19話 外道
死に抗うと決意し、剣を構えた状態で隣に居るリックの方に視線を向けては小声で話し掛ける。
「.....勝てそうですか?」
剣を構え隙がないリックに問い掛けるが、少しだけ首を横に振り否定する。
「ちょっと打ち合ったけど、勝てる気がしないね....。実力が違いすぎるよ、流石は幽影のサイルだよ」
そう言われた人物"幽影"のサイルは、突然現れた賊を様子見し、憤りを顕にし睨んでいる。
「その~.....幽影のサイルって、そんなに強いですか?」
強敵だと先程まで攻防や、自分の性で死んでしまった騎士を殺めた手腕は経験不足の真樹でも理解できた。
それでも一撃も受けず防いだリックを見て、実力は互角なんじゃないかと思ったが。
敵を誉め、自分よりも格上だと言いきったリックに疑問に思い聞いてしまった。
「この国一番の強者で、王の懐刀、暗部の団長、首切り、狂人、幽影、等色々な呼び名で各国の重鎮達に伝わってる.....」
完全な危険人物じゃ.....。
あまりにも物騒な二つ名に、真樹は背筋の悪感が走りぶるっと体を震わせる。
「じゃ、逃げ切れる事は可能ですか?」
勝てない分かれば逃げの一択を決めつけ、危険人物から逃げる事を提案するが。
リックは何も話さず、首を横に振って否定する。
逃げる事を出来ないと理解し、抗うと決めた真樹は頭の悪い脳をフル回転して、閉ざされた道を切り開く為に長考する。
何か無いか、この状況を覆せる方法は!。
父さんの袋収納に役に立ちそうな物は、探せば有ると思うが効果も分からない物で溢れてるし......。
分かる物って言えば、食材に武器や防具でそれも形状見ただけで何も解決になってない!。
二人で戦うにしても、俺じゃ足手纏いだ.....。
どうすれば良い、無い知恵を絞り尽くして考え出せ!........。
待てよ........、これならいけるか?。
時間にすれば数秒といった僅かだが、この状況を覆せる一つの手段を思い付き。
直ぐさま行動に移そうとする前に、リックの方に向き一つのお願いをする。
「リックさん!。少しの間だけ時間を稼げますか?!」
急な大声で呼ばれたリックは驚き、体の向きだけは固定し視線だけを此方に向ける。
「時間によりますが、少し間だけなら平気ですが。それよりも何をするですか?、小手先だけじゃ幽影には通用しませんよ」
下手な小細工は通用しないと釘を刺されるが、それに対して真樹は首を横に振り否定する。
毅然とした態度で、自身の左手を軽く見せる。
それで全部が通じたか分からないが、顔が覆面で見えないリックが少し笑ったのが分かった。
「理解できたかは分かりませんが、何を使用としてるのか分かりました。それで具体的にはどうすれば良いですか?」
「まず、近付かないと話しに成りません。なので、リックさんには少しでも良いので動きを止めてくれれば助かりますが。それは現状では非常に難しい事なので、アイツを此方に近付かせないで下さい。その間に準備します!」
了解したばかりに頷き、視線を戻しサイルの方を向く。
ここまで黙っていたサイルは、此方の話し合いが終わった所を見計らい口を開けた。
「作戦会議は終わりましたか?、後は悔いが無いように逝ってくだされば、此方としては助かりますが。それは無理だと承知してるので、なので、苦しんで声を上げて死んでください.....」
素直に死んでくれと言ってくるが、それが無理だと分かってるサイルは、狂人的な笑みを浮かべていた。
少しでも苦しみ悲痛な声を上げろと、意味にも取れた真樹は笑みを携え口を開く。
「誰がお前みたいな変態に殺されるか、そんなに苦しんでる所が見たいなら、主のクズ野郎に頼んで用意して貰え!。それとも、逆に痛め付けられて興奮でもしてな!」
何処までも侮辱し挑発する言動に、サイルはこれでもと憤慨し顔を歪ませて震えていた。
「ど、何処までも人を、ば、馬鹿にするのがお好きのようですね。い、良いでしょう、貴方だけは普通では、し、死なせんませよ。悲願して止めるまでに皮膚を剥ぎ、指を切り落とし、眼球を抉り、その他諸々の拷問をして上げます。それに簡単には死なせないので、治療も施してまで延命させて上げます!」
言葉通りに実行出来そうな雰囲気に、真樹は内心で気圧されるが出来る限り顔には出さなかった。
「殺れるもんならやって.....」
「させません!」
真樹の言を最後まで聞かず、サイルは殺す為の一手を投じる。
何処から出したのか見えなかったが、その手から投じられた短刀が真っ直ぐに真樹の顔面を捉えるが。
投じられた短刀をリックが持つ剣で弾き、そのまま後方の地面に突き刺さる。
『やはり、マサキ殿の戦力は皆無。なら、ここは先に彼方を殺した方が速いですな......』
考えるように口元に手を当て、独り言の言うが真樹とリックにはその声が届かなかった。
後方に飛んでった短刀を見ては、脅威から救ってくれたリックの方に顔を向ける。
「助かりましたリックさん。それに....自分じゃ力に慣れないみたいです....」
「貴方は貴方だけが出来る事を、やってください。私の命運を託します.....」
「.....っ....リックさん!」
剣を構えて油断なく身構えてたのに、反応する事も出来ず悔しい想いが込み上がっては来て。
そんな情けない面を見たリックは、少し笑みを浮かべては一言だけ残してサイルに剣を振る。
「貴方の相手は私です!」
「賊如きが調子に乗るなよ.....」
金属通しがぶつかる高音を響かせ、一手一足互いに攻撃を避けては、直ぐに次の攻撃をお見舞いする。
「.....す...ごい....」
つい先程見た光景よりも激しい戦い、真樹は感嘆の声が漏れてしまった。
目を凝らして見るが、全てを見る事が出来ず金属通しが当たる音と日に当てられた光、この二つしか認識出来なかった。
音を聞いたと思えば、直ぐさま違う音が響き。
剣に反射した光を見れば、違う場所で剣が光る。
俺だけが場違い....でも、リックさんが言ってくれた!。
自分だけしか出来ない事をしよう....、命を託してまで時間稼ぎをしてくれてるだから。
リックが稼いでくれてる時間を無駄にしない為に、真樹は袋収納から白い義手を取り出す。
これが魔柔石から出来てるのを忘れてたな、でも、そのおかげで生きる為の策が出来る。
マスノエに感謝だな......。
トッペに連れてって貰った武器庫に、そこに居た番をしてるマスノエに貰った義手。
素材が魔柔石の塊で有るのが、この状況を打破できる唯一の手段。
何時か使える日が有ると思っていたが、こんな状況で使うとは思いもしなかった....。
義手に自身が持てる最大の魔力を注ぎ込み、頭の中で描いたイメージを送る。
「...クッ」と声が漏れ出し、体中から汗が吹き出す。
魔力伝達が悪いのか上手く流し込めないでいた、それでも強引に流し続けたおかげで、義手の形が変わっていく......。
白い腕が蠢くように形状を激しく変化させ、黒く禍々しい空洞が出来た腕となり、所々ヒビが入っていた。
黒い腕を見て真樹は、引きつった笑み浮かべるが概ね想像通りに出来た事に喜びを顕にする。
......うん、まぁ、色は考えてなかったけど。
腕に装着出来るようになってるから....良いか?。
あくまでも形状をイメージしただけで、まさか色がこうなるとは思いもしなかったが。
特に気にする必要が無いと判断し、白い義手だった物を自身の右腕に装着する。
ガチャと音がなりサイズも合い、見た目的に言えば手甲に近い物だろ。
何回か指や手首を動かしては始動確認し、魔力を流したり形が変わるのかを確認していく。
良かった~、着けたまま形が変わらなかったら終わってた......。
後は、タイミングを見て飛び込むだけ!。
確りと装着した黒の手甲の感触を感じながら、音光が飛び交う二人を探す。
「ーーーーリック!!」
自分が見ていない間に、地面には無数の血溜まりがあり、それを残した人物を知り叫んでいた。
腕をダラりと下げ、手にしていた剣を地面に落とし着てる服が所々で裂けては、服の隙間から覗かせる肌に痛々しい傷が出来ていた。
「....マサキ...さ...ま」
絞り出すように声を出しながら、真っ直ぐに真樹を見つめていた。
今にも倒れそうな姿を見て、真樹はその場から駆け出していた。
向かう途中で、リックは前のめりでドサッと音立てながら倒れてしまう。
「リックさん!、大丈夫ですか!。今すぐに、これを飲んでください!」
リックの元まで行き体を抱き起こさせて、袋収納から地下で飲んだの同じ回復ポーションを取り出しては口元まで運ぶが。
注いでも飲み込めず、「ゴフッ」と吐き出してしまう。
黙って二人を見ていたサイルは、笑いながら近寄って来ては、剣に付いていた血を腕を振り風圧で飛ばしていた。
「フフフッ.....、回復させるとお思いですか?。これ程弱いとは実に嘆かわしい、恨むなら自分を恨んで下さいね...」
「させるか!!」
振り上げた剣を振り下ろす前に、真樹は右腕に着けた黒の手甲で頭を守りながら突撃する。
その際に抱き起こしていたリックを、乱暴に地面に落としてしまうが。
内心で謝りながら、自分の目で捉えられなかったサイルの動きに集中する。
「それは、愚策ですよ....」
「えっ?」
自分に何が起きたのか分からず困惑する、サイルに無策で突撃していた筈なのに。
今は地面に倒れ、顔を見上げれば陰り入ったサイルの顔が見えた。
下半身から熱を感じて見れば、足から血が流れるのが分かった。
それと同時に何が起きたのかも理解出来た、ほんの一瞬で足を切られたんだと.....。
動け!、動け!。動け!、動け!。
必死に足を動かして立ち上がろうとするが、真っ赤な液体が流れ出してる足は動く気配がなかった。
「無駄ですよ、貴方はタダでは殺さないと仰った筈ですが?。それに、健を切られれば動く事も出来ないでしょうが.....」
嘲笑しながら哀れみのような口調で話すが、真樹は這うようにサイルに触れようと動く。
クソっ!、健を切られたぐらいで動けなくなるなよ!。
動けってば!、頼むから.....動いてくれ....。
痛いのは分かる、悲鳴を上げてるのも分かるけど.....今は動いてくれ。
ズルズルっと動き重い体を引きずっては、動けなくなった下半身に叱咤していた。
痛みを我慢し無理がある言いだが、リックに命を託され無様な姿を見せている自分が許せなかった。
「虫のように地を這うとは.....、実に滑稽ですなマサキ殿....フフっ。では、お次は.....左手ですよ」
「...うっ...グァッぁぁぁぁ!」
「良いですね~良い悲鳴ですよ。どうですか?、痛いですか?」
楽しそうに微笑み、下から伸びてきた真樹の左手の甲に剣を突き立て抉るように捻っていた。
顔を痛みで歪ませた顔を見ては、何度も何度も無傷な場所に突き立て抉る事を繰り返していた。
それでも真樹は微かに意識を持って、左手の人差し指に着けた催眠歪みに向けて魔力を流す。
「おや?、魔力を左手に流して......あぁ~成る程これは魔装飾品ですか。そんな状態で、まだ使えると思っているのですか?。これは面白い冗談です...ね!」
「あっぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!」
玉座の間で、騎士に向けてやった実験を同じくやろうとしが。
自分の前で、まだ抵抗出来ると思った態度にサイルは憤っては、真樹の左人差し指に着けた催眠歪みごと「フンッ」息遣いし切り取ってしまう。
切り取った指を拾い上げ、断面から血が滴り落ちているのを気にせずに、黒く歪んだ指輪に含まれてる魔力に目を見開いて驚愕する。
「まさか....幻惑級?!、何処で手に入れたのですか?。これ程の魔装飾品なら、貴方が苦しまない結果があった筈ですが......今じゃ宝の持ち腐れですな....」
真樹が使いこなせて無い事に、サイルは嘆息づいては指から催眠歪みを抜き取る。
「マサキ殿に変わって、私が有効に使って差し上げます」
「か....えせ...返せよ....」
抜き取った催眠歪みを指に嵌めては、サイズ調整で自身の指とピッタリと合わせていた。
その光景を、血を流しすぎて意識が朦朧としてきた真樹が、恨めしそうに睨み付けては。
黒の手甲を着けた右腕を伸ばすが、持ち上げるのが精一杯だったのか、地面から少ししか上がってなかった。
「これから死ぬ人には過ぎた物ですよ?、ですから安心して死んでください。それに、これで陛下を洗脳して全てを知ったんですね....。聞きたい事も答えるべき事も、全て解決しましたので貴方は用済みです.....って人の話しは最後まで聞かないとダメですよ?」
「........」
催眠歪みを見ながら、どうやって真樹が真相を知ったのか答えを導きだし。
真樹に反応を伺うが反応が無いのが分かると、口を開き呪文を述べる。
「傷有る者に癒しを与え死を遠ざけろ"リカバリー"」
「.....ふっ....っ..」
『キュア』の上位番『リカバリー』を唱え、強制的に意識を戻し体に刻まれた傷を塞ぐ。
傷を塞がれたが無くなった肉は再生されず、切られた健や指はそのままの状態だった。
"キュア"簡単な応急措置ぐらいに、傷を直し痛みを無くす癒魔法の最初に覚える魔法。
"リカバリー"傷口を塞ぎ失った血を多少は戻す、なお使用者の魔力に応じて規模が変わる。
玉座の間で、咲音が真樹に対して使った魔法が"リカバリー"となるが、完全に直したのは天恵の力による。
今回サイルが使った"リカバリー"で、真樹が流しすぎた血を戻す事で、朦朧としていた意識を強制的に戻していた。
意識がハッキリし出した真樹は、何故って顔をしては精一杯だった腕を伸ばし取り返そうと動かす。
「お目覚めになったばっかで、体を動かしますと障りますよ?」
「気を使うきも無い癖に何を言ってやがるだ、いいから返しやがれ!」
「まぁ、その通りなので反論はしませんよ?。少し面白い余興を考え付いたので......」
「何をさせる気だサド野郎!!」
サイルが何をやろうとしたのか、真樹には分かり怒声を上げる。
「さ、さど?何を言ってるですか?。それにマサキ殿も同じ事をやったのですから、あの騎士だって貴方の性で死んだんですよ?」
そう言って、首をかっ切られた騎士を指していた。
「そ、それはお前が殺したんだろ!」
「いいえ、違います。マサキ殿が巻き込まなければ、死ぬ事も無く今にも大切な人達と一緒に居られたのかも知れませんよ?。それを奪ったのは誰ですかな?....」
「.......」
サイルの言葉に反論なんか出ず、口を紡ぎ顔を歪ませてしまう。
奪ったのは誰でも無い俺だ、騎士の人生を奪ったのは俺なんだ......。
「他の勇者が言ってましたね、沈黙は肯定の意だと?。なら、私がマサキ殿にやろうとしてる事は同じ事ですよね?。それを、自分だけは良くって他の人はダメって言われるですか?」
誰か分からない勇者の言葉を思いだしては、その意味が真樹の状態に合うと言い。
自分の行動は否定されるなら、真樹が行った行動は否定されないのかと正論を言われ。
真樹は首を縦に振って、自身がやった行動に肯定し口を開く。
「....確かに俺がやった事は、人が許される事じゃない。死ねばあの世で罪を償うが、一人じゃ逝かないお前らクズ共と一緒にだ!!」
「ーーーー最後の足掻きとしては、素晴らしい一手ですが常が甘い....。今ので私を殺せなかったのは残念ですよ、それに賊との戦闘で貴方が何かやってるのは見てましたからね。これも想定内でした、では今度は此方の番ですよ....」
(やはり、手甲は魔柔石でしたか。勇者方の中で最弱の筈が、これ程の魔力を身に宿してるとは....。これで魔法や武に優れていたら立派な戦力に成れたでしょうに、いけませんね思考がズレてしまいた。主の命を遂行しましょう...)
顔横にまで伸びた魔柔石から感じる魔力に、サイルは感心するが直ぐに思考を戻しては、ガースから受けた命を遂行しようと動く。
魔柔石の刃で傷が出来ないように、自身の体を魔力で覆い防御する。
最後の抵抗ーーー反撃として、右腕に着けた黒の手甲に魔力を流し。
鋭い剣に形を変えさせて、サイルの顔に2メートルまで伸ばして貫こうとしたが。
伸びる速度は速かったが、それを意とも容易く顔を横にずらし避けていた。
それも、リックとの戦闘中に真樹が何かをやっているのは分かっていた。
分かった上で、黒の手甲を着けていた右腕以外を使えないようにしていた。
サイルは指に着けた催眠歪みに魔力を流す、真樹はそれを視界の端で捉える。
紫色の光が集まり今にも飛んできそうだと、使ってきた経験から良く分かっていた。
分かっていたから出来る、最大の一手を投じる。
これを待っていた!。
「.....なっ!」
素っ頓狂な声を出しては、今起きた事に驚愕する。
黒く伸びた2メートルの剣から、横に細い棒状が伸び催眠歪みにぶつかる。
伸びた速度でぶつかった衝撃で、非常に脆い指輪はヒビが入り徐々に大きくなりーーー最後は細かく崩れて地に落ちる。
「サド野郎に使われるぐらいなら、自分で壊すのが普通だろ?。それにもう手遅れだ!」
小バカにしながら笑うが、瞳には涙を出しながら父さんの品を自分の手で壊していた。
ごめんね父さん....、大事にするつもりだったのに壊しちゃたよ......。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!、...これは魔柔石か!?」
怒声を上げては斬り掛かろうと、一歩踏み出そうとしたが動く事が出来ない事に気付く。
いつの間にか下半身を、魔柔石で拘束されていた。
「手遅れだって言ったろ?、....最後はお願いしますよリックさん!...」
「後はお任せください!」
動けるようになったリックが、立ち上がって駆け出していた。
手に剣を持ち直し、動けなくなったサイルに斬りに行く。
少しでも回復出来てたんだな.....。
リックの力強い声を聞いては、真樹は安堵していた。
口の中には流し込んだ回復ポーションが、今になって効き出していた事に。
殆ど吐き出していたが、少しでも口の中に残っていた液体は少しずつ体内に浸透していた。
動ける程度には回復したリックは、そのまま意識が失った振りをしてサイルに油断させていた。
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!」
「させません!、大地を盛り上がり壁となれ"ウォール"!」
地面に伏せてる真樹を殺そうと、懐に潜ましていた短刀を投げるが。
リックが唱えた土魔法"ウォール"の方が速く出来上がり、土壁に阻まれドサッドサッと刺さり止まる。
「何故!、外れないだ!。私の方が魔力が上の筈なのに!、この魔柔石は形を変えないだ!」
さっきから下半身を拘束してる魔柔石に、崩れるイメージを乗せて魔力を流すが、一向に崩れる気配も無かった。
魔柔石に含まれてる魔力を、優に越える量を流してるのに、形が変わらない事に焦りが生じ動きを鈍くする。
それはリックや真樹から見ても、絶好の好機だった。
「ま、まだ死ねない!、死にたくなぃいぃぃぃ。ーーーーグフッ」
近くまで迫ってきたリックに向けて、形振り構わず剣を振るが。
リックはそれを平然と避けては、サイルの懐に入り剣を突き刺していた。
グチャと音を立て確実に息の根を止めるように、剣を捻り傷口を広げ続けていた。
「ま....だ....まだ....死にた.....」
傷口や口から血を流し、下半身が固定されている為に、上半身がリックの肩に乗るように倒れ逝ってしまう。
リックは剣をゆっくりと抜き、その場から一歩下がっては真樹に駆け寄る。
「マサキ様!、御無事ですか!」
「やりましたね、リックさん....。お互い無傷とは言えませんが......」
「そんな私より!、マサキ様の方が酷い状態じゃないですか!。直ぐに治療が出来る場所に移動しましょう、戦闘音を聞き付けて他の奴等が来る前に!」
「なら、父さんの剣と袋収納を持って行って下さい!」
リックが倒れる時に、剣を地面に落としていた事を思いだしていた。
それから右腕を動かしては、腰に着けた袋収納をリックに渡す。
「助ける為に来たのに!、ここでマサキ様を置いて行ける筈が無いでしょう!」
「こんな体じゃ逃げるのは無理ですよ、見て分かりませんか?。それに勇者の中に治せる者がいるので、治して貰ってから逃げるので....」
「治して貰う事が出来るかも知れませんが!、ここに残せばマサキ様は......」
一人ここに残せば、この後に何が起きるのか分かってるリックは、その先を声に出す事は出来なかった。
「大丈夫ですよ、まだ勇者の中には話が分かる奴がいますから。それに勇者に囲まれてれば殺される事は無いので.....、だからお願いです....」
リックを安心させる為に、半分は嘘だが残りの半分が本当の事を告げては。
真っ直ぐに見詰めて悲願する。
「.......」
「もう時間が無いです!、お願いですリックさん。父さんの袋収納を持って行って下さい!」
ぞろぞろ金属音や声が遠くから聞こえ、必死にリックを説得する。
「分かりました.....、また直ぐに戻って来ます!。それまではご辛抱下さい!」
「ちゃんと迎えに来てくださいね.....」
真樹から離れるが、後ろを振り返っては悲痛な表情しては、前に向き直し街に向かって駆け出す。
リックの後ろ姿が、見えなくなるまで見続けてから、死んでしまったサイルの方に首を動かして見る。
「あっちで待ってろよサド野郎.....」
小さく呟きながら、近付いてくる音に耳を澄ましていた。




