62話 危険な手合わせ?
一也、佑樹、成行の3人を見送った後、僕は舞花達が訓練場に向かったというの聞いていた為に、その足で向かっていた。
中に入ると激しい音が耳に響き渡る、きっとベノムとギースさんが何時ものをやってるだと考え浮かんだが。
実際は違っていた、中央で舞花と葵が対峙していた。
その傍らで、二人を肴に大量の酒を用意して呑む二人を見つけた。
「こんな真っ昼間に呑んでると、また、サラに怒られますよ二人共?」
酒を煽る二人に後ろから声を掛けると、一度呑む手を止めて誰なのか分かると再び呑み始めた。
「なんだ帰ってたのかリク、どうだお前も呑むか?」
グイっと僕の方に向け差し出す銀杯、中を覗き込むと酒では無く子供が飲む果実水だった。
「.....酒じゃないので頂きます」
ちょっと不服気味に言うと、その様子を見ていたベノムとギースは笑う。
「なんだ子供扱いされたのが、そんなに不服か?。なら酒呑むか?」
分かってて言ってるなギースさん。
ギースの態度に若干の苛立ちを覚えるが、此処で挑発に乗って呑んでしまえば負けると考え。
陸は果実水を口に含み我慢する。この人に何を言っても無意味だと、分かりきっていた。
「ふん。子には分からない我等だけの味、それを知る事が出来ないとは悲しいな」
鼻で笑うと銀杯に入ってる酒を一息で呑み干した後、空に成った銀杯に酒を注ぎながら言う。
「.......はぁ~~~。もういいですよ、酒は呑みませんから。後でサラに怒られても知りませんからね本当に.....」
もう一度盛大に溜息を吐いた後、二人が対峙してる訳を聞くと、思い出したように笑いながら話してくれた。
「いやー、それがよ。最初は鈍った体を動かす為にお互いに手合わせしてたんだよ、最初はな。だけど、どっちも隙も無くジリ貧だった訳だよこのままだとな」
笑い過ぎて言葉にならなくなった話の続きを、バトンタッチするかのように続きをベノムが話す。
「隙が無いのなら作るしかあるまい、互いに油断を誘う為にわざと隙を作るが上手く決まらない。なら、それ以外でどう隙を作り一撃を決める?」
そう突然にベノムに問い掛けられ、陸は自分ならどうするのかと思案した。
要は物理的な隙は意味が無かった。なら、あの二人ならどうするかを考えれば、.....あっ、そう言うことか。
自分ならどうするかを一度考え、次に舞花と葵ならと考えると二人がする事に思い当たった。
その問いの答えを陸は、酒を煽るベノムに聞かせる。
「心の隙を突く為に、あの二人なら互いの悪口でも言い合いましたか?」
「正にその通りだな、当てた褒美に酒を進呈してやろう」
そう言って、開けてもない茶色の酒瓶投げる。
「いりませんから。それで、大体何時からあの状態何ですか?」
空中でキャッチした酒瓶をベノムに投げ返しては、何分ぐらい対峙したのかを聞く。
「そうだな...もうすぐで30分は経つな、それにしても腕を上げたよなマイカもアオイも、なぁ、リク?」
30分もやってるのか、そろそろ止めるべきかな?。..........いや、あの間に入って止めるのは無理だな。
ギースに声を掛けられているのに関わらず、陸はケンカしてる二人を見て止められる気がしなかった。
本当なら軽く身体を動かすだけの手合わせだった筈が、お互いの気にしてる部分を言われてムキになった二人。
その為、天恵まで使用してるのは状況的も、洒落にもならないのだが。
それでも互いに、激しい攻めを防ぎれるのだと信用しているのだろう。
だからこそ、この場で一部始終見ていた二人が呑気に酒盛りを始めたのは、安心してる証拠でもあった。
「あぁ、すいません話し聞いてなかったです。もう一度良いですか?」
「いや、だから二人とも腕を上げたよなって話し?」
「そうですね。...舞花はシロと息のあった連携による攻撃、魔獣としての獣の勘を共有してる為に危険を回避する本能。それを生かしてるのは何よりも速さでしょう。逆に葵は堅実な攻めと防御を上手く使い分け、此処ぞって時に攻撃を仕掛け、それ以外は往なすか防ぐかでの凌ぐ立ち回り。本当に最初とは見間違える程に成長してますね」
僕自身が素直にそう思えた事を言葉にする。
中央で実際に繰り広げてる戦闘は、最初に比べれば天と地の差と断言できてしまう程に成長していた。
舞花の天恵"集う意思の共鳴"によって目に見えない線で繋がる白妖によって、その体をシロと同様の獣人とする事で。
あらゆる身体面が大幅に強化されるが、慣れるまでの最初やそれまでは怪我や傷は絶えなかった日々が多かった。
制御出来ない速さ、普通の時では嗅ぎ取れない匂い、広範囲絶え間なく聴こえる音、意図せず触れるだけで傷付ける爪、視えすぎる眼。
それらが一同に舞花を苦しめた、だからこそ知っている。
密かに練習しては傷付いた身体を咲音に治療して貰い、また、慣れるまで、制御出来るように努力をしてるのを。
その結果として、葵を翻弄する動きの速さは殺さず動けていた。
その速さで動ける事はシロよ同様に動けていた、一人と一匹の二つの心を繋がる線で感じながら。
次に何処を攻撃しようか、を考えるまでもなく知る事で連携となり葵を追い詰めていた。
に、見えるが一度だけ葵と手合わせした事がある僕だから分かる葵のアレは演技だと。
僕が分かっているのなら長い付き合いがある舞花だって、分かっている筈なんだ。
葵の小さな隙を見付けても深追いはせず、距離を取るなどして対応している所を見れば納得出来ていた。
「ほぅ~、じゃ、どっちが勝つと思う?」
興味深そうに息を溢しながら、舞花か葵か?どちらがこの戦闘の勝者か問うわれた。
「.............葵が勝つ可能性が高いじゃないですか?」
長い沈黙の末考え出した答えを言う。
正直に言えば舞花が勝って欲しいと思うが、現実的に情報を整理したので考えれば。
二対一と対応し動きを最小限で有りながら、確実に防ぐか往なすで体力を温存してる葵の方が後々に優勢になると踏む。
酒を煽る二人は何が面白いのか苦笑する。
「まだまだ青いなリクは、もう少し実戦経験しないとダメだな」
ギースはガッカリするように肩を竦めては、陸にダメ出しする。
「いいか?。アオイは堅実な攻守は、まだ詰が甘いが良く出来てはいるが。ただ、それだけに過ぎない。天恵すら宝の持ち腐れににも感じる、何故?、剣の形に拘る?」
葵にもダメ出しが出てしまうギース。
そんな彼が、多くの騎士を束ね引き連れる騎士団団長として葵の天恵に異を唱える。
僕とベノムはただ、ギースの話しに耳を傾け先を聞く。
「そもそも、アオイの天恵は相手自身が底を理解していない。それじゃ天恵に振り回されるだけで、"使う"じゃなく"使われてる"になる?」
ギースの話しに陸は疑問を抱く、理解出来てないのならステータスの意味が無いのでは?と。
アレは自身の力の詳細を知る事の出来る、唯一の手段であり、記されている情報が全てなのだから。
「天恵とは、神から頂く力の欠片に過ぎん。宿った者の深層に眠る根本の想いを具現化した物、それ故に本質を理解をするのは難しいと聞く」
僕の表情から何かを読み取ったのか、ベノムがそう言う。
「なんだ?、それ!。初めて聞いたぞベノム?!」
ギースも初耳なのか驚きを露にしていたが、そんな事を気にすることも無く考える素振りを見せる陸。
深層に眠る根本の想い.....。
なら、僕の"信念有る者に力を"は何の想いで具現化したのだろうか?。
読んで字の如くそのままで良いのだろうか?....。
陸は自分の天恵について考えていた。
自分の知らない奥底にある想いが何なのかを一度考えてしまうと、次から次へと「これなんじゃないのか?」と浮かび上がった。
それだけにベノムが言った「本質を理解するのは難しい」の台詞が、脳内で再度ベノムの声で再生された。
「おっ、そろそろ決着が着きそうだな」
ギースの気の抜けた声に僕は考え事を頭の隅に追いやり、決着が着きそうな二人を視ることにした。
ふと視線をベノムとギースの二人に向けると、大量にあった酒が空に成ってることに気付いた。
あれだけの酒を、この短い時間で呑んじゃうのか.....はぁ~。
重い溜息が口の隙間から溢すと、今度こそと視線を中央の二人に向けた。
........
.....
...
『う~ん、そう簡単にやられてくれない...か。二人同時で相手してるのに葵のこのやろう!、余裕そうに防いじゃって』
舞花は獣人と化した爪で、上から振り下ろした一撃を葵にお見舞いするが。
両手で掴むミスリル製の剣の腹で爪を受けると、ギャリギャリと削れる音をしながら右斜め下に傾けると、爪を腹で滑るように往なしたが。
葵が両手を塞いでる隙を突くように、無防備な背中に白妖が主と同様の爪で攻撃をしようとした。
それは葵の天恵で作られた火剣と地剣が、上から白妖を狙いとして降る事で阻止した。
その一連のやり取りの最中、葵が魅せる表情が平然としてる事に舞花は愚痴を漏らしていた。
ガフッ。
白妖の声が舞花の頭の中で、『全くです』と肯定の意と同時に来る。
それを聴いて舞花も肯定の肯定の意を白妖に送る、その間の意思のやり取りは一秒にも満たない。
だからこそ、葵の火剣、地剣、水剣の作られた3本を速さで縫うように避ける。
あともう一本の眼で見辛い風剣を白妖が、白く尖った両耳で捉え上手く避ける。
そのまま直ぐ様に攻撃に転じる、二人の俊敏な速さで葵の眼を翻弄しながら。
距離を詰めたと思い込ませながら遠ざかったり、距離感を掴ませないようにと、無駄な攻撃をした後の隙を生ませる為。
が、葵は無駄な攻撃をする所か、火水地風の4本の天恵で作った剣で舞花と白妖の次の移動する場所に先手で射つ。
それだけで相手に効果は効いた、次に移動する地点に丁度良く刺さる剣を咄嗟に避けようとして、大きく動いた事が裏目に出てしまった。
葵が大きく踏み出すと舞花よりも先に白妖に狙いを済ませ、ミスリル剣を胴体に斬り付けた。
キャンと痛みを一鳴きしてはその場で倒れる、勿論死合では無いので刃は潰してある打剣だが。
骨は折れるほどの痛みは襲うだろうけど、死にはしない。
そこに追撃しようと剣を振り下ろそうとして、舞花に邪魔され大きく立ち退き体勢を整える。
『シロ!。まだ...いける?!』
ガウッと力強い返事が返ってくる、『まだイケる!、これぐらい平気』とやる気に満ちていた。
白妖は地面に倒れたまま、主に眼を合わせていた。
それと同時に白妖の言葉が送られる。
『分かった!!』
白妖に信頼の意を送り、言われた通りに行動を起こす。
葵の正面から突っ込むと、火水地風の4本の剣が舞花に襲い掛かる。
「はっ!、やっ!、とぅ!、てゃ!」
そう掛け声を発すると、自分に襲い掛かる4本の剣の勢いを白妖毛の拳で叩き迎撃してから。
其々を地面に叩き落とす事で、深く抜けないぐらいに刺した。
勿論、葵が天恵を一度解いてから再度また使えば意味は無く。
触れるだけでダメージが与えられる代物に、誰が好き込んで触る者かと舞花も白妖も思っていた。
それなのに舞花は触れた。
右拳で触れた火剣により白妖毛は燃え、その状態で風剣により鋭い鎌鼬により傷を覆いながら。
火に風が加わる事で火は更に強く燃え、出来たばっかの生傷が焼かれ塞ぐ。
左拳で触れた水剣は見た目から想像出来ない程冷たく、接触面から毛は凍っていきパキッと軽音で折れる。
その様子から液体窒素に触れたバラの花を思い出しながら、触れた箇所が凍傷になりながらも地剣に触れた。
全体的に卸しような刺が有り、舞花の手の肉を用意に抉っていく。
そんな痛みを舞花は白妖に送らない為に、二人だけの繋がりを断ち切った。
後は一人声に出してしまいたい痛みを、意識が遠退きそうになっても我慢し。
俄然に迫る葵の打剣を、そんな状態の腕で受け止める。
触れるだけで痛いのに、上から圧力が増す葵の力に徐々に腰が下がり片膝が地面に着いた。
「私の勝ちね舞花」
後方で動けなくなった白妖、打剣を押し返せる程の弱り掛かってる舞花。
それらを踏まえて葵は勝利を確信し、口に出てしまった。
「...ふふん、最後に油断はダメだってギースさんが言ってたよ!」
打剣がギリギリの頭の所まで来るのを我慢した舞花は、防いでいた両腕を外して片手を葵の腕を掴み逃がさないようにした。
打剣の隔たりが無くなった為に剣は、軌跡を描きながら左肩を斬り付けた。
動かすだけで痛みが全身に走りながらも、空いてる片手で剣が動けないように掴んだ。
振り下ろされた距離が短かったお掛けか、骨が折れる訳ではなくヒビが入るぐらいだった。
「クッ!!」
痛みに声が漏れながらも、舞花は白妖に言われた通りの状況に持ってきた。
掴まれた腕を振り程こうとする葵は、剣を直ぐ様手放し左肩を掴み力を込めた。
そのまま舞花の顔を殴る手段もあったが、それで離してくれる相手ではないのを理解してる為に、継続的に激痛が来る肩に決めた。
「い、イケッッッッシロ!!」
舞花は職業 召喚師である。
集う意思の共鳴により、後方にいる白妖が二人の間に召喚された。
ガウッッ!!。
白妖の感謝とごめんなさいの意が送られ、『後は任せて!!、マイカ!』と言われた。
舞花も『任せた!!』と勝利の一撃を期待した。
魔獣である白妖種だけの固有スキル『雷速』を発動する、日に一度しか使えないが当たれば強力な一撃となる。
雷の如くどの様な距離でも、撃ち抜く速さと化しその姿から一部の地域では『偉大な白き神獣』とも呼ばれる程であった。
そんな速さで葵の土手っ腹に頭突きをかますと、舞花は手を離し葵の身体は空中に打ち上がった。
...........
.......
....
「うわー、アレはえげつねぇー。あんなじゃ立ち上がれないだろうな、アオイの負けだな」
今中央で起こった事に引き気味の声音でギースは、淡々に勝敗を告げた。
「では、賭けは我とギースの勝ちだな。リクよ、一気で呑み干せ敗者の務めだ」
ん?、と首を傾げる陸。
「すみません、本当に意味が分からないですが。そもそも賭け事はしてなかった筈ですが?、....そんな一瓶丸々は呑みま...せ..ブッゴっ!」
ベノムに抗議の声をあげるが、それよりも速く陸の後ろに回り込み口の中に酒をぶちこんだ。
口の中に入る酒を吐き出そうとするが、ベノムに成すがままに注がれる液体は、鼻に通る酒匂と喉に通る異様な感覚に何とも言えない物を感じた。
「我が呑めと言えば呑め、その場の興を冷ますな」
耳元で聴こえる強引な言いに「理不尽かよ...」と思いながら、目下に見える酒瓶の中身が空になるの確認した。
大半は口端から溢れていったので、首から下は酒でビショビショだ。
キュポンと口から瓶が外され、ベノムの満足そうな顔を睨みつける僕の視点が定まらなかった。
足下も何故かフラ付くし、立っては居られないって程じゃないけど真っ直ぐに立てそうもなかった。
「....い...コレ....度数....いだ...ろ?」
ギースが何か言ってるけど、上手く聞き取れなかった?。
手にしてる瓶は多分先程まで呑まされていた酒だ、それを満足げなベノムに言ってたみたいだ。
「う..?....そうだ...か....」
何故かムッとベノムに苛ついた、フラ付く足で近付き腕を伸ばして顔を殴ったが。
姿勢を元に戻そうとしても、そのまま前のめりに倒れてしまった。
顔面からの落ちたので....凄く痛い....けど。
瞼が重いし凄く....眠....い....。
陸はベノムの頬をぺちんと触れた後倒れると、寝息を立てるように眠りに着いた。
「あぁ~、酔って眠ったな」
「酔う程高い訳では無いだろうに?、全くリクは軟弱だな」
「いやいや、普通に呑み慣れてない奴には一発で倒れる程の酒だから!」
陸に呑ませたのは度数40はする酒だった、普段から呑み慣れているギースならまだしも。
陸は酒は呑まないのに、そんな代物を呑まされれば一気に酔いは回りぶっ倒れるが普通であった。
「ふむ、そういう物か?。では、彼方の治療が終わり次第リクにも介抱をお願いするしよう」
全く悪気が見当たらないベノムは、絶賛中央で治癒する医療班に事を投げた。
「まぁ、聴こえてないと思うがリク。ベノムだから、諦めろよ....。」
地面で寝てる陸の背中に手を置いて、ポンポンと叩きながらギースは聞こえもしない言葉を掛けた。
我ながら先頭シーンは頑張ったけど、ちょ、イキ過ぎて可笑しじゃない?って思えてもしまった。




