67話 前戦 初
社員になるとは、こうも忙しいとは思ってもいませんでした。
準備や入り用であたふたと忙しい日々で、まともに更新出来ず申し訳ございませんでした。
玉座の間にて、ヘルズ国の女王サラは玉座に座りながら気品が溢れ、頭と胸に着けた花が可憐で華やかにしていた。
その御身の前に頭を垂らすのは、勇者召喚された五人であった。
女王サラは左手を小さく上げると、真横に待機していた人物がそれを合図に、静かな玉座の間に声を響かせる。
「勇者様方。面をお上げて下さい、陛下から御言葉が賜ります」
それだけを伝えると人物は一歩下がり、再び何か有るまで待機する。
「ありがとうマリス。....今日、皆様を御呼びしたのには理由が有ります」
サラはマリスに礼を言うと、それに対して臣下の礼を取って意を示した。
少しの間を取ると表情は真剣その者となり、重い声で面を上げた勇者達に言う。
「単刀直入に申します。今日の夕方までに即刻国から出立して貰います、その為の足と資金はご用意が出来てます」
サラの言葉に五人は大きく驚くと、一人が口を開き異を唱える。
「それは....今不死者の大群が迫ってるのと、関係が有るですか?」
「もう耳に入ってましたか、リク様の言う通りです。現にギースが前線を築き、軍を率いて迎い討とうとしています」
「なら、俺達も協力した方が良いじゃないのか?。戦力的にも、充分役に立つと思うぞ」
サラの話を聞いていた忍が、尚更協力した方が良いじゃないのかと提案するが。
それに対して、サラの態度は変わる事はなかった。
「これは我が国の問題です!。皆このような魔物災害にも備え、兵士から騎士まで日々精進してきました。そんな彼等が民を国を守れると信じているからこそ、私は勇者様方の御力を借りたくないのです」
心の底から思うからこそ、力強い言葉共にサラの決意が伝わる。
「サラ。それなら忍が言うように、私達にはヘルズ国の生活に親しい人達が出来たわ。なら、一人でも助ける為に力を貸したいの」
葵はヘルズ国での半年の間に出来た、友人、知り合い、行き付けの店と大事で楽しい思い出を無くなさない為にも動きたかった。
「そうだよサラっち!。そんな事言わないでよ、舞はサラっちも国も皆を助けたいだよ!」
「そうですよサラさん。私ならこれから起きる戦いで出る怪我人や負傷者も治せます、私の天恵なら存分に役に立つと思うです!」
舞花も咲音も彼女らの思いを、玉座に座るサラに投げ掛ける。
「僕達...国を守ろうとする皆と同じ気持ちです、そこにサラ....君も含まれてるだ。この世界に召喚されて半年。ギースさんやサラに世話になったんだ借りは返したい、だから僕達にも手伝わせて欲しい。....ダメかな?」
彼等の顔付きは真剣を帯ながらも、サラ自身から否定された事に憂いを感じさせた。
「リク様、シノブ様、アオイ様、マイカ様、サクネ様。国を守ってくださる気持ちには、大変心嬉しく深く感謝しておりますが。これは王としての立場で言ってるのです、もし、これ等を無視し我が国に滞在していれば王命違反として。重罰として捕らえます」
サラの言葉を、ただ黙して傍観していたマリスが声を荒げる。
「陛下!」
敬称で呼ばれたサラは呼んだ本人を、何時ものの可愛らしい瞳を鋭く尖らせ睨むよう顔を向けた。
「.....少し言葉が過ぎるかと存じます。勇者様方は好意で言ってくれています、今は少しでも人手が欲しい所です。不死者の大群は万を超えてるとの事、それに対して我軍の数は八千です。どうか....今一度ご検討戴きますように、御願い申し上げます」
マリス・アルミナは打ち合わせとは違う言動をする陛下に、大臣としての役目を全うする。
冷静に現状と進行を見極めながら、軍数の劣勢を知るからこそ陸達の参戦意思は有り難いと思っていた。
「なりません。勇者様方の御力は借りません、これは決定事項です。もう、これ以上の話し合いはありません、夕方までに国から即刻出ていくように」
マリスの検討を容易く断ち、サラ自身の内では話が終わったんだと言うわんばかりに。
手元のベルを鳴らすと、玉座の間の扉が開き多くの騎士達が押し寄せ陸達を囲む。
「申し訳ございません勇者様。速やかに玉座の間からの退出をお願い致します、出口はあちらです」
騎士の一人が口にすると、扉側に囲んでいた騎士達がザッと左右に開く。
「待ってくれ!。まだ、話しは終わってない!。サラ、お願いだ僕達にも守る為に手伝わせて欲しい!」
「速く連れ出してください」
騎士達に囲まれながらでも陸は伝える、四人も同じようにするが。
サラは一言発っしては、その後も取り合ってもくれず陸達は渋々と玉座の間から追い出された。
本気で抵抗すれば訳もなく、騎士達の囲いを打ち破りサラが納得してくれるまでするつもりだったが。
五人は確かに見てしまった、冷たい言葉を発っし強硬な態度を魅せるサラが、扉が閉まる直前で流した涙を。
「陛下....本当に宜しかったですか?、本来なら助力を願う筈だったのでは?。それを変えてまで勇者達を遠くに遠ざけようとして、あの様な言動すれば反感を買います」
勇者達が玉座の間から出るのを見届けて直ぐに、マリスは玉座に座る儚げな女王に進言する。
「分かってるは、それぐらい。でも、一度助力をお願いすれば、勇者様方は優しいから、きっと最後まで引き受けるに決まってる。誰よりも傷付いても、戦い続けるの....」
サラは言ってて悲しくなる。
父の私欲で違う世界から召喚された勇者達は、理不尽な出来事すら受け入れて納得してくれた。
その後も同郷の一人が、また、父の性で亡くなってしまっても。
同じ王族の私を恨んで罵詈雑言すらしてくれず、してくれれば、どれ程気が楽に慣れたのだろうか。
勇者達はそれすらも、自分達の性だと受け入れて飲み込んだ。
なのに、国が危険で存亡の危機だとしても。
私はそんな優しい彼等を、不死者の大群に力を貸せなどと言える筈が無かった。
だから国から即刻遠くに行かせようと、マリスとの決め事すら破って勝手に言ってしまった。
「.....陛下の御気持ちは承知しました、その件に関しましては私は何も仰りません。そのまま、陛下の御心のままに従いませ」
サラの話を聞いていたマリスは、ただ従う事に徹した。
彼女もまた、勇者達の人柄を知るが故に。
内心は別の事で一杯だった。勇者達の力を借りられないので有れば、国が不死者の大群に滅ばされる可能性を考えなければならないだと。
そうなった時に、あの子が生き残り健やかに過ごせるように、手を尽くさなければならないのだと。
「ありがとうマリス、我が儘を言ってしまい....」
「いえ、お気になさらずに。....それよりも次の勇者様が来られました、お通しても宜しいですか?」
重厚な扉から勇者を案内する役目をお願いした、専属メイド長のメルシー入室を合図に、陛下に申す。
サラも手を上げて答えると、メルシーに合図が伝わり次の勇者達が玉座の間に入室し。
長い赤の絨毯を歩きながら、最初の陸達と同様に頭を垂らす。
「勇者様方。面を上げて下さい、陛下から御言葉が賜ります」
また、最初のと同じ出来事を繰り返し。
陸達以外の勇者達に同じ事を話し、それを後何十かいもやらなければならないだと割りきって。
こんな面倒くさい手順を取らずに、一回に纏めてしまえば良いのだが。
近しくなった勇者達の数に負けて、考えを変えない為に、少ない少数の方が気持ちを誤魔化せていた。
だが、サラの行動も虚しく。
先に出立していた一也達が、関わってしまったのは知らずにいた。
..........
......
...
玉座の間から追い出された五人は、一番近かった部屋....元真樹の部屋に集まっていた。
半年も誰も使う者が居なかった部屋は、普通ならホコリが被り汚かった筈だった。
それを半年間、毎日一人の幼いメイドが訪れ必要以上に綺麗にしていた為に。
部屋は常に綺麗であり、五人もまた、そんな事を知る事はなかった。
「もう~!、どうするの!!」
ベットの上に横たわった舞花が、不満を垂れ流す。
「どうするって言われてもねぇー、夕方までに国から出ないと捕まる訳だし。さて、どうしようか?」
ベットに腰掛けた葵が殊更に問題点を口にする。
「そんなもん気にしないで、協力すれば良いだろう?。後は逃げればいいじゃん?」
椅子に跨がり背もたれに身体を預けた状態で、忍が自分の意見を話す。
「私も忍くんの考えに賛成かな?、逃げるのはどうかなって思うけど。このまま出て行くのは嫌だな....」
「なら、私わ咲に1票よ」
「おい、咲音じゃなく俺に1票だろ!。寧ろ2票獲得したわけだ、流石俺だな」
忍の考えに賛成を示した咲音の考えに、横に座る葵が直ぐ様咲音に賛同する。
その事に忍がツッコムが葵は気にもせず、自画自賛する忍を冷ややかに見るだけに留めた。
「しのっちさぁ~、そんなじゃリアさんに嫌われるよ?」
横たわったまま、口だけを動かし忠告を促すと。
「うるせーチビッ子!。リアはそんなじゃ嫌いにならねぇ~よ!」
好き人の名前を出され、思わず忍は舞花の禁句を口にしてしまった。
これが冗談の類いなら、舞花だって落ち着きはせずとも反論ぐらいはしただろう。
或いは、自分から相手をからかうなら言われるのも納得もした筈だったが。
今回、舞花は忍を思っての忠告であり指摘だった。
ベットに腰掛ける葵と咲音は左右に身体を反らすと、真ん中を飛び抜ける小さな女の子が、椅子に座る忍に襲い掛かった。
「誰がチビッ子だ!、脳筋バカ!。リアさんに言い付けてやる、しのっちがいじめるって!」
忍の背にしがみつき、頬っぺたを強く引っ張りながら舞花は憤慨する。
「バふぁ!、やひゃめろよ!。しょれが、こひょほいだよ!。......陸これ何とかしてくれ!?」
頬っぺたを引っ張る手を引き剥がし、忍は壁にもたれ掛かってる陸に助けを求めた。
「.......うん?、何してるの二人とも遊んでるの?」
陸自身、どうするかを愚考してる間。
忍の呼ぶ声に顔を向けると、こんな時に遊ぶ二人の姿が目に映った。
「「遊んでない!」」
「はっはは...二人とも息が合う程ハモってるよ」
「本当、舞花も忍も何だかんだで仲が良いわね」
二人の言葉が揃う事に、ベットに座る二人はそれを見て和む。
「さて、僕達も動くとしようか?」
場の和みを感じ取った陸が皆に切り出す。
「え?、動くって?」
舞花が陸に問う。それは他の皆も同じ意見であった。
「夕方迄には出ないと僕達は捕まる訳じゃ、そうならない為にも準備を済ませないとね...色々と」
扉を開けた陸が、動こうとしない四人にそう言うと速くと急かす。
「おいおい陸!。このままサラに言われたままに、国から出ちまうのか!」
「しょうがないだろ忍?、王様の意思に逆らうなんて出来ないだろ。ただ、僕達が行く方に、たまたま...そう、たまたま不死者の大群が居るなんて思わないだろ?。そうならない為に準備しなくちゃ」
例え話するように肩を竦めては、陸の考えが分かった四人は笑顔を見せると安心した。
「ったく、面倒な言い回ししやがって」
「そうね、一瞬でも陸を疑った私がバかだったわ」
「わ、分かってたもんね舞には!。りっくんがそんな人じゃないって!」
「マイちゃん....それはムリが有ると思うなぁー」
四者四様ながら、四人は先に行ってしまった陸をの後を追い掛ける。
「速くしないと置いていくよー」
............
.......
...
「勇者様方、御待ちしておりました。馬車の準備は出来ております」
城下町で必要な物を買い、ギルドでの登録を済ませた僕達は外壁門に行くと。
そこで待っていた騎士が快く出迎えた。
お礼を伝え、いざ馬車に乗り込むと先程の騎士が手に何かを持ち近寄ってきた。
「これは旅路の資金にと陛下から、使いやすいように銀貨が50銅貨100程になってます」
麻袋に入った重量物を手渡そうと伸ばす騎士に、僕は手を振り拒否した。
この後する行動に騎士の彼や、サラに迷惑を掛ける事になるのだと分かっていたから。
「ありがとう、でも貰う事は出来ないから。それはサラに返しておいて、忍出してくれ!」
馬の手綱を握ってる忍に声を掛けると、景気の良い声が返ってきては。
バシッと手綱の音が鳴り、勢いよく馬が走りだし門を潜って外に駆け出した。
「勇者様!!」
騎士の驚いた声が後ろから聞こえたが、風を切る音がそれすら掛き消し。
忍の荒い行者に僕も中に座っていた三人も、すっとんきょうな声を出しては気分が高揚していた。
「陸このままギースの所に向かうぞ」
「あぁ、全速力で頼む」
そう言うと忍はニヤリと笑い、さらに手綱を強く打ち鳴らし馬車を引く二頭の馬が、さっきよりもスピードを上げていく。
位置的にもギースさんが居る野営地まで、このスピードなら二時間で着くだろう。
「う~んこの速さじゃ遅いよね?、この子達に強化しとくね」
ひょうこり僕と忍の間から顔を出した舞花が、馬車を引く二頭の馬に強化を施した。
それにより.....。
「ばっ!.....」
忍が何を言いたいのか分かってる僕は、全くの同意件だと思う。
強化された二頭の馬は、普通じゃ考えられない程の速度を叩きだし優に100㎞は越えてる。
そんな速度を出せば、目的地迄には30分もしない内に着くだろうけど。
「舞花!。何考えてるのよ!、強化を解除しないと馬車が壊れるわ!!」
葵の叱責通りに、馬車自体は普通の木材と布で出来た物だ。
道も整備されてるとしても、綺麗に平面には出来ず、凹凸や小石等がまばらに存在する。
そこを100㎞を越える馬車が通れば、車輪や木枠等の負担は計り知れない。
これが地球のようにゴムや金属で加工されていれば、さして問題もなかったはずだ。
「ごめんって!、直ぐに消すから!!」
葵の普段の叱責との雰囲気を気付かされたのか、舞花は馬に掛けた強化を解除する。
途端にガクッとスピードは下がると、忍は手綱で馬を静止させる地面に降りた。
「車輪を見てくる」
「頼むよ忍」
不具合が起きてないか見に行ってくれた忍に、僕はお願いしては布を捲って中の様子を見ると。
絶賛説教中の二人を間に、咲音が困り顔をしながら仲裁していた。
「陸」と僕の名前が呼ばれてるのに気付き、声のする方に振り向くと、車輪を見ていた忍が戻ってきていた。
「ダメだ、亀裂が入ってる。走ってる途中に壊れるなこれは...部品さえ有れば取り替えられたが」
「そっか....馬車は捨てるしかないな」
やはりと言った感じで無事だとは思ってなかったが、もう少し丈夫だとも思っていた。
しょうがないと諦め、三人に説明すると説教中の葵の形相が更に険しくヤバくなる。
これには僕も舞花も咲音も、身を引いて距離を取ってしまう。
そんな葵に触れないように、馬車と馬を切り離した二頭に。
一頭ずつ忍が一人、葵と咲音が二人が乗り。
僕は召還されて呼ばれたシロの背に舞花と二人で跨がり、ギースさんが居る筈の野営地に向かった。
馬車が無くなったことで、改めて強化を施した馬と素で同じ速度を走るシロのお掛けで。
30分程で到着したが、野営地の中は騎士や兵士までもが世話しなく動き回り騒然としていた。
速度を緩め静かに野営地に踏み入ると、目的だった当の人物が焦燥と疲れきった顔付きで指示を出していた。
「戦の準備が出来次第、不死者の大群に迎え撃つぞ!!」
ギースさんの張り上げた声に、共鳴するように騎士や兵士までもが声を上げ戦の準備が始まっていた。




