18話 抗う
城内の通路をゆっくりとした足取りで歩くが、少しでも速く国から逃げる為に歩く。
道中、すれ違うメイドに軽く会釈し城門を目指していた。
「おい!、お前。.....見ない顔だな?、何処の所属だ?」
声を掛けられ振り向くが、城中で見た事が無い顔だった為に怪し目で見つめてくる。
「すまんが、こいつは新入りだ。まだ所属は無いが、近い内に玉座の見張りに入ると思うぜ?」
横を歩いていた騎士が、見知らない騎士の変わりに事情を話す。
「初めまして!、自分はナントカ・ダローナと申します!。まだ所属は決まってませんが、今後とも御口授下さい!」
声を掛けて来た名も知らない騎士に、頭を下げて誠意ある一礼をする。
敬った敬礼に頬を緩めた騎士は、微笑を携えて口を開く。
「おぉ、新入り良い挨拶じゃないか!。今後とも何か有れば言いなさい、このヌガ・アガリナにな」
「はい!、ありがとうございますヌガ・アガリナ殿!」
名も知らない騎士に名を教えて貰ったが、覚える気も無く、直ぐに聞いたばっかの名を消し去った。
「悪ぃが、こいつを直ぐに他の場所に連れて行かないとならないから。この辺でお暇するぜ」
「おぉ~そうか!、それは失礼したな。ナントカ城中で何処か会うだろうが達者でな...」
「はい!、ヌガ殿も達者であらせますように」
声を掛けて来た騎士とその場で別れの挨拶をし、横にいた騎士と一緒に歩き出し。
直ぐ後ろから声がまた掛かる.....。
「おぉ~そうだった、伝えないといけない事を忘れていた.....」
忘れていたと、先程までの目付きが一気に変わり鋭く熱が宿った瞳をしていた。
「先程、陛下直々の王命が下った。城内にいる全騎士と兵士に、重罪を犯した勇者の一人を捕らえろとの命だ.....。勇者の名はマサキ・フルサト、黒髪黒目が特徴で今も城内を逃亡してるらしい。見つけ次第その場で捕獲か、抵抗するのであれば多少の怪我は容認だ。うん?....ナントカお前、黒髪黒目だなよ?」
ナントカ・ダローナの容姿を見て、逃亡中の勇者と似ていた事に怪しむが。
「確かに、こいつは黒髪黒目だが勇者じゃねぇよ。今日1日中いた俺が保証する」
「そ、そうか。疑ってすまなかったなナントカ」
横に居た騎士が違うとフォローをして、名を知らない騎士がナントカに謝罪する。
「いいえ、お気になさらずに。では、自分達はアッチの方を捜索しながら、逃亡中の勇者を探します!」
一瞬だけ驚きを顔に出したが、直ぐに気を引き締め騎士に通路を指差しながら捜索すると告げて。
その場で名を知らない騎士と別れ、横に居た騎士と共に、城門に向かう通路を歩き出す。
あのクズ野郎......、先手売ってきやがったな。
このまま、見つからないで逃げ切れるか?。
玉座の間にいたガースに内心で悪態を付け、数十分前に城に轟いた爆音の正体に検討を付けていた。
騎士の格好をしたナントカ・ダローナは、真樹が連行する騎士から拝借した格好だった。
名前もその場で考えた適当な名前、思い浮かんだ事を口に出しただけだった。
元の服は血で染まっていた為に、拝借した騎士に着させていた。
隣にいる騎士は、催眠歪みで洗脳した者だった。
................
.........
......
話しは玉座の間に戻る。
忍に殴り飛ばされた真樹は、大きく床を跳ねながら連中から遠く離れ後ろ姿を皆に晒していた。
「......グフッ....」
顔面を殴打される度に、咲音の癒魔法で治され意識が消える前に引き戻され、また同じ激痛を与えられ意識が消えるループの繰り返していた。
意識が少しでも戻る度に、どうやって切り抜けるかを考え、それでも殴られる間に考える事を放棄して終わるのを待っていた。
だが、それも吹っ飛ばされ連中から距離を取れた事を素直に喜んだ。
痛みも咲音が魔法で離れた所から治し、朦朧としていた意識を現実に引き戻し。
後ろから見られないように、腰に着けていた袋収納から催眠歪みを取り出し左手に装着し機会を持つ。
ガースの声を微かに耳に届き、見えない後ろから金属と布の擦れる音を聞く。
「油断せずに近付き、身柄を確保せよ....」
男の声が小さく響き、一人の男が真樹の左腕を後ろに回し関節を極められ、少しでも動く事が出来なかった。
........っ...。
目を瞑ってる状態で、自分が何をされてるのか分かるが。
腕を極められた時に生じた痛みを感じるが、声に出すほどほどでは無く内心で留めていた。
だが、これは同時にチャンスでもあった。
直ぐさま左に着けた催眠歪みに魔力を流し、後ろで左腕を抑えてる男に当てる。
今は目に見えないが、紫の光が集まり男に当たった筈だーーーー腕を抑えてる力が弱るのを感じて、内心でガッツポーズを取るが。
ここで、1つの疑問が浮かぶのと同時に1つの実験が確証された。
よし、上手くいった!。
やっぱり向けるとかじゃなく、イメージで飛ぶ方向が決まるのか。
この状態で成功したのが、何よりの証拠だよな.....、もし、失敗していたらって思うと震えが止まらねぇな.....。
今まで使用する時は、相手を目で捉えて催眠歪みに魔力を流す工程だった。
紫光が飛ぶ方向も、真っ直ぐで嵌めた指が相手に向いてる方って事もあったが。
今回は左腕が後ろで極められてる状態だった、もし、失敗していたら光は真っ直ぐに横に飛んでいっただろう。
だが、今回は違った。
頭の中で光が飛ぶ方向を、しっかりと練って真後ろに居る男の方に、飛んで行くイメージを作った。
そのまま、魔柔石に魔力を流す要領と同じで流して、光を掌から真後ろに飛ばした。
結果は、目に見えないが男の拘束が緩むのを確かに感じていた。
そして、目を閉じたまま口を開き小声で命令を下す。
「掴んだ腕を近くに居る奴等に向けては、三秒待ってから違う奴等に向けろ」
命令口調で催眠歪みで洗脳された筈の男に伝える。
他の人の位置も分かれば良かったが、流石に少しでも動けば気付かれるのは自明の理だった。
その為に後ろに居る男が動かせば、勘づかれる事は無いと思った発言だった.....。
ほんの数秒の時間を待ち、掴まれていた腕が持ち上がるのを感じつつ魔力を流して行く。
言われた通りに三秒立ってから、腕が動きまた固定されては魔力を流す。
それを三回繰り返しては、命令が完了されたのか止まった男にもう一度光を当て。
命令待ちの奴等に向けて言葉を発する。
「俺を玉座の間から連れ出し、他の奴等から聞かれた事には適切に返しその場を切り抜けろ」
催眠歪みで洗脳され命令が受理され、三人で真樹を玉座の間から運び出す為に動き出す。
体の力を抜いては、足を引きずられながら運ばれる為に、足取りは遅かった。
その途中で、四人の声が耳に届き。
耳を傾けては、その話しに神経を集中させて聞く。
「そんなの知るかよ!。ただ、言えるのはアイツは男じゃねぇって事だ」
この声は坂巻だな、そもそもお前の男の定義なんか俺が知る訳無いだろう....。
真樹は忍が言った『男』が何なのか分からず、内心で呆れながら話しの続きを聞いていく。
「待ちなさい忍、貴方のさっきは何なの!」
「あぁ!」
「さくが治癒しなければ、真樹は死んでいたのよ忍の手で!。一発殴れば充分だったでしょう?!」
お前も殴ろうとしたよな?、実際はしなかったけど止めないで見てただけだよな。
真樹は殴打されてる時、忍を止めようと葵が声を掛けていたが、耳には届く事も無く聞けなかった。
殴られる度に鳴る音と、激痛でそれ所じゃなかった。
「古里は死んで当たり前の事をしたんだぞ!、一週間前の襲撃で関係の無い人達が多く死んだんだぞ!。それを思えば一発じゃ足りねえょ.....、それにお前も映像で見てただろう、手にした剣で刺したのを?!」
あぁ~やっぱりか......、クズ野郎との会話も行動も都合良く改竄されていたのか。
通りでクズ野郎が御機嫌だったのか、それにコイツら実際に見た訳じゃないのに、良く信じられたな。
それに、死んで当たり前か.....。
それは否定は出来ないな、俺も手段を問わず洗脳するし、俺もクズ野郎と一緒って事か.....もう後戻りも出来ないな。
最初に感じた違和感の予想も当たり、ガースは玉座の間で交わした会話や行動を、自分達ーーー否自分の為に手を加えたのを勇者組に見せていた。
最後に玉座の後ろから、剣で貫いたのが徹底的な証拠にもなっていた。
忍の言葉「死んで当たり前」に、真樹はその事に納得してしまう。
父を殺め、自分の為に催眠歪みでガース達と同じで洗脳をしていた。
その手段に自分も知らず知らずに、染まり堕ちていた事に内心で落胆する。
訓練場で訓練と言う名の"死闘"をする、勇者組と同じで絶望していた自分が、後戻りも出来ない状態に失望していた。
真樹は自分自身の戒めてる間に、四人の会話が進む中、父さんの剣を落としていた事に気付き焦る。
三人に運ばれてる途中で、左に魔力を流し一人の男に当て回収を命じる。
「俺が持っていた剣を拾ってこい、返答は適切にな。それから勇者の一人、山田皆瀬に近付き、耳に着けてる魔装飾品壊せ、邪魔されたら気を失え」
小声で直ぐに近くに居る人だけに、聞こえるように命令を詳しく指示する。
命令が詳しく言えば、それだけ良い動きをする事はスターリックで実験していた為に知っていた。
言われた通りに一人の男が動き出し、咲音たちの近くに落ちていた剣を拾って来ては、命令の主に渡し。
もう1つの命令に動こうとして、咲音の声で止められていた。
真樹は渡された父さんの剣を、直ぐさまに袋収納に収納し咲音の声に耳を澄まそうとしたが。
扉の開く音を聞き閉じる音も聞く、玉座の間から出た事を確信した。
運んでいた二人の男に光を当ててから、やっと意識が無い振りを止め、目を開き男達の方を向く。
「....お前は他の奴等から俺を庇いながら、適切な返答をし着いて来い。それと....お前は俺の服と交換してから、扉を魔法でも何でも良いから塞いでから、何処かに行って寝てろ。目が覚めたら正気に戻れ」
二人の騎士を指を差しながら指示を出し、それに沿って行動を開始する。
服を交換する為に、玉座の間から出て直ぐの通路で服を脱ぎ着替える。
騎士が着ていた鎧や服は、真樹のサイズにピッタリだった。
血に濡れた服を来た騎士は、扉を塞ぐ為に土魔法で何処ともなく現れた土が、扉の隙間を埋め分厚い土壁が塞ぐ。
それを見届けてから、着いてくるように指示出した騎士を連れて歩き出す。
玉座の間から充分離れた所で、来た道から爆音が轟く。
窓ガラスが音を鳴らしながら震え、塞いでいた土壁が壊されたのを音と一緒に理解した。
「随分と速かったな.....、あっ、残してきた奴が失敗したんだな」
バレた理由に検討を付け、洗脳した騎士と共に見つかる前に離れる。
玉座の間に残していた、洗脳をした一人の騎士が咲音に邪魔され。
山田皆瀬の魔装飾品を破壊できず、その場で気を失い倒れる。
破壊は出来なかったが、最後の「気を失え」に従いその場で倒れていた。
...........
.......
....
ここまでが、真樹が起こした事態だった。
本当なら夜まで待てば、スレイヤーに頼んだ計画が始動する筈だったが.....。
「何故かクズ野郎にバレてたし.....、そもそも暗部に監視されてたとか普通は気付けないだろう!。考えるのもバカらしい....」
通路を歩きながら独り言で呟き、自分に不貞腐れていた。
「とりあえず連絡しとかないとな....」
スレイヤーと連絡を取る為に、袋収納から"遠隔通信機ケイタイ"を取り出し魔力を流す。
唯一の連絡先、スターリック兼スレイヤーのリックに繋げる。
耳に当てたケイタイから流れる音も無く、無音が続き『はいはい』と爽やかな声が聞こえる。
「真樹です。すみませんが、自分のミスで計画が失敗になりそうです」
『はぃ?!。一体何があったんですか!』
電話の向こう側から甲高い声をし、咄嗟に真樹は耳からケイタイを遠ざけて、慌ててるリックさんに申し訳なさそうな顔をしていた。
「えっと....そんなに全部は時間的に言えないので、色々省かせて説明しますね」
『.......』
リックさんの無言が続き、聞く体勢に入ったんだと真樹は思い何を伝えるか考える。
何を伝えるべきか、どれが無駄な情報なのか必死に考える。
今、自分が置かれてる状況がどれだけ危ないのか、時間も無くモタモタしていたら捕まってしまう。
捕まれば確実に生きの根を止められ、ガースに殺される未来が脳裏に過る。
意を決して重たい口から声を発する。
「前からガースは自分を怪しんで居たみたいで、暗部がずっと監視してたみたいなんです。ですので計画が知られてる可能性が有るので、直ぐにでも逃げて下さい」
玉座の間で聞いた話しを思い出し、計画が暗部を伝ってガースに届いてる事をリックさんに伝える。
知られてれば自分が巻き込んでしまった、スレイヤーの人達、リックやスタラを危険に晒してしまう。
それだけは避けたい一心で、「逃げてくれ」と伝える。
『今ので大体の状況が分かりました、マサキ様のお陰で多くの人達が救われました。スレイヤーの方針は"弱者を守り、権力や富に溺れた者を抹消"それがハジメ様が作った組織。悪意が御子息に迫ってるのだと知れば、私達はマサキ様をお助けする為に動き助けます。それがマサキ様のお気持ちと相反する事だとしても......必ず』
リックさんの言葉に真樹は、頭をハンマーで殴られたような衝撃を感じて、歩いてる足を止めてその場で立ち止まってしまう。
「ありがとうございます....。ですが、逃げるだけなら催眠歪みが有るので大丈夫です。それよりもリックさん達にはやって欲しい事が有るです、自分は国からまだ外に出た事がありません。その先で国の追っ手に追い付かれるのも時間の問題です、なので、無事に逃げられる手段と拠点が必要なんです。そこをリックさん達にお願い出来ませんか?」
『......それは、理解できます。ですが催眠歪みも万能じゃ無い筈です、こう言っちゃ悪いですがマサキ様の戦力は皆無です。たった一撃で死ぬ程の弱者で、逃げる前に死んでしまいます!』
リックは真樹に戦える程の力が、無い事を知っていての発言であり。
それは真樹にも充分にも知って理解していた、一人じゃ何も出来ず、魂と肉体が合わない不完全。
あの日、賊を殺してしまったのだって殆ど奇跡と言っても差し支えは無い。
意識が半分無くなった状態で起きた奇跡、意識して出来るような物じゃ無い事も分かっていた。
それが分かった上で真樹は自信の想いを告げる。
「......確かに、一撃でも貰えば自分は死んでしまいます」
『それなら!、私達スレイヤーがお助けます!』
「偉大で何者にも負けない強い父さん....の息子が、こんな状況を覆せないで、この先を生きて行ける筈が有りません!。だから信じてください、生きて、またリックさんの料理を食べるですから....」
『ーーーーーー!!』
父....古里 初の息子としての発言、100年前の勇者で強く母と子の為に世界に残った男。
それを知る真樹の声には並みならぬ決意が宿り、電話の向こう側に居るリックに衝撃を与える。
『そ、そうですね。ハジメ様の御子息であるマサキ様が、簡単に死ぬ事がある筈があり得ません。それに、私の料理を気に入って貰ってるですから、生きてて貰わないとダメですからね....』
「勿論ですよ、そん時は腕を奮って下さいよ?」
『必ず美味しい料理を作りますよ、それに合う酒も用意してずっとお待ちしてます.....』
「これで、ますます死ぬ事が出来ませんね。あっ、デザートも御願いしますよ?」
『とびっきりのを作りますよ、見た事がないようなデザートをね』
「..........」
『..........』
何を話して良いのか分からず、沈黙が二人の間を支配していた。
複雑な心情が胸の奥でザワつくが、先に沈黙を破ったのはリックだった
『.....私達スレイヤーは、マサキ様に最大限の支援を致します。それでは失礼します』
「えっ?、は、はい?。もしもし!、リックさん!.....切れちゃた....」
一方的に電話が切れてしまい、もう一度掛け直すが繋がらなかった。
その事に不安が押し寄せてくるが、軽率な行動はしないと信用しようとする。
「最大限の支援....、気になるが今は行かないと.....」
どのような支援をされようとするのか考えるが、立ち止まって居たのを思い出し再び歩き出す。
チラッと見た窓の外で、今も自分を探してる騎士や兵士の多くの姿が見えた。
「うわーこれはヤバイな....」
あまりの多さに嘆息し、外の光景から視線を外して洗脳した騎士と共に目立たないように移動する。
............
......
...
「そっちはどうだ?」
「いいや、此方には居なかった」
「そうか...、こんな多人数で探してるのに見つからないって、もう城の外に居るじゃないのか?」
「それは無いだろ?、城から出るなら唯一の出入口はここしかないからな?。それに直ぐそこまで来てるじゃないか?」
「嫌々それは無いって、勇者様や騎士様が血眼で探してるだぜ?。見つからない方が可笑しいだろ?」
「それもそうだな、ガッハハハハ.....」
残念ながらもう近くまで来てますよ~。
てか、多すぎじゃないか?。
1.2.3.4..6...8...10....17人!、いやいや城門だけで多過ぎでしょう!。
城門付近まで来た真樹は隠れながら、指を指して兵士の数を数えていた。
ここまで辿り着くとは考えてない兵士は、何人かで固まって喋っていた。
流石にこれは困ったな......、催眠歪みでもこの人数を相手には出来ないな。
しょうがないか~、コイツを使うしかないよな~。
催眠歪みを嵌めた左手を、ここまで連れて来た騎士に向けて魔力を流す。
光が騎士に当たり吸い込まれて消えていく、何時もの出来事を見届けて命令を下す。
「何でも良いから、あそこにいる兵士達を遠ざけてこい」
「承知しました」
命令が下り城門に兵士達に近付き、向こうも誰か来たのか分かり。
身形を整え姿勢を正し全員が、近寄ってくる騎士に敬礼しだした。
「お前達は何をやってる?、そんな所で喋る暇が有るんだったら直ぐにでも探しに行け。王命が来てるのは分かってるだよな?、それをこんだけの人数が固まって何をしてるだ?」
明らかな怒気を纏った騎士が、敬礼を継続してる兵士を見回す。
全員が金属が揺れる音を出し、目に見えない所で汗が出始めていた。
騎士の手前に居た兵士が、震える口を必死に堪えながら開く。
「お、恐れ入りますが。我々はここで出入りする者を見張ると言う任を受けてます、王命も良く理解した上で一匹足りとも逃がさぬようにしています!」
「あぁ!、俺に口答えするのか?」
「い、いいえ!、滅相もございません!」
「だったら全員で今から探しに行け!、ここの見張りなら俺一人で充分だ!」
「「「「「はぃぃ!」」」」」
兵士17人が騎士の睨み1つで、うわずった声を出して散り散り散開していく。
それから洗脳した騎士は、その場に立ち止まって辺りに睨みを効かせていた。
そのやり取りを聞いていた真樹は、何とも言えない感じで引いていた.....。
何でも良いからって言ったけど、ほぼ脅迫に近いな......。
自分が出した命令に、逃げていった兵士達に謝罪して城門に向かっていく。
「洗脳した騎士以外は、誰も居なくなってるな?」
周りを確認してから、城門の外えと足を伸ばそうとした瞬間、重たい物がドサッと倒れる音を聞いて振り向く。
「......えっ?」
洗脳した騎士が立っていた場所に、紳士服を着た仕事が出来そうな渋い人物が居た。
手に持ってる片手剣から滴る血、足下に首をかっ切られた騎士が転がっていた。
首から血が溢れ地面えと流れていく、それは先程まで生きていた証拠だった。
「このまま、逃げれると思ったのですか?」
声が届くが、今はそんな事を気にしてる場合じゃなかった。
「どうして.....、殺したんですか....」
「どうしてとは、そんなのは決まってじゃないですか?。ここにいる騎士はマサキ殿に加担した、それだけで反逆罪ですよ、主に対する裏切りです」
そう言って足下に転がってる騎士を見下し、殺されて当たり前だと言う。
だが、真樹は違った騎士を殺したのは自分だと。
洗脳しなければ騎士は生きられていたのに、それを奪ったのは自分だと想い知った。
「すみません、俺が貴方の命を奪ってしまいました......」
命が尽きた騎士に向かい、誠意を持って謝罪する。
そこに笑みを浮かべた人物が、楽しそうな態度が見える。
「そうです、マサキ殿がいけませんね。死んで償うべきじゃないですか?、それとも拷問されながら死ぬのが良いですか?」
なんだよ、そのクソみたいな二択.....。
「死ぬのは同意しますが、まだ死ぬ事は出来ない!」
「死ぬのは同意なのに、今死ぬのは嫌と我が儘なお人だ。しかし、ここにいる私は執事としてでは無く、元暗部の"幽影"サイルとして来てますので」
上品にお辞儀して、執事じゃなく暗部としてここに居ると。
その事に真樹はガースが、確実に殺しに来たのだと悟った。
賊として会った父さんの時と同じで、勝てる気がしなかった、勝つとかでは無く目の前のサイルから逃げられる気配を感じられなかった。
「そうか.....、俺はここで死ぬのか」
絶望的な状況に自然と笑みが出てしまう、あの時は違う.....全く違う状況。
都合良く魂と肉体が合う、なんて起こる事も無い現実は無慈悲だ。
「そうです、マサキ殿はここで死にます。最後に何か有りますか?」
遺言は無いかと訪ねてくるサイル、それに対して真樹は山程言いたい事や、やり残した事があった。
だが、真っ先に出た言葉はどれも違った。
「なら、伝えておけよお前の主に!。私欲のクズ野郎の秘密は全部外に伝えたってな。精々ビクビクして余生を過ごしてみろ!、戦争は私欲、戦力増強の勇者、洗脳、全部を外に漏らしてやった。これが俺を殺す理由だろ?、最も知られたくない秘密も知られてるもんな!」
中指を立て大声を出しながら、怒濤の勢いで啖呵を切り、目の前のサイルと主のガースを侮辱する。
前半は青筋を浮かべて、今にも動こうとしたが後半の内容で表情を驚愕に染めていた。
「な、何でその事を......知ってる者は三人だけの筈.....」
「お前と、クズ野郎、大臣のマリス・アルミナだろ!」
したりやった顔で言い、サイルを更に驚かせる。
「本当にここまで知っていたのか」と小声で呟き、手にしてる剣を握り締め脚に力を入れる。
「どうやら、貴方は本気で殺して置かないと行けないよう.....だ!」
脚に入れていた力で地を蹴って、真樹とサイルの間にあった距離を一瞬で縮め、剣を振りかざす。
来ると分かっていた真樹は逃げもせず、真っ直ぐに迫り来る刃を正面から受ける気でいた。
"死"から逃げようとせず、最後まで出来る限りの抵抗をして逝こうとして........。
「.......えっ?」
来る筈の刃が無く目の前が暗かった、その事に困惑して暗の正体が人の後ろ姿なのに気付く。
着てる衣装が1週間前に見た賊と同じだった、目の前の人物がスレイヤーだと分かった。
スレイヤーは迫っていたサイルの剣を受け止め、次の攻撃に備えていた。
サイルは自分の攻撃が、何者かに止められ直ぐに後退し体勢を整える。
スレイヤーが動き、サイルの腹に向けて剣を突く、突きを少し横にズレて避けてはお返しと縦に剣を振る。
互いに攻防を繰り返し避けては攻撃し、隙あらばと追撃する。
それを傍観していた真樹は、場違いな感じがし、その場で見てるだけだった。
「一体何が起きてるだよ.....」
あまりにも突然の事に、心の声が出てしまった。
「何って?、助けに来たんですよマサキ様」
攻防を止め互いに距離を取り、互いに出方を伺う。
真樹の近くまで寄って、漏れ出た呟きを聞きスレイヤーが返答する。
その声は聞き覚えがあり、ついさっきまで聞いた声だった。
「な、何で来たんですか!。逃げてくれって言ったのに!、どうして.....」
遠隔通信機ケイタイで「逃げてくれ」と、伝えた相手がここに居た。
その事に真樹は必死に訴え出る、自分の性で死んだ騎士の遺体を見ては再度スレイヤーを睨む。
「マサキ様は、スレイヤーのボスじゃ有りません。なので聞く必要も無い、それに最大限の支援をするって言いましたよ?」
「そ、そんな理由で来たんですか!。死ぬかも知れないですよ!?」
聞く理由は無く、電話で言った事をの為にここまで助けに来てくれたリック。
それに対しては嬉しく涙が出そうだったが、また自分の性で人が死ぬとこは見たくなかった。
「死にませんよ、私もマサキ様も。生きて私の料理を食べるですよね?、なら生きる為に抗ってください!」
そう言って手を差し出す、真樹はいつの間にか座っていた事に気付き。
ゆっくりとリックの手を握る、握られた手を引っ張って立ち上がらせ、動きを止めていたサイルを睨み出す。
「そうですよね、生きる為に今を抗います!」
リックの言葉を聞き、何処かで諦め掛けていた自分に渇を入れ、自分も戦う為に袋収納から父さんの剣を取り出し構える。
諦めず、"死"に抗い続ける........。
ブックマが増えたり、いつの間にか評価されてたりで!!。
気付いた時はテンションが上がりすぎて、涙が出てしまいました。
これからも精一杯頑張りますので、暖かく見守って下さると励みになります。




