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人生初の異世界で~俺だけ何も貰えなかった~  作者: 氷鬼
一章 始まりと絶望
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22話 愛


咲音の視点です。




痛いーーーーージンジンと熱を発してヒリヒリする、彼の手で叩かれ所が痛い....けど、もっと痛いのは"心"ギュと締め付けられる程苦しい。

今も側まで駆け寄った仲間(親友)が、私の為に怒って心配してくれた事に.....。


「咲ーーー貴方ね!!、なんてバカな事をしてるのよ!。二度としないでよ...」


痛い、凄く痛い。


「そうだよ!、死のうなんてしないでよ!。死んだら悲しいじゃ.......」


葵に舞花をこんなに悲しませてしまった、二人の言葉が心に刺さる深く何処までも深く。


「ご、ごめんなさい......、でも...でも...」


自分が犯した愚かさに誠意に謝り、言葉を詰まらせて自決を阻止してくれた彼を見る。

今も左手に握られた短剣から、血が流れ地面に向かって落ちていく。

冷たく眼差しを向けて憤慨してる彼が、強く握り更に傷口を広げ短剣をめり込ませている。


「だからお前も俺も嫌い(・・・)なんだ、残された者の事を考えろよ。残された奴に取ってどれだけ苦痛で後悔するのか.....ッ...」


彼は自分を責めるように言い聞かせていた、酷く辛そうで後悔していた。

それでも彼の言葉は、愚かな私には酷く響いていた。

頭を鈍器で殴られたような衝撃が、身体中に轟き揺らしている。


「ちっ....来やがったか、....それでも遅かったな」


「....待って、お願いだから待って!!」


彼は悪態付けながら後ろから来る人達を見て、脱兎の如く城門をくぐり抜け街に駆けていく。

左手で握ってた短剣を、走りながら何処かに投げていた。

私はそれを手を伸ばしてすがるだけだった、私の性で迷惑を掛けた事も助けてくれた事も、謝罪も御礼も何も伝えてない。

彼の後ろ姿を見て、もう会えない気がしてならかった。

何処か遠くに行って、永遠に手の届かない場所に行ってしまう彼に力一杯空に向かって伸ばしていた。


「逃げるなーーー!」


「待ってあ~ちゃん!、お願いだから行かせて上げて!」


逃げた彼に葵は叫んで追いかけようとして、私は声を掛けて体で精一杯止めていた。


あれ?、私何をしてるだろう......。


「離しなさい咲!、彼奴は私の親友に酷い事をしたのよ!。どんな理由が有っても絶対に許さない!」


「お願いだから行かせて上げて!、お願い....だから...あ~...ちゃん。マサキ君を行かせて....」


葵の気持ちが痛い程伝わった、それでも私は自分の気持ちを裏切って彼を行かせたい。

何でこんな事をしてるのかは分からない、心では行かせたくないって想ってる。

でも、身体が勝手に動くように動いてしまう。


「.....葵、行かせてあげようよ。フルっちは確かに許せないけど、咲音のお願いを聞いてあげよう?」


「舞花は彼奴を逃がせって言うの!、....こんなじゃ咲が可哀想よ....」


舞花が私の『お願いを』聞いて、葵を説得してくれた。

ありがとう.....舞花ちゃん。


「ごめんね二人とも....、我が儘言っちゃって....」


「本当に良いの?、行きたかったら咲音も行って良いだよ?」


「咲は、彼奴を許せるの!。許せないなら跡を追い掛けて、一杯デカいのを咬まして挙げなさい!」


「大丈夫だよ。....それに私が追い掛けたらダメなんだよ」


二人は私に追い掛けなさいって言ってくれるけど、私にその資格は無いんだよ、だって彼は私の耳元で言ったから。


『咲音が俺の事を好きなのは知ってたよ、でも俺はお前が嫌いだ....大嫌いだ...。だから、俺に関わるなよ二度と...な...』


隠すつもりは無かったけど、あんな風に冷たく囁かれた言葉は、私と彼を引き裂かすには充分だった。

言葉で心を、体で距離を、もう埋められないぐらいの溝が私と彼には出来てしまった。


あんな態度や言葉を取っておいて、引っ張る時だって自決を止めた時だって。

彼は優しくしてくれた、根本は偽る事が出来ず必ず約束を守ってくれる人だって私は知ってる。

巻き込んで欲しいって言った時、彼は嬉しそうに見えた。

それはほんの一瞬で終わって、冷たく人を遠ざける非道に走ったのも理解できたんだよ。

今まで、彼をひたすら見て知って来たんだよ。


マサキ君は私が生まれて、初めて大好きになった人なんだもん。


「そう想うなら、尚更行きなさいよ!」


「えっ?」


「いや~咲音の口からそんな事を聴けるなんて、ある意味レアだね」


「えっ?、えっ?!」


二人は何処と無く顔色が紅く、恥ずかしそうにしてた。

私はその事に困惑して、口を開きっぱに色んな物が混同していた。


「あ~これはアレだね葵、何を言ったのか分かってないみたいだよ?」


「全くね舞花、咲....自分で何を言ったのかを覚えてないの?」


「えっ?!、私何か言ったの?!」


二人は見会って頷いてから口を開き声を発する、それを聞いた私は自分でも分かる程に紅く、赤く成っていくのが分かった。


「そ、そんな....声に出してったなんて....」


「今に始まった事じゃないわ、寧ろ咲の一途な恋を聞けたわ」


「『マサキ君は私が生まれて、初めて大好きになった人なんだもん』、いや~中々良いのを聴けましたね」


私は心の声を口に出していたらしい、それを二人は聞いてしまったらしい。

恥ずかし過ぎて死んでしまいたい、穴が合ったら籠りたい。


「おーーい!、宮田、佐藤、八重!」


「「「忍くん《忍、しのっち》?!」」」


三人は大きな声の方に向き驚愕していた、そこにはクラスメイト全員と後ろには兵士や騎士が大勢いた。


「すまん遅くなった、......これは...古里が殺ったのか...」


ここに私達が来た時と同じ反応をしては、忍くんは誰が殺ったのか思い浮かび声に出していた。

それに対して私達はただ無言を貫いていた、本当に彼が殺ったのかすら分からなかったから。

彼自身は認めていたけど、あの身体(状態)じゃ出切るとは思ってない。


「あぁ?、何で三人とも黙ってんだよ?」


「真樹は自分が『殺った』と言ってたけど、それが事実かは分からないから何も言えないのよ。それにとっくに逃げられちゃたし、今から追い掛けても追い付くかどうかは分からないわよ」


「葵の言う通りだよ、今から追い掛けてもフルっちはもう外壁の外だよ」


二人は私のお願いを聞き入れてくれて、このまま逃がすのに口裏を合わせてくれた。

それでも忍くんは、どんどん顔が険しくなっていた。


「だからと言って、このまま古里を逃がす訳が無いだろ!。止めても無駄だからな、俺は追い掛けるぜ。.......何人か俺に着いて来い、このまま逃げた古里を追うぞ!」


「待っ.....」


「坂巻!、追い掛ける必要は無いぞ!」


私が声を掛ける前に、クラスメイトの山田くんが忍くんを止めていた。

声を掛けられた忍くんは足を止めて、声を掛けた山田くんの方を向いていた。


「どうゆう意味だ、追い掛ける必要が無いって?」


「そのまんまの意味だ、追い掛ける必要は無い、古里を此方に喚べば良いだよ!」


山田くんは自信満々にそう言ってのけった、何処にも嘘を感じさせる雰囲気も無かった。

そんな事を言われた忍くんは、訳が分からんと言った表情をしていた。


「待て待て意味が分からん、呼べば良いってそれで来たら苦労はしねぇだよ!」


「説明するよりは見てもらった方が早いな、騎士と兵士は真ん中を開けて囲むような位置に立ってくれ」


山田くんは口で説明するよりも、実際にやって見せようと指示を出し始めた。

指示を出された兵士や騎士は、疑問に思いながら真ん中開けて囲むような配置に成っていた。


「じゃ、お願いしても良いかな立花さん?」


「わ...分かったわ...や....れば..良いのね?....」


何かをお願いされた立花佐織たちばなさおり、何処か暗い雰囲気を纏ってる彼女だが両親がどちらも有名なマジシャンで、その娘もまた天才的な才能を持ってて学校では有名だった。

一度マジックを始めると、性格がガラッと変わり見る物を驚かせる。

そんな彼女が一体何をやるのかと思い、私は疑問に思いながら見てた。


「ふぅ~......すぅ~....。....さぁ、始まりした世にも奇妙な世界が!、今宵この場にいる皆様には世紀の目撃者と成るでしょう!」


深い深呼吸してから立花さんが纏ってる雰囲気が変わる、それから饒舌に語りだしては囲まれた円の中心に立ち派手に動き出した。


「それでは、立花佐織が起こす奇跡の一瞬を見逃さないで欲しい。......ここに取り出した大きい黒の布、タネも仕掛も御座いません。それでは......そこの貴方此方に来て下さりますか?」


何処から取り出した黒い布を拡げては、裏表何も無い事を証明していた。


「俺ですか?!、勇者様!?」


「そう!ナスイガイな君だよ!、さぁ早く此方に来たまえ」


指名された兵士は驚きながら、立花さんの元まで早歩きで近付く。

近付いた兵士を見ては、うんうんと頷きながら納得顔していた。


「ご協力感謝するよ君、それではこの黒い布を兵士に被せます。ちょっと暗くなるが心配する必要は無い、直ぐに明るくなるからね....」


感謝を述べては兵士に黒い布を被せてから、立花さんは明るくなると言った。


「皆様大変御待たせしました!、では世紀の奇跡を御見せしましょう。3カウントで始めさせて頂きます、それでは行きます....3(スリー)...2(ツー)..1(ワン).(ゼロ)!!」


カウントダウンを取り0のタイミングで、兵士に被せた黒い布を引き剥がした。

囲まれた円の中心に居た筈の兵士は消えていた、その事に兵士や騎士は絶句してきた。

クラスメイトだけは歓喜し、声を出して立花さんのマジックを讃えていた。


「ノン・ノン・、まだまだですよ。私立花佐織の奇跡は終わらない!、次に布をもう一度戻すと.......ご覧の通りに!」


人差し指を横に振り取り払った布を、兵士が居た場所に広げると何も無かった筈の所から、徐々に何かが浮かび上がる。

ある程度の高さに成ると何かは動き出し、黒い布から声が聞こえた。


「クソッ!、何が起こってる!」


その声はほんの数十分前に聞いた彼の声だった、私は何故彼が現れたのかは分からなかった。


「うん?...この声が誰かって?、それは.....重罪人の勇者が一人!......」


彼を重罪人と呼ぶ立花に、私は苛立ちを覚えたのは確かだった、声を出して反論しようと前に出ようとして。

そんな気は何処かに消えてしまった、私の自決を止めた左手には応急措置として、元々は白だった布が血で赤く滲んでいた。

そんな彼は何が起こったのか理解できずにいた、それから辺りを勢い良く見回しては「あり得ないと」と漏らしていた。


「はぁ?!、何でお前らが俺を囲んでる?!。いつの間に追い越していたんだよ!、もうすぐで出られたのに何で戻ってるだよ(・・・・・・)!」


「これにて私、立花佐織の奇跡は終わった!。今宵は貴方が目撃者だ!......ふぅ~.....すぅ~....」


彼が喚く中で立花は、決め台詞的な事を言い終わって最初の時の雰囲気に戻っていた。

そんな時を見払った山田くんが、立花に近付いていた。


「お疲れ立花さん、後はゆっくりしていて良いよ。(・・・)使い過ぎて疲れただろう?」


「えぇ......つ....疲れた...だから....休ませて....」


「勿論だとも、ゆっくり休んでくれ立花さん。......なぁ言ったろ?、追い掛ける必要は無いって?」


「やるじゃねぇか山田、これで古里は逃げれねぇな!」


自分が言った事の正しさを確証するように、忍くんに詰め寄っていた。

それに対して忍くんは、彼が逃げられる状態では無い事に笑みを浮かべていた。


「待って忍くん!、マサキ君の話しを聞いてあげて!」


出来れば逃がして欲しい....、続けてそんな言葉が出そうに成っていた。

大嫌いな私から言えば彼の眼に私を映してくれない、今も私達を見る彼の眼は暗く冷たさを宿していた。


「話す事なんかねぇよ!、なぁ~古里?」


彼をギッと睨み付け威圧的に問い掛けるが、彼は忍くんや他の人達には目も暮れてなかった。

ただ、一点だけを忌ましく見ていた。


『.....山田くん?』


私も彼の目線を頼りにそっちの方を見ていた、そこには立花や忍くんに話し掛けていた山田くんがいた。

何故?、彼が山田くんだけを見ているのか私には理解できなかった.....。


「俺は逃げ切れなかったのか......、たった一人にこの大人数相手は出来ないな.....」


独り言ののように、諦め掛けたような弱音を吐く彼は、言葉と裏腹に戦う為に構えだしていた。

武器も無く有るのは、形が変わる不気味な形状した黒い手甲だけ。

私から見れば彼の構えは隙だらけで、攻撃してくださいと言った物だった。

それは訓練してきた勇者組や、騎士や兵士の人達も分かる程に......。


「殺る気じゃねぇか~あぁ?、抵抗しなければ一~二発殴ってから気絶で済ましてやる」


「ちょ、忍!、玉座の間の時と同じ事をやるつもり!。手加減出来ないだから大人しくしてない!」


「そうだよしのっち!、落ち着いてこの大人数じゃフルっちも何も出来ないだよ。だから、話し合いをしようよ!」


今にも殴り出そうと指の骨を鳴らしていた忍くんに、葵と舞花二人してその暴挙を止めようとしていた。

けど忍くんは眉をピクリと動かして、鳴らしていた指を止めて二人を見る。


「その話し合いは、俺達が来る前に終わったんだろう?。その結果が逃げられたんだろ?、なのにまだ話し合いをしろと?、もう意味が無いのは分かってんだろう?」


「「.......」」


忍くんの言葉に二人は反論が出来ずにいた、言ってる事は正しいのだから反論の余地が無い。

彼との話し合いはお互いに激情して終わってしまった、彼の行動で二人は怒りを露にして許されない事をしたのも、頭では理解できるけど....それでも私のお願いを優先してくれる。

なのに、私はさっきから黙ったままだ。

このまま何もしないで終わりたくない、任せっぱなしは出来ない。


「.....この話し合いに意味は無いかも知れない、でも、仲間通しで傷付け会うのは間違ってるよ。忍くんもあの時だって、私が治さなかったら殺してたんだよ?!。自分の手で、同じ時間を過ごした人を殺めた事を....後悔しない?」


私はなんて卑怯者なんだろう、忍くんの見た目とは違う優しさに漬け込むなんて。

ごめんなさい......、それでも憎んでも良い何を言われても良いから。

お願いだから彼を見逃して、お願いします.......。


私は内心で切願していた、忍くんに少しでも罪悪感を抱いて貰う言い方をした自分が、あまりにも卑怯で卑劣だと分かっても。

今の自分に出来る事と言えば、これだけだと理解した上で。

私だけが傍観し葵や舞花に任せっぱ無しは嫌だった、二人は私のお願いを聴く為に彼に対しての感情を呑み込んでくれた。


「その言い方は.....卑怯だ....、これじゃ俺が悪者だろうが.....。分かった分かった!、話し合いすれば良いだろう!、たくっ何が有っても知らねぇからな?」


忍くんは悲しそうに悪態付けながら、渋々了承してくれた。

私はそれを聞いて、張り積めていた緊張の糸を一本ほどいて安堵していた。


「ふぅ~......。忍くんありがとうね、私の我が儘聴いてくれて....」


「それが分かってんなら、古里をどうにかしろよ俺は....暫く様子見すんっから」


ぶっきらぼうに返答しては、忍くんは少し距離を取って腕を組佇んでいた。


.......ありがとう。


私はもう一度内心でお礼を言って、中央で構えてる彼に向き直しては。

深呼吸して今張り積めてる緊張の糸を、緩ませては落ち着かせていた。

それから、充分に伝えきれなかった言葉を選び出しては決心する。

想いは知られてるけど、言葉にする前に砕かれた想いを届かせる為に。


中央にいる彼の前まで歩き出しては、一歩手前で止まり姿勢を正しては、彼の冷たい眼を真っ直ぐに見詰める。

どんな表情でも好きになった人なら、愛おしく全てを受け入れる程に.....。


「私...八重咲音はずっと前から、真樹君の事が大好きでした!!。....だから結婚を前提にお付き合いしてください!!」


「「「「「ーーーーーー!!!」」」」」


その場皆が驚き開いた口が閉じない現状に成ってたけど、私は自分の想いを彼に伝えた......。




この次も咲音の視点での話です。

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