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人生初の異世界で~俺だけ何も貰えなかった~  作者: 氷鬼
二章 北の大陸 ハースト
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39話 先生の言葉


あの場の乱闘は、負傷者が多数いながら死者が三人。

名も知らない騎士、王様の執事のサイルさん。

もう一人が、同じ同郷で初めての死者がフルっちだった。


主犯である山田皆瀬がしのっちに殴られる事で気絶して終わり。

洗脳されていたクラスの半数や、城の騎士や兵士もが同じくその場で倒れた。


そこで全部が終われば良かった、けど、世の中都合良くいかない。


今度こそ逃がすつもりもなく、知ってる事も全部吐いて貰うし、咲音にした酷い事も許すつもりは無かった。

でも、フルっちの死を目にした時頭が真っ白になった。

寸前までの思想が消え、死んでいる事に理解が出来なかった。

"死"と言うのは理解できている、だけど「何故、死んでるの?」と疑念が沸いた。

あれほどまでに"生"に執着していて、乱闘の中じゃ逃げる事も出来ず壁を作って籠ったのに。

いざ、しのっちが壁を壊して中を開けば、背中から胸に伸びる赤い刃は鮮烈だった。

その姿を見てしまった咲音は耐えられず、意識を失った、もう何が何だか分からなかった。


その後、騒ぎを聞き付けたサラっちと、お姉さん系の綺麗な赤髪をした女の人が慌てながら来たのを覚えてる。

後ろには此処には集まってなかった騎士と、癒魔法を習得した城抱えの医療班の人達も居た。

赤髪のお姉さんが的確に指示を出し、倒れた皆を治療しながら終わった人達から運び出されていくなかで。

亡くなった三人の遺体には、上から布が被せられていた。


しのっちも咲音も丁重に運ばれるのを見届けると、舞達の姿を見つけたサラっちは早足で駆け寄り、何があったのかを聞いてきた。

舞と葵はフルっちが起こした事や話した事を、覚えてる限り一字一句伝える。

その時に古里 真樹の記憶と感情、どうにも噛み合わない"何か"を感じた事も話した。


前までは仲良くなった友達で気楽に接しってくれたのに、玉座の間と此処ーー城下町に出る為の城門でのフルっちは他人行儀で人をバカにしたような口調をしていた。

何よりもフルっちの瞳に映る舞達には、期待も信用も仲間意識も無く無機質でありながら。

そこに残されていたのは"怒り"と"哀しみ"だった、来る者全てを拒む程の"怒り"、そして何に対しての"哀しみ"か。

誰に対しても自分に対しても、"怒り"と"哀しみ"と言う矛先が向いてる。


結構な時間を使い話し終えた事で、サラっちの初めて怒りに満ちた表情を見た。

その横でいつよ間にか聞いていた赤髪のお姉さんが、申し訳なさそうに俯いていた。

サラっちは何も言わずに城に向かい歩いて行く、舞達は声を掛けるがそれでも静止はしなかった。

追い掛けようとすると、赤髪のお姉さんが舞達を止める。

赤髪のお姉さんが誰なのかを本人から聞かさせるのと同時に、この乱闘や恐ろしい計画を知った。

ヘルズ国の大臣マリス・アルミナの話しでは、舞達は戦争する為だけの駒であり。

主犯だった山田は王様から洗脳され、今度は山田が皆を洗脳していた。


『これ等を計画し提案をしたのも全て私だ、この事を知ってるのは私含め三人陛下とサイルだけだ。サラ様はこの事は一切知らない、これだけは知っていて欲しい....』


頭を深く下げて謝罪するマリスさん、舞と葵はふざけるなと罵詈雑言を吐き感情を剥き出した。

その為だけに召喚され、訓練での痛いだけじゃすまない現状にも耐えていたのに。

『明日を生きる為にしかない』とフルっちに舞は言ったのに、真実を知った今、舞達は虚しく惨めに思えてしまった。

今にも思えばアレは酷く言い過ぎてしまった、マリスさんに当たっても意味は無いのに。

マリスさんは何も言わずに、ただ、受け止めていた。


舞と葵はその後サラっちが向かったであろ場所に向かう、床には壁の残骸が有り廊下と部屋が繋がった玉座の間。


玉座に座り狂ったように高笑いしてる王様と、それに向かって何かを話すサラっち。

舞達も其処に速足で向かう、声が耳に届き内容を知る。

内容は纏めると、サラっちが王様を実の父親に問い詰めていた。


異世界人の召喚理由やフルっちを死の理由を、王様は全てを認め理由を話す。

ただ、フルっちを殺した理由だけは頑なに話さなかった。


それを聞いたサラっちは泣き崩れる、自分の母親の死の真相を。

それと父親に失望し、王様から王位を剥奪し幽閉する事を宣言する。

王様も素直にそれを承諾するが、去り際に言葉を残す。


『余は決して魔族を許さない、生きてる限り余の復讐は止まらない!』


最後まで高笑いしながら騎士に連れられて行く、そして今此処で国の王が変わった。

まだ正式じゃないが、ガース・ヘルズからサラ・ヘルズえと。


こうして王様の計画は呆気なく終わり、王位を剥奪され罪人として幽閉される生きてる間は。

全てが終わった夜、城に居なかったりっくんとスイちゃんが帰って来た。

予定よりも速かった、帰ってくるのはまだ一週間はあった筈だった。


りっくんは何時知ったのかは分からなかったけど、全てを知っていた王様の計画やフルっち現状を。

そして嘆いていた、その場に居られず全てが終わった後だった事を。

親友を助けられなかった事を......。


スイちゃんは、血だらけのフルっちの遺体に泣き付いていて必死な謝っていた。

遺体の横に置かれた彼の私物、右腕に嵌められていた黒の手甲、赤い宝石が付いてる指輪、多分フルっちのだろう粉々の何かだった。


舞達はスイちゃんだけを安置所に残し、りっくんに言われ何があったのかを細かく話す。

話し終えた時、りっくんとはその場で解散し舞達は咲音が寝てる部屋で一夜を明かした。


それから何日か経ち、倒れていたクラスの半数が目覚める。

洗脳もマリスさんが内密に手に入れていた幻惑級アルシオン魔装飾品マギヤアクセで解除された、王様の耳にそれは届き驚愕していたと話しには聞いていた。

解除されたクラスの半数は、自身がしてしまった事に驚き罪悪感で泣く子も居れば叫ぶ子もいた。


それからまた数日が過ぎ、スイちゃんに皆呼ばれ一つの部屋に集まった。

呼び出した本人は何日も食事を喉に通さず窶れていた、頬には涙の後も有り今でも泣いていた。

舞達は何かを話す気力も無く、部屋は静寂に包まれていた。


それを崩すようにスイちゃんの声が響く、重く何処までも届くような声音。

それはスイちゃんじゃなく、望月 粋としての言葉として。



『....まず、皆に話さなければならない古里 真樹は死んだそして元の世界に帰る方法も無い。そして以前の皆も死んだ・・・・・、だから先生は君達を見放す事にした。....見捨てると言った方が正しいのかも知れない。先生は疲れた、今の君達に許して欲しいとは一切思わない。もう、好きにしろ先生は国を出る』


それは唐突だった、当の本人はそれだけ言ってふら付きながら部屋から出ていった。


残された舞達は何も言い返せず、誰も止められなかった。

望月 粋の言葉が鎖となり、舞達の身体に重みとしてのし掛かった。


スイちゃんは言葉通りに国から出ていき、行先も分からなくなった。

それと同時に、フルっちの遺体や私物が忽然と消えた......。




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