表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生初の異世界で~俺だけ何も貰えなかった~  作者: 氷鬼
二章 北の大陸 ハースト
73/81

68話 力の変革

野営地に到着した僕等は、ギースさんに少しの時間を貰い天幕にて話し合いを始めていたが。

椅子に座るギースさんの前に置かれた五つの登録証と、ギルドにて作られた依頼状を見ただけで。

ギースさんは重い溜め息を吐きながら、僕達の意図を察した。


「傭兵ギルドに入ったのか....知ってるか?。この様な規模の魔物災害パンデミックは、冒険者は最低でもC、傭兵もまたCは必要とする。お前らは全員漏れなく冒険者Bで、それが傭兵ギルドは登録したての一番下のFだ。冒険者なら直ぐにでも戦に入れたのに、わざわざ傭兵ギルドに入った理由は....」


確かに僕達なら冒険者ランクBは有り、それならば今回の不死者アンデットの大群との戦も、魔物が原因なら普通は参戦出来る。

けど、人の戦には入ってはならないって言う冒険者ギルドの決まりが有るが。

それをいちいち守ってる冒険者は少数しかいない。

なら、僕達がわざわざ冒険者ギルドじゃなく、傭兵ギルドに登録して、その証をギースさんに見せた理由は....。


「....はぁ~....お前達正気か?。ここまでするって事は、覚悟は出来てるって事でいいのか?」


呆れた溜め息と共に、僕達にそう聞くギースさんの眼を見て。


「「「「「はい」」」」」


真剣な顔付きで僕達の揃った返事を聞いたギースさんは、額に手を当てて首を軽く横に振ると。

また、重く長い息を吐き出し。

机に置かれた僕達の傭兵ギルドの証を、1つに纏めると僕達に投げて返すのを空中で受け取り。

目の前に残った依頼状を破り捨てては、代わりにと引き出しから取り出した、数枚ほど纏められた紙を丸い筒上にして同じく投げるので忍が取る。


忍は手にした筒上の紙を広げると、中の文字列に眼を通していく。

左右からも葵と舞花が一緒に見ていき、葵だけが大きな反応を示す。


「ギースさん!、これって?!。不死者の大群に付いての報告書ですよね?」


「俺がしてやれるのは、これぐらいしかないから。さぁ、Cランク以下の傭兵は何処でも(・・・・)好きな所に行きな、力不足を雇うつもりは毛頭も無いからな」


素っ気なく言うギースさんは、僕達の意図を知りながらも、そう扱ってくれた。


皆して礼を伝えると、ふっと笑みを溢すギースさんは手をひらひらして、さっさっと行けと伝える。

僕達は天幕から1人ずつ順番に出ていき、最後に出る事になった僕は椅子に座るギースさんを見て。


「.....また、会いに来ます」


「あぁ、内の姫さんにも悪気無いだろうから、許してやってくれ」


この言葉だけで、今回の僕達の回りくどい行動の事情を理解してくれたからこそ。

ギースさんはこう言ってくれたのだろう。

そこに僕は深く感謝し、思い切って動けるだと改めて思いながら。


「全員で生きて、サラを喜ばせましょう」


この言葉が言えた。


ギースさんの口元の緩みを最後に天幕を後にしては、外で待っていた仲間の元に向かった。


...........


.......


...


「もう、後戻りは出来ない。僕達は今からこの国にとは関係無く、不死者の大群に向かう事になるけど、本当に良いだよね?」


「何を今さら言ってんだよ、ここまで来て怖じ気付く訳ないだろう?」


「そうよ、私達のリーダーが弱気になってどうすんのよ」


「ここにいる皆は、自分達の意思で決めて居るんだよ。りっくんがペナルティで、本来の強さが出せなくっても、チートな五人がいるだから大・丈・夫!」


「戦闘面は心配だけど、回復とサポートは任せてください!!」


少し弱気になっていたようだ。

頼もしい仲間の返答に思わず、さっきまでの心配事が一気に吹っ飛んでしまった。


「.....ありがとう皆。どうやら僕がまだ、何処かで決めかねてたみたい、もう大丈夫。後ろを守ってくれる、心強い仲間がいるからね」


皆の顔を見ながらそう言うと。

「おうよ」と自信げにする忍、こんな場には最も頼りになる。

何時もと変わらない葵は、それが寧ろ安心できた。

花が満開に咲いた笑顔をする舞花、好きな人の笑顔を見るだけで元気が出た。

そんなの僕の微妙な変化に気付いた咲音が、クスりと笑い気恥ずかしくなった。


咳払いし気持ちを入れ換える。


「.....皆ギースさんがくれた報告書は読んだね、不死者アンデットはもちろんだけど。忍がルージュで倒した同種の可能性が高いと、僕は思ってる」


ギースさんがくれた報告書は、葵が一番に読んでもらったお掛けで、覚えてて欲しい部分を少ない時間で理解できた。

不死者アンデットの種類や危険性、その中に不死の王(ノスフェラトゥ)が存在したが、不死の王よりも強い存在により倒された事を。


そいつの特徴が少し違ったが、間違いなく僕と忍の見解は一致した。


人の成れの果てである雌型ゴブリン。


「それって、しのっちが倒したじゃないの?」


舞花が忍を見て言う。


「あぁ、倒したぞ再生出来程にな」


その時の事を思い出したのか、眉間にシワが寄り不機嫌そうに返答した。

僕は忍の背中を叩き、何も言わずに離れる。

きっと優しい忍の事だ、成れの果てであった雌型ゴブリンの元が小さい子供だったのを殺した事に、彼自身がまだ何処かで許せないでいた。


背中を叩かれた忍は自分の表情に気付き、陸に内心で感謝し平常心を取り戻した。


「それは僕も確かに見た、忍が倒した所を。だけど、その後何者かに死体は持ち去られたらしく、もうしかしたら今回の奴は同じなのかも知れない」


異常な再生力を持っていた雌型ゴブリンは、忍によって細かくミンチ成る程切り刻まれ潰された死体は、僕もハッキリと両の眼で目撃してる。

しかし、何者か分からない、全身が白い人物に持ち去られた。

白い人物は突然現れ、何かしら狂ったように何かを喚きは突然消えたと、タチェックさんから聞いていた。

だから、今回腐り掛けた見た目をする雌型ゴブリンはルージュでの奴と同種だと思っている。


「それって何か可笑しくないかな?」


咲音が不思議そうに口にする。


「咲?、何が可笑しいの?」


「えっ、だって、その持ち去った人の目的が分からなくないかな?。.....例えだけど私だったら、だれかの手に渡るのを阻止する為に持ち去ったのに、それを手放すなんてしないと思うだけど?」


咲音が言いたい事に、一瞬だが頭が(ん?)となった。


「あー成る程!。確かに見たことない個体って、学者とかって調べたりするもんね!。密猟者とかから守ったり、保護したりとか」


「あー確かにな....。でも、いくら再生力が強い彼奴でも、流石にあの状態から復活みたいなのは無いな。それなら別の...個体の方が確実だろ?」


二人が思った事を口にしていく。

それらを聞いてた僕は、答えが出ない問答みたいなのに割って出る。


「これは、全部終わって落ち着いてから考えよう。今の情報量じゃ、どのみち結論には達しないと思うだけど?」


額を指先で掻きながら僕は言う。


「そうね、陸の言う通りよ。今はするべき事に集中しましょう」


葵の言葉で三人が口節に返事しては頷き、最初に乗ってきた二頭の馬とシロの元まで来ては。


葵、舞花、忍が跨がっていき残った僕と咲音は、葵の後ろに咲音、僕がシロの背に跨がり。

シロの背を撫でながら動き出そうとした時に、横から慌てた声を張り上げる三人の老婆走り寄ってきた。


シロが老婆を見てうねり声を上げた。


「大丈夫!大丈夫だからシロ、落ち着いて!」


シロの頭を撫でながら舞花が落ち着かせる。

シロが警戒心剥き出すの無理もないと思う、三人の老婆が血眼に成る程の形相を浮かべていた。

シロのうねり声を受けながらも、怯まず来るのだから僕も驚いた。


「おまえさん!、村に来てたシアの男だ~!!」

「お願いじゃシアを、あの子を助けてくれ!!」

「後生じゃ!、後生じゃから助けて下さいませ!!」


シロに股がった僕を見上げながら、必死に悲痛に心の底から思って言ってる三人の老婆に、僕はシアと言う名を耳にし驚愕すると同時に。

この三人に見覚えがあった、粋先生と初めて訪れた時にオゲタ村で見た記憶力があった。


「落ち着いて下さい!、シアに何があったのですか?」


シロに股がったまま、三人の老婆を落ち着かせようと試みた。

僕の言葉を聞いて少し落ち着きを取り戻した3人は、バラバラに話し出すが頭の中で整理しながら聞いた。


突然具合が悪くなったシアが天幕から出た後に、大勢の騎士が自分達を取り締まったと。

村長代理のシアについて根掘り葉掘り聴かれ、自分達は素直に話したそうだ。

何故、そんな事を聴くのか、騎士に理由を問うと彼等は皆が眼を反らしながら理由を話してくれたと。


三人の老婆の話の聞いて、不意に目眩みたいのに襲われ、シロから落ちそうになったのを踏ん張り止まった。


「そ、そんな筈ない....。何かの間違いに決まってる、見間違いだって可能性もあるのに...」


シアが馬を持ち去る前に、1人の騎士が彼女の眼が魔化アパリ特有の眼をしていたと目撃したらしい。


「16まで育ったあの子が、今さら魔化になるわけねぇー!!」

「そうじゃ!。つい、今しかた迄わし等と話していたシアがそうなる訳がないじゃ!」

「お願いです勇者様!、あの子をシアを救って下さいませ。この通りじゃ、わし等が出来る事なら、何でも致します!。どうか....どうか...お救いくださいませ」


「「お願い致します!!、シアをお助けください!!」」


1人の老婆が地面に頭を擦り会わせ懇願する、それを見て他の二人も同じようにする。


「どうか頭を上げてください、事情は分かりました。シアは必ず僕が助けます!、だから皆さんはシアの帰りを安全な所で待っていてください!」


シロから降りて、頭を下げる三人に僕は片膝を付けてそう言った。


三人同時に見上げ、僕の体に触れる手は震えては、声音が涙声で「ありがとう」と何回も何回も感謝された。

僕は再びシロに跨がって仲間を見回すと....。


「助けに行くだろ?、なら行こうぜ!」


「迷う必要なんてないでしょ?」


「陸さん!、行きましょ!!」


「行こうりっくん!!」


皆が僕にそう言ってくれた。


「皆....行こう!!」


僕の掛け声に皆が其々の返答し、シロを先頭に走り出す。

事前に馬に走り出す前に舞花が強化を施したお陰で、シロには負けるが付かず離れずの距離を保っている。


出発から30分程して、前方に白い何かが無数に地面に散らばっているのを発見した。

危険がないのか、シロの足は止まらず突き進む。

近付いて初めて分かる、白い何かの正体が骨人スケルトンの残骸であった。

誰かが倒したのだろう考えるが、こんな危険な道を進む人物に心当たりはないが。

先に来たのシアだと考えれば、この状況にも納得は出来るのだが、果たしてシアは戦えるのか疑問に思えた。


残骸はどれも粉砕されており、シアの膂力を知ってる僕は、やはりシアなのかと思い始めた。


どんどん進むに連れて骨人に加えて、歩く死体(ゾンビ)の死体など下級不死者アンデットの数が増しっていく。

少し先には色んな所を噛み千切られ血を流し、錆剣で滅多刺しされ、それが絶命に至った馬を発見した。

これには僕達は足を止め、直ぐ様辺りを見回す。


「シア!.....シア!!....」


二度、彼女の名を叫ぶが辺りからの反応はなかった代わりと。

倒されていたと思っていた不死者アンデットが複数起き上がり、生気ない眼窩が僕達に気付くと襲い掛かった。


「チっ....めんどくせぇーな」


騎乗したまま、以前よりも重さが増えた鉄斧を構えた忍が、ダルそうにそう言うと。

馬を走らせ近付いた不死者アンデット共を蹴散らしていく。


「シロがこの先に匂いするって!」


忍が不死者を相手してる間に、シロが絶命した馬から香る匂いを嗅いで舞花に伝えていた。


「分かった、不死者には注意しながら進み、少しでも数を減らして行こう」


今は忍が倒してる為に周辺に不死者は消えていくが、道の先を眼を魔力強化して見れば。

此方に真っ直ぐに行進している不死者の大群、だが、一点において空白じみた一筋になるように不死者が倒されていた。


陸はそれに気付くと、シアがやったのだろうか?と考えはしたが。

流石にあの大群を突破するのは無理と考えたが、シロが嗅いでくれた匂いは、この先に続いてるのだとすれば、シアは馬が亡くなってからこの道を進んだのは事実だと知る。


「なら、あんた達二人と咲は先に行きなさい。私と忍がここで不死者の注意を惹き付けながら、数を減らしていくわ」


葵が僕達にそう言うと、馬で駆け回ってる忍を大声で叫び戻す。

「危険だ僕達も一緒に戦う」と言おうとしたが、彼女の瞳を視ると何も言えなかった。


「ありがとう。...無事にまた後で合流しよう」


「しのっちも葵も、怪我しちゃダメだからね!!」


「あ~ちゃん行ってくるね!」


一仕事終え呼ばれ戻ってきた忍の馬に、颯爽と後ろに跳び移った葵に、僕達は声を掛けた。


「無事にシアって子を連れ戻してきなさいよ....。後、咲に怪我させたら承知しないからね」


「「は、はい...」」


最後の部分だけに、葵の凄みを舞花と一緒に感じた。


「あ~ちゃん!!、過保護過ぎるよ!」


はい、咲音の言う通りに過保護し過ぎじゃないですかね?、葵さん?......。


咲音の意見に心の中で頷き肯定した。

全く分からない訳でもない、咲音が倒れてから半年もの間に世話をしては、目覚めた後は以前に比べるまでもなく過保護になっていた。


「ふふっ....。さぁ、忍貴方(あんた)のバカ力で蹴散らしなさい!」


静かな笑声を出しながら、馬の手綱を握る忍に指示を出す。


「ったく、人使いが荒いが陸達の為にやってやらぁ~!」


悪態付きながらも、その表情は何処か高揚しながら馬の横腹を足で叩くと、嬉々として不死者の大群に突撃してった。

一番前の先頭不死者(アンデット)にぶつかると、大きな音と共に中に浮いていく。

それは1つのドミノ崩しのように、次第に大きく崩れていく。


「ハハッ.....手応えねぇな!、コイツら!!」


骨人スケルトンの骨は砕き、歩く死体(ゾンビ)の腐肉を撒き散らしながら忍は嗤う。

久しぶりに何も考えずに暴れる事に、身体の底から楽しく思う。


「なぁ、葵...お前もそう思うだろ?」


自分の後ろに居る葵に、不死者の手応えなさを聞くが、後ろからの返事はない所か居なかった。

何処に行ったのか周りを見れば、自分の真上に跳んでいた。


「喋る暇があるなら数を減らしなさい、脳筋」


馬の背を台に高く飛び上がった葵が、下にいる忍に軽口を叩き。

自身の天恵ギフト"踊りし剣舞(ダンシング・ソード)"を発動していた、自分の周りに剣の形状じゃなく戦槌を浮かべていた。


「待てまて!、それ俺も巻き込むだろ!!」


戦槌の形状を見ただけで、忍は大きく慌てながらその場から離れようと馬を全速力で走らせる。


高く飛び上がった位置から下降が始まる一瞬の内に、炎槌、水槌、地槌、風槌の四つを不死者が纏まってる所に振り下ろした。

振り下ろした地点から四方に、其々の属性が荒いながら円状に暴力を振るう。

それとは別に、まだ攻撃されていない遠くの不死者達に向けて魔法をぶっぱなす。

火魔法と水魔法の複合魔法『爆波エクスウェーブ』が、炎の波となり範囲を広く燃やしていく。

葵だけのオリジナル魔法ではなく、模倣された劣化版として葵が作った魔法。

威力は充分に強力だが、消費魔力がとてつもなく大きく日に2発も撃てば魔力は半分を下回る。


何故、そんな魔法を使うのかと言えば。


爆波は発動地点から炎の波が発生し、円を描くように周囲の物体を渦巻き混みながら。

おおよそ8m程移動しては、消える直前に内側から外側に爆散する。


これにより近と遠の二つを攻撃した葵は、忍の突撃を霞めさせるかのように奪い去った。


それにより、不死者アンデットの大群は千を越える被害を与えたが。

不死者の大群は底が無いかのような数が、犇々と居た。


シュタと地面に着地した葵が、ふぅ~と軽い息を吐き。

両手に炎剣と地剣を握り、まだ居る大群に向かって斬りかかって行く。


そんな盛大な広範囲攻撃をギリギリの所で身避かわした忍は、槌までは知っていたが複合魔法の事については知らなかった。

その為、お気に入りの服が焦げた事に落胆しながら。

平然と巻き込み攻撃をした葵を呆れ眼で恨みながら、馬上の上から陸達の道を作っていく。


シロの背に乗った二人と、馬に乗る一人は。

葵の暴挙を目の当たりしては身震いし、一気に駆け出して不死者の大群を突ききった。


この時の三人には共通として、葵の姿が悪魔に見えた気がしたとか......。


.........


.......


....


突ききった後、道中を邪魔する不死者を倒しながら三人は足を止めていた。

シロがここから匂いが強いと舞花から陸に伝えていた、何時でも戦闘が出来るように身構えながら三人は中を進んでいく。


そこはシアが住んでいたオゲタ村だった。


壊された木造作りの家、踏み荒らされた畑、道中に居た不死者の姿がいない事に、違和感を覚えながら探し人の名前を叫ぶ。


「シア!、居るなら返事をして欲しい陸だ!!」


対象に自分が誰なのかを伝え、出て来て貰えるようにする。

もうしかしたら、隠れている可能性を考慮していた。


「シアさん返事をしてください!、村の人が貴女の帰りを待っています!!」


加工された魔石を装飾された杖を握りながら、咲音は呼び掛ける。


「どう?、匂いはまだする?」


舞花の横を平行しながら歩くシロに問うと「ガウッ」と一鳴きする、僕達には分からないが舞花だけには言葉として通じあってる。


「もう、かなり近いって」


「そうか...もうしかしてここか?」


村の中で陸はシアが居そうな場所には目処が付いていた、そこを目指して歩いては居たが本当にここだとは思ってもしなかった。

世話になった事もある家、恩があるヒサの家でありシアの家でもあった。


陸の問いにシロが鳴く。


「『そうだ』だって、この中から匂いがしてるみたい」


シロの通訳を訳して教えてくれる舞花。


「流石に三人で行くのは、向こうが驚くだろうから、二人は辺りを警戒してて欲しい」


「「分かった(分かりました)」」


二人の返事を聞き、形が歪んだドアに手を掛けて力一杯に開ける。

ガゴっみたいな音が鳴りながら、開いたドアから入りゆっくりと歩を進める。

やはり、他と一緒なのか不死者の大群の行進により、所々壊れては内の家具等は床に倒れていた。


歩く毎にギシギシと鳴り、耳を研ぎ澄まして聴こえる音に集中する。

すると奥の方から息遣いを聴こえ、慎重に進んでいく。


ここは....シアの部屋だったけ?


「シア....僕だよ、そこに居るのかい?」


シアの部屋だったそこに入ると同時に、中に聴こえる程度の声量で話す。

ガサッと動く何かの音に、眼を向きながら視ると向こうも視線を向けていた。


「良かった....本当に無事で良かっ....た」


いつもの二本のおさげは、ここまで来る時にほどけていた。

服装も枝にでも引っ掻けたのか、穴が空いてたり破れていた。

そんな彼女の腕の中には大事そうに抱えている物に気づく、白い布に巻かれたそれは、自分がアンとリストに渡すように頼んだ物だった。

三人の老婆から聞いていたが、本当に命を惜しまずに取りに戻った事に憤りを覚えるが。

そこまでして、取りに戻ってきた事には嬉しく思えた。


けど、今はシアが生きている事に大いに嬉しく安堵の息を吐きながら洩らした。


「リ...グ..さんど....うし...てここに?」


驚愕してなのか呂律が上手く回らないまま、シアが幻を見たように言う。


「「シアを助けて欲しいって」、お願いされたからね。村の人達がシアの帰りを待っているよ」


手を差し伸べて、簡潔に分かりやすいように説明する。


僕の話を聞いたからなのか、シアの頬を伝う涙が見えた。


「.....ありがど...うござ....い..ます...でも、わだしはひどを...やめでしまいました。だからごれをもって、にげでください。....もう....おざえられない!!」


差し伸ばした手に、シアが大事そうに抱えていた物を、強引に手渡すと苦しげな仕草をし叫ぶ。


「シア!!。....くっーーーーー!!」


手渡された物を落とさないように掴み、苦しげなシアの異変を気に掛けると。

その場に立っていた僕の頭に、危険本能が警報し後ろの壁に激突する勢いで飛ぶと、異変を生じていたシアの拳が振り下ろされていた。

床は平然と貫き、その衝撃により床の木片が僕に襲う。

咄嗟に両腕で防ぎ、事なきを得たが。


後一歩気づくのに遅れていれば、不意の一撃に死んでいた。


「グゥ.....フシュュュュ.....」


シアから漏れる獣じみた唸り声。

急いで手にもった荷物を袋収納メッシスに仕舞い、シアを取り押さえ正気に戻そうと試みた。森魔法『根の拘束ルート・コンストレーント』をシアに目掛け使用する。

天井、壁、床から木材が枝分かれするように分かれると、シアの体に巻き付いたのだが。

1秒も拘束出来ずに力業で破壊され、獣の動きで床から天井に壁へと跳躍し縦横無尽に跳び跳ねた。


直地の度に木の折れる音を鳴らしながら、僕の隙を伺ってる様子が見て取れた。


(このままじゃダメだ、広い所に出ないと....。)


狭い空間じゃ上手く立ち回れない事に不利が有ると分かると、僕は一目散に扉から外のドアに向かって走った。

後ろからシアが声を荒げながらの接近に気付き、腕じゃ防げないと一目で理解した。

聖剣ルクスを間に潜り込ませ突進から身を守るが、足の踏ん張り効かず吹っ飛ばされ。

シアの家を壊し外に飛ばされながら、地面をシアと共に転がった。


「「りっくん(陸さん)!!」」


外で待機していた二人が、壁を壊して吹っ飛んできた陸に驚嘆する。


「ガウッ.....ッウガァァァ!」


僕の首元に噛み付こうと歯をぶつけ合い、ガチンガチンと音を鳴らしながら上から圧せられる力は以上だった。


「シア.....正気に戻るんだ!!」


家の中では、まだ信じられなかった物が。

外の明かりに去られたシアの瞳孔を見て、僕は嘘のように衝撃を受けて苦し紛れに名を呼ぶ。

獣人や竜等に見られる縦長の瞳、だけどシアの瞳孔を目の当たりする事で、直感で身体の芯から教えられてしまった。


これが....魔化アパリなのだと。

獣よりも劣りながら酷く、剥き出しの闘争は命有る者に牙を剥く。


「りっ....くんから離れろっ!!」


集う意思の共鳴アンセンブル・レゾナンスを使った舞花が、シロ共に陸の上の乗っかるシアに鋭利な爪で共闘する。


「ぐっ....」


一人と一匹(二人)の攻撃を陸の腹を台に跳んで身避した、白銀の鎧上からだというのに陸に痛みが走る。


氷槌アイスハンマー!!」


中に浮いた所を咲音が追撃し、身避し様が無いシアの側面に当たる。

ドンッと鈍い音と同時にシアが大き吹っ飛んでいくが、吹っ飛ぶ最中体制を建て直し地面に降り立つ。

そこに立つシアには、ダメージを負っている様子は無かった。


「二人とも待ってくれ!、攻撃はしないでくれ!。シアは....正気を失ってるだけなんだ」


僕は腹の痛みに耐えながら起き上がり、今にもシアに攻撃を仕掛けようとする二人を声で止める。


「陸さん....気持ちは分かりますがアレは、陸さんが知っているシアさんじゃないです、魔化なんですよ!。ほっとおけば、シアさんが誰かに手にけてしまう前に楽にしてあげないと」


咲音の言う通りだ、何も間違えてはいない。

このまま、シアを逃がしてしまえば、優しかったシアが誰かを殺めてしまうのは。

シア自身がその諸行を許せないと分かっている。

だけど......殺めてしまうのは間違っている。

何か..何か...きっと助けられる方法は有る筈なんだ。


「りっくん!、来るよ!!」


舞花の声に、僕は何の手立ても浮かばずに迷走ながら考えるのを止めて。

1つの事だけを決めて行動を起こす。


「シアは殺させない、必ず魔化から助けてみせる!」


それは1つの決意、だが誰にもなし得ない上で当方もない道を陸は見出だそうと足掻く。


(りっくん.....)

(陸さん....)


二人は分かっていた、魔化になってしまった初対面のシアが元に戻らないと。

アレは人の境界を越え、二度と人に戻らないんだと理解しさせられている。

三人の内情など知りもしない魔化シアは、身近にあった丸太を両手に、投げていく。

それは陸がリストの為にあしらえたトレーニング用の丸太であった、その数23本が陸達に襲う。


だが三人は苦もなく避け続ける、三人の中で速さに重点が大きいシロと舞花は。

網の目を潜り抜けるように、投げ続ける魔化シアに近付き両側から挟み撃ちした。


「ガアッツッッッ!!」


前と後ろから爪で引っ掻かれ、痛みで苦悶の表情を見せると。

それを嫌がり追撃を恐れると、天に掲げた拳がブンッと風切る音共に振り下ろされると、地面が地割れし魔化シアを中心に拡がる。


「きゃ!」


地割れした亀裂に足を捕られ咲音が、可愛らしい悲鳴を上げた。

その一瞬を見逃さなかった魔化シアが、手足を使い咲音に目掛けて駆ける。

僕は走り出し、二人の間に割って入ると光魔法『光球ライト』を使う。


目映い光が辺りを包むと、耳から魔化シアの叫び声が甲高く聴こえる。

諸に光球を食らったみたいだった、これで目を潰した事になる。


「咲音大丈夫か?」


今の内にと咲音を助け出す。


「ありがとう陸さん、助かりました」


礼を伝えた咲音は、「お願いがある」と言う陸の言葉に頭を傾げる。


「シアに天恵を使って欲しいだ、もし...もしも魔化に成る前の人間になれないか試して欲しいんだ?」


「.....」


何かを言うおうとしたが咲音は思い止まり、口にするのを止めた。

陸が自分を視る瞳は、最後の縋りのように思えたから。


咲音は自分の天恵だから分かっていたが、どうしても言えなかった。

ただ、言われた通りにシアに"死する生者に癒しをデッド・リビングヒーリング"を使う。


すると、舞花とシロに付けられた爪傷は塞がれ、光球によって目が治ると、それ以外の変化は見慣れなかった。

変わらずの魔化シアがそこに居ただけの、結果となった。


振り出しに戻る。


「やはり......ダメだったか.....」


目から涙が流れるのが分かる、もうしかしたらだけど咲音の天恵に一筋の希望を持っていた。

肉体を正常に戻す咲音の天恵の力を、だけどは結果は肉体の傷を治し魔化はそのままであった。


その事から魔化は肉体的変化では無く、全く別の要素で有る事が分かっても。

今の陸には、その事が分かっても意味を成さなかった。


有るのは助けられない事への絶望、自分の不甲斐なさ、またグリューンの時と同じ出来事を繰り返すのかと言う情けなさ。


手に持つ聖剣ルクスから、キンっと柄が鳴る。

それと同時に自分の心臓が高く跳ね上がる、ドクッンドクッンと。

徐々に激しくなる心臓の音、張り巡らされた血管はマグマのように熱くなる。


〈スキル『◆◆◆◆』が、信念有る者に力を(ビリーブ・フォース)に干渉及び変革を実行.....〉


突如僕の頭にそんなアナウンスが流れると、僕の身体にとてつもない痛みが襲う。


〈実行クリア、対象の天恵ギフトが変革されました信念有る者に力をが"傲慢の希望は儚く(アロガント・ホープ)"に変革。対象のペナルティを強制解除されました〉


傲慢の希望は儚く?.....。


僕の身に何が起きたのか理解が追い付けないが、ただ一つだけ分かるのは、気付けば僕は新しい天恵の名を(・・・・・・)口走っていた。


「.....傲慢の希望は儚く(アロガント・ホープ)


陸の身に何が起きたのか分からない二人は、そこに立っていた彼は、身に纏っていた鎧が身体にそって作り替えられ。

頭を全体包み込み、鋭いフェイスは緑に煌めく眼光が壮大な森を彷彿させる。


変化が終わると、そこには竜を彷彿させた姿で立つ彼が居た。


「あぁ....分かる....これならシアを救える」


竜の頭に思わせる頭鎧からぐぐもった声で、何処か感嘆じみた言葉が呟かれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ