56話 対峙する種醜女
夏は嫌いです。
頭が働かない、身体は怠い、暑いと言った三拍子揃ってるせいか何も起こす気が出ません(-_-;)
地面に横たわるナッテイックは、2時間前の事を語ってくれた。
日が昇る前、まだ空が暗く冷たい風が吹く中で。
陸と忍が助け出した、小さな女の子の様子を見に来ていた。
天幕の中で子供を見ながら、ギルド職員がどうしたものかと悩んでいた。
「ナッテイックさん!」
ナッテイックの姿を見て、一人悩んでいた所に光明が射したように声を上げる。
子供を預かったもの、いくら声を掛けても反応は無く天幕の中で灯りが届かないと言っても、全体的には灯りが届いてはいるが。
その中で灯りが薄く暗い場所で小さく蹲る子供、外からは無駄な音がしない為に子供のブツブツ声が何時間も聞いていた。
「ナノさん。どうですか?、何かその子について分かりましたか?」
「それが...全くと言って何も分かっておりません、名前も何処の子供なのかすら、行方不明者の中にも子供の名すら有りません。ただ....背中に聖痣が有りました....」
ナノと呼ばれたギルド職員の口から、そう聞かされナッテイックは驚嘆する。
「間違いは有りませんか?」
首を縦に頷くナノ、それを見てナッテイックは『鑑定』を行使して情報を視ようとするが。
何かに妨害されるかのように弾かれた、その事に額に手を当て盛大に嘆息付く。
「分かりました。ナノさん、この事は他の方々には内密でお願いします。私は兄さんに、この事を伝えてきます」
「はい!。分かりました」
ナノも事の大きさを理解して、誰にも言わない事を誓う。
ナッテイックはそれだけを言っては、天幕から出てはその足で兄タチェックの元に向かう。
只でさえ冒険者ギルドは悩みの種が多いのに、危険視される雌型ゴブリンは行方知れずなのに。
陸と忍が救助した子供は、その特性故に厄介事が招い込む神巫女であった。
はぁ~....どうしてこうも厄介事が来るのか....。
もう一度盛大に溜息をつき物思いに耽り、この後の事を考えていたナッテイックは徹夜を覚悟する。
外で机に向けて睨み付けつける兄の姿を確認しては、机の上を覗くように見て兄に声をかける。
「兄さん。考え中の所申し訳ないけど、子供について報告するよ?」
机の上に広げられた地図を見ていたタチェックは、弟の方を見ずに声だけを向ける。
「あの子はどうやら神巫女みたいです....」
みたい?、と聞いて地図を見るのを止め。
弟ナッテイックの方を向き、懸念を抱いた表情を浮かべ声を出す。
「みたい?、とはナティーにしちゃ珍しいな?。鑑定は使ったんだろ?、それで全部視れたじゃないのか?」
弟のナッテイックを愛称で呼びながら、弟が言われるまでも無く『鑑定』を使ったのは分かっていた。
なのに、「みたい」と曖昧な言葉を使うナッテイックにタチェックは改めて確認を取る。
「あの子には鑑定が効かなかったよ、神巫女として確認したのもナノさんだよ。それで、兄さんどうするの?」
何を?、と聞き返したいが何を言って何を指してるのか、兄タチェックも分かっている為に思案する。
「ーーーそうだな、このまま隠し通してみるか?。今の王政なら問題はないが邪な奴等にでも知られれば、あの子は利用されるだろうからな」
「そう、兄さんがそれで良いならそうするよ。所で何か進展はあった?」
タチェックの決めた事にナッテイックは従い、神巫女である子供の境遇が決まった。
それで一つの話し合いは終わった、なら次の用事えと移行し話を進める。
「いや、何もないな。寧ろ何もないからこそ嫌なもんが感じる、これだけの人数で親玉の手懸かりが一つも見付かってないのは可笑しいだろ?」
ギリっと歯が軋む音を発てながら、タチェックは不満を口にする。
白斑ゴブリンはいるのに、その親玉である雌型ゴブリンがいないのだから。
森を掻き回してから1時間は経つ、その間、冒険者達からの報告は無く。
作戦を始める前にルー森を囲んでいたにも関わらず、何処から抜き出したや何かを見た等は一切なかった。
「そうなると、ルー森の中に身を潜ませてる可能性有りますね。けど、念の為に外の方にも人を向かわせた方が良いでは?」
身を潜ませる可能性としては高いが、同時に万が一にも外に逃げている事を考量し。
外にも捜索の範囲を広げる事を、ナッテイックは進言する。
弟の意見を聞き、そうするべきだと判断し拠点に戻ってきていた、何人かの冒険者達にそう伝え向かわせる。
その後は何も進展は無く、ただ、時間だけが過ぎていく。
それならそれで私は良かったが、事の発端が起きたのは日が昇る前だった。
子供の面倒を見ていたナノさんが、子供を抱いて見せに来た。
「やっと心を開いてくれたんですよ!、もうこんなにも甘えてくるですから!」
そう言われ、ナノに抱かれている子供を見ると。
背中に回した小さな手で必死に掴み、彼女を離さないように力一杯していた。
顔を胸に埋めている為に伺う事は出来なかったが、甘えてると言えばそう見えなくは無かった。
けど、ナッテイックは何とも言えない不快に感じが拭えなかった。
私はその不快な勘に疑問を抱き、行動していればナノさんを死なせずにすんだ筈だった。
東から日が昇り空を照らし初めた時、その光がナノの後ろから後光のように眩す。
前に抱かれている子供の変化を、ナッテイックは影によって見逃してしまった。
だからこそ、ナノの苦しむ叫び声を聴いた時目の前に起きた事象にナッテイックは立ち止まってしまった。
子供がナノの唇を奪い、突然の事に抱いていた手を離して引き剥がそうとする。
だが、子供は背中に回していた手によって引き剥がす事は出来なかった。
その状態のまま、子供はみるみると大きくなり身体に白斑が表れる。
ナノも目に出来事に困惑し、更に腕に力を込めて引き剥がそうと抵抗する。
それでも離れず、自分の目の前に見える醜い顔に平常心が消える。
「んぅぅぅぅ!ンッッッッ!!」
唇が塞がれている為にまともな声もでず、助けを求める事が出来なかった。
近くにいる筈のナッテイックの存在すら忘れる程に、ナノは恐怖し思考が纏まらなかった。
そっと唇から離し、姿が変わった子供はナノから離れると数秒もせずに。
ナノは苦しむように悶え、体内に感じる異物感に嘔吐し続ける。
その光景に、雌型ゴブリンについて話を聞いていたナッテイックは理解する。
「こいつが.....雌型ゴブリンなのか」と、何故其処まで考え付かなかったのか。
白斑ゴブリンが人の成れの果てなら、その親玉である雌型ゴブリンも人の成れの果てなのだと。
目の前の光景を目撃しながら、頭の中でグルグルと同じ言葉を繰り返していた。
「「「「「オギャャャャア」」」」」
人の声でない化物の幼声によって、ナッテイックは現実に引き戻された。
ナノだった身体の内側から裂けられた腹には、五匹の白斑ゴブリンが産声を上げていた。
雌型ゴブリンは満足げに頷き、ジロリと眼を此方に向けると"次はお前だ"とも言わんげに、下唇を舐め襲い掛かってきた。
私は抵抗した、兄タチェック共に冒険者として活動していた時は元はAランクであった。
雌型ゴブリンの攻撃を避けては、得意魔法にて反撃する。
「大地なる土は敵を穿たんとする、"土槍"!」
詠唱によって生成される土の槍、数にして3本長く鋭い獲物を向かってくる雌型ゴブリンに向け放つ。
ヒュと風を切る音をしながら迫り来る土槍に、雌型ゴブリンは右手を横に振るい3本同時に破壊する。
「なっ!」
あまりな事に驚きを露にし思わず声が出た、が、直ぐ様に次の一手を仕掛ける。
「断ちはだかるは絶壁、大地に阻まれろ"土壁"」
雌型ゴブリンの進行方向に、地面から発起した土壁が塞ぐ。
だが、そんなのにも気にせず突っ込む雌型ゴブリン、土壁は容易く砕けて破片として宙に舞いナッテイックが視界から消え動きが止まる。
隙が出来た事に、ナッテイックは雌型ゴブリンの懐に忍び込み事前に唱えていた魔法を放つ。
「これでどうだ!、土槍!」
今度は3本とは言わず、自分の体内に有る魔力をフルで使う。
ナッテイックと雌型ゴブリンの距離は、拳一つ分のであり、その距離から放たれる土槍は回避できなかった。
ドスドスドスと刺さる音が周囲に広がり、雌型ゴブリンの身体に突き刺さっていく。
血を撒き散らし穴が増え叫び声を上げる、全身を土槍が埋めつくしてもナッテイックの魔法は止まらない。
穴だらけとなり指先一つ動く気配が無くなったのを視て、ナッテイックは魔法を打ち止めになった。
魔力も残り僅かとなりこれ以上の魔法は無理であり、急激に消費した事で激しい倦怠感と目眩を生じさせる。
「ーーー終わった...」
不意に口した事で身体の緊張を解き、地面に座り込んでしまった。
だけどこの油断がこの後直ぐに、ナッテイックに襲い掛かる。
それは一見して誰がこの状態で"生きてるん"だと考えられるか、それはナッテイックも同様であった。
土槍が大量に刺さっていて、身体の大半が生き物として存続出来ない状態でも。
雌型ゴブリンはゆっくりと、身体に刺さる物を引き抜き地面に落とす。
地面に腰を降ろしていたナッテイックは、自分の元冒険者としての質が落ちた事を嘆いた。
此処まで戦闘して僅か5分の出来事、雌型ゴブリンの強さが自分じゃ計り知れない事も悟った。
あぁ、自分もあんな風になるのか...。
悲惨な死に方をしてしまったナノの姿を思い出し、それを自分に重ね迫り来る雌型ゴブリンの手がナッテイックの頬を触れる。
2秒程触れていた手はピタッと止まり、今度は足首を掴み表情を嬉々に染め声を荒げ引きずった。
「ギャヒャヒャ!!」
耳障りな枯れた女性の声を上げ、もうスピードで走る雌型ゴブリンはコレよりも上物の気配を感じた方向に向かう。
その途中で襲い掛かる他の獲物には見向きもせず、存外に空いてる片手で払い除ける。
たったそれだけで、払い除けられた獲物は耐えられる事が出来ない衝撃に絶命する。
骨を折り、折れた骨が内側に刺さり内蔵を傷付けては、人としての機能をズタズタにした。
雌型ゴブリンに引き摺られるナッテイックは、全身をボロ雑巾のように全身を削れていく。
辛うじて少ない魔力で身体強化を施してはいるが、需要部分以外には纏っていない為にボロボロになる。
砂が舞う中で死に逝く人達を、ナッテイックは眼を凝らしめて焼き付ける。
ラック、モニタ、テネ、すまない....。
だ、誰でも良いコイツを殺してくれ!、私の代わりに仇を取って欲しい!。
死んでいった同僚に力不足な自分を謝り、憎き雌型ゴブリンを倒しえる人に希望を託すように、そう心で叫んだ。
「ナティー!!」
「に...兄さん」
砂が口に侵入しようとも、雌型ゴブリンに自慢の剣を振り翳す兄の勇姿を見て小さく呟いた。
ナッテイックの足を掴む汚い手に向けて、冒険者時代に使っていた相棒を縦に振る。
雌型ゴブリンは軽々と避け、タチェックから距離を取るように後ろに飛ぶ。
「ギヒ...ギヒヒヒ!!」
雌型ゴブリンは笑う。
上物が向こうから姿を表し、自分が掴んでる獲物を気にしてる事に。
だから、目の前でブラブラと持ち上げて揺らして見せ付ける。
「その汚い手をナティーから離しやがれ化物が!!」
タチェックの逆上に雌型ゴブリンは、その醜い顔に笑みを浮かべた。
タチェックは相棒を構え、弟を助けようと動き出す。
目の前でブラブラと吊るされ、重力に従い下に向かう血と微かに何かを伝えようと動く口。
弟が勝てないぐらいに相手が強くっても、冷静でいようと務めようとしても。
目の前で楽しそうに笑う雌型ゴブリンを見てしまえば、重力に逆らい足先から頭えと血が登る。
体と長年の相棒に魔力を纏わせ強化を施し、身体強化と武器強化を使い。
最初の一歩に力を入れ大地を踏み強いり飛び出した、雌型ゴブリンは慌てる事もせず掴んでる獲物を前に投げた。
雌型ゴブリンの異形な行動に、タチェックは両手を広げ解放されたナッテイックを腕の中で迎える。
「に....兄さん」
腕の中から小さくボソッとした呟きを聞き安堵するが息次ぐ暇もなく、抱いたまま右に大きく避けた。
「ギヒャヒャ...」
ザシュと音を鳴らし、自分がさっきまで居た場所には雌型ゴブリンの爪が地面に刺さっていた。
サッと抜いては抱いたままのタチェックに、鋭い爪を左右に上下に振り下ろす。
弟を抱いたまま避ける為に範囲は大きく、動きは徐々に隙が大きくなっていく。
「くっ..」
とうとう避けきれなくなり、雌型ゴブリンの鋭い爪がタチェックの足を掠める。
足に踏ん張りが効かず膝が倒れそうになり、上から来る爪を避けれないと悟りナッテイックを力一杯後方に投げる。
そして、そのまま爪を腹部で受け止め、手にしてる相棒を雌型ゴブリンの腹部に刺した。
「グホッ....テメェーが先にくたばれ!」
血反吐を吐きながら刺した相棒を上に向け、一気に切り裂いた。
「ギヒャャャャャ!!」
そう声を上げながら上半身二つに別れた、雌型ゴブリンは断面からは帯びただしい血を吹き出しながら倒れる事は無かった。
「ギビャ..ビチャギバャ」
口を動かし血が水音をたてながら言葉ともに流れ、タチェックの腹に刺さってる爪を引っこ抜き両手を半分になった頭を掴み、ブチュと不快な音を鳴らしながら断面からは血を溢れだし。
二つになっていた上半身は再び何も無かったように一つになり、タチェックに下卑た笑みを見せつけ。
赤かくなった両手でタチェックを鷲掴みし、上物の唇を奪うとした。
..............
......
...
「その後は...危機に陥っていた兄さんを....お二人に助けられました...本当にありがとう.....」
陸の手を力一杯握り感謝の気持ちを示した、あのままじゃ自分では助けられず、地面に這いつくばって視るだけだったのだから。
こうして兄と自分が生きてるのは、駆け付けてくれた二人のお陰だと感謝しきれなかった。
「ーーー僕も二人を助けられて良かったです。ナッテイックさんも、タチェックさんもポーションで傷を塞いだだけですから、暫くは安静にしていてください。もうすぐ他の冒険者達も異変に気付いて来てます、後は直ぐにでもこの場を離れるようにお願いします」
「そ、そうですか....本当に良かった....」
ナッテイックが何があったのかを話してる間に、陸は袋収納から事前に用意していた回復ポーションを二人の傷に一本をずつ掛けた。
傷の酷さで言えば外見的に酷いのはナッテイックであったが、命の心配までは無かった肋骨が数本、手足の骨が何ヵ所か折れ、刷り卸されたかのように背中が酷かったが。
それでも内臓等の負傷は一切無かった、その中で腹から腸を傷つけ内側を多く負傷してるタチェックの方が危険度は大きかった。
しかし....ナッテイックさんの話を聞いた限り、足と腹は目新しい傷はあったけど。
此処まで内臓や身体の至る所が傷付いてるのは可笑しい?、.....昔の...古傷?。
タチェックの重症に、陸は思考しそれらしい回答を考え付いた。
足と腹には服の内側から血が付着してるのを確認したが、それ以外から腕、背中、脇、首と血が吹き出ていた。
このままでは出血大量で死んでも可笑しくなかった、だからこそ一本金貨して10枚はする上級ポーションを使用した。
その効力は強く結果として二人を助ける事は出来た、傷を治せても体力までは戻らない為にナッテイックもタチェックも眠るように気を失った。
陸は立ち上がり森から出てくる冒険者達の姿を見て、二人は大丈夫だろうと判断し雌型ゴブリンを相手してる忍の姿を探した。
重たい鉄斧を振り回して、雌型ゴブリンを僕達に近付けないようにしていた。
作者が熱中症で倒れる程の暑い日が続いてます、皆さんも小まめに水分補給と身体を休める事を意識しましょう!。
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更新日が遅れている事を、深く申し訳ございません。




