59話 勇者の遊び心
短いですがご了承下さい。
「ようこそヘルズ国へ!」
外壁門を警備する兵士の爽やかな歓迎の声に、二時間の窮屈な馬車での終わりを告げてくれた。
だから僕はその席から降りて、馬車と並行しながら歩きだした。
「やっぱり最初から降りて、走った方が良かったじゃないですか?」
「ノフォホホホ。何を言うかリク殿、馬車で来ているのに走る意味が有るかの?」
自分の髭を触りながら穏やかな声音でニルギヤ様は、端から聞けば正論に聞こえる言葉を言う。
何故なら。
「いやいや。最初の方でも言ったじゃないですか、二人用の御者席に三人は狭いですって」
席員数2名の御者席に、無理に一人が座った為にガチガチ窮屈になり僕、ニルギヤ様、ハリアさんの感じで座っていた。
座る前にも同じ事を言ったもの、ニルギヤ様が頑なに座らせようとしてきた。
ハリアさんすら面倒くさそうに「座れ」と言う為に、僕も根負けして三人横に座って二時間を過ごした。
落ちない為の柵が身体にめり込み、身を小さくし出来るだけ動かず迷惑にならないようにする配慮。
どうして無理して座って、心身共に疲れないといけないのか。
これもそれも元を正せば、最初に忍をカラかった自分がいけないので何も言えません....。
「ノフォホホホ。二人用として作られてはいるが、実際は窮屈であったが三人で座れたのだから良いではないかの?」
「.....まぁ、結果はどうであれ。国に着いたのですから、さっさと城に向かって上げませんか?」
ハリアさんは馬車内にいる二人を想い、ゆっくりと進む馬車の脚を勝手に速めた。
それに対して、主であるニルギヤは何も言わなかった。
「そうですね。窮屈でしたけど、会話は楽しかったので良いですけど」
確かに二時間の窮屈は心身共に疲れたが、横に並んでの三人での会話は楽しかった。
そう考えるとプラマイゼロで、どうでも良くなり気付けば城門の前に到着していた。
門の端で立つ門番の一人が気付き、此方に近寄って来た。
「失礼しますが。ダマハ御一行で宜しかったでしょうか?」
そう聞いてきたので、ニルギヤ様御一行を迎えに行っていた僕が代わりに返答する。
「此方はダマハ御一行で間違いは有りません」
さっとサラから預かった王家の懐剣門番に見せる、これは自分が王家から信頼された証で有る為に。
門番は顔を引き締めると馬車に向けて一礼してから、元の位置に戻ると敬礼して中に通してくれた。
「御待ちしておりました、ニルギヤ・タサ・ダマハ様。客間まで案内を勤めさせていただきます、メイド長メルシーで御座います」
入り口に馬車を停め、御者席から降りたニルギヤ様とハリアさんに。
サラの専属メイドであるメイド長メルシーが、名乗り上げてから深くお辞儀して出迎えた。
「ノフォホホホ。まさかメイド長自ら案内してくれるとは、手厚い歓迎に感謝じゃの」
陽気な笑声を上げながら、出迎えたメルシーを見てニルギヤは髭を触りながら言う。
「お褒めに頂き恐悦至極で御座います。立ち話を何ですから御部屋までご案内させて頂きます」
改めて深く礼をしてから、手を入口の中の方えと手を伸ばし二人の歩みを促した。
「よろしく頼む」とニルギヤ様の後ろから、メルシーに向けてハリアさんが言った。
「はい」
短く一言だけを返答し、メルシーに案内された二人は城の中えと消えていく。
その場に残った僕は御者席に座り馬の手綱を握り、拙い操作で馬小屋まで動かしていく。
「馬が賢すぎて優秀過ぎる....」
陸は手綱を握ってるいるだけで、特に指示する事もなく馬が勝手に向かってくれた事に呆然とした。
馬小屋に着くと横にある倉庫に馬車を置き、馬車と馬を切り離すと馬は勝手に馬小屋の中に行ってしまった。
「賢すぎるでしょう!」
馬が馬小屋の中で餌草を頬張ってるのを見ながら、僕はそう叫んでしまった。
「ブルヒィー」
一鳴きすると僕を見る馬、『何見てんだよ』とでも言ってそうな気がして「すみません」と謝った後倉庫に戻った。
あれ?....何で馬に謝ったの?。
倉庫に戻った後、ふとそんな事を思ったが。
馬車から出て来た二人を見て、そんな考えは消えた。
「先ずは風呂に入った方が良いよ二人とも?」
スンスンと臭いを気にしてる忍と、涙眼で俯き全身から負のオーラでも見えそうなリアさん。
此方が窮屈な思いをしてる間、車内では会話も無い二時間でも過ごしたのだろうか。
「あぁ、そのまま風呂に行ってくる、やっぱり臭いがしてそうで気分悪い」
生気の無い声は本当に気持ち悪そうに聞こえた、それは横にリアさんにも聞こえており。
見えそうな負のオーラが、忍の言葉でより認識できてしまう程醸し出していた。
「一応...生活魔法で綺麗には成ってるから、臭いは無いと思うよ忍?」
生活魔法と呼ばれる魔法。
魔法と言っておきながら、魔力さえ有れば誰でも使えるような技能と言った感じだ。
世間では使う前に自分達の手でやった方が速く、人の手の方が良いじゃないかと言われている。
賛否両論である為に使う使わないかは、人によるけど僕自身は結構使えそうと思っている。
『火種』、『洗浄』、『柔壌』、『微風』、『虫除』、『浄化』。
この六つが生活魔法であり、魔力を多く込めようが常に一定の効力しか発揮しないけど。
その中で『洗浄』、『浄化』、は重宝しそうだった。
そう思ったのも、馬車内でリアさんのアレを処理する時に非常に助かった。
外の為に洗う為の水は無く、『洗浄』でアレを洗い流し汚れを取った。
『浄化』は車内や身体に付いた臭いを消して、清潔に綺麗してくれた。
初めて使って凄いなっな最初は思ったけど、範囲が狭く掌サイズまでしか作用されなかった。
なので、終わるまでに結構な時間を使ったのは不満でしか無かったが。
まぁ、ちょうとした事なら此方の方が速く終わる事が分かった。
その他の四つは自分的には微妙であった、火種の火はマッチの火しかなく直ぐに消え。
柔壌は少し土を柔くするだけで、微風は少し風が吹くだけ。
虫除は小さな虫を払うのだが、そもそもこの世界に小さい虫がいない。
居たとしても最小体長が30㎝という、肉食虫で使っても効果は無いと言われた。
「いや、分かってるけどよ~。それでもな、こう?....臭いがしてくるような気がしてよ?」
「それもそうだよね....。主に掛かったのは忍とリアさんだけだもんね?、僕とニルギヤ様は多少だったけど....」
「うぅ~本当にごめんなさい.....。ご迷惑かけてしまって」
消え入りそうな声で謝るリアさん。
元の原因を考えれば、僕が忍を最初にカラかった事がいけないであって。
決してリアさんが悪い訳じゃない、何なら全ての原因を忍に押し付けてしまおうか?。
「リアさんは悪くないですよ、大声出した忍がいけないですから。全く二日酔いなのに、あんな大声出さられたら迷惑でしょ謝ったの?!」
忍に押し付けてみましたが、最後口調が可笑しくなってしまった。
「いやいや、いやいや違うだろ!」
「勿論違うよ、カラかっただけだよ忍?」
「それを止めろよ!!」
相変わらず良い反応するよな忍、さて謝って風呂にいかせて上げないと。
「分かったよ忍ごめんって、だから殴ろうとしないで」
僕の顔を目掛けて拳を突きだそうする忍を、どうどうと宥め引っ込めさせた。
その後僕は二人にもう一度謝って、今度こそ風呂に行かせたのだが。
行く前に忍の取った行動が漢らしく、男の僕でさえ何か来るものがあった。
「ほら、行くぞリア。場所分からないだろう?、案内してやる」
「えっ?、えぇ!。あ、あの、そ、その!」
そう言って、忍はぐいっとローズリアの手を取って歩き出した。
負のオーラを醸し出していたのが、一気に桃色のオーラが見えてぐらいに豹変していた。
言葉すら詰まる程に手を握られた事が嬉しく、デレデレしながら忍に引っ張られていった。
その光景を見た後陸は、今度は殴られても良いからカラかう事を決めた。




