくんは嫌いになちゃう....、だから嫌いにさせないで」
あぁ....声が出せなかった。
舞花と咲音の言葉が、鋭い刃になって僕の身体に刺さった気がした。
凄く胸がズキッて痛かった。
「........ごめん、シア」
聴きたくないと反らしていた心を正面に向けた、僕の顔を触れる手を取り握った。
言葉に出来なかった事を、体で示してシアに伝えてみた。
それに対してシアは微笑みを浮かべ、顔を少しずらして咲音と舞花に見せた。
二人も笑みで答えると、僕とシアから距離を取り少しの間だけ二人きりにしてくてれた。
「良いお仲間ですね....」
「あぁ、僕にとって最高の仲間だよ。それに、後二人の仲間もいるからシアに会わせたいから」
恵まれた仲間の事を、僕は自分のように嬉しく思い。
会ってない忍と葵も、きっと仲良くなれると思っていた。
「それは....楽しみです....。リクさん一つだけお願いがあります、聞いてくれますか?」
笑みが消えると、意を決したような顔付きをするシア。
「....あぁ、もちろんだよ」
僕は快く即答した。
「....一度だけ、一度だけで良いので私の名を呼びながら「愛してる」と言ってくれませんか?」
「....なっ!」
思わず声に驚きが出てしまった。
「やはりダメでしたか?」
「だ...ダメ...じゃな...い..かな...」
上目遣いで聞くシアに、僕はこの場で断る事が出来ず返事してしまった。
「本当ですか?!....嬉しいです....」
「....」
期待の籠った目線と微笑に、僕は心の準備を始めた。
「.....あ..してる」
緊張した声音が絞り出すように言ったのだが、頭鎧越しの為に小さかった。
もう一度呼吸を整え、今度は大丈夫だと自分を鼓舞して声を震わせた。
「シア、愛してる」
顔が熱くなるのを感じる、今だけ頭鎧で良かったと思えた。
どんな顔してどんな風になってるのか、想像できないぐらい自分の顔を知られたくなかった。
「はい、私もリクさんを愛してます」
思わない返答に僕の体が強張る、そこには悪戯笑みをするシアが楽しそうにしてた。
顔を近付け僕の口が有る位置に、彼女自身の口が軽く触れた。
「あ.....あぁ....えっ...?!」
可笑しかった、直接じゃないのに彼女の柔らかい唇の感触が直に感じられた。
思わず握ってた手を離して、頭鎧の口元辺りを触る。
硬い金属音と共に硬かった、何度触り直しても先程の柔らかい感触は何だったのか、と。
一種の幻覚やその行為に、僕の記憶の中にあるそれが、この感覚を生み出したのかも知れない。
「ふふっ.....お顔が見えないのに、リクさんの驚きようが分かちゃいますね」
僕が色々と驚嘆し熟考してるのを見てシアが笑う、時間にすれば1秒も満たないだと思うけど、.....長く感じた。
「....誰だっていきなり、さ、されたらビックリするよ!」
大きな声が出てしまった。
「ふふっ、ほんとリクさんは面白い人ですね。優しくって、真っ直ぐで、危険を顧みず進む勇敢な人。......最後にこうして人として会えた事に、今だけ誰よりも幸せでした....よ....」
僕の頬辺りを優しい手付きで撫でながら、シアの表情は本当に今、この瞬間、誰よりも幸福そうだった。
体から力が抜けたように撫でていた手は、意志が無くなったように重力に従い離れていく。
咄嗟に離れゆく手を掴み、動かなくなったシアを見続けた。
「........」
分かっていた......。
心の準備は出来つつあったのに、いざ直面すると何も声が出せない。
舞い上がっていた気分が一気にドン底に突き落とされ、感情の浮き沈みが激しく揺れ動く。
「...りっくん」
「陸さん....」
異変を察して離れていた二人が、陸の名前を呼ぶが、何て声を掛けたらいいのか戸惑っていた。
「「「「「ウァッアァァァァ」」」」」
そこにタイミング悪く、森の木々の間から這い出る奴等が、陸達に目掛けて向かってくる。
「.....嘘!。まだ、あんなに居たの?!」
「そんな、不死者は全部あ~ちゃん達の方に居た筈なのに!!」
二人の驚きは至極当然であった。
今戦ってる葵と忍によって出来た道を、三人は進んできた。
それは、オゲタ村迄に不死者の姿は無かった、何故なら、シアが倒していたから。
だからこそ、後続に不死者の大群が現れる事に素直に驚いた。
新しい不死者の大群の正確な数は分からないが、生い茂る葉の影や木々の性か、舞花と咲音に充分に知らしめる。
「立ってりっくん!、ここは一度退こう!」
死しったシアを抱えた陸の腕を掴み、無理にでも立たせようと引っ張る。
が、陸は何も声を発しず、ただ呆然としシアの死に顔を見る。
「陸さん!、この数は3人じゃ無理です。お願いですから立ってください!!」
陸を引っ張る舞花を横目に、そう言っては。
一番近い不死者に癒魔法『キュア』を連続で発動する、自身の天恵により癒す力が増しってるそれは、不死者には絶大な攻撃になり得た。
不浄な存在である不死者には、身を焼く程の熱量となり灰になり天に召されていく。
「.........」
帰ってこない返事に舞花も咲音も、陸の心情に同情はする。
けど、嘆き悲しむのは今ではないと頭では分かってる。
下級不死者は最初だけであり、今は中級といった具合に手こずるようになってきた。
「シロ!」
舞花が叫ぶ。
白妖であるシロの身体に、赤い色が足されていき。
数体の不死者の攻撃で、怪我を負う姿に舞花は焦る。
「ガウッ」と一声鳴き、舞花に言葉を伝える。
「大丈夫、怪我の内に入らない」強かった意思が、舞花の頭に流れる。
それを聴き舞花は|(そんな訳ないでしょう!)と内心叫び、シロに群がる不死者を蹴散らしていく。
二人と一匹の頑張りを他所に、陸は頭鎧の下で声も出さず涙が流れていた。
真樹の時は間に合わなかった、けど、シアは違う間に合ったんだ 。
魔化から人にも戻った、なのに幸せそうに逝ってしまった。
僕はまた間違えてしまったのか、アンやリスト、オゲタ村の人達に何て伝えれば...。
後悔と罪悪感が陸に重く乗し掛かる。
腕に抱く命の重みが、先程迄に比べて軽く、軽く感じってしまった。
そこにコツンとシアの幸せな顔に、小指の爪程度の小石が当たった。
見つけた陸は飛んできた先を見て、初めて今の状況を知ると同時に怒りが沸いた。
シアが育ったオゲタ村が、不死者に汚されていくのを。
陸は腕に抱くシアの下から、木を生やすと包み込むように守らせる。
「「りっくん(陸さん)!!」」
僕はそこで、僕とシアを...動かなかった僕達を三人が守っててくれたのに気づく。
シロの白い毛並みには不死者の攻撃により赤くなっていた、それでも動けるのは咲音の癒魔法と天恵のお陰なのだろう。
「ご....ありがとう三人とも。ここからは僕がやる。巻き困れると大変だから下がってくれ!」
謝りの言葉が喉まで出かけったのを、なんとか考え直しお礼を告げる。
そして同時に声音に強く警告を促すように伝えては、これから行う僕の"力"は周囲に影響を及ぼす。
それに巻き込まれないように、僕より後ろに行って欲しいと含ませた。
二人からは視線だけで頷き、直ぐ様僕の後ろより下がる。
シロは不死者一体でも多く倒しながら下がり、僕の腰辺りに顔を擦り付け大好きな主人の元まで向かった。
「僕の身は森であり、肉は命を育む土であり、血は乾きを潤す、森の支配者にして、森と共に歩む者なり。僕らの敵に森の恐ろしさを刻め!!」
右手甲から飛び出す聖剣ルクスを地面に刺しながら、僕は自然と浮き出る言葉を紡ぐ。
それに呼応するように僕を中心に、地中から根が鋭い槍と化し不死者達を貫いてく。
木々は太い幹を唸りながら、前後に何回も叩き付け不死者達を潰していく。
大地は左右に割れては落ちてくる不死者を挟み、そのまま土に還していく。
それが五分もしない内に鳴りを潜めるように、全てがピタッと終わった。
「.....終わった」
地面に刺したルクスを引き抜いては、地面からルクスを通って森の全てを知っていた僕は言う。
残存する不死者が居ない事に、それと心の何処かが少しだけ.....マシになった。
僕の心に反応したのか、それとも役目が終わったのか、僕に纏っていた深緑の全身鎧が元の白銀の鎧に戻る。
右手の甲から飛び出していたルクスは、違和感も無く掌に収まり握っていた。
すると、ルクスから『頑張ったな』と柄から僕に言われた気がする。
「.....ありがとう」
礼をルクスに向けて言えば、何故か鼻で答えられたという感覚だけがあった。
「終わったですね、陸さん?」
後ろから聞こえる実感が湧かない感じが、咲音の声から伝わる。
「さっきみたいな大群が溢れないって保証は無いけど、今は大丈夫だと思うよ」
ハッキリと断言は出来ない。
あの姿の時、森に不死者の残存は確認出来なかった。
が、そもそもの魔物災害の原因を知らない。
それを突き止めない限り安心は出来ない。
「そ、そうですか。なら、一度退いて忍さんとあ~ちゃん、騎士団の人達に合流した方が良いじゃないですか?」
そう提案する咲音の横で聞いていた舞花が、シロの背に跨がって首を縦に振る。
「舞もそれが良いと思う。咲音ちゃんのお掛けで傷とか怪我は治るけど、さすがに体力が持たないよ」
舞花の言う通りだ。
舞花も咲音もシロも身体に傷や怪我は無いが、消耗した体力により息が上がっていた。
弱音を吐きたくないが、何よりも僕も天恵を使った後であった為に。
予想以上に身体への負担が強かったらしく、怠さが出ていた。
「そうだね、このまま退こう目的は....っしてるから無理はよくない。二人に合流する頃には、体力は戻って居ると思うから」
僕の言葉に二人は頷く。
そこからの行動は速かった。
木に包まれまシアを僕は抱えると、来る時とは違い、咲音が乗ってきた馬に跨がり走らせる。
咲音は舞花と共にシロの背で並走する、時折舞花の視線を感じた。
それを気にしながら僕は、ふと脳裏に浮かんだあの姿を考えていた。
"傲慢な希望は儚い"によって産まれた僕の力、あの姿になった時に告げられた竜を模しった全身鎧の総称。
それが.....。
(...深緑之装)
グリューンが僕に宿った新しき天恵だった。




