26話 転神神殿
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今話は短いですが、何卒ご了承下さいm(__)m。
ここは.......何処だろう........。
......今まで何してたん..だろ....考える...のも....めんどくさ....。
水の中にいるかのような感覚を感じながら、ただ、ただ沈んでいく身に全てを任せていた。
暗く何処までも深い深海、上えと浮上していく空気の泡。
薄目でそれらを見てる彼は、思考を止めてしまった。
一つの気泡が彼の身体にぶつかり、優しく包みこんでいく。
なつ....かしい....帰りた...いな....。
包まれた中で見たのは、彼が異世界前の母との日常だった。
朝食を二人で食べて、学校に行く彼を見送る場面。
それを今も薄目で見ていた彼は、懐かしいく帰りたい居場所だった。
止まった思考が動き出すのを感じて、見ていた日常が消えていく。
包んでいた泡が彼の前に出ていき、上に昇って行く。
また、下から同じ空気の泡が彼を包み込む。
次に見た場面は母と一緒の入学式だった、まだ幼い子供が母と手を繋いで緊張していた。
.....ハハッ.....あの後...緊張し...過ぎて....吐い...ちゃ...うだよな。
幼かった子供は小学校の入学式、緊張がピークに達してしまい地面に吐いて、自分の服を汚していた。
母はそれが分かっていたのか、鞄から替えの服を取り出して学校のトイレで着替えさせていた。
彼は、そん時の事を忘れられず今でも黒歴史として、記憶の片隅に保存していた。
母さん.....あの時は...ありがとう...。
彼は着替えさせてる母を見ながら、心から感謝を述べていた。
それが最後のように、また、空気の泡は彼から離れていき上に昇ってしまう。
また、下から違う空気の泡が彼を包み込み、今度は何を見せていくのだろうか。
.....これは...昔の....母さんに...父さん...?。
次の泡は彼には見覚えがない光景だった、視点が誰かに抱かれ横目で見える誰かの腕、白い鱗が覆われた綺麗な腕だった。
抱かれたのが彼の視点なのか、前方で二人の姿を見ていた。
最後に見た母と瓜二つで、歳を取ってないようにも見えた。
その隣で剣を構えて魔物に立ち向かう男性、何故、父親だと思ったのかは分からないが。
あの日、初めて出会った時は頭の天辺から足の先まで、黒の衣装で身を包み顔をすら見えてなかった。
母の名前と息子の名前を知っていて、彼はそれだけで父さんだと信じた。
何で...あの時俺は.....父さんだって信...じられた....。
....普通なら...信じられる...出来事じゃないだろ.....。
何故、信じられたのかが疑問に思い始めた彼は、あの日の事を鮮明に思い出そうとしていた。
家には父の写真等無く、唯一有るとすれば母が大事に身に付けてる結婚指輪。
父から告白と同時に貰った、銀の輪っかに結して大きくないが、小指の爪の先に満たないダイヤが埋められていた。
それは一見、高く見えないが父の愛が詰まっていた。
母が仏壇で胡蝶蘭を供え、「ずっと待ってます」....今に考えればそれは"生きてる"と信じていたのかも知れない。
それを無意識に彼は気付いて、知らない振りをしていたのかも知れない。
.....そう考えると....母の名前......父の名前だ...けで....。
俺は....信じて....しまったのか....。
知らない振りをしていた事実に直面した彼は、賊の言葉を信じて、父さんだと理解してしまったのかも知れない。
そんな事は.....今は...関係ない...。
あ...の人は...父さんだった...アレは紛れもなく...父さん..だ..。
何を考えようが、あの人は自分の父だと改めて認識する。
彼と父だけが知る母の名前、後に見つけた父が書いた日記には、彼の誕生や名前の由来、母との出会い。
それらが綴られた内容だった、召喚され母と息子を世界に帰してから一人だけの100年の想い。
それを読んだ彼は、自身が見た物聞いた事を信じる事にした。
だから、今見てる光景に映ってる男性は父なのだと心から言った。
そして彼の真心が通じたのか、違う空気の泡に包まれ、また見覚えがない光景が見える。
家族三人で大きいベッドの上で、川の字で寝そべっていた。
右に母、左に父、真ん中に幼い赤子と言った感じだった。
二人して愛くるしい我が子の頭を、順番に撫でていた優しく、その存在を確かめるように...。
撫でられてる赤子は、幸せそうに寝息を立てながら眠ってる。
『ーーーーーー』
『ーーーーーー』
.....二人して....止めてくれよ.....。
二人の口が動き何かを話しては、眠ってる赤子の頬っぺたにキスをする。
彼はそれを見て、むず痒い気持ちになり恥ずかしくなっていた。
母と父も恥ずかしかったのか、微笑み合って二人は手を繋いで眠りについてしまう。
そして、また、包んでいった泡は上昇ってしまう。
そして下から違う泡が彼を包み込み、彼の知らない記憶や今までの見た物が映っていく。
中学での初めての恋、告白するが結果は....言うまでも無かった、『私、貴方が生理的に無理なので』。
「なんだよ生理的に無理って!」家に帰って来ては、枕に顔を埋めてフラれた事に文句を言いながら泣いてなり。
腹を壊して1~2時間もトイレに籠り、腹痛を堪え忍んでいたり。
ごく稀に母が部屋に入り込んで、一つのベットで一緒に寝たり、初めて深夜アニメを見て萌えてたり。
今じゃ黒歴史と化した中二病の頃だったり、母に部屋に隠していた、エロ本を見られて説教されたり。
そん時は二時間も正座されながら、性について考えを正された。
まぁ、次から隠すのに余念が無い程に巧妙に隠したのは記憶に新しかったりした。
次々と泡の記憶を見ていき、彼は色んな感情が出ていた。
主に、悶絶したり、自分自身に同情したり、それもう独りで百面相していた。
その中で大きく反応したのは、エロ本と告白だった母に本を見つけられ時は、この世の終わりを迎えた気がした.....。
もう最後まで見終わったのか、沈んでいた身体が底に当たった。
記憶の泡も無く、今も上に昇ってる泡を見ながら彼は何を、見せられていたのかを理解する。
...."走馬灯"........。
思わず思った事が口に出すが、声など出る訳がなかった。
色んな人が死を間近か死んでからの、ほんの刹那の時の中で流れる過去の記憶。
.....俺は.....死んだのか.....。
何時、死んだのかも分からない彼は混乱していた。
.....今、思い出そうと必死にするが最後に見た光景が、黒く隙間から覗かせていた少女の顔をだった。
それは、直ぐさまに塞がり真っ暗な空間となって......、そこで記憶が途切れていた。
..........何をされて...んだ?......。
自分の身に起きた死因が分からず、ますます彼は困惑する。
そんな彼の不安が、一つの真っ黒の泡が降りてきていた。
ゆっくりと着実に黒い泡は、重く沈んでいき底に居た彼の上から包み込む。
それは今までの泡と違い、テレビのノイズみたいにザァーと音が鳴りそうなぐらいに変化していた。
それは数分してからピッタリと収まり、彼にとっては最も思い出したくない光景だった。
足で踏まれた彼が自身の手で、父さんを刺し貫いて殺した光景だった。
第三者の視点から見える彼は....嗤っていた、そして賊が父だと知り悲痛な叫びを上げ倒れて記憶が終わる。
そ.....そんな....俺は...嗤ってなん...か無い....。
彼は父さんを殺してしまった日、自分自身が誰かを殺した事に喜んでる姿を見て否定する。
あの日、彼は賊を殺めた事を嗤った覚が無かった。
だが、黒い泡は彼から離れずノイズが走り、今度は違うを見せていた。
これも第三者の視点なのか、彼が剣を手にして玉座の後ろからガースを椅子ごと刺していた。
その光景は、ガースが地下深くで封印されてる、幼い少女を化物と蔑んだ時だった。
その光景の中でも、あの時誰も居なかった場所から見える、第三者の視点からも彼は刺した時に嗤っていた。
.........。
黒い泡の記憶は、彼の記憶と言って良いのか分からない。
知らない第三者から見える視点には、凶悪な笑みを浮かべている彼。
そこでノイズが走り、また違う光景を見せていく。
次に見せられたのは、執事サイルが死ぬ場面だった。
サイルの足に巻き付いた魔柔石、その地面に伏せて見上げて嗤う彼の姿。
居なかった筈の場所から見てる第三者の視点、ひたすら一点だけを固定して彼を見てる。
......嘘だ..俺は...お...れは....。
.................嗤ってない。
黒い泡に見せられる記憶を否定して、彼は見たくないと目を閉じる。
それでも黒い泡は彼が目を閉じようとも、記憶は再生されていく。
催眠歪みをメイド長アテラに使った時、友同志に訓練と呼ぶ死闘の時、武器庫の番マスノエから貰った白義手の時、偶然出会った小さなメイドのアイの時。
どれも居なかった場所から第三者の視点が、彼だけを見続けていた、どの記憶の彼は黒く嗤っていた。
彼は見たくないと一心に目を閉じて、消えるのを待っていた。
そんな想いが通じたのか、身体を包んでいた黒い泡が離れるのを感じて、ゆっくりと目を開ける。
沈んで来た黒い泡は、赤い幕に覆われ上に昇ってしまう。
それは、黒い泡が血涙を流してるように感じて、彼の心を締め付けていた。
水の中だと感じていた空間が、突如回りに白い亀裂が入り弾ける。
そんな突然の出来事に彼は困惑していた、苦しかった心は更に締め付けているのに、辺りに眩い光が広がる。
光は数分は続いてから、徐々に収まっていき神秘的な空間が姿を見せていた。
「ここは....何処だ...!」
彼は声が出た事に驚き、重く怠い身体を起こしては動く事を確認する。
先程の水みたいな空間じゃ、声や動く事が出来なかったのに、この神秘的な空間に来た瞬間に動けるようになった事に驚愕していた。
「真樹よ、よくぞ来られたな」
ふいに掛けられた声に彼は更に驚愕する、会ったのは一回だけで父さんを想ってくれた御方。
「モルータ様.....?」
死と生を司る神モルータが真樹の後ろに居た、ただ最初に見た姿は仙人に似た感じだったのに。
そこに居たのは、左体半分が白い骨が剥き出しだった。
残りの右半分は生命を作る過程なのか、形作っては崩れてまた作るを繰り返していた。
「これが本当の儂じゃよ、不気味か?、恐いかい?」
「.....そうですね、知らないで初見だったら不気味で恐かったかも知れませんが。前に本当の姿じゃ無いって聞いてましたから、それほど気にはなりません?」
面を食らったのか暫し呆然としてから、モルータは笑い声を上げた。
「ハッハハハハ...そうかそうか、やはり初の息子だな。あやつも『初見だったらヤバかったけど、一回会ってるから気にしねえょ』と言っての、酒を呑み明かしたものだ....」
左側の骨に変化は見辛いが、右の方で喜びを形作って懐かしそうに耽っていた。
「....って事は!、ここって"転神神殿"なんですか?!」
本当の姿を見せたモルータを見て、ここが何処なのかを思い立って問い掛ける。
聞かれたモルータは頷き肯定の意を示し、神妙な顔付きになり真樹を見る。
「.....三つの資格を得てここに来られた、お主は儂以外の四神と会わなければならない。そこでお主は"転神"となるか判断される...」
はぁ?.....どうゆう事?、てんしんって何んですか?。
「真樹よ、ここならお主の声も聞こえておるからの.....」
心を読んでのかよ!。
「心を読んでのかよ!」
モルータに心の声を聞かれ、真樹は思った事を同時に声に出して突っ込んでいた。
「色々思う事は有るだろうが....、まぁ良い儂は先に行って待たなければならない。この道を真っ直ぐに来るのだ、他には一切目も暮れない無いように気を付けよ」
そう言って真っ白な道を指差して、真樹もそれに習って向く。
「目も暮れないって、何も無さそうなんですが。一体何に注意すれば.......モルータ様?」
何に気を付ければ良いのかと聞こうとして、振り向いたら居た筈のモルータが居なかった。
えぇー!、もう行ったの!!。
はぁ~、真っ直ぐ歩けば問題は無いだよな....。
頭を掻いてから真樹は、モルータに教えられた真っ白な道に向かって歩き出す。
何も無い白い道に、一体何に気を付ければ良いのかと考えながら歩を進めていた。




