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ポテトチップスはどうして一袋150円なのか(低学年バージョン)

 僕は、家に帰るために坂を登っている途中、ふと後ろを振り返ってみた。特に誰がいたわけではないのだけれど、さっきまで居たスポーツセンターが見えた。彼女は門限までに家に帰れたのだろうか。あたりはすっかり真っ暗である。

 僕の家は、特に門限というものはない。小学生の頃から門限はなかった。昔、門限がない理由を聞いたことがあるが、母さんは「あんたなんて、不細工で根暗だから、どうせ誰もさらうことなんて考えない気がするわ」と言われたことを思い出した。でも、それは母さんなりの優しさと信頼である。門限を決めるよりも「君は、安全な時間には帰って来るはずだ」と言ってくれる方が、ちゃんと帰ってこようと思うものだ。

 僕は、ふたたび振り返って歩き始めた。

 

 家に着くと、誰もいなかった。母さんは多分、買い物かなにかに行っているのだろうと思った。

 僕は、自分の部屋に行って、ブレザーを脱いで無造作にベットの上に放り投げた。そして、カバンの中から、さっき借りてきた本「ポテトチップスはどうして一袋150円なのか(低学年バージョン)」を手に取った。

 改めてその本を見ると、綺麗な装丁であることに僕は気がついた。

 確かに、絵からは狂気のようなものを感じるが、形は正方形。片側に絵、もう片側に文章が最後のページまで永遠と続く。文章も長めな文章があるが、それでも短めなページもある。僕にはこのは意外としっかりと考えられて作られているのかもしれないと思った。

 そして、僕はページをゆっくりとめくり、読み始めたのだった……



 おじいさんは、今日もじゃがいもを取りにきた。

 ポテトチップス工場に材料のじゃがいもを出荷するためだ。

 おじいさんが、ポテトチップス工場に出荷するのは、「じゃがいも」として一般家庭に売れるような綺麗なものではなく、ちょっと形の悪いじゃがいもである。ちょっと、スレてるじゃがいもだ。


 僕は、ページをめくった。


 じゃが丸は言いました。

「この世界から俺もようやく脱出できる。土の上は居心地が悪いからな」

 じゃが吉は言いました。

「じゃが丸くん!なに、スレてるんだよ!ここから出ると、どうなるかわかってるのかい!」

 じゃが丸は言いました。

「知っているよ。じゃがいもとして売られるかポテトチップスになるかだろ。こないだ引っこ抜かれたじゃが蔵が言っていたじゃん」

 じゃが吉は言いました。

「そうだよ!僕らは、土の上から出ると、売られるかポテトチップスにされるんだ!ポテトチップスがなんなのかは僕にはわからないけれどね!」


 僕は、ページをめくった。


 彼らは、ポテトチップスが何かはわからない。それでもポテトチップスの原料はポテトである。ポテトなのである。

 そして、ポテトをスライスして、油でカラッとあげれば、美味しいポテトチップスの完成である。


 僕は、ページをめくった。


 しかし、考えてみればポテトチップスはお店で売られている。ポテトチップスが売られているが、どうして150円で売ろうと思ったのか君は考えたことがあるかい?


 僕は、ページをめくった。


 150円。つまり、ポテトチップスを欲しいと思う人が、ポテトチップスを売ってくれる人に支払う値段である。しかし、売ってくれる人は「値段」と言われるものは自由に決められる。10円で売ってもいいし、100円で売ってもいいのである。


 僕は、ページをめくった。

 

 では、どうして150円なのだろうか。この考え方には二つあるんだ。


 僕は、ページをめくった。


 一つ目。ポテトチップスを売る人が、「じゃが吉とじゃが丸の生育に、これくらいのお金がかかったから、生育費用を回収するには、生育費用を最低でも超える金額で売ろう」と考える方法。


 僕は、ページをめくった。


 二つ目。ポテトチップスを売る人が、「これくらいで売りたい」という、売り上げ金額をもとに考える方法。


 僕は、ページをめくった。


 つまり、「いままでかかったお金」という過去から考えるか、それとも「これくらい欲しい」という将来から考えるかということなんだ。

 そして、この二つの考え方に、もう一つの考え方を加えてみよう。

 

 僕は、ページをめくった。


 その考え方は、「欲しい!と思う人の気持ちを売る値段に加える」のだ。


 僕は、ページをめくった。


 ポテトチップスが、1個しかないが、100人の人が1人1つ欲しがった場合。ポテトチップスは、100個しかないが、1人の人が1つ欲しがった場合。さて、どちらが、高い値段になるでしょうか?


 僕は、ページをめくった。


 正解は、1個を100人に売る場合だよ。


 僕は、ページをめくった。


 ポテトチップスが1個しかないけど、100人の人が欲しがるのであれば、一番高い値段で買ってくれる人に売る人は売るはずだ。だから、買ってくれる人たちの気持ちによって、ポテトチップスの価値が上がるんだ。この世に一つしかないもので、多くの人が欲しがるものは値段があがる仕組みに、世の中はなっているんだよ。


 僕は、ページをめくった。


 僕たちは、こんな世界に生きている。

 難しいことはない。

 これを読んでいる君は、世界に一人しかいないんだ。


 僕は、ページをめくった。


 君が、100人から欲しがられる人になれることを僕は願っているよ



 ここで、本は終わった。

 絵については、やっぱり、収穫から製造、運送、ポテトチップスを食べながらプロ野球観戦するおじいさんで終わっていた。途中、ほとんど文章と内容が異なる絵であることに読んでいる最中に気がついた。

 

 桜坂は、これを読んで何を思ったのだろうか。僕は、やっぱりポテトたちの表情が気になった。

 彼は、どうしてポテトチップスになりたいと願ったのだろうか。僕は、この本を読んだこの瞬間から、ポテトチップスを食べる時にこのじゃがいもたちの表情が浮かんでしまうかもしれない。思い過ごしかもしれないが。


 僕は、本をブレザーの上において、そのままベットに倒れこんだ。

「会計ねぇ……」

 

 


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