14話 記憶
最近時間があんまり無かったので、先週は投稿できませんでした。
今回も楽しんで読んでくれましたら、大変嬉しいです。
(///∇///)
ここは何処だろう?、さっきまで暗い血溜まりの四角い場所に居たのに。
いつの間に外に出てきたんだろう、ここは村なのか?。
目の前に広がる晴れた青空の下で、小さな子供と背中に背負ってる赤子を子守りしていた。
その近くで30手前の茶髪の長髪で筋肉隆々なオッサンと、身長的に見て16才ぐらいの金髪の少年が畑で鍬を持って耕していた。
「もっと腰を入れて耕せよヘルズ、そんなんじゃ立派な作物が育たないぞ!」
「分かってるよ、親父!」
オッサンが少年のヘルズに笑いながら声を掛けて、少年のヘルズも笑いながらそれに答える。
二人で一緒に畑を耕し共に汗を流していた、その光景を見ていた、真樹は心を締め付けられるような気持ちに襲われていた。
何で.....、俺はこんなのを見てるだよ....。
目を逸らしたいのに何で動かないだよ、こんなのを見せるなよ。
動け、動け。頼むから動いていくれ、幸せそうな顔を見せつけないでくれ。
真樹は必死にその光景から目を逸らして逃げ出したいのに、身体が何かに固定されてかのように一歩も動けなかった。
赤子を背負った金髪の子供が、畑に駆け寄りヘルズに抱き付く。
受け止めたヘルズは、子供と赤子頭をわしゃわしゃと雑に撫で回す。
「こら、ユッカ。マラムが居るだから気を付けなさい」
「はーい!」
優しくユッカに注意するヘルズ、注意されたユッカは反省してるのか分からないが、大きな声で返事を返していた。
「本当に分かってるのか?、まぁユッカらしいから良いけどね」
「ヘルズ、可愛い妹と話すのは良いけどよ。手を動かせよ、さもないと今日は飯抜きにするぞ」
「今、動かすよ親父。さぁ母さん所に行っておいでユッカ、後走るなよマラムもいるだから?」
「うん!、大丈夫!。また後でね、ヘルにぃ!」
タッタタタと母親の元えと走っていく、ユッカの後ろ姿を見ながら短息を吐くヘルズ。
「走るなよって、言ったのに.....」
逸らすことも出来ない光景が、空間に亀裂が入るように歪み。
ザッーーザザザっと違う光景に早変わりしていく、晴れた青空と違って今度は空が雲に覆われた曇天、そんな突然の事に真樹は困惑していた。
はっ?、一体何が起きてるだ?。
あれはヘルズだっけ?、何で鎧をしてるだよ?。
曇天の下で小高い丘に、畑を耕していた少年ヘルズがいた。
あれから年を取ったのか、顔をには無数の傷で強面のような感じかした。
頭以外の全身を銀色の鎧で包み、鉄の片手剣を天に掲げていた。
「....勇敢なる者達よ、『災厄を齎らす忌神子姫』に死を!」
「「「「「死を!」」」」」
ヘルズの鼓舞一つで、屈強な兵士が雄叫びを上げ復唱していく。
何千の声、何万の声が奥に奥にと遠く轟いていく。
「思い出せ!。過去に滅ばされた国や街小さな村を、その身一つで蹂躙された日を消える事も出来ない傷を植えられた事を!」
「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」
「だが、ここで忌神子姫に終止符を打つ!。我等!、『希望の僥倖』の名に掛けて!」
「「「「「希望の僥倖の名に掛けて!」」」」」
「進軍せよ!、忌神子姫ユッカ・マラムを滅せよ!」
ヘルズの合図で何万の『希望の僥倖』の屈強な兵士、遥か先に見える白色の建物に向かって行進していく....。
その一部始終を見るしかなかった、真樹は更に困惑を増していた。
ユッカ・マラム?、希望の僥倖?。
待てまて、何でヘルズが妹のユッカとマラムを殺しに行く?。
そんな同じ同一同姓なんか早々いない筈だ、何で1人として扱われてるだよ。
何だよ希望の僥倖って、これ全部がヘルズの仲間なのか?。
曇天の光景がまた空間に亀裂が入り歪ませていく、ザッーーザザザっと音を立てるかのように。
またかよ、今度は一体何を見せるつもりだ!。
歪みが直ぐに収まった次の瞬間、木で出来た家の中に居た。
窓から見える景色は暗く、星々が輝いて夜を照らしていた。
その中央に仲良く、食事を楽しんでる家族団欒が見える。
テーブルを囲むように四方に5人が座って食事をしてる、畑で見た30手前の筋肉オッサンいや...親父。
その隣には親父の奥さんだろうか、金髪で長髪の優しそうな印象を感じる。
幾万の屈強な兵士を指揮していたが、今見てるヘルズにはそんな要素が伺えなかった。
金髪の短髪でまだ幼さが残る、身長的に見て14才になったユッカ。
その隣にいるのが背負られていた赤子だった、茶髪のマラムが居た。
「マラム?、良く噛んでから呑み込みなさい」
「ん」
数回しか噛んでなかったマラムは、母親に注意されてから味わうように噛んで呑み込んでいった。
「明日でヘルズも二十歳か、大きく育ったな....。それで、いつエゲル王国に向かうんだ?」
「明後日には此処を発つよ」
「えぇ!、一ヶ月は先だってヘルズ兄さん言ってたんじゃ!」
ヘルズの発言に、その場の誰よりも反応をしたのがユッカだった。
テーブルをバンと叩き、椅子から立ち上がる。
「気が変わったんだよ、一週間後には兵士試験が有るからね。それに合わせて出るだよ、それにユッカに言ったら付いてくる気だろ?」
「そ、それは無いと思うかな.....」
段々と語尾が弱々しくなっていき、椅子に座り直してしまう。
表情は暗く今にも泣き出しそうに俯いてしまってる、隣の4歳のマラムがそんな姉のユッカを見て。
小さな手でユッカの手を掴み、次々と口に料理を運び良く噛んで飲み込んでいく。
「もう、ヘルズ兄さんなんかより。マラムが入れば、それだけで良い!」
ガバッと食事中のマラムを、両手で強くハグするユッカだが、されてるマラムは少し食べずらそうにしてる。
なんか嫌そうにしてないかマラム?、4歳か.....。
最初の光景から四年後か.....、それで率いていたヘルズはこれから何十年後の光景ってなるよな?。
真樹は今の光景が、何年後なのか推測していく。
締め付けられていた心は、ヘルズが率いていた何万の希望の僥倖見て消えていた。
ヘルズが言った言葉に、何があったのかどうしても気になっていた。
忌神子姫ユッカ・マラムが何なのか、どうして妹との名前が二つ繋がってるのか。
真樹の疑問に答えるかのように、また空間に亀裂が入り歪んでいく。
次にどんな光景を見せられるのか、目が離せない状態だった。
なん、何なんだ......。
一体何がどうなった、何で床に親父さんと母親が倒れてるだよ.....。
次に飛び込んできた光景は、家の床に親父と母親が重なるように倒れていた。
獣に食いちぎられたのか所々、肉が抉れ白い骨を覗かせてる。
その時、何かが動く影が見えそちらに目を向けるが、暗く良く見えなかった。
ただモゾモゾと動くのは分かる、目を凝らして動く影を凝視する。
暗闇に目が馴れたのか、徐々に見えてくる影姿に真樹は驚愕する。
口から首に掛けて血で汚れ、手に何かの千切れた肉を貪っていた。
必死に咀嚼して良く噛んで呑み込んでる子供、茶髪だったろう髪が黒く染まり。
双眸が黒目の瞳が縦に割れた瞳孔していた、その姿はまさしく獣だった。
マラムが、これをやったのか....これじゃ魔化。
でもマラムは産まれてから、そんな予兆は無かった筈だ.....。
4歳の時じゃ知性を持っていたのに、何でこの子は親を喰らってるだ......。
止めてくれ......、それ以上は止めてくれ!。
今も親だった死体から肉を千切り取っては、口に運んでは胃に納めていく。
その姿に真樹は目を離す事も出来なかった、声も出ず口をパクパクと開閉していた。
止めろ!、入ってくるな!。
あ~寄せ寄せ寄せ寄せってマラム、.....、ダメだ手を出しちゃ。
何も知らないのか気楽にドアを開けて入ってきた人物に、真樹は声を大にして叫ぶが当然入ってきた人物には聞こえる訳もなく。
歩を進めて家の惨状に気づき、声にもならない声を出して立ち止まってしまう。
マラムもそれに気付くのと同時に襲い掛かる、確実に命を奪いに行ったのか、人物の喉に喰らい着こうとする。
「キャ!。行きなりなんのよ!、......えっ?。マラム.....なの?」
奇跡的に床に倒れるようにストンっと腰を下ろした事で、マラムの噛みつきを回避して頭上に通った風に、短い悲鳴を出してその正体に愕然とする。
「マラム?、ねぇマラムなのよね?。悪い冗談なら今すぐに止めて?」
「..........」
入ってきた人物ユッカが、マラムに問かけるが無言で縦に割れた瞳が凝視してるだけだった。
ユッカダメだ!、今すぐに逃げてくれ!。
早く立ち上がって逃げてくれ!、クソっ動けよ頼むから動いてくれ!。
今も座ってるユッカに逃げろと怒鳴るが、変わってしまったマラムを見つめるだけで動こうとしなかった。
「そんな.....、どうしてなのマラム!。一体何があって魔化・・・になったの!、昨日まで普通だったのに....。お願い正気に戻ってマラム!」
「.......」
昨日まで普通だった?、じゃいきなり変わったのか?。
何が原因で忌神子姫になったんだ?、でも、今はそんな事はどうでも良い。
今すぐにでも逃げてくれユッカ!。
ユッカの言葉で考え出した思考を取り払って、聞こえる筈も無い叫びをしつ続ける。
「.......!。おいで、私の可愛いマラム....」
また、襲い掛かったマラムを見て驚くが、その場から避けようともせず。
微笑みを浮かべては。両手を大きく広げてマラムを力一杯抱き締めて動きを封じる。
「...ッ.....大丈夫だよ、お姉ちゃんは何があってもずっとマラムの側にいるよ.....」
ユッカの腕の中で離れようと、もがくが力強く抱き締められてるのか抜け出せなかった。
それが分かると直ぐさまに、歯を剥き出しにしてユッカの肩に噛み付く。
噛みつかれたユッカは痛みを我慢して、優しく優しくマラムに話し掛ける。
「マラム......、家族には内緒にしてたけど。お姉ちゃんの、天恵で直して上げるからね......」
天恵を待ってるなら!、何で逃げる為に使わないだよ!。
真樹の疑問を他所に、ユッカは今まで隠していた天恵を妹のマラムの為に使いだす。
身体に青白い光が陽炎の如く揺らめきながら、どんどん心臓の位置えと集まっていく。
「神子ユッカの全てをマラムに捧げます、どうかマラムを救ってください創造神メッセ様.....」
マラムにも感じたのか、青白い光が危険だと知ってからは。
何度も何度もユッカの肩を噛みつき、「グルルルルルッ」と唸りながら抵抗する。
マラムの抵抗に苦悶の表情を一切見せずに、更に愛しく抱き締める力を強める。
「....マラム。幼い貴方を残して先に旅立つ事を許して。上で父さんと母さん三人で、ヘルズ兄さんとマラムを見守ってるね....」
最大まで光が溜まったのか、一際輝き出してはユッカの目尻に涙が見える。
頬を伝っては抱き締めた腕に落ちて濡らしていく、少し嗚咽をしながらマラムの名をして...。
「まだ、言いたい事が有るけど元気でねマラム。『汝の命で願う』.....バイバイ」
天恵名を呟いて一点に溜まっていた青白い光が一気に膨大して、眩しい光が周囲を多い尽くしていく。
真樹も反射的に腕で目を覆い閉じようとするが、動く事が出来ず眩しい光の中心を凝視する。
中心部には宙に浮いたマラムと足元に着ていた衣類の混じって白い灰があった。
そ...んな嘘だろ、ユッカが灰に.......。
動く事が出来なかった真樹が見たのは、身体が崩れ落ちていくユッカの姿だった。
最後までマラムを離さず、この世の未練が無いような無垢な笑顔をして崩れ落ちて逝ってしまった。
眩しかった光は徐々に収まっていき、小さな火の玉と呼ぶべき形状となってマラムに溶けていく。
宙に浮いていたマラムも、ゆっくりと地面に降りてきてそのまま横倒れてしまう。
幼い少女だけを残して、他のは一切何も無くなってしまった。
家があった場所には、親だった死体も無く半径50メートル何も無い更地と化していた。
何も無くなってしまった.....。
ユッカが使った天恵の副作用と言っても良いだろう、"汝の命で願う"一回しか使えない一命天恵。
使用者の命で最も強い願いを叶える、魅惑の天恵だが使えば必ず命が燃え尽きてしまう。
金、女、名誉、武器、不老不死等を願っても、使用者の命を何がなんでも持っていかれてしまう。
副作用として願う心によっては、先程の青白い光が周囲を更地に変えてしまう。
過ぎた願いには対価が大きすぎて、ウェルムでは自滅の天恵と呼ばれているが。
真樹が知る訳も無く、50メートルの更地を見ては呆然としていた。
マ、マラムは無事なのか....?。
横倒れてるマラムの方を見つめ、安否を確認する何処にも怪我もなく静かに眠っていた。
30分ぐらいで意識が回復したのか、ムクリっと目を擦りながら起き上がる。
辺りを見渡しては、目に涙を浮かび出して泣き叫んでしまった。
「うぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
悲嘆や怨嗟とも言った叫びが、更地の中心から響く。
その音に引かれたのか、音を立てながら無数の魔物が表して泣き叫ぶマラムの側まで行く。
マラム!。
今にも襲われるじゃないかと真樹の目には映るが、そんな心配事を他所に体毛が青く角が異様に鋭利な刃物のような鹿が。
マラムの顔に優しく擦りつける、他の魔物も側まで来てはその場に腰を降ろしていき。
中心部をただ見つめる、全てがマラムの為だけに悲しそうな鳴き声を上げていく。
種族も違うのに音が1つになっていく、真樹にはそれが死者を弔う曲に感じた。
マラムにはどう感じたのか分からないが、顔を擦りつけた鹿の首に抱き付いた後に。
「...ありが..とう...」
魔物に感謝の言葉を告げて、魔物達もそれに答えるかのように更に鳴き声を高くした。
何も、無かったから良かったけど.....何で魔物がマラムに懐いてるだ?。
今の光景を見て真樹は考える、本を読んだだけで実物を見た事も無く殆どが知らない。
そんな事でこの現象の答えが出る訳もなく、直ぐに考える事を放棄して。
双眸を見開いて忘れないように、光景を脳裏に焼き付ける。
「パパ...ママ....ユッカ....、ごめんなさい」
目を瞑って悲しげに呟き、それに呼応したのか身体から青白い光が飛び出る。
『マラム.....、お姉ちゃんはずっと側にいるよ.....』
今にも消えそうな声に気付いたのか、「ユッカ!」と周りを探し始める。
『お姉ちゃんの可愛いマラム、今すぐに遠くに逃げなさい.....。この子達が道を教えてくれるから、振り返らずに真っ直ぐに行きなさい.....』
マラムに逃げる旨を伝えて、青白い光は現れた時同じく消えていく。
「.....ありがとう」
胸を抑えるように強く握り締めて、ユッカに感謝の念を伝える。
何匹かの魔物が違う方向に向き耳を傾ける、それに釣られて他の魔物達も耳を傾けていく。
多数の馬の音、金属がぶつかる音、男同士の話し声、それらが此方に向かって駆けてくる。
それに気付いた魔物達が色んな方向えと逃げていく。
「なにかくる?」
魔物同様にマラムにも、近付いてくる音に気付いた。
魔物達が逃げていく?、あっちの方向に何かあるのか?。
真樹には当然そんな音は聞こえる筈もなく、魔物達と同じく耳を傾けるが何も聞こえない。
それも数分で遠くの方から微かに動く物体が見え始めた、徐々に金属の音や地響き等も真樹の耳に捉え始める。
あれは.......兵士か?。
全身を鎧に包み軍馬に股がった兵士の姿だ、20はいるだろう全体からただならぬ気配を纏って向かってくる。
鹿の魔物も危険だと感じたのか、マラムの顔を擦りながら背中に乗れと物語ってるように体をしゃがませる。
「いいの?」
鹿に確認すると頭を縦に揺らして肯定する素振りを見せる、マラムは鹿の背中によじ登ると力一杯鹿にしがみつく。
ちゃんと乗ったのを確認したのか、歩をゆっくりと歩み始める。
鹿の駆ける速さは段々と速くなり、鋭利な角が明かりで照らされ。
キラキラと輝きながら青い軌跡となって、その姿を消していく。
消えたの同時に馬に股がった兵士達が到着する、辺りを警戒しながら一人の兵士が馬から降りていく。
「....ふむ、そのまま10名は追いかけろ。残りの者は付近に人の形跡がないか探せ」
「「「「「はっ!」」」」」
更地に残る無数の足跡を見ては、一つの跡を指でなぞり一人で納得する。
そのまま目を横にずらし近くにあった人の跡を確認して、兵の半分を追ってとして向かわせる。
残りの半分に周辺を捜索させる、その動きは明確な意志が宿っていた。
一通り確認が終わってゆったりとした足取りで、指示をした兵士に近づき敬礼する。
「報告にあった者はおりません!」
「そうか....、やはり逃げたか。そうなると、この更地は元はカガ村だったのだろう....」
「やはり神託は本当だったですね、これじゃヘルズの奴に何て言ってやれば....」
神託?、あれか神様からのお告げって奴か。
じゃ、こんな悲惨な出来事は事前に知っていたのか。
「今は何も言わなくって良い、自分の家族が魔化に殺されたと知れば何も考えずに仇を取りに行くだろう」
ユッカもコイツらも何でマラムを魔化と呼ぶんだ?、忌神子姫じゃないのか?。
見分けがつかないから魔化と呼ぶのか、忌神子姫とは違いが見辛いって事で良いのか?。
考えても拉致があかねぇー、今はコイツらの話しを聞くしかないか....。
少しでも情報を知る為に、兵士達の話しに耳を傾ける。
「しかし隊長!、神託ではそれを討ち取るのはヘルズだと神官が言ったんですよね?。それなら知られても問題はないのでは?」
「そこが問題じゃない、神官はまだ俺らに隠し事してる筈だ。そう考えると今回の任は一筋縄じゃ行かない....」
訝しげに部下に言い放つ、それを聞いて何処か納得顔していた。
「大変失礼しました!、隊長がその様な考えをしていたとは」
「分かった分かった、それで捜索が終わり次第先行した奴等と合流する。それまでに準備しておけ」
「はっ!」
隊長に最敬礼をして踵を返して、捜索してる兵士に指示を出していく。
一人の残った隊長は、足場にあった灰に混ざった服を見つける。
「....これは、女物の服か」
掴み上げた物は生前まで着ていたユッカの服だった、服の隙間からは灰が溢れて風に乗って舞っていく。
「隊長!。出発の準備出来ました!」
「あぁ、直ぐに出るぞ!」
先程の兵士に言われて、掴んでいた服を手放して馬に股がって駆けていく。
他の兵士達も隊長の後ろに続いていく、先行した10名の兵士達と合流する為に....。
そこでまた、空間に亀裂が入り歪んでいく。
歪みが収まった先に広がった景色は、全面が白く覆われた空間だった。
今度は何を見せる気だ?。
『優しいお兄ちゃん』
今さっきまで聞いていた声が耳に届く、誰かに話し掛けた訳じゃなく自分に声を掛けられたと感じた。
声がした方えと振り向く、.....振り向く事が出来てしまった。
動く事も出来なかった、どれ程やっても動かなかった身体が今は動くその事に驚いてしまった。
『フフッ...、今は動けるよ』
真樹が驚いている事に笑ってしまった少女、青白い光で包まれて揺らいでいる魂だろうか。
目の前の14才の少女ユッカが、人の形えと形成していく。
『これでどうかな?、可愛いく出来てる?』
クルッと回って上手く、形が出来てるかと聞いてくる。
可愛いく出来てるって聞かれてもな~、生前と変わってないし。
『むぅ、そこは可愛いって言わないと女の子に失礼だぞ!』
頬を膨らませて指を突き出して、怒る姿を取りながら少し笑っていた。
口は動いてないのに考えた事を読まれた?、....あ.....またか...。
こんな感じをつい最近にもあった事を思い出して落胆する、心を読まれる事が多過ぎて呆れる程に。
よく分かった、心を読んでるのがそれでここは何処なんだユッカ?。
『....もうお兄ちゃんは、分かってるじゃない?。ここが何処なのか』
試すように此方を伺って問うてくるが、すでに真樹の中には答えがあった。
じゃやっぱり、ここは記憶の中なのか?。
『そうだよ、マラムと私の記憶だよ。お兄ちゃんを呼んだのも私だよ』
ここに呼んだのはユッカって事か、何の為に呼んだんだ?。
体全体で元気よく表現するが、真樹はその事に触れないで話しを進めていく。
スルーされたユッカは、何処か不服そうにするが直ぐに真剣な表情をして姿勢を正す。
『....妹のマラムに、同情して下さりありがとうございます。姉として感謝します....』
一拍間を開けてから、口調を畏まった言いにして深く深く一礼する。
こっちもすみませんでした、何も知らない俺が同情してしまって.....。
『ううん、良いだよ。お兄ちゃんが記憶を見てる時ね、私もお兄ちゃんの記憶を見せて貰ったの.....。お兄ちゃんも辛い想いをしてきたんだね....、だからマラムと波長が合ったんだね』
そうですか、見たんですね.......。
『あれ?、怒らないの?。あんなに鬼みたいに怒っていたのに?』
怒ると予想していたのに、真樹が憤りしなかった事に呆気に捉えてしまう。
両手を額に当てながら、人差し指で角を表すポーズをする。
確かにマラムやユッカの記憶を見る前なら、殺意を抱く程怒っていたかもな.....。
だが、マラムは幼い手で両親を殺して食べてしまった。
最後はユッカまで手に掛けてしまったんだ、俺よりも辛い想いをした筈だ.....。
マラムの悲劇を自分と比べて、遥かに悲惨なのはマラムなんだと真樹は思い知った...、いや思い知らされた。
『.....』
ユッカはただ真樹を無言で見つめていた、表情には陰りが見えてしまう。
まぁ今はそれを置いておいて、波長が合うってなんですか?。
暗く重い雰囲気に気づき、話しを剃らしていく。
『えぇ?、そうだね。お兄ちゃんとマラムの境遇が似ていたので、二つの魂の波が重なったんだよ。それでお兄ちゃんの精神を、私が呼んじゃいました!』
可愛いくお茶目に言ってのけるユッカに、真樹は可哀想な物を見るような目でジッと睨むが。
すぐに肩の力を抜いて嘆息しては、ユッカの言動に考えだす。
俺の魂とマラムの魂が、何処で波長しあったんだ?。
記憶の中か?、いや違うな最初にマラムと会った場所か?。
『あぁ~それなら、お兄ちゃん触ったでしょう?、胸に刺さっていた短刀に?』
心の声を聞いたユッカが、直ぐに答えを聞かせてくれる。
アレか?、でも確かに触ってから何が抜けていく感じはしたな.....。
一気に力が抜けて脱力感に苛まれる感じが、アレが精神を引き抜かれた感触?。
『体の脱力感は、お兄ちゃん魔力を全部吸われた時に出る魔力酔いだよ。で、その魔力で私が動けるようになったから精神を呼んだんだよ』
成る程なアレが魔力酔いなのか、そのまま眠るように倒れてから。
ユッカが精神を呼んだのか。
真樹の中で、噛み合わなかった歯車が合って動き出す。
初めての魔力酔いにも納得していた、今まで魔力を使ってもこれ以上はヤバいって所で止めていた。
だから突然体に起きた脱力感で、意識が無くなったのも理解できた。
『お兄ちゃんの魔力って、何か少し変だよ?。綺麗で透き通ってるのに、こう歪んでて恐い感じかした......』
手振りで真樹の魔力の流れを説明する、勢いが速くなったり、星を表してるのかヒラヒラしたり、変に曲げたり、ワシャワシャと何かを蠢くような表現していた。
正直見ていて面白かった、一生懸命に伝えようとする姿に笑みが溢れてしまう。
俺の記憶を見たんでしょう?、魔力が変なのはもしかしたら、体が不完全だからかも知れないね。
ユッカの指摘に、何となく原因が体なんだじゃないかと考えた。
それを聞いたユッカは、少し違うと言った表情していた。
『多分違うと思うだよね?、ただの勘だから分からないけど.....。あ、そうだったお兄ちゃんを呼んだ理由言ってなかったね』
そう言えば聞いてなかったな?。
『ごめんね、言うとしたら久しぶりの会話だったから、楽しかったんだ。それにお兄ちゃんが記憶の中で、一生懸命に私やマラムを助けようとしてくれてり、涙まで流してくれた事が嬉しかったんだ』
満面な笑みで心情で語ってくれた、それを一言一句聞き逃さないように聞いていた。
真樹は何故か顔が熱くなってる事に気づき、ユッカから目を逸らしてしまう。
そ、それで俺を呼んだのか?。
余りの恥ずかしさに、吃って聞いてしまう。
『ううん、今からが本題だよ』
本題か....、何を聞かせてくれるだ?。
『お兄ちゃんは、見ていて不思議に思わなかった?。何でマラムを魔化って呼んだのか?』
確かに思ったな、マラムは忌神子姫じゃないのか?。
ユッカに問うて見たが、首を横に降って否定した。
『違うよ、マラムは魔化だよ。私の天恵、汝の命で願うで自我取り戻して時を止めちゃたの.....。その性でヘルズ兄さんが、マラムをあの場所に封印したの』
知らされた情報で、真樹は混乱するのと同時に全てを納得する。
忌神子姫じゃなかった事や、最初に見たマラムの姿が変わってなかった事も。
じゃ、マラムは何歳で止まったんだ?。
『あれから二年後だから、6歳の時に止まったの。.......因みに私は16だよ』
マラムのを聞いたのに、何故かユッカがドヤ顔で自信の年齢を伝えるが。
華麗にスルーして、真樹は話しを続けていく。
不老になったが、不死じゃないんだよな?。
『不死じゃないよ、致命傷与えればそれだけで死んじゃうよ。それでも直ぐに傷が治るから、なかなか死なないよ?』
それを聞いて何処かホッとしてしまう、死ぬならあの帯ただしい血の量で、死んでるって事になっていた筈だ。
生きていて良かったと心底喜んでいた、内情を知ったのかユッカがニヤニヤしだす。
『心配してくれてた、ありがとうね。マラムの中には私の全てを、あげてるから大丈夫よ』
気になる部分が出て来て、真樹は顔をしかめる。
全てを上げた?。
『私の天恵の力のおかげかな?、マラムには神巫女の力、自我、時を願ったんだ。私って凄く稀な二つ持ちだったんだよ!』
胸を張りながらな自慢するが、真樹には意味が通じてなかった。
ごめん全然分からん.....、え~と天恵でマラムに自我と時を止めたのは分かったけど。
神巫女の力って何?、それに二つ持ちって?。
聞かれたユッカは、考えるようなポーズを取っては『う~ん』と唸っていた。
『え~とね神巫女と魔化の違いって分かる?』
それなら分かってる、産まれてくる時に神の血を宿していたら神巫女で。
魔物の血を宿したのが魔化だろ、それで両方を持って産まれてきたのが忌神子姫だよな、どれも女性からしかならない?。
死と生を司る神モルータから、聞いていた内容を思い出して伝える。
『それで間違いはないよ、じゃ役割とか性質も大丈夫だね?』
それも知ってるから大丈夫。
『じゃ神巫女って1つ持って産まれてくるでしょ?、私の場合ってそれが二つだったんだ』
そう言う事か、二つ持ちって....。
じゃユッカは天恵と驚異的な回復力を宿していたのか!、その1つをマラムに上げたのか?。
『そうだよ、お兄ちゃんの正解だよ!!』
真樹が正解を言ったのが嬉しかったのか、その場でピョンピョンと跳ねていた。
それってある意味の不老不死じゃ!、なんだそのチートは!。
『ち、チート?。意味が分からないけど、これでマラムが死ぬ事は無くなったんだよ。まぁその性で長い時間を封印されてるだけどね.....』
自傷気味に寂しく呟く、それほど低い訳じゃなかったので真樹の耳でも聞く事は出来た。
それであの後、マラムはどうしたんだ?。
『あぁ~その後は、青い鹿と共に長い時間逃げてたんだけど。"希望の僥倖"に追い詰められて、ヘルズ兄さんの手で封印されたんだよ。これがその時だよ....』
ユッカの合図で空間に亀裂が入り歪んでいく、それから白い空間が消えて。
変わりに外は曇天な空で建物の中にいた、全身を鎧で覆ったヘルズの姿と。
それと相対する黒髪の幼い子供が、怯えるよう座っていた、横に青い体毛をした鹿は体中は傷だらけで伏せていた。
『ヘルズ兄さんが持ってるのが"封印の短刀"だよ、結構老けたよね~』
ヘルズが手にしてる短刀を指差し、懐かしそうな表情をして老けたと言う。
アレが封印の短刀ですか?、見た目は普通なんですね?。
封印の短刀を見たが、ごく普通の短刀だった。
刃渡り10㎝で装飾もなし、見た感じの材質が鉄に近かった。
『見た目は普通だけど、結構バカに出来ないだよ!』
そ、そうなんですか....、それでどんな力が有るですか?。
『まぁまぁ、口で語るよりも見た方が速いって』
笑いながらヘルズとマラムの方を向き、記憶の続きを見ていく。
「.....マラム、30年ぶりだな元気にしてたか?」
久しぶりの再会を喜んで近寄るが、マラムは更に怯えてヘルズを拒絶する。
「......ハッハハ、悲しいな。この世界で二人しかいない家族なのに」
乾いた笑い声出てしまい、目に見えて落ち込んでしまった。
それでもマラムは鹿にしがみついて、ヘルズを睨むが幼い子供の為に迫力は皆無だった。
「ごめんな、兄ちゃんこう見えて"希望の僥倖"の団長だから.....マラムを殺さないといけないだ.....」
ちょっと待て....。
『どうしたのお兄ちゃん?』
ヘルズは"希望の僥倖"の団長なのか?、しかも30年も経っていたのか?!。
あの顔どう見ても50歳には見えないぞ!。
今見ていた記憶のヘルズは、どう見ても30後半にしか見えなかった。
『そうだね、逃げてから30年は経ってる光景だよ。若い理由は残念ながら私も分かんないだよ、今見てる記憶はマラムと私だから。ヘルズ兄さんの記憶は無いだよ....』
それもそうか、すみません止めてしまって。
『大丈夫だよ、じゃ続きを流すよ?』
えぇ、お願いします....。
真樹が声で止めてしまった記憶を、ユッカが再開させる。
「苦しまずに逝かせてあげるからね、天国で4人で待っていてね....」
ゆっくりと手に持っていた、封印の短刀をマラムの胸に刺す。
刺された痛みで顔を歪ませてしまい、力なく倒れてしまった。
天井や床から鎖が出て、マラムの四肢を繋ぎ吊らしていく。
刺された胸から大量の血が流れだし、床を真っ赤に染めていく。
「最後にあんな事言ったけど、やっぱり家族を殺める事なんて出来る訳がない....。恨んでもくれても良いから生きてくれ....」
鎖に繋がれたマラムに、涙を流しながら懺悔していた。
マラムが刺される事を間近で見た真樹は、記憶だと分かっていても何も出来なかった自分に腹が立っていた。
『自分が悪になってまでも、マラムを生かす道を選んだのヘルズ兄さんは。だから最後までマラムの、身を案じてくれたんだ....』
寂しげな表情でヘルズの方を見ていた、ユッカも同じなんだと真樹は感じた。
それと同時に、何て声を掛けて良いのかと言葉が詰まる。
『よし!。これでお兄ちゃんに伝えたい事も伝えたし。これでお別れでね!』
場の雰囲気を破るぐらい元気に振る舞い、突然のお別れを言い渡す。
だがそんな事を納得できる訳もなく、真樹は困惑しながらユッカを見てしまう。
ま、待ってくれ!。
まだ聞きたい事があるんだ、だから....だから.....。
何を言って良いのか、分からなくなり頭が真っ白になってしまう。
『ううん、どっちにしても時間切れだよ。これ以上留まると、お兄ちゃんが戻れなくなちゃうから。ここでお別れなんだよ....』
.......必ず会いに来るから絶対に!、だから待っててくれ。
封印を解いて三人で一緒に旅をしよう、美味しい物を食べたり街や国を観光したり......。
『待ってください!』
別れる前にと焦燥に駆られ、マラムやユッカに向けて真樹の想いをぶつけるが。
ユッカの大声が言葉を遮るように重なり、泣き出してしまった.....。
『お、お気持ちは嬉しいです、ですが!。封印は解けれないです、だから忘れてください....。そして、さようなら......』
封印が解けれないって、どうやったら解ける教えてくれユッカ?!。
.....待って、行かないないでくれ!。
これ以上話す事が無いと言うように、青白い光が少しずつ消えていく。
ユッカの姿を見ながら、真樹は必死に手を伸ばして懇願する。
完全に消えたのを黒目の双眸で捉えてしまった、そして急に後ろに引っ張られって飛んでしまう。
必ず迎えに行くからな.........。
誰も居ないが、そこに居た筈の人物に向けて発する。
引っ張られる最中に、何処から現れた亀裂に連れ込まれそこで意識が無くなってしまった。
読んでくださり、ありがとうございました。
投稿していた話しを、修正してたら時間が無くなってしまい先週は投稿できませんでした。
m(__)m




